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26話

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「後は俺がA級に上がるだけか」

 一層気合が入った俺たちは、今日だけで8個のダンジョンを攻略した。

 その途中で必要な攻略数を超えた涼がA級へと昇格していた。

「うん、あと5個。頑張ろう」

「そうだな」


 そして翌日、あっという間に4つのダンジョンをクリアし、残すはあと一つ。

「このボスを倒せばAIM君もA級になれるわけだ」

「ああ。だから、今回は俺だけでボス戦をやらせてくれ」

 北海道に来てからは涼が圧倒的なスピードとパワーで全てのボスを倒していた。

 雑魚に関しては俺が殆ど倒していたので一般的には通用すると言っても良いが、アレは1㎞、2㎞先の敵を相手取る遠距離戦なのだ。

 そこらのグラウンド程度しかない狭い場所での戦闘を強いられるボス部屋とは求められている物が違う。

 だからA級、S級に上がった時のことも考えて近距離での戦闘に慣れておきたかった。

「良いよ。ただ、危険だったら倒しに行くからね」

「分かった。ありがとう」

 涼の同意も得たので、俺は一人で戦闘をすることになった。

「悪魔みたいだな」

 A級に上がる最後のボスとなったのは、この世界に実在する存在とは一線を画した異形の存在。空想上で描かれる悪魔に酷似した存在だった。

 とはいってもまだB級ということもありそこまで恐ろしいものではなく、魔王に従う下っ端といった感じだ。

「悪魔の弱点は良く知らんが、人型だから大体同じだろう」

 俺は人間でいう首、鳩尾、顎、股間の4か所を狙ってブーメランを投げた。

 その間に悪魔は俺に向かって氷で出来た槍を数本ほど魔法で生み出し、飛ばしてきた。

 流石に食らうのは不味いが、若干追尾も入っているようで避けることも叶わなそうだ。

「ならば撃墜するしかないか」

 俺はバッグから急いでブーメランを取り出し、槍一本一本に向けて投擲する。

 それぞれブーメランは槍を横から打ち抜き、粉砕した。

「悪魔はどうなった?」

 攻撃をしのぎ切ったた俺は追撃すべく悪魔の様子を伺う。恐らく正面から投げたので全て防がれているはずだ。

「どこだ?」

 しかし、周囲には一切姿が見当たらない。身を隠したのか?

