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第22話
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そのまま屋上に向かい、一人たたずんでいた。
自分のために嫌いな奴からの告白を受け取ったわけだが、嫌いな奴よりも人として終わっていた。
今度ちゃんと話す機会があれば、ちゃんと別れを切り出そう。これが誠意だ。
そんなことを考えていると、黒服の男が屋上に多数乗り込んできた。文化祭の間は屋上に人は来れないはずなのだが。
しかし胸についていた証で気が付いた。恐らく俺を捕まえに来たのだろう。
目が覚めると視界が真っ暗だった。目隠しをされていたのだ。しかし、周囲の音だけは聞こえる。聞こえるのはほんのわずかな音のみではあったが。
ここは文化祭会場ではないようだ。
「さて、何の真似かな?加賀美千佳」
俺はそのわずかな音の主に声をかけた。
「あら。気付いていらっしゃったのですか」
「俺の隠れ先を発見した上でこんな大掛かりな誘拐が出来るのはあの学校に一人しかいない」
この学校に金持ちはたくさんいるが、黒服を雇えるレベルの人間なんてこいつしかいないのだ。
「ご明察」
「何のためにこんなことをしたんだ?」
「あなたが良くお分かりではないのですか?」
言うまでもなく白雪姫のキスの話だ。
「あの時はごめん」
「あの瞬間は恋人として少し傷付けられました」
「それでわざわざこんなことを?」
「あれだけでこんなことをする程愚かではありません。あの程度であれば後々別の形でお詫びとして何かをしていただければ十分ですもの」
ならどういうことなんだ?こいつの意図が一切読めない。
「何故?という顔をしていますね。なら説明させていただきます」
「あなた。私と別れようとしていますよね?」
何故それを?そう決意した時から誰にも会っていないはずだ。
「図星だったようですね」
「突然心の中を覗かれたような顔をしていますね。理由を説明してあげましょう」
加賀美千佳はゆっくりと俺の元に近づき、目隠しを取った。
初めて視界が開け、見えたのは俺の写真が数多く張られている不気味な部屋だった。
「私を見る目がストーカーを見る目に変わっていますね。大体合っていますね。私はあなたと付き合う前にあなたの事を十分に調べております。あなたの出自や交友関係、果ては性格まで。あなたは実際に口に出すことは無いですが、人の好意には絶対に好意で返すこと。そして、たとえどんな相手でも好意を向けてくれた人であれば誠意を持った行動を取る確率が非常に高いということ」
「だから。女性であればどんな相手でも告白はしっかりと受けるし、誠意を持って付き合ってくれる」
「たとえ、あなたが世界一嫌っている私のような女でさえ」
最高に張り付けた笑顔を見せる加賀美千佳。その顔はとても綺麗なものだったが、本