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17話

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 その後、俺は配信に間に合わせるために全力疾走で配信部屋へ向かった。

「はあ、はあ、樹、ありがとう」

「別に良いぜ。これくらいはお安い御用だ」

 配信部屋に着くと、リビングで樹がくつろいでいた。

 今日は配信をしないのだが、俺が急遽呼び出していた。配信準備を代わりにしてもらうためだ。

「いつか何か奢るよ」

「ラッキー!じゃあ頑張れよ!」

「うん、またね」

 樹は笑顔で家に帰っていった。

 いくらの出費になるか分からないが、身バレを徹底的に隠すためには必要な経費だ。

 これくらいは仕方ないと思い受け入れるしかない。

 そして俺は部屋に入り、rescordを起動した。

「すまん、遅くなった」

 当然ながら二人は先に入っており、遅れての参加となった。二人とも『VALPEX』を起動していると書いてあるので、恐らくAIM練習でもしていたのだろう。

「お、ヤイバきゅんこんばんは!間に合ったなら大丈夫だよ~」

「ヤイバ君こんばんは。今日はよろしくね」

 良かった。別に気にしていないようだ。

「ああ、よろしく。今日は勝って終わろう」

「ねえヤイバ君、ちょっと息上がってない?どうしたの?」

 おい水晶ながめ。お前のせいだからな。

 それから十分程経ち、大会の本配信が始まった。

 その頃には息も整い、冷静な思考が出来る位には回復していた。

 間もなくカスタムが開かれ、大会が始まった。



「くそっ!マジか!」

「ごめん、やられた!」

「こっちも、全滅だ……」

 全勝したカスタム初日とまではいかないものの、それ以後のカスタムでも常に上位を取っていたはずの俺たちの結果は芳しい物とは言えなかった。

 初戦、二戦目、三戦目はいずれも10位台で、キルはある程度取れているからマシなものの上位とはかなりの差を付けられていた。

「完全に対策を用意されたな」

「そうだね、私とヤイバちゃんが慣れていないキャラを使っているのを突いてきてる」

 いくら俺とアスカが参加者の中では強い方とはいっても、本職でなければボロが出るのは当然の話だ。しかし、元々チームのパワーは高かったためかなり勝率が高く、対策必須チームとして目を付けられていた。

 その結果、多くのチームにピンポイントなメタを張られてしまっていたらしい。

「このままじゃ怪しいよね?」

「そうだな……」

 何か対策の対策を考えなければならないんだが、付け焼刃でどうにかなるとは思えない。

「ねえ、ヤイバちゃんがブラド使わない?」

 そんな時、アスカがそんな提案をした。

 確かにそれならパーティ単位の動きはそのままにメタを外すことが出来るが……

「そんなことしたらながめはどうするんだ。他のキャラは殆ど使っていないだろ」

「多分行けます。ヨアラルタルも割と触っていたので」

 そんな俺の疑問に問題ないと宣言するながめ。顔合わせの段階では使えなかった気がするんだが……

『ヤイバさんが使えるキャラを使えるようになりたいのがファンの性なので』

 配信上ではなく、rescordのチャットで理由を説明してくれた。なるほどな……

 こいつ、配信後に俺視点でコラボ配信を見ていたんだな。んで、配信等でブラドの練習をしつつプライベートではヨアラルタルも触っていたと。

 高校生やっているはずだからそんな余裕なんて無いと思うが、あの熱量なら平気でこなしていそうだよな。

「このままだと正直勝ち目が薄いしな。それで行こう」

 俺は期待してくれているファン二人の為にも、無様な真似を見せるわけにはいかないな。


「ヤイバ君、ウルト使うよ!」

「ああ、ナイスタイミングだ!」

 ながめは俺の配信を熱心に見ていることもあって、ぶっつけ本番とは思えない的確な連携を見せてくれた。

 何ならアスカの動きも露骨に良くなっており、最初からこの組み合わせが強かったのではと思うほどだった。

 そのお陰もあり、4戦目、5戦目は危なげなくチャンピオンを獲得することが出来た。

「ここでチャンピオンを再度取ってキルポイントを何点か獲得できれば、1位のチームの順位次第で優勝が狙えるか」

 現在の順位は3位。ここまで上り詰めたは良いものの、最初の順位が尾を引いておりかなり厳しい状況だった。

「そうだね。一位を取れば……」

「なるほど、今の二人には簡単なお仕事だね。頑張るんだよ、ヤイバちゃん、ながめちゃん!」

「アスカちゃん?」

「お前も働けよ。何サボる気でいるんだ」

 あまりにも堂々とした他力本願な言葉に思わず俺とながめはツッコんだ。

「え、ダメなの?」

 とアスカからさも自分が正しいことを言っているかのような返答が返ってきた。

「そりゃそうだろ」

「何言っているのかな?アスカちゃん」

「ごめんなさい!馬車馬のように働きますので許してください!」

 しかし俺とながめの圧に耐えきれなかったようで、即座に謝罪した。

「「「はははははは」」」

 それを聞いた俺とながめが爆笑し、つられてアスカが笑っていた。

 どうやら俺とながめはあまりにも難易度の高い優勝条件に対して思っていたよりも緊張していたようだ。

 アスカはその空気を察して、あんな茶番を仕掛けてくれたらしい。

 おかげでいつも通りの空気に戻って最終戦に挑むことが出来た。

「1人ヨアラルタルを倒したよ!」

「「ナイス!」」

「南東の方向に2人潜伏している。注意してくれ」

「「了解!」」

 最終戦になっても勢いが途絶えることは無く、残り3パーティのこの場面を3人全員が生存した状態で迎えることが出来ていた。

「あと3チーム!」

 優勝がはっきりと目前に見えたことで、俺たちのテンションは最高潮に達していた。

 しかし、

「しまった。挟まれた!」

 よりにもよってエリアのはじっこで挟み撃ちにあってしまった。これがまだエリアの中央とかなら端に逃げることで3すくみまで持って行けるのだが、ここだと逃げ出す間に蜂の巣にされてしまう。

「北東に居るのは2人っぽい!」

「ならそっちを狙うぞ!一気に畳みかけて状況を打開する!」

「「了解!」」

 この作戦はお世辞にもいいものだとは言えないが、このまま悩んで挟み撃ちを食らうよりはマシだ。

 本来ならペースを合わせて攻めるべきなのだが、今回は時間が無いのでキャラコンを駆使し、最高速度で敵に突っ込む。

「くそっ、上手いな……」

 最終盤面まで二人で生き残っているだけあって、かなりの猛者だ。かなり当たりにくいように動いているはずなのだが、的確に俺のアーマーを削いでくる。

「後ろから攻撃来てる!」

「分かっている!二人は後ろの射線を意識してこっちに来てくれ!」

「うん」

「分かった!」

 きついな……こいつらを相手に2対1は中々キツイ。今はウルトを吐かれていないが、3人揃ったら吐かれるかもな。

 俺は一か八かの賭けに出た。
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