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12話

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「ごちそうしてくれるなんて本当にありがとうございます」

 あの後アスカに宮崎さんの説明をした結果、何故か三人でご飯を食べることに。

「別にこれくらい良いよ。だってヤイバきゅんの手助けをしてくれる人なんだもん!」

「は、はあ」

 しかし宮崎さんはアスカのノリについていくことは出来ず、ひたすら困惑していた。

 アスカに徐々園を奢るからと言われたから来ただけで、宮崎さんはこの人の事を何も分かっていないのだから仕方がない。

「で、宮崎さん。あなたはヤイバきゅんのどこが気に入ったのかな?」

 そうアスカが質問すると、宮崎さんのスイッチが入った。

「分かりやすい点で言うとやっぱり声ですね。アレは様々な表現が映えますし、様々な歌と親和性が高いのが素晴らしいです」

「なるほど、じゃあこういう曲はどう思う?」

「良いと思います。ただ、九重ヤイバというVtuberとしてではなく斎藤一真の歌い方を要求されるため、ファンとしての満足度は低くなると思います」

「やっぱりそうだよね。じゃあこっちは?」

 宮崎さんの熱にあてられてアスカのスイッチも入ったようだ。

「それはですね……」

 俺の事を完全に放置して俺の話題で盛り上がる二人。

 俺についての話の筈なのに俺は全く何を言っているのかが分からない。

 これが俗に言う作者はそこまで考えてないよ現象か。

 仕方ないので俺は話している間黙々と肉を食べていた。流石徐々園、美味しいな。

 それから数十分後、

「「クイーン・マキシマイザーの歌ってみた、撮るよ!」」

 と俺の今後が勝手に決められて話が終わった。

 その後、俺は二人にその曲の概要と魅力、そして九重ヤイバの声との親和性と見込まれる再生数等のプレゼンを10分程された。

 が面倒だったのと先日歌ってみたを撮ったばかりだったこともあり、一度断った。

 しかし、断っても水晶ながめ経由でぐるぐるターバンに頼み込むと言われ、逃げ道が無いことを悟った。

「この間収録した歌ってみたの編集あるけど大丈夫なの?テスト勉強とかあるでしょ?」

 ということで最後のあがきとして宮崎さんに聞いてみた。

「この位余裕よ。それに、私の成績はあなたよりは格段に良いから。安心して歌いなさい」

 と言われた。流石クラス一位。



 その翌日、MIXは余裕だという証拠を見せるためなのか、歌ってみた動画が全て完成したとの報告が来た。

「アイツ、いつの間に連絡先交換したんだ……?」

 そのメールに添付されていた動画のサムネが樹の絵だったのだ。

 まあ、ぐるぐるターバンは俺の同級生だと公言しているからそりゃあ分かるか。

 多分グループDOTTOから連絡先を入手し、直接頼み込んだんだろうな。

 あっちは樹だと疑って聞けば分かる程度しか声は変わってないしな。

「とりあえず聴いてみるか」

 俺の歌ってみたはどうなっているのだろうか。

『~♪』

「凄いなこれ。今までのより格段に良い」

 何度もリテイクを繰り返したこともあるが、宮崎さんの編集技術が相当に高く、間違いなく過去最高の出来と言って良かった。

「バレた時はどうなるかと思ったけれど、バレて良かったかも」


 その後、すごく良かったという感想と共に動画を挙げるためのキーを送った後、歌ってみたを19時に投稿すると告知を行った。


「なんかすげえことになってんな」

 樹は俺のチャンネルの画面を見ながらそう言った。

 歌ってみたを投稿してから2時間後、樹とコラボ配信をする直前にどうなっているか確認していた。

「まあ今回はアスカだけじゃなくて水晶ながめまで宣伝してくれたからな」

 水晶ながめのツリッターのフォロワー数はチャンネル登録者数と同じ50万人くらい。

 つまり俺の5倍の宣伝力がある。

 そんな奴が聞いてねとファンにお願いしてみろ。バカげた再生回数になるに決まっている。

 そりゃあ2時間で10万再生しても変ではない。

