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31話

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 それから1時間程歩いたがそんなフェンリルのような生物が現れることは無く、せいぜいC級やB級相当の敵が出てくるに留まっていたため余裕の攻略にだった。

「やっと見つけた。街だよ」

 そして原っぱを抜け、今回の本題である街を見つけた。

「聞いていた通りだね。本物のお城はやっぱりカッコいいや」

 リンネは街の中央に位置しているであろう城を見てテンションが上がっていた。

「願いが叶って良かったな」

「本当に嬉しい。ありがとう」

 S級になりたてだというのに『火炎の導き』が断念し、情報が少ないものを選んだのか。それは生で西洋風のお城を見物するためだ。

 お金は幾らでもあるのでU○Jやヨーロッパなどに行けば良いじゃないか?と思うかもしれないが、リンネは観光資源としてではなく、実際に本当の目的で使われている城が見たいらしい。

 別に入り口に入った瞬間即死するような危険な場所ではないので、特に反対することも無くここに決まったというわけだ。

「リンネ君の目標も達成した所だし、次は言語ガチャだね」

「ああ」

 ここまではちょっと大変な観光のようなものだ。街に入るために門番と会話が出来るかどうか。これによって探索の可否が決まってくるのだ。

 俺達は言語が通じることを切に願いつつ、門へと近づいた。

「おっとそこの3人。入るためには身分証明書が必要だ」

 と門番は日本語ではないが、俺たちにとっては意味の通じる言語で会話してきた。

 どうやら言語ガチャは成功したらしい。

「そういった類の物は持っていない。俺たちは遠く離れた地から来たものでな」

 となると次は街へ入場できるかのチャレンジだ。

「そうか。ならこの街に入るためには仮身分証発行の料金として一人頭銀貨3枚が必要だ。だが遠くから来たのならそれも持っていないだろ?」

「そうだな」

「なら、あんたらが取れる選択肢は二つだ。一つは今ここで銀貨9枚分の何かを売却すること。もう一つはこの街の近くにある鉱山で一定期間労働することだ」

 流石に装備を売却するわけにはいかないしな。

「涼、リンネ、何かモンスターの素材を持っていないか?」

 俺は基本的に装備以外の品を持ち込んでいないため、金目のものは一切無い。

「私は持って無いかな。家に置いてきちゃった」

「ちょっと待って。何か無いか探してみる」

 リンネはそう言ってマジックバッグの中身を漁り始めた。

 それを横目で見ていると、明らかに今は使わないであろうショットガンや、コンビニで買ったであろうビールや雑誌がバッグから顔をのぞかせていた。

 リンネよ。かさばらない上、温度を一定に保つ機能もあって便利なのはよく知っているから別に日常生活でマジックバッグを使うなとは言わん。だが、せめてダンジョンに来る際は関係の無いものは家に置いてこい。

