上 下
32 / 36

32話

しおりを挟む
「この街は広すぎる!」

 あまりにも地図が見つからないため、涼がついに限界だと声をあげた。

「そうだね。このままだと日が暮れそうだよ」

 涼の言葉にリンネが同意する。確かにこのままだと一生見つからないように思える。

「俺が露店の奴に聞いてくる」

 俺は近くにあった露店の中から、買っても問題なさそうな飯を販売しているものを選んだ。

「はいお兄さん、どれをお求めで?」

「じゃあこの鳥の串焼きを三本頼む」

 俺は鳥の串焼き。つまり焼き鳥を頼むことにした。この街独自の食べ物を買って不味かったら嫌だからな。

「はいよ!今から焼くから少しだけ待ってくれや」

「分かった」

「なあ店主、地図を買える場所って知っているか?」

「地図か。そんなもんが必要ってことお兄さん、冒険者かい?」

「まあ似たようなものだな」

「それなら、ウェイン通りにある露店が一番じゃねえかな。地図としての出来もそうだが、冒険者が多少無茶しても良いように丈夫に作っているらしいからな。そこから左に曲がった後、突き当りを右に曲がればウェイン通りに着く。その一番手前にあるから見れば分かるぜ」

 初手から当たりを引くことが出来たようだ。運が良かったな。

「そうか。ありがとう」

「別に良いってことよ。っと焼きあがったぜ。三本で銅貨六枚だ」

「じゃあこれで」

「おう、おつりだ。また来てくれよな!」

「ああ、またな」

 俺は気のいい焼き鳥屋の店主と別れ、二人に報告へ戻った。

「って話だ。食べてから行くぞ」

 あの店主から買った焼き鳥はまた機会があるのなら来ても良いと思える位には非常に美味しかった。

 ゴミを一旦マジックバッグに入れた後、大量の人混みをかき分けて地図を販売している露店へと向かった。

「あんたら、地図をお求めかい?」

「そうですね」

「どんな大きさが良いかい?」

「極力広範囲が記されているものをお願いします」

「そうか、じゃあこれかね?」

「そうですね……ちょっと広いですかね。他のも纏めて見せてもらっていいですか?」

「構わないよ。ほら」

 遠くに見える巨大な塔と、目の前にある地図をそれぞれ見比べながら吟味している涼。

 恐らく一番都合の良い範囲のものを選んでいるのだろうが、地図を読めない俺には何を見て選んでいるのかがさっぱり分からない。

「分かる?」

「分からん」

「だよね」

 それはリンネも同様らしかった。

 待つこと数分。

「じゃあこれでお願いします」

「毎度あり」

「時々塔の方を見ていたが、アレで何が分かるんだ?」

「普通に大体の位置と距離が分かるよ。近くに山っていう分かりやすい比較対象があるからね。あとはこの街の大きさをざっくりと推定して、極力細部が読めるように範囲を調整したんだ」

 普通そんなことは出来るのか……?

 流石におかしいだろと感じた俺はスマホを回収し、コメント欄を確認する。

 すると、『それは無理だろ』、『分かるか』、『伊能忠敬だって出来ねえよ』等、涼のやったことを否定するコメントが非常に多かった。

 が、数人は『一応不可能ではない』、『冒険者として長いだろうからワンチャン』といった肯定するコメントもあり、人間を卒業していることは間違いないが、別にありえない話ではないらしい。

 ひとしきり読んだ俺は再びカメラを飛ばし、

「不可能では無いことは分かった。ただどうしてお前はそんな技術を手に入れたんだ?」

「別に何もしてないよ。皆出来るものじゃないの?近所に住んでる人たちは普通に出来るよ?」

「なんだそのヤバい街は」

 お前の地元は放浪民族かよ。


 その後日が暮れてきたので配信を切った後手頃な宿を探し、泊まることに。

 当初は三人で一つ大きな部屋を借りる予定だったが、リンネがあまりにもごねたので結局一人一部屋借りる羽目になった。

 翌朝、俺と涼はリンネに叩き起こされ、目的地に向かうための乗り合い馬車に乗せられた。

「別に朝である必要はあるか?配信者だぞ?」

 起こされたタイミングでスマホを確認した時は午前7時だった。

「この時間帯じゃないと遠すぎて日が暮れるんだよ!」

「別にその位良いじゃないか。この馬車には御者と俺達しか乗っていないが、前後に10台以上馬車があるから突然モンスターに襲われても問題無いだろ」

 それに、他の客が襲ってきたとしても涼が居れば簡単に一網打尽だろうしな。

「そこじゃないよ。どうやって寝るのさ!」

「そこらでテントを張って一緒に寝るだけでしょ?」

「涼さんは少しくらい気にして!!!」

 どうやらリンネは涼と寝るのが恥ずかしいらしい。シャイな奴だな。


 流石に日中から堂々と襲ってくるようなモンスターや盗賊は居るわけが無く、何事も無く目的地へと辿り着いた。

「じゃあ、あの塔に向かうか」

「そうだね」

 そこから俺たちは街に入ることはせず、塔へ向かう事に。

「どうやら立ち入り禁止区域に設定されているらしいな」

 塔へ向かうため、森の中を歩いていると巨大な柵に道を阻まれた。

 塔の事をこの世界の住人は認識出来ないはずなので、何か強力なモンスターが立ち塞がっているのだろうか。

「でもそれで立ち止まるわけにはいかないよね」

「うん、そうだね」

「じゃあ飛び越えるか」

 そう思い柵に向かいジャンプをする寸前で、
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...