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5話

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「じゃあ出るか」

 俺たちは石板の中心を押し、ダンジョンから脱出した。

「ここは?」

 出た場所は入り口では無く、建物の中だった。

「ここは役所の出張所、五反田ダンジョン支店だね」

「お二人でダンジョンを攻略されたのですね、おめでどうございます。これから手続きを致しますのでこちらへ」

 リンネに説明を受けている最中に、近くに居た職員が声を掛けてきた。

 俺たちは指示通り受付に向かった。

「攻略データを記録いたしますので冒険者免許の提示をお願いいたします」

 リンネが何のためらいも無く免許を出したので俺もそれに倣って提出した。

「少々お待ちください」

 免許証を受け取った職員は手続きの為奥の部屋に入っていった。

「さっきの続きをしようか。ダンジョンを攻略するとあれと同じ石板が貰えるんだけど、アレを使うと入り口ではない特定の場所に出るんだ。ならその位置に重なるように出張所を建てればいいじゃんって話になってこうなった」

「別に入り口でも良かったんじゃないか?」

 ダンジョンを攻略する人より入る人の方が多いのは自明だ。そっちの方が都合よくないか。

「ダンジョンを攻略した証拠を作るためだね」

「証拠?」

「そう、証拠。一応国ではランクをダンジョン攻略数で規定しているんだけど、誰がどのダンジョンを攻略しましたってふつう分からないんだよ。ステータスとかにも表示されないし」

「でも出口に出張所を置いて、そこから出て来た人を直接観測したならそれはれっきとした証拠と言えるじゃん」

「確かに」

「だからこの世にある全ての攻略済みダンジョンの出口はこうやって出張所を置いているんだ」

 何ともアナログな方法だが、一番合理的な方法だった。

「お待たせしました。免許証をお返しします」

 説明が丁度終わったタイミングで、職員が戻ってきた。

「「ありがとうございます」」

「これでお二人はE級に昇格し、F級の上であるE級ダンジョンに挑めるようになりました。E級ダンジョンの所在につきましてはダンジョン省のホームページに記載しておりますので、必要であればご覧ください」

「「はい」」

「それではありがとうございました」

「「ありがとうございました」」

 俺たちは職員にお礼を言い、出張所から出た。

 その後俺たちは解散し、自宅に帰った。

 俺は帰るなり兎を調理し、完成品をSNSに乗せた後実際に食べてみた。

 ちょっと高い鶏肉の味で、非常に美味しかった。


 そういえば、レベルが上がっていないと二人で話をしていたが、普通に上がっていた。

 単に俺たちがステータスを確認してなかっただけらしい。

 玉森周人 レベル2
 ジョブ:狩人 レベル2
 力    20
 防御   10
 魔力   10/10
 魔力耐性 10
 俊敏   20
 器用   10
 命中   35
 ステータスポイント 10
 スキル
 投擲

『狩人』のレベルが上がった分、ステータスも若干向上していた。

「もしかしたらあの猫が一発だったのはそのお陰だったのかもな」

 そんなことを考えつつ、俺は迷わず命中に全部振り45まで上げた。

『狩人』のレベルが上がれば力も増大するのだ。いずれ速度問題は解決するだろう。

 一応SNSで命中に全振りしたことを伝えたら、そこそこ反響があった。

 ちなみにリンネは耐久と俊敏に特化することにしたらしい。リンネ曰く、銃しか使わないのであれば力ではなく防御でも変わりがないとの事。

 いずれ銃が持てなくなるかもしれないが、それはその時に考えると言っていた。


 次の日、俺は訓練の為一人でダンジョンに来ていた。場所は世田谷ダンジョン。この間入れるようになったE級ダンジョンだ。

 何故ここにしたかと言うと、五反田ダンジョンの強化版と呼ばれるのがここだからだ。生息するモンスターの種類や、階層数、環境は全く変わらないが、五反田ダンジョンと違い基本3体以上の群れで行動している。

