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19話

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「第4層はキャノンタートル。あの子達の大砲が良い金属なんだ」

 キャノンタートルと呼ばれたカメは、甲羅のてっぺんに巨大な筒を搭載していた。恐らくこれが大砲なのだろう。

「ちなみに、あの大砲が目だよ」

「そうなのか」

「本当だよ」

 まさかこれが目らしい。大砲の割にぐるぐる回しているなと思ったが周囲の警戒の為だったのか。

「弱点はどこなんだ?」

「大砲だね」

「まさかのそこなのか」

 自分の武器が弱点ってどんな欠陥生物だよ。

「まあ目だからね。潰されたらまともに動けないよ」

「そう言われれば納得だな」

 確かに視界は大事だ。目が無ければエイムは成立しない。見えているからこその攻撃だからな。

 いや、それでもおかしいか。まあモンスター自体科学に反しているから気にしたら負けか。

「素材を破壊しても良いのか?」

 素材はそのまま確保することに価値がありそうなもんだが。

「大丈夫。アレは金属として使いたいだけだから」

 そのまま使わないのなら大丈夫か。

「一応注意点だけど、キャノンタートルの攻撃は馬鹿みたいに高いから注意してね。当たったら即死だから」

 そんな重要なことをあっさり言うなよ……

 まあ射程外から当てることを意識すれば問題ないか。

「流石にこの距離だったら狙えないだろう」

 俺はカメから2㎞程離れた位置に立つ。

 一般的な大砲の射程を考えればこれでも心許ないが、これ以上離れようとすると今度はまた別のカメがそれより近くなってしまう。

 その間位に涼が居るので、ブーメランがきっかけで狙われることが無いような弧を描くように投げる。

 見事カメに命中したブーメランは、大砲を根元から破壊した。

「カメの割に防御力はそこまでみたいだな」

 ならばこの調子で雑に投げていけば大丈夫か。

 俺は倒したカメの次に近くに居た奴に狙いを定め、ブーメランを投げる。

 綺麗な放物線を描いたブーメランは、鈍足なカメを見事に捉えるかと思いきや、

 強烈な爆発音と共に打ち抜かれた。

「自動防衛機能付きか」

 ブーメランを打ち抜くときの砲台の動きは余りにも異常だった。

 それまでの5倍ほどの速さで回転させ、ブーメランに一瞬で照準を合わせていた。

 これでC級は詐欺なんじゃないか。高い命中率に馬鹿げた破壊力。一発でも食らったら死ぬだろこんなの。

「試しにもう一度投げてみるか」

 ブーメランを撃ち落としたカメに再度投げてみる。

 今回は撃ち落されることは無かった。

「クールタイムの問題か?連続では打てないってことで良いんだろうか」

 一度攻撃したら数分は打てないとかのリスクでもあるのだろうか。それならC級認定でもおかしくないのか?

 俺みたいな遠距離攻撃を専門としている奴以外は怖すぎるだろこんなの。

 しかし涼はそんなことはお構いなしにカメの元へ向かい、素材を回収している。

「とりあえず俺に攻撃は来なさそうだから雑に投げてみるか」

 ブーメランを何個か無駄にしてしまうのは痛いが、涼に金払って作ってもらえばいいか。

 それから1時間程、カメにブーメランをひたすらに投げ続けた。

 その結果分かったことだが、カメの迎撃が機能するのはカメの周囲500mに入る時の高度とスピードが一定値を超えていた場合のようだ。

 高度はカメの砲台をまっすぐに突き上げた場合の高さより上かどうか。大体3m前後が目安だ。スピードは時速160㎞以上。これをカメの周囲500m以内に入った瞬間に超えていれば迎撃が行われるらしい。

