上 下
26 / 130

26話

しおりを挟む
 念のためにながめが配信を切り損ねていないかを確認し、rescordのボイスチャットから抜けた。

「葵も中々やるな。まあ俺には勝てなかったみたいだけど」

 俺はパソコンの電源を切り、自宅に戻ることに。

「あ、良い事思いついた」

 俺はそのまま帰宅するのではなく、葵の家のチャイムを鳴らした。

 するとドタバタという音を立てながら葵が出てきた。

「一真、どうしたの?」

 予想通り、顔が真っ赤だった。

「いや、忘れ物をしちゃってさ」

「何忘れたの?」

「財布だね」

 当然ながら俺は忘れ物をしていない。ただ顔を見に来ただけである。

「そっか。じゃあ勝手に上がってって」

「ありがとう」

「あった!」

 俺は葵の死角になる位置で財布を見つけたフリをして、ポケットから財布を取り出してわざとらしく頭の上に掲げた。

「そんな所にあったんだ。気付かなかったよ」

 まだ動揺しているためか、葵は俺の雑な演技に気付いている様子は無かった。

「良かった。外に落としているとかじゃなくて」

「しっかりしてよね」

「分かっているよ。そういえばさ、今日の配信面白かったね」

 無事に葵の家に潜入できたので、俺は本来の目的を遂行することに。

「そ、そうだね。今回もヤイバくんがカッコよかったよ」

 まさか今日の配信に触れられるとは思っていなかったであろう葵は、更に顔を赤くしていた。

「個人的には最後の質問が特に面白かったかな。答えを聞いた時はお茶を吹きかけたよ。あれ、まんま葵だよね」

「え、あ、うん、そうだね」

「ってことはさ、今後九重ヤイバと直接話せるイベントとかで会ったら好きって言われるかもよ?」

「この私が?いやないないない。あのヤイバくんだよ?常日頃もっと可愛い女の子と直接会っているだろうから無理だよ。ほら、雛菊アスカさんとか。あの人モデルみたいに可愛いじゃん」

 俺の冗談に対し、両手をぶんぶんさせながら否定する葵。本人は動揺しすぎて気付いていないだろうが、その発言は雛菊アスカの中の人が美人だという事を知っていないと出ないものだぞ。

「でも葵の容姿も性格も完全に九重ヤイバの好みドンピシャじゃん。大丈夫だって」

「いや、それでもさあ、でもぉ……」

「それに、葵もモデルに負けない位可愛いから大丈夫だって。自信を持って」

「——!!!うううううう……」

 残念ながら止めを刺してしまったようで、完全に思考停止している。今日はこれ以上の会話は無理そうだ。

 元に戻るまで見ていたい気持ちもあるが、明日も学校だからな。

 俺は葵を部屋まで運んだ後、家の戸締りをしてから帰宅した。


 何気なしにスマホを開くと、DOTTOに『ヤイバきゅん、愛しています』というメッセージと、俺の好みの姿に扮した雛菊アスカの中の人の大量の写真が届いていた。

 こいつ、これをやる為にあの質問をさせたな。

 俺はため息をつきながら『馬鹿か』とだけ打って返した。

 せめて雛菊アスカのアバターでやってくれ。生身だと晒せないだろうが。

 雛菊アスカ:『ねえ、似合ってるよね?好きになってくれた???いつでも私は歓迎してるよ!!』

 流石美人なだけあって非常に似合っていた。凄く可愛いとは思う。

 だが、それを正直に伝えるのは馬鹿なので無視することに決めた。



 すると10分後、

 雛菊アスカ:『で、ヤイバきゅん。どうしてながめちゃんの見た目を知っているのかな?』

 というメッセージが届いた。

「あ」

 やべ。反撃することに全精力を費やしていたせいで完全に忘れてた。

 ってことはつまり……

『やっぱり葵の事好きなんだな!』

『いやあ、幼馴染だもんな!』

『その思い、伝わったぜ!』

 普段使っている方のスマホに九重ヤイバの正体を知っている奴らから大量にメッセージが届いていた。

「やっちまった……」

 どうにか誤解を解かないと。何が起こるか分かったもんじゃない。

「とりあえずアスカの方からだ」

 クラスメイトの方は極論認めても大丈夫として、こっちは正しく解決しないと詰む。

 九重ヤイバ:『それは単に偶然だと思うぞ。適当に言った条件がながめに似ていただけだろ』

 まずは偶然によるゴリ押しだ。

 雛菊アスカ:『偶然?ながめちゃんはそれで誤魔化せるかもしれないけど、私には通用しないよ!』

 やっぱり駄目か……

 正直に話す以外に方法は無いのか……?