「あ、あった。これとかどうかな?」

 そう言ってリンネが取り出したのは金属で出来た巨大な蛇の死体だった。

 俺には一切見覚えが無いから、多分九州に籠り一人でダンジョンへ潜っていた際に倒したモンスターのものだろう。

「見たことの無いモンスターだから確実な値段を示すことは出来ないが、最低でも金貨数枚は行きそうな大物だな」

 とリンネが取り出したモンスターをまじまじと見つめながらそう言った。

 恐らくこの世界には存在しないモンスターだったのだろう。

「これを売れば入れるってことですか?」

「間違いなくな。ただ俺が買い取って後で売るって形を取ることは出来なさそうだから、買い取りが出来る場所まで着いてきてもらう。すまないな」

 それから門番は俺たちに待っているよう言いつけて、別の門番を連れて来た。

「じゃあ行こう」

 そして俺たちは門番の案内の元、街へと入ることが出来た。

「雰囲気あるねえ」

「そうだな」

 様々な建物が全てレンガで作られており、一昔前のヨーロッパを想起させる。

「この剣は安いけど丈夫だよ!駆け出しの冒険者にはうってつけさ!」

「特産品の小麦を使ったパンは要りませんか?ふわふわで絶品だよ!」

 そして路上では食べ物や家具、武器等様々な商品が販売されており、非常に活気がある街だった。

「一日ここを回るだけでもコンテンツとして完成しそうだよ」

「多分視聴者には言葉が分からないだろうからきつそうだけどね」

「確かに」

 この人たちの言葉が分かるのは地球上では言語ガチャに成功したこの3人だけだ。

 見ている側としては俺たちが話している日本語以外は何も分からない。

「着いたぞ。冒険者ギルドだ」

「この世界ではこうなっているんだ」

 地球では役所という側面が強かったが、今目の前にあるのは一般人から依頼を受け、それを達成することで報酬金を得るタイプのギルドだった。

「この世界?よく分からんがここら一帯はこんな感じだな。入るぞ」

 中に入ると、この世界の様々な冒険者達が依頼を吟味したり騒いだりしていた。

 俺達にとっては新鮮な光景だが、門番にとってはただの日常のため見向きもせずに正面の受付へと向かった。

「ランダさん、買取依頼ですか?」

「ああ。この三人が持ってきたモンスターの死体なんだが、俺には値が想像つかなくてな」

「そうですか。では一旦見せていただいてもよろしいですか?」

「はい、どうぞ」

 リンネは受付嬢に先程の蛇を見せた。

「思っていたよりも大きいですね。ここだと邪魔になってしまいますので奥の方で再度出していただけますか?」

「はい」

 そう言われてリンネは奥の部屋へ入り、すぐに戻ってきた。

「査定が終了するまでギルド内にてお待ちください。ランダさんには先に銀貨9枚は渡しておきますね」

「ああ、助かる。じゃあこれが仮身分証だ。大体2カ月くらいは有効だ。絶対になくすなよ?」

 金を受け取ったランダと呼ばれた門番は、3人分の身分証を渡してきた。

「ああ」

「はい」

「ありがとうございます」

「じゃあな。この街を楽しんでくれ」

 門番はそう言い残し、ギルドを去っていった。

「じゃあそこで待ってろって言われたし適当に座るか」

「そうだね」

 俺達は近くにあった手頃なテーブルに座った。

「実際に見るとなんというか、思っていたよりも微妙だね」

 席につくなりリンネはそんなことを言い出した。

「確かにそうだな。まあ地球に居る冒険者がカッコいい装備を付けている姿を見てきたせいだろう」

 ここに居る奴らよりも良い武器や防具を持った人間を見すぎたせいで、こういった異世界の冒険者に新鮮味が無くなってしまっているのだ。

 感覚的に東京の道端を歩いている外国人と同じくらいのレア度だ。

「でももしかしたら全員私達よりもめちゃくちゃ強いかも」

「どうだろうな。ここに来るまでに俺達が苦戦するようなモンスターなんていなかったし」

 あれを倒すのを生業にしているのならそこまで強くある必要は無いだろうしな。

「それはそうかも」

「買取の査定が完了しました。受付までお越しください!」

 そんなことを話していると、査定が終わったようだ。

「未知の魔物でしたが、調査により約Cランクの魔物と推定しました。また、状態は非常に良好で、素材にも有用性が高いことから、買取価格はは先程ランダさんに渡した銀貨9枚を差し引いて、金貨7枚と銀貨1枚となります」

 そう言って受付嬢からお金の入った袋をリンネに渡した。

 この国の貨幣の価値が分からない為反応に困るが、金貨っていう位だからかなり良い値段だとは思う。

「ありがとうございます」

「続けてですが、3人は冒険者になられますか?」

「それはやめておきます」

 とリンネが迷いなく断った。

 この世界で暮らすと決めたのならなっても良いが、攻略を済ませたらすぐに帰る予定だからな。身分があることで何かしら不都合が生じたりすると困る。

 それに、この世界の住人とステータス等の仕組みが必ずしも一緒とは限らないからな。もし違った場合に敵だと誤認されてしまったらどうしようもない。

 だから俺たちは断ることに決めていた。

「そうですか。でも我々は皆様の冒険者登録をいつでもお待ちしております」

「はい。ありがとうございました」

 俺達はそのままギルドを出た。

「とりあえず塔の近くにある町の情報を仕入れよう」

「そうだな」

「地図とかがあれば一発なんだけど。どこかに売ってないかなあ」

 俺達は地図を求めて露店のある通りをさまよった。
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