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20話

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「違和感?」

「はっきりと感じたのは『フレイムアルマジロ』を倒した時のことだね。弱点は頭だってのは分かっているよね?」

「ああ、言ってたよな」

「だから周人君は頭を狙っていた。そうだよね?」

「間違いない」

 当てるなら当然弱点以外ないからな。

「ただ、あの地形だと頭の位置が見えなかったんじゃないかい?」

「そうだな。草の焦げ方から大体の位置を推測して投げたな」

 見えないものはそうする以外ないからな。

「だと思った。中々に良い着眼点だったんだけど、軌道的に何個か間違っていたよ」

「そうだったのか」

 まあ狙った場所が間違っていれば当たるものも当たらないわな。

「問題はそこから。じゃあ一撃で倒せていたアルマジロは何体だと思う?」

「50回投げたから大体40体か?」

 別に狙い自体は悪くなかった筈。それくらいが妥当ではないか。

「違う、50匹だよ」

「は?」

 複数に当たるように狙った記憶は無いぞ。仮に複数当たっていたのなら、正しい軌道で戻ってこないブーメランがあったはずだ。

「驚くのも仕方ない。けれど、全部のアルマジロが着いた頃には倒れていた。明らかに頭を外しているはずなのにだよ」

 頭を外しているのに頭に当たった?別に軌道が歪んだ様子は一切無かったはずだが。

「だから『キャノンタートル』を倒しに行った時に注意深く見てみたんだ」

「どうだった?」

「君のブーメランは、標的に当たる前に当たっていた」

 当たる前に当たる?

「見間違いじゃないのか?」

 単に動体視力の問題でそう見えただけじゃないのか?いくら力に振ってないとはいえ、補正により一般人とは比べ物にならない程のステータスはある。そんな奴が投げたブーメランだ。はっきりと視認できないのが普通だ。

「いや、そんなことはないよ。僕は君よりもかなりレベルが高いお陰で、動体視力とかの部分もかなり高い。それに周人君のブーメランはレベルにしては遅いから、私ならはっきりと視認できる」

 と断言した。

 実際俺の動体視力も向上している節はあったので完全に信じたわけではないが、ある程度納得をした。

「そうなのか」

「ってことで私なりに結論が出たんだけど、命中のステータスは恐らく弱点の当たり判定を広くすることが出来る」

「当たり判定を広く?」

「うん、じゃなきゃ説明がつかない」

 俺は実際に現場を見ているわけではないので分からないが、ここまで涼が真剣に話しているのだ。

「なるほどな」

 だから俺はそのまま信じることにした。

「まさか命中にそんな機能があるなんて思わなかったなあ。ちなみに君の命中は今どのくらいなの?」

「大体1000位だな」

 ジョブを進化させた直後はかなりジョブレベルが上がりやすかったのと、ゾンビ突破以後だけでD級のモンスターは500体、C級は今回のみで200体近くを倒したからな。結構レベルが上がっている。

「思っていたステータスより数段高かったよ」

「ちなみにこれってどのくらいだ?」

 上位層の冒険者の実情を知らないので、興味本位で聞いてみた。

「恐らく世界で一番命中が高いかな。それも他に最低でも400以上の差をつけて」

「そんなに差があるのか」

 一部の人間はジョブの補正で命中が上がっているとは思うのだが。それでこの差ってことは本当に誰も見向きもしていないんだな。

「大体の人は命中上げるよりも攻撃とか魔力とか上げた方が強いからねえ」

「残念なことだな」

 まあ幽霊にブーメランが当てられるようになる以外のメリットは存在しない上に、俺よりも強い奴はそれすら知らなかったからな。

「まあこれまで命中に全てを捧げてきた周人君だけの特権だよ」

「そうだな」

 ここまで命中に捧げ続けてきたからこそこうやって新事実が明らかになったのだ。一人だけズルしたところで罰は当たらないか。

「それはそうとして、配信の反響はどうだった?」

「まだ見てないな。調べてみるか」

 俺はスマホをポケットから取り出し、SNSをチェックする。

「見せて見せて」

「分かった」

 俺は正面に座っている涼に画面が見えるようにスマホを置いた。

 いつものようにエゴサーチに使用している言葉を検索し、表示する。

「結構色んな人が見てるんだね」

 画面には、今回の配信についての感想がずらっと並ぶ。

「最近大きく注目されるようになったからな」

 RTA然り、幽霊事件然り、ネットを騒がせるには十分な配信を行った成果だ。

「私についてのコメントも結構多いね」

 結構多いと涼は言っているが、そんなレベルではなく大半が涼についてのコメントだ。

 俺の名前で検索しているから涼についてのコメントは出てきにくいはずなんだが……

「そうだな」

「『パワー系お姉さん好き』、『かわいい』だって」

 それもこれも、涼が美人に入る部類だからである。

 正直な話、そこいらのモデルでは太刀打ち出来ないレベルだと思う。

 だから意図的に配信では素性を明かすことをしなかったのだが、案の定だった。

 今なら大丈夫だが、下手したらチャンネルが乗っ取られていた恐れすらあるからな。

「まあ、言うまでもなく美人だからな」

「そんな美人さんを家に住まわせている感想はどんなもんだい?」

 ニヤッと笑った涼は、俺をからかうためにそんな質問をぶつけてきた。

 しっかりと目を合わせているので逸らすわけにはいかない。逸らしたら負けだ。

「非常に助かっている。家事を涼がやってくれているお陰で俺は配信だけに専念できているからな」

 俺は一切の嘘をつかず、正直な感想を述べた。見た目に関する明言だけは避けて。

「そう言ってくれると嬉しいねえ」

 どうやら乗り切ったようだ。助かった。美人と生活していること自体の感想について聞かれていたら死んでいた。

 どうして俺がわざわざ配信部屋を片付けてまでそこに住まわせていると思っている。

 一番壁が厚く、防音設備がしっかりしているから生活音が外に漏れにくいからだ。いくら俺でも美人の衣擦れの音が聞こえてきて気にならないわけが無い。

「話が逸れたね。とりあえず私が出た今日の配信は好評だったんだね?」

「ああ、間違いなく」

 チャンネルの方も評価は高く、同時接続数も結構いっていたらしい。

「もし周人君が良ければなんだけど、私とパーティを組まないかい?」

 涼は真面目な顔で俺に頼み込んだ。これは冗談ではなく、正真正銘本気らしい。

「俺で良いのか?C級だぞ?」

 間違いなく戦闘においては涼に遥かに劣っている。確かに大量殲滅という観点においては射程と命中精度のお陰で圧倒的だが、それ以外はからっきしだ。

「C級って言っているけれど十分に強いからね。今回の狩りでB級に上がれるくらいにステータスが上がったんじゃないかい?」

「確かにそうだが、涼はもっと強いだろう?」

 恐らくではあるが、涼はB級の中でも上位に位置している。あと少しでA級に昇格する寸前だと思う。

「まあね、でも君が良いんだ。君といれば自分で狩るよりも遥かに多くの素材を集めることが出来る。そして何よりもブーメランを私と違う道で極めていく様を一番近くで見てみたいからね」

 と心底楽しそうに語る涼。

「本当にブーメランが好きなんだな」

 ブーメランが大好きで、とことん追求したいからこそ自分よりも弱いはずの俺とパーティを組む。

「うん!」

「分かった、組もう」

 俺と涼は正式にパーティを組むことになった。
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