上 下
77 / 130

77話

しおりを挟む
「どこからどう見ても……」

「大丈夫。機嫌悪かったとしても一真は一切悪くないから」

「機嫌悪いんだね」

「悪くないよ。気持ちがプラスの方に触れていないだけだよ」

「それを悪いって言うんだけど」

 学校生活でも配信でも特に葵の機嫌が悪くなりそうな出来事は無かったと思う。なんなら最近はガチャで大当たりをすぐに引いたり好きな漫画のアニメ化が発表されたりと幸運な出来事が重なっている。

 しかし葵は日を追うごとに機嫌が悪くなっている。一体何が原因なんだ。

「とにかく私は大丈夫だから。早くご飯食べよ?」

「う、うん」

 どうやら矛先は俺じゃないみたいなので一旦忘れてご飯を食べることにした。


「じゃあまた明日ね」

「うん」

 その後俺は葵と別れ、一度家に帰ってから配信部屋へと向かった。



「では、配信を始める。今日はスプラターンだ。今回使うのはメイン武器デストロイブラスターじゃなくてデシリット3Mだ。これ以上強くなることを視野に入れた場合デスブラだと無理があるからな」

 今日の配信はスプラターンだ。今後行われるだろう早見ミルとのコラボに向けての特訓だ。

 一応コラボウィークに久々にプレイして熱が戻ってしまったからというのが名目となってはいるが、実際の所は完全なソロ配信をするための口実である。

 コラボウィークは当然ながら毎日コラボだったからな。

 定期的にソロ配信もちゃんとしないと一人で喋れなくなってしまう。

 何があっても喋り続けられる生粋の配信者と違って俺は配信者になるために喋れるようになった側だからな。

「デシリットを使うということで事前にエイム練習を済ませてある。早速ガチマッチに潜るぞ」

 それから俺は大体1時間半ほどガチマッチに潜り続けた。


「もう少しやれると思っていたが、流石にまだデストロイブラスターには届かないか」

 その結果、ランクが降格することは辛うじて無かったもののポイントはしっかりと下がってしまった。

「だが可能性は見えた。これからも定期的にこいつを使っていこうと思う。それが配信に乗るかは未定だが、配信に乗る場合はよろしくな。というわけで今日の配信を終了する」

 プレイの上手さを売りにして配信を行っている九重ヤイバの配信としては少々微妙だったかもしれないので、次回をあまり期待させないような言い方をして配信を切った。

「ふう。流石に不慣れな武器を使うのは不味かったかな……」

「今日の配信のエゴサはちょっと怖いし片付けてそのまま帰ろう」

 明日も学校があるのでさっさと片付けて家に帰ろうと準備を進めた。

「ん?」

 その最中、アスカから連絡が来た。

「なんだろう」

 さっさと返信してしまおうと思いスマホでrescordを開く。


 雛菊アスカ:『コラボしたいコラボしたいコラボしたいコラボしたいコラボしたいコラボしたいコラボしたい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

「ただのコラボ依頼か。だけどなんだこの文面」

 俺は『良いけど何があったの』と返信した。

 雛菊アスカ:『二週間ヤイバきゅんとコラボできなかったからしたいんだよ!』

 コラボウィークの真ん中位でコラボしたでしょうが。思いっきり告白してきたよねアスカさん。

『一週間前に思いっきりコラボしたよね。そもそもこのくらいの期間コラボしないなんて普通でしょうが』

 雛菊アスカ:『それはそうだけど、今回ヤイバきゅんは可愛い女の子をとっかえひっかえコラボしてたじゃん!だから次は私だよ!!本妻の元に戻ってきなさい!!』

『仕事だから仕方ないでしょ。後本妻って何……?』

 雛菊アスカ:『本妻は本妻だよ!!!』

『説明になってないけど』

 雛菊アスカ:『というわけで決定ね!!明後日の配信は決まってないでしょ?』

『分かったよ』

 しばらくはコラボ配信じゃなくてソロ配信をしておきたかったのだが、いつになくアスカの押しが強かったので断り切れなかった。


 そして明後日。

『ヤ、イ、バ、きゅーん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 アスカは通話を繋いだ瞬間とてつもない声量で叫んできた。

「なに、どうしたのさ」

『久々にゆっくりヤイバきゅんとサシで話せるからさ。ついつい』

「本当に何があったの?」

 一昨日のチャットは文面だけの悪乗りだと思っていたが、通話のアスカの方が重症だった。

『一昨日言った通りだよ。本妻の元によく戻ってきてくれました。愛しのヤイバきゅん』

「夫婦どころかカップルですらないでしょうが」

『え?皆に見せているあの仲睦まじい姿は営業だったってことなの……!?ヤイバきゅんはビジネスだから私と仲良くしてくれていたってこと……?』

「仲が良いのは事実だけどそういう意味じゃないでしょ。ただの友達関係でしょうが」

『親友ですらない……?』

「言葉の綾じゃん。親友だよ親友。ここまでずっと一緒にやってきたんだからそうに決まっているでしょ」

『良かった。危うくヤイバきゅんの配信部屋に突撃して今日の配信をオフコラボにするところだったよ』

「本当にどうしたの今日……?」

 配信のことを考えるとテンションが高い方が盛り上がるのでありがたいのだが、今日のは度を越えすぎている。

 酒飲んで泥酔しているのではないかというレベルだ。だがこのテンションは昨日から続いているので泥酔なわけがない。アスカはそんなことをする人じゃないから。

『とりあえず時間だから配信始めるよ!!!!』

「分かった、始めよ『始めた!!!』

「早すぎるだろ」

 俺が配信を始めることに同意しようと返事をした瞬間に配信が始まっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

高校では誰とも関わらず平穏に過ごしたい陰キャぼっち、美少女たちのせいで実はハイスペックなことが発覚して成りあがってしまう

電脳ピエロ
恋愛
中学時代の経験から、五十嵐 純二は高校では誰とも関わらず陰キャぼっちとして学校生活を送りたいと思っていた。 そのため入学試験でも実力を隠し、最底辺としてスタートした高校生活。 しかし純二の周りには彼の実力隠しを疑う同級生の美少女や、真の実力を知る謎の美人教師など、平穏を脅かす存在が現れ始め……。 「俺は絶対に平穏な高校生活を守り抜く」 そんな純二の願いも虚しく、彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて純二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 実力を隠して平穏に過ごしたい実はハイスペックな陰キャぼっち VS 彼の真の実力を暴きたい美少女たち。 彼らの心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ

みずがめ
恋愛
 俺、室井和也。高校二年生。ぼっちで陰キャだけど、自由な一人暮らしで高校生活を穏やかに過ごしていた。  そんなある日、何気なく訪れた深夜のコンビニでクラスの美少女二人に目をつけられてしまう。  渡会アスカ。金髪にピアスというギャル系美少女。そして巨乳。  桐生紗良。黒髪に色白の清楚系美少女。こちらも巨乳。  俺が一人暮らしをしていると知った二人は、ちょっと甘えれば家を自由に使えるとでも考えたのだろう。過激なアプローチをしてくるが、紳士な俺は美少女の誘惑に屈しなかった。  ……でも、アスカさんも紗良さんも、ただ遊び場所が欲しいだけで俺を頼ってくるわけではなかった。  これは問題を抱えた俺達三人が、互いを支えたくてしょうがなくなった関係の話。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...