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93話
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「以前私たちが初めて顔合わせをした際にサケビさんが『やっぱり歌い手は本人だけ事情が分からないまま高みに辿り着くものじゃない?』と言ってらっしゃったので、私もそれに沿って本人だけ事情が分からないまま歌い手としても高みを目指して欲しいと思いまして」
「なるほど、素晴らしい考えですね」
さっきまで否定的な意見を言ってすみませんでした。あまりにも素晴らしい完璧な配慮じゃないですか。
「というわけで事情も理解していただいたところで戻りますか」
「そうですね」
俺とレンガさんは宮崎さんを説得するべく、客間に戻った。
「事情は理解したよ。帰ろうか、宮崎さん」
「は?何を言っているの?」
宮崎さんはまさか俺がレンガさん側に付くとは思っていなかったらしく、怒りの表情をこちらに向けてきた。
「いや、レンガさんは宮崎さんの事を十分に考えてあの曲を作ってくれたんだから」
「は?じゃあどうして私がメンバーに入っているのよ」
「歌い手は本人だけ事情を知らないまま高みに辿り着くって言ってたじゃん。文句は言わせないよ?」
「私は歌い手じゃ……」
「ないとは言わせないからね。前に放送でVtuberであっても歌ってみたを投稿している人は須らく歌い手でもあるって言ってたよね」
「あの歌ってみたは……」
「配信者なんだから自分の発言には責任を持たなきゃ。どんな形であれ1曲でもあれば歌い手なんでしょ?」
「くっ……」
現在宮崎さんがチャンネル投稿している歌ってみたはMIX師としての仕事を受けるためのサンプルとして作られたものなのだが、それでも歌ってみたは歌ってみたである。
何が理由であろうと、宮崎さんの定義では宮崎さんは立派な歌い手だ。
どうやら宮崎さんもそれを自覚しているらしく、それ以上言い返してくることは無かった。
「というわけでその曲は有難く収録させてもらいますね。ほら、帰るよ」
「そんな、私の計画が……」
恐らく宮崎さんは宮崎さんが楽しむために金とか繋がりとかを色々駆使して俺とアスカにオリジナル曲を歌わせようとしたみたいだが、気にしない。
いつもこっちを散々振り回している分、今回くらいは振り回されても良いでしょ。
というわけで俺と宮崎さんはレンガさんの家を出てそれぞれ帰宅した。
「じゃあ収録を始めよう!!!」
「うん」
「ええ……」
それから数日後、俺たちはオリジナル曲の収録を行うために都内の企業Vtuber御用達の収録スタジオに来ていた。
宮崎さんの所で収録しても良かったのだが、アスカの提案でここになった。
アスカが言うにはVtuberの歌ってみた収録に特化した場所らしく、異常な数のマイクが取り揃えられているとのこと。実際にスタジオの中には軽く見ただけで30を超える数のマイクがあった。ここ複数ある部屋の内の一つの筈なのに。
一部屋にあまりにもお金がかかりすぎているこのスタジオだが、提携している企業Vであれば毎月何回でも使用可能らしい。
アスカの所属するUNION以外に提携している有名どころでいえば、奏多さんが所属するアメサンジや葵が所属するゆめなまがそうらしい。
「どうしたの?サケビちゃん。テンションが低いけど」
そんな歌ってみた大好きな人ならテンションが上がりそうな場所で異様にテンションが低い宮崎さんを見て、アスカが心配そうに俺に耳打ちしてきた。
「まだ自分がオリジナル曲のメンバーになったことに納得がいかなくて拗ねてるだけだよ。気にしないで」
「え、話は曲を作り始めた段階でされてたんじゃないの?」
「どういうこと?」
「レンガさんから連絡来なかった?元々お二人でオリジナル曲を作るという話だったのですが、サケビさんも歌唱メンバーに入れてもよろしいでしょうかって」
「来てないけど。そうなることは曲が出来てから知ったんだけど」
「そうなんだ。二人とも大丈夫だって言ってるって聞いたんだけど」
「俺が断らないのは最初から分かってて、宮崎さんも押し切れる自信があったんじゃないかな」
「なるほど。あの人も悪いね」
「ほんとね」
あの時のカラオケで宮崎さんに歌わせる段階では既に決めていたんだろうな……
「ってかアスカはそれでよかったの?俺と二人の歌を投稿するってのが目的だったんでしょ?」
「ああ、それは大丈夫だよ?今私たち二人だけのオリジナル曲を作っているらしいから」
「そうなの?」
「うん。流石にアスカさんに申し訳ないからだって。ただ、その話はその曲が投稿されるまでサケビちゃんには一切伝えないで欲しいんだって。収録もMIXもレンガさんが手配して内密にやるらしいよ」
「ええ……」
レンガさん、もしかして宮崎さんに親でも殺されたの……?