「多分この程度じゃ収まらないぞ。確実に100万再生は行くし、何なら500万も堅いぞ」

「そうだったら良いな」

「そろそろ時間だからマイク入れるぞ」

「分かった」

 今日の配信は『APLANT』というまた別のFPSだったのだが、序盤のコメント欄の大半は歌ってみたの感想で埋め尽くされていたことは言うまでもない。


「九重ヤイバ君の歌ってみた、これまで以上に破壊力が高かったよ……」

 歌ってみたが投稿された翌日、俺のファンである葵は楽しそうに語ってくれた。

「あの素晴らしいMIXをしてくれたのが同級生って、ヤイバ君の周り凄すぎるよ……」

 と感心しつつ話しているが、お前も登録者数50万人の大手Vtuberという凄い同級生の一人だからな。

「そうだね」

 今までの歌ってみたならともかく、今回の歌ってみたはかなり凄い自信があったので葵に大絶賛されても恥ずかしい気持ちはない。寧ろ晴れやかな気持ちだ。

 それから数分程歌ってみたの感動ポイントを動画を再生しつつ紹介し、満足して話を終えた。


「そういえば、ゆめなまがライブをやるみたいだね」

 散々褒められて気持ち良くなってはいたが、これまでの心労を忘れていたわけではない。久々に攻撃を仕掛けることにした。

「う、うん、そうだね」

 明らかに動揺しているな。まだまだ仕掛けるぞ。

「樹から一緒に生で見ないかって誘われているんだけど、水晶ながめさん以外は名前すら分からないんだよね。少しだけで良いから教えてもらっても良い?」

「し、知らないんなら無理に見なくても良いんじゃないかな?好きになれなかったらああいうのって楽しくないだろうし……」

 少しフリーズした後、葵はそんなことを言い出した。

 基本的にオタクコンテンツは一度見てから判断するが信条の葵が、見る前に判断するように勧めている。

 しかし自分で自分の愛するグループを貶す事になっているので若干申し訳なさそうな表情をしている。

 そこまで見て欲しくないのか。正直アイドルの文化は苦手な部類だけれど、俄然見たくなってきたな。今ならドはまりするかもしれないな!

「だから先に聞いておこうかなって。樹に聞いたら愛を全員分延々と語られそうだし、葵に教えてもらいたいんだ」

 説明したら見ないかもしれない。どうする、葵?

「そう、分かった。教えるよ」

 勝った!

「ありがとう!とりあえず今回出るVtuberが知りたいんだけど、まずこの人から教えてもらっていいかな?」

 俺はまず画面中央に居た外はねの緑髪の少女を指差した。

「この人は雪村ナツキせ、さんだよ。ゆめなまの1期生で、最初期のゆめなまをおっきくした立役者だね」

 先輩って言いかけていたけど大丈夫かこいつ。

「中学生ぐらいに見えるけど200歳の雪女で、私達よりも歴の長い重度のオタクだね」

「そうなんだ。丁度いい切り抜きはある?」

 Vtuberの事を知るにはやっぱり切り抜きを見るのが一番だからな。配信だとあまりにも長すぎる上得る情報が左程多くないしな。

「これかな。『声優に限界化して一般雪女に成り下がった雪村』ってタイトル」

 なんだこの変なタイトル……

 そもそも雪女に一般とか非一般とかないだろ。

 とりあえず見てみよう。

「確かにタイトル通りだね」

 そこには確かにゲームに出てくる有名声優の口説きボイスにガチ惚れしている雪村ナツキというVtuberの姿があった。

「いつもしっかりしているのに、こういう一面があるから可愛いんだよね。この間もし……」

「し?」

「し、しずか!しずかっていう声優さんに限界化してたんだよ」

 仕事って言いかけたなコイツ。そして誤魔化し方も下手だな。清水翔多とかもっと有名で分かりやすい声優いただろ。なんだしずかって。そんなにここって危険な場所だったか?

 もう少し身バレへの意識を持ってほしい。まあ気付いただけマシだけれども。

「ふう」

「しずかか。知らない声優だけど、どんな人?」

 アレで乗り切ったみたいな顔をしていたので容赦なく聞いてみることに。
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