 どちらかを満たしていなければ狙われることが無いため、行きは下、帰りは上になるように軌道を描けば簡単に当てられる。

「これだったらC級でも納得だな」

 この階層での戦闘で3m近く飛び上がることは普通無い上に、そんな遠くの位置から高速で駆け寄る奴も皆無だろう。

 いくら強力でも人間がほぼ確実に標的にならないのなら武器が無いのと同義だ。

 結局序盤に5,6個程爆破されただけで、大した損害は無かった。

「いやあいい金属が確保できたよ。じゃあ最後に行こうか」

 どうやら涼は最初からこのダンジョンを完全攻略するまでやる予定だったらしい。

「分かった」

 俺たちはそのまま最終層である第五層へと向かった。

「じゃあやろっか!」

「ああ」

 ボス部屋に居たのはこれまで倒してきた4種と機械仕掛けの虎。

 どうやら『マーシナリータイガー』というらしい。

 いかにもボスらしく、象二体分くらいの大きさがあった。

 しかしその体の大きさに反して動きは俊敏だった。

 一瞬で距離を詰められ、攻撃を仕掛けられる。

 が、涼はその攻撃をたやすく受け止める。

「お返しだよ」

 反撃と言わんばかりに目に向けてブーメランを投げる。

 目を潰された虎は、大きく後退する。

 その代わりとして、残りの4種が俺たちの方へ詰め寄せてくる。

「死んでくれ」

 俺はマジックバッグから大量にブーメランを取り出し、一気に投げる。

 真っすぐに標的に向かい、弱点を綺麗に貫く。

 涼のせいで何度も何度も倒させられたので対応は容易だった。

 じゃあ虎の方も倒すかと視点を移すと、既に虎の四肢が全てもがれておりそのまま消滅した。

 一瞬しか見えなかったが、切断面は刃物で切られたようだった。

「そのブーメランでやったのか?」

「うん」

 しかし涼が使っていたものは俺が使っているものと同じ、切るよりも叩くことを重視した形状だった。

「どうやったらあんな切断面になるんだ?」

「投げる時に全力でスナップを効かせて高速回転させるんだよ。試しに見せてあげる」

 そう言って涼は壁に向かってブーメランを投げる。

 その動作は非常に軽いものに見えたが、放たれたブーメランは異常なレベルの回転をしていた。

「こういうこと」

「なるほど。俺には無理だな」

 ジョブ補正以外で力に一切振ってない俺はあの回転量は出せない。

「ん-そっか。簡単なんだけどなあ」

 涼はこれくらい普通だと言いたげな顔だが、アレはかなりパワーに振らないとできないだろ。

「それは置いといてだ。これで全部終わったんだろ?」

「うん!ありがとう!」

「ってことで配信を終わるぞ」

「オッケー。あ、視聴者の皆、私の商品が買いたくなったら概要欄にURLを貼ってあるからそこから買ってね。皆も私たちみたいにブーメランを極めるんだ!」

 涼による宣伝を済ませた後配信を終了させた俺たちは、既に夜だったので手続きをささっと済ませた後外で飯を食べることに。

「かんぱーい!!!」

「乾杯」

 今回は涼の提案で焼き肉を食べることに。めちゃくちゃ動いたから肉が食べたいとの事。

「いやあ周人君は私の見込んだ通りだったよ!」

「そうか?涼一人でも良かった気がするが」

 俺以上のスピードとパワーであれば走り続けながらモンスターを狩り続けるなんてことですら出来ただろう。

「そんなことないよ。私がやると半分くらい素材が使い物にならなくなっちゃうもん」

「ちゃんと狙えばいいだろうが」

「そんなの無理に決まってるでしょ!流石の私でも周人君みたいな芸当は出来ないよ。普通はざっくり当てるのが限界なの!」

「レベルが高いんだから命中も上がっているだろ?少しくらい当てやすくなってはいないのか?」

 最初から外すということをしたことが無いので分からないが、多少は効果があるだろ。命中ってわざわざ書いてあるくらいだし。

「変わんないよ。結構レベルも上がってるし、少しくらいは変わるかなって思っていたけど今まで通り。ブーメランの扱いに慣れたから上手く投げられるようになったねってだけ」

「じゃあ命中ってなんなんだ」

 別に何も無かったとしても上げ続けるのは間違いないが、何かあるのではないかと期待はある。

「それなんだけど、もしかしたら分かったことがあるかもしれない」

「何だ?」

「配信画面だとFPSとか画面サイズとか諸々の問題で分からないかもしれないんだけど、肉眼で見たら違和感があったんだ」
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