「ねえ、二人で何の話をしているのよ。さっさと収録済ませて帰るわよ」
「なるほど、素晴らしい考えですね」
さっきまで否定的な意見を言ってすみませんでした。あまりにも素晴らしい完璧な配慮じゃないですか。
「というわけで事情も理解していただいたところで戻りますか」
「そうですね」
俺とレンガさんは宮崎さんを説得するべく、客間に戻った。
「事情は理解したよ。帰ろうか、宮崎さん」
「は?何を言っているの?」
宮崎さんはまさか俺がレンガさん側に付くとは思っていなかったらしく、怒りの表情をこちらに向けてきた。
「いや、レンガさんは宮崎さんの事を十分に考えてあの曲を作ってくれたんだから」
「は?じゃあどうして私がメンバーに入っているのよ」
「歌い手は本人だけ事情を知らないまま高みに辿り着くって言ってたじゃん。文句は言わせないよ?」
「私は歌い手じゃ……」
「ないとは言わせないからね。前に放送でVtuberであっても歌ってみたを投稿している人は須らく歌い手でもあるって言ってたよね」
「あの歌ってみたは……」
「配信者なんだから自分の発言には責任を持たなきゃ。どんな形であれ1曲でもあれば歌い手なんでしょ?」
「くっ……」
現在宮崎さんがチャンネル投稿している歌ってみたはMIX師としての仕事を受けるためのサンプルとして作られたものなのだが、それでも歌ってみたは歌ってみたである。
何が理由であろうと、宮崎さんの定義では宮崎さんは立派な歌い手だ。
どうやら宮崎さんもそれを自覚しているらしく、それ以上言い返してくることは無かった。
「というわけでその曲は有難く収録させてもらいますね。ほら、帰るよ」
「そんな、私の計画が……」
恐らく宮崎さんは宮崎さんが楽しむために金とか繋がりとかを色々駆使して俺とアスカにオリジナル曲を歌わせようとしたみたいだが、気にしない。
いつもこっちを散々振り回している分、今回くらいは振り回されても良いでしょ。
というわけで俺と宮崎さんはレンガさんの家を出てそれぞれ帰宅した。
「じゃあ収録を始めよう!!!」
「うん」
「ええ……」
それから数日後、俺たちはオリジナル曲の収録を行うために都内の企業Vtuber御用達の収録スタジオに来ていた。
宮崎さんの所で収録しても良かったのだが、アスカの提案でここになった。
アスカが言うにはVtuberの歌ってみた収録に特化した場所らしく、異常な数のマイクが取り揃えられているとのこと。実際にスタジオの中には軽く見ただけで30を超える数のマイクがあった。ここ複数ある部屋の内の一つの筈なのに。
一部屋にあまりにもお金がかかりすぎているこのスタジオだが、提携している企業Vであれば毎月何回でも使用可能らしい。
アスカの所属するUNION以外に提携している有名どころでいえば、奏多さんが所属するアメサンジや葵が所属するゆめなまがそうらしい。
「どうしたの?サケビちゃん。テンションが低いけど」
そんな歌ってみた大好きな人ならテンションが上がりそうな場所で異様にテンションが低い宮崎さんを見て、アスカが心配そうに俺に耳打ちしてきた。
「まだ自分がオリジナル曲のメンバーになったことに納得がいかなくて拗ねてるだけだよ。気にしないで」
「え、話は曲を作り始めた段階でされてたんじゃないの?」
「どういうこと?」
「レンガさんから連絡来なかった?元々お二人でオリジナル曲を作るという話だったのですが、サケビさんも歌唱メンバーに入れてもよろしいでしょうかって」
「来てないけど。そうなることは曲が出来てから知ったんだけど」
「そうなんだ。二人とも大丈夫だって言ってるって聞いたんだけど」
「俺が断らないのは最初から分かってて、宮崎さんも押し切れる自信があったんじゃないかな」
「なるほど。あの人も悪いね」
「ほんとね」
あの時のカラオケで宮崎さんに歌わせる段階では既に決めていたんだろうな……
「ってかアスカはそれでよかったの?俺と二人の歌を投稿するってのが目的だったんでしょ?」
「ああ、それは大丈夫だよ?今私たち二人だけのオリジナル曲を作っているらしいから」
「そうなの?」
「うん。流石にアスカさんに申し訳ないからだって。ただ、その話はその曲が投稿されるまでサケビちゃんには一切伝えないで欲しいんだって。収録もMIXもレンガさんが手配して内密にやるらしいよ」
「ええ……」
レンガさん、もしかして宮崎さんに親でも殺されたの……?
「ねえ、二人で何の話をしているのよ。さっさと収録済ませて帰るわよ」
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