 的が多い方が効率的な練習になるからな。危険性は多少増すが、そもそも至近距離に来るまでに当てられないわけがないからな。


 ダンジョンに入り、カメラを起動する。

「今回はメン限だ。別に何か話したりすることは基本ないから作業用BGMとして使ってくれ」

 俺はそう言い残し、カメラの事は完全に忘れる。今日は何も考えることなく、ブーメランの習熟だけに時間を費やす。

 早速兎を発見した。5匹で群れになって固まっている。3匹は頭が見えているが、2匹の頭は他の兎に隠れていて見えなかった。

 そうそう。このために俺はブーメランを選択したんだ。

「ふんっ」

 俺は5つのブーメランを順々に投げる。

 投げたタイミングはバラバラだが、曲がる角度を調整したため、ほぼ同時のタイミングで兎に直撃した。

「ここからが肝心だな」

 俺は戻ってくるブーメランをキャッチするために気合を入れる。

 まだ力のステータスが足りない以上、同時に5つをキャッチするのは不可能だ。

 しかし今回は同時ではなく、順々に戻ってくる。

 一個一個キャッチして地面に捨てれば成功なのだ。

 一個目、成功。すぐさま地面に捨てる。二個目、やや失敗。キャッチは出来なかったが地面に叩き落とすことは出来た。三個目、失敗。やや顔面よりの軌道だったため回避し難を逃れる。四個目、成功。右手でキャッチした。そしてそのまま五個目、成功。持っていたブーメランでガードし、勢いを失った所を左手でキャッチ。

「二個失敗か」

 前回は一度も成功しなかったことを考えると進歩ではあるが、半分ちょっとしか成功しないのは不安が残る。

 そもそも複数ブーメランを投げた後、両手に持てる分以外は地面に置かないといけない時点で大分不都合な気がする。

「全て手でキャッチしようと考える方が間違いかもしれないな」

 それであれば両手に持てる二個以外は地面に着地するように投げた方が無難ではある。

 とはいえ連続で攻撃するような状況を考えると、手で確実にキャッチは出来るようにならないとな。



 俺はそれから五時間程兎を見つけてはブーメランを投げ、キャッチの練習に励んだ。

 その中で感じたことだが、明らかに兎の数が五反田ダンジョンより多い。三匹以上の群れで行動していることもあるが、兎がいる感覚が圧倒的に狭い。

 五反田の方は半径1㎞に2集団いれば多い方だったが、この世田谷ダンジョンは半径1㎞の範囲に最低でも5集団は居る。

 ダンジョンの入り口付近は殆ど居なかったが、少し離れるとそれくらいの分布になった。

 また、あのダンジョンと違い人が一定数ダンジョンに潜っている。

 この間のダンジョンは東京という日本一の大都市に位置する初心者用ダンジョンのくせして客は0だったのに対し、こちらはこの階層だけでも7,8組程は居る。

 まあこの階層一つ一つは半径5㎞を優に超えるため、狩りに影響は無いのだが。

「これくらい投げられれば及第点って所か」

 流石に5時間も投げ続けたら取り扱いにも慣れるもので、普通のキャッチは完璧になった。

 その副産物として、ブーメランをカバンでキャッチするという技を身につけた。

 少し低空を意識して投げ、戻ってくる際に上から落ちてくる軌道にすることで、口を開けたカバンに自動的に入るようにするという非常に簡単なもの。

 若干曲芸じみた技ではあるが、俺にとっては大した難易度ではなかった。

 この位エイムが良いのであればそのまま収納してしまえば良いのでは?というコメントにより誕生した技だ。

 地面に落ちたブーメランの回収という最大の手間が無くなったことによりブーメランの取り回しが非常に良くなった。これであれば5匹どころか、10匹20匹、いやそれ以上の数を容易に相手取れるだろう。

「一応動く敵の方も練習しておくか」

 12時に配信を始めたため、時間としてはまだ17時だ。別に夜遅いわけでもないので追加で練習をすることに。

 兎は敵を発見しない限りその場から動かないからな。基礎練としての的としては理想的だが、実践となると犬のように自発的に動いてくれないとな。

 俺は練習の合間に見つけていた階段を降り、犬のいる階層へと向かった。

「良い感じに動いているな」

 降りて少し歩くと、3匹で移動している犬を発見した。

「とりあえず6つ程投げてみるか」

 3つだとまだ厳しいかもしれないが、6つあれば当たるだろ。

 6方向にそれぞれ弧線を描いたブーメランは、的確に犬の脳天目掛けて直進する。

 ブーメランの習熟度が高まったこともあり、犬は移動しているにもかかわらず3匹全てに命中させることに成功し、見事討伐出来た。

「軌道の工夫が必要だな」

 一応狙い通りと言えるのだが、まだまだ甘い。結果的に4つのブーメランが命中したのだが、外した二つが当たらなかったのは空中で衝突したからだ。一応当たらないように軌道をずらしてはいたのだが、標的は固まっているため最終的にブーメランは互いに肉薄するのだ。

 今回命中したのは縦に投げたものと横に投げたものだ。角度が垂直だったために一番当たりやすかったのだろう。

 複数投げる場合は平行に投げた方が安全かもしれないな。


 その後、2,3時間程投げ込みを続けた所でブーメランの耐久が怪しくなったため帰らざるを得なくなった。

 俺は適当に配信を終了し、ブーメランを買うためにこの間の店に向かった。
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