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52話

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「見たことがあるような無いようなって感じ」

 わざわざ葵が聞いてくるってことは俺も知っている奴ってことだよな。ってことは何かのキャラクター?

「まあ流石に分かんないよね。これはね、九重ヤイバくんが諸事情に付き着用が出来なかったピアスだよ」

「だから見覚えがありそうだけど思い出せなかったわけだ」

 九重ヤイバの没イラストで着けていたピアスってことか。よく考えれば九重ヤイバっぽい配色だ。

 どおりで記憶に無い筈なのに見覚えがあるわけだ。

「そういうこと」

「でもそれなら何でここにあるの?」

 没になったならグッズに出来ない筈だ。なのにどうしてここにあるのだろうか。

「なんかね、元々このピアスを着けてデビューする方向で進めていたんだけど、直前で全く同じデザインのピアスがカルティアから発表されちゃったらしくて泣く泣く撤去したらしいよ」

 カルティアと言えばフランス発の世界的にも有名な宝飾品ブランドだっけか。

 カルティアがわざわざ樹のイラストからパクる事はあり得ないし、樹の性格上装飾品を丸パクリすることもあり得ない。

 本当に悲しい事故だったんだろうな。

「なるほどね。で、お金を貯めて購入したわけだ」

「そういうこと。ちょっと高かったけど、九重ヤイバくんグッズだし着けてみたら案外私にも似合っていたし総合的に見てもかなり良い買い物だった!」

「良かったね」

「うん!!」

「ちなみにいくら位したの?」

「えっと、いくらだっけ。確か1万円とかそこらだったはず」

 そう言ってスマホで何かを確認しだした。デビットカードの購入履歴でも確認しているのだろう。

「あっ!!」

 すると突然大きな声を出して固まった。

「えっなに?」

「いや、何でもないよ。普通に1万円位だったよ」

 何があったのか聞こうとすると、慌てた様子で誤魔化してきた。

「怪しい」

 絶対に値段をちょろまかしているな。

「別に何もないよ……?」

 どう見ても何か嘘をついていますって顔をしているけど、女子のスマホを強奪して中身を覗くのは幼馴染でも流石に大問題だ。

「ふーん……」

 というわけで俺は自分のスマホで葵の付けているピアスの値段を探すことにした。

 しかしカルティアのサイトの仕組みがいまいち分からず、商品の特定は不可能だった。

 ただ一つだけ分かったことがある。

「ねえ葵、せめて値札をちゃんと見てから買おうか」

 カルティアのピアスに5万を切るものは存在しない。更に、どう見ても葵が付けているのは1桁万円のピアスではない。確実に10万円は超えている。

「はい……」

「で、正確にはいくらだったのかな?」

「30万円でした……」

「さんじゅっ……」

 危うく飲んでも居ないお茶を吹き出しかけた。

 どうせ桁数を見間違えたんだろうってことで10万~15万の間を予想していたけど、その域を軽く超えてきた。

「ごめんなさい」

「まあ、買ってしまったものは仕方ないよ。これから大事にしてやればいいから。絶対になくさないでね」

 反省はちゃんとしているようなので、これ以上怒る必要は無さそう。

 そもそも1万円と勘違いして30万のピアスを買った所で、葵はそれでも困らないレベルで稼いでいるだろうからね。

「うん」

 ここで話を終わろうと思ったのだけど、ちょっと一つ気になる点が浮かび上がった。

「店員さんに止められなかったの?」

 普通高校生が30万の商品をデビットカードで買おうとしたら普通止めてくれるだろう。

「いや、止められなかったよ。あ、でも一瞬それっぽい動きはあったかも。ちょっと話したそうな顔で案内してくれている人とは違う店員さんが近づいてきたから。でも私を一瞬見た後帰っていった」

 止められそうだけど止められなかった?

「見た目で大丈夫そうって判断したのかな」

「分かんない。でもそうかもしれない。あの日滅茶苦茶気合を入れた格好してたし」

 気合を入れた格好?もしかして……

「その日ってもしかしてアキバVtuber祭?」

「うん」

 画面越しだったから見た目のセンスしか分からなかったけど、多分全体的に高級ブランドだったんだな……

「ごめん」

「何で?」

「いや、気分」

「何それ」

 理由は伝わらないし、伝わったら不味いけど、謝っておくべきだと思った。


 その日の夜に家に帰ったタイミングで、明後日から始まるコラボ相手達からの連絡が同時にやってきた。

 多分運営が最初の外部コラボということで事前にチェックした結果なんだろうけど、もう少し間を開けて欲しかった。

 とりあえず日程の近い順に返信していこうかな。


 まだ名前と顔が一致していない状態なので骨が折れたが、寝なきゃいけない時間までに全員との軽い打ち合わせは終了した。

 そして翌日には演劇部の4人目とコラボする日にコラボ予定の奏多から大まかなコラボ企画書が届いたのできっちりと確認し、準備は全て済ませた。


 懸念点の一つだったコラボ批判については全く問題なさそうだった。

 一応コラボを否定している人は居たが、数としては微々たるもので、日頃コラボしているアスカやながめと比べても格段に少なかった。

 というわけで別に何事も無くコラボ初日を迎えた。
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