 雛菊アスカ:『で、本当の理由は?』

 そうだな……

 九重ヤイバ:『実はな、俺の周りに水晶ながめと疑わしい女子が居るんだよ。同一人物だったら丁度いい反撃になるなと思って言ってみたら本人だったらしい。ほぼほぼ本人で確定だが、念の為この話は伝えないでくれ』

 これでどうだ?気付いているという話は誰にも言っていないからこれでどうにかならないか?

 同じ高校という情報を伝えてしまったが、ギリギリ許容範囲だろう。

 雛菊アスカ:『怪しいなあ』

 これでも駄目なのか……?

 雛菊アスカ:『まあ、ヤイバきゅんがあくどい方法を使ってながめちゃんの周囲を調べたってことはないだろうし、そういうことにしておこうかな』

 助かった……

 雛菊アスカ:『ただ、今度やるオフコラボの時に生ASMRでもしてもらおうかな!』

 そういえば以前不本意ながらオフコラボの約束を取り付けてしまっていたな。忘れていた。ただそれよりも、

 九重ヤイバ:『生ASMRってなんだ?』

 ASMRってマイクを耳かきで撫でたりして心地良い音を聞かせるって奴だろ?生ってなんだ?

 雛菊アスカ:『生ASMRってのは、ヤイバきゅんが私に直接耳かきをしたり、シャンプーしたりすることだよ!』

 とんでもないこと言いやがったよコイツ。こっちが弱者であることを良いことに好き勝手要求しやがって……

 九重ヤイバ:『高校生に何させる気だよ』

 雛菊アスカ:『別にASMRは小学生でも聞くことが出来る超健全なコンテンツだけど?何かおかしなこと言った?』

 九重ヤイバ:『直接やるのと音声はだいぶ違うだろ』

 雛菊アスカ:『え、もしかして耳かきのことエッチなことって思ってるの?ヤイバきゅんは可愛いなあ』

 今日のこいつはどうしようもねえな。言い争うだけ無駄だなこれ。

 九重ヤイバ:『そうは言ってねえよ』

 雛菊アスカ:『ならいいじゃん』

 九重ヤイバ:『はあ、しょうがないな。分かったよ』

 雛菊アスカ:『本番までにスタジオで出来そうなことを考えとくね!』

 九重ヤイバ:『そうか。ただ変な奴はちゃんと拒絶するからな』

 雛菊アスカ:『はーい!!』

 まあ、耳かきくらいならな。日頃の礼として少しくらいサービスしてやるか。

「とにかく無事に乗り越えられて良かった」

 デビューからずっと仲良くしていた奴とこんなんで関係に亀裂が入るとかしょうもなさすぎるからな。

「後はこのアホ共をどうにかしないとな……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

高校では誰とも関わらず平穏に過ごしたい陰キャぼっち、美少女たちのせいで実はハイスペックなことが発覚して成りあがってしまう

電脳ピエロ
恋愛
中学時代の経験から、五十嵐 純二は高校では誰とも関わらず陰キャぼっちとして学校生活を送りたいと思っていた。 そのため入学試験でも実力を隠し、最底辺としてスタートした高校生活。 しかし純二の周りには彼の実力隠しを疑う同級生の美少女や、真の実力を知る謎の美人教師など、平穏を脅かす存在が現れ始め……。 「俺は絶対に平穏な高校生活を守り抜く」 そんな純二の願いも虚しく、彼がハイスペックであるという噂は徐々に学校中へと広まっていく。 やがて純二の真の実力に危機感を覚えた生徒会までもが動き始めてしまい……。 実力を隠して平穏に過ごしたい実はハイスペックな陰キャぼっち VS 彼の真の実力を暴きたい美少女たち。 彼らの心理戦は、やがて学校全体を巻き込むほどの大きな戦いへと発展していく。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う

月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!

ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ

みずがめ
恋愛
 俺、室井和也。高校二年生。ぼっちで陰キャだけど、自由な一人暮らしで高校生活を穏やかに過ごしていた。  そんなある日、何気なく訪れた深夜のコンビニでクラスの美少女二人に目をつけられてしまう。  渡会アスカ。金髪にピアスというギャル系美少女。そして巨乳。  桐生紗良。黒髪に色白の清楚系美少女。こちらも巨乳。  俺が一人暮らしをしていると知った二人は、ちょっと甘えれば家を自由に使えるとでも考えたのだろう。過激なアプローチをしてくるが、紳士な俺は美少女の誘惑に屈しなかった。  ……でも、アスカさんも紗良さんも、ただ遊び場所が欲しいだけで俺を頼ってくるわけではなかった。  これは問題を抱えた俺達三人が、互いを支えたくてしょうがなくなった関係の話。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...