「AIM君、ボスは倒れたよ」

「は?ブーメランはガードされただろ?」

 遠距離から死角に向けて攻撃するから強いのであって、正面から投げたら俺の攻撃なんて雑魚でしかないだろ。アレを防げないB級のボスは居ないはずだ。

「確かにガードしてたんだけど、何故かそのまま死んで消滅したんだ」

 よく分からないが、リンネがそう言っているのなら正しいのだろう。

「後で映像を見て確認するか」

 どうせこのまま東京に帰ることになるので、その間アーカイブを見れば良い。

「とりあえずA級昇格確定したし、配信も終わろうか」

「そうだな」

 俺はいつも通り配信を終了し、ダンジョンを出てからA級昇格の手続きを済ませた。

 その後、視聴者に向けてA級へ昇格したことを写真付きでSNSに公開した。



「これで二人ともA級冒険者だね」

「そうだな。涼が居てくれたおかげで非常に助かった」

 涼の案内と強さが無ければ3日でA級昇格なんて芸当は不可能だった。

「そうかな?道中は全て周人君が倒してくれたし、ボスだってその気になれば倒せたでしょ?1日2日くらいは伸びたかもしれないけど、一人でもどうにか出来たと思うよ」

 と俺の事を高く評価してくれる涼。

「それは怪しいな。多分そんなことをしたらどこかで負けている」

 しかし、俺は多分そこまで強くはない。先程のボス戦で確信した。

 というのも俺は攻撃をされたらとことん弱いのだ。

 もしデーモンをあの攻撃で倒す事が出来なかったら、追撃を食らって俺はあっという間にお陀仏だった。

 近距離戦に致命的に弱い以上、今後ボス戦を一人で戦うのは難しいだろう。

「うーん、そうかな。まあいいや、とりあえず東京に帰ろう」

「そうだな」

 とりあえず俺たちは家に帰ることにした。


「どういうことだ……?」

 その道中、俺は自分のアーカイブを確認していたのだが、とあることに気付いた。

 俺の攻撃は敵に当たる前に命中していることは視聴者も知る話だが、最後のダンジョンあたりからそれに加えておかしな光景が散見されるようになっていた。

「なんかあったの?」

 車を運転している涼が聞いてきた。

「最後に潜ったダンジョンで俺が倒した敵に一切の外傷が見当たらないんだ」

 道中の雑魚的に関しては走り抜けていったため映像としては一瞬で分かりにくいが、狙った箇所に何も残っていないのだ。

「どういうこと?」

「わからん」

 とりあえず一番分かりやすいであろうボス戦を見てみることに。

『悪魔みたいだな』

 先程戦った通り、俺がブーメランを放つと同時に悪魔が魔法を撃ってくる。

 それを防ぐべく俺がブーメランで迎撃する。

 そこには違和感は無い。これに関しては命中する前に当たるという事象さえ起きていない。

 本題はデーモンだ。涼は俺の後ろに居るし、俺は氷の槍に囲まれて視界を遮られてはいるが姿はどうにか確認できる。

 ちゃんとブーメランは悪魔の弱点に向かって直進し、気付かれて防御態勢を敷かれている。

 どうみても弱点には当たるはずが無い。

 実際その通りにブーメランは弾かれている。

 が、そのまま正面から倒れた。

「涼は何もやっていないよな?」

「勿論。周人君に言われてたからね」

 しかし、これが決定打になったと考えるのも変だ。

 念のためもう一度見てみる。今回は一つ一つブーメランの行き先を確認しよう。

 首を狙ったブーメランは腕に弾かれて真横に飛んだ。
 顎を狙ったブーメランも同様に腕に弾かれた。
 股間を狙ったブーメランは膝で蹴られ、真上に飛んだ。
 そして鳩尾を狙ったブーメランは、肘に受け止められていた。

 ん?

 肘に受け止められていたブーメランは、完全に威力を軽減されていた。

 それが出来るのであれば全て軽減できるのではないか?

 腕の方がより繊細な動きが出来るだろうし、肘よりは容易だろう。

 なのに何故肘で受けたブーメランだけそうなった?

 恐らく今回の謎討伐の理由を見つける鍵は、このブーメランだ。

 試しに適当なダンジョンに行って実験してみるか。



 東京に着いた後涼には先に帰ってもらい、俺は手頃な人型の敵が出る神田ダンジョンへと向かった。

「一応撮影機器も起動しておくか」

 配信をするわけではないが、当たった瞬間を見逃さないために俺はカメラを起動する。

「いたな」

 早速標的であるゴブリンを見つけた。

「狙ったのは首、鳩尾、顎、股間の4か所だったな」

 5匹居たので4体はそれぞれ一か所を、1体は全てを狙って攻撃した。

 流石にD級ダンジョンの雑魚なのでそれぞれ一撃で死んだ。

「問題は死体だな」

 俺はどうやって死んだのかを確認するべく、ゴブリンの死体に近づいた。



「割と予想通りだな」

 解体してみた結果、予想通り首、顎、股間を狙ったゴブリンはそれぞれ打撃によって死んだ跡が残っていた。

 しかし、鳩尾を狙ったゴブリンだけは少々違う結果を見せていた。

「とりあえず解体してみるか」

 外傷がないゴブリンを解体してみることに。といっても腹をかっさばくだけだが。

「なるほどな」

 体の中を見ると、心臓が無残に潰されているのを発見した。

 一応もう一体の4か所に当てたゴブリンも解体してみる。

 そちらの方も胴体は無事で、心臓のみが潰されていた。

「広がっているのは弱点の当たり判定なのか?」

 だから鳩尾ではなく心臓のみに当たって、こんな不可思議な死体が生まれたのか?

 信じがたいが、そう結論付ける以外無さそうだ。

「これは結構恐ろしいぞ」

 弱点を隠している敵すら一撃で倒せるだけでなく、攻撃に気付いて防御した敵ですら貫通して攻撃が当てられる。

 完全に見切って距離を取れば問題ないが、そんなことを俺が許すわけが無い。

 つまり回避不可の心臓破壊が出来るようになったと同義。

 現状はそんな馬鹿みたいな攻撃力は必要無いが、S級やそれ以上になった際に猛威を振るうだろう。

「とりあえず帰るか」

 十分に検証も終わったので涼に報告するべく、家に戻った。
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