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115話

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『もしもし、ヤイバ君、急にごめんね』

『大丈夫。配信は一旦遅らせることにしたから』

 配信直前だから九重ヤイバというキャラを崩すのは良くない事だが、真面目な話をするのには合わないからね。

『ありがとう。分かっている通りながめちゃんの事なんだけど』

『純度100%のデマで炎上するとは思わなかったよ』

『まあ、声が限りなく似ているから見分けつかないのも仕方ないけどね。私も直接あった事無かったら騙されていたかも』

「それは無いでしょ。話している内容も全然ながめと違うんだから」

『いやいやマジだよ。声に関しては本物と変わらないんだから。まああっちも本物だけどさ』

「なるほどね……」

 クラスメイトに声バレしていない辺りから薄々思っていたが、実は水晶ながめの声に皆興味ないだろ。ファン含めて。

 別にVtuberの中でも良い声の部類だとは思うんだけどな。

 それでも人気が出ているのならば良いと思っていたが、まさかこういう弊害が起きるとは思わなかった。

『で、何か出来ることってないかな』

「普通に配信で水晶ながめは現役女子高生だって言い続けるしかないよね。信じてもらえるとは思えないけど」

『だよね……』

「逆にアスカは何かある?」

『特にないね……ながめちゃんの制服の写真はあるからそれを出せば一発なんだろうけど、一瞬で身バレしちゃうし』

「それは良くないね」

 炎上は鎮火するけど今より大変なことになるし。

『まあ、他事務所と個人勢だからね。いくら仲良くても手を出せる範囲には限度があるよ』

『そうだね……』

 結局出来ることは無いと知ったアスカは分かりやすく落ち込んでいた。

「とりあえず、配信の冒頭だけ出演する?今日の配信はソロのVALPEXだから出ても迷惑はかからないよ」

『そうだね。やるだけやってみよう』

「じゃあ通話したまま少しだけ待ってて。声を整えるから」

『分かった』


 それから5分ほど声のチューニングをした後、配信を始めた。


「申し訳ない、待たせたな。これから配信を始めさせてもらう」

 コメント欄を覗くといつも通りの挨拶コメントに紛れて水晶ながめに言及してほしいというコメントが混じっていた。

 やはり水晶ながめと仲が良い現役高校生の意見を聞きたいのだろうな。

「早速配信を始めていきたいところだが、皆が気になるところについて言及してからにしよう。というわけで出てきてくれ」

『はい!九重ヤイバちゃんの盟友であり正式にお付き合いをさせていただいている現役女子大生の雛菊アスカだよ』

 配信前はやたら真面目なトーンで話していたくせにボケ全開で入ってきたアスカ。これから真面目な話をするんだろうが。

「勝手に俺を彼氏にするな。燃やす気か。そして盟友って言い方を辞めろ。中二病みたいだろうが」

『違うの?九重ヤイバって名前で俺様キャラで恰好も……』

「キャラ以外は俺のせいじゃないだろ。そしてキャラは別に俺様じゃないだろ」

 九重ヤイバのキャラ設定はクールな天才だ。断じて俺様キャラではない。

『違うの……?』

「そんな信じられないみたいな声で言うな。周知の事実だろうが。ボケてないで早速本題に入るぞ」

『はーい』


「というわけで今回話す内容は水晶ながめについてだな。仲が良い外部の人間としては離しておかないとと思ってな」

『ちゃんと運営さんの許可は貰ってるから安心してね!』

「無許可の予定だったがアスカ、許可貰ってたのか」

 こういうのは勢いのままやって運営に怒られるまでが一連の流れだと思ったが。

『当然。ヤイバちゃんより年上の現役女子大生だよ?それくらいやってるよ』

「大学に全く行かないせいで単位が壊滅して留年の危機に陥っている奴が何を言っているんだ」

『それはVtuberとしての活動が忙しいからで……』

「じゃあ配信休みの日くらい大学に行け」

『うっ……でも学費は私が全部払っているから……』

「雛菊アスカの更生計画は後々企画化するとしよう。ってまた脱線したな」

『誰のせいだか』

 アスカのせいだよ。

「とりあえず結論から言わせてもらうと、水晶ながめが現役女子高生ではないという話についてだが、百%デマだ」

『そうだね。実際にながめちゃんに会った事がある二人だから断言できるよ。ピチピチの現役JKだよ』

 俺たちがそう断言すると、コメント欄は荒れ始めた。

『水晶ながめを庇うのか』

『あれはどう聞いても水晶ながめの声だろ』

『Vtuberだからって嘘がバレないわけじゃないぞ』

 どうやら大半の視聴者が水晶ながめ=柴犬だと思い込んでいるらしい。

 本当にお前らの目は節穴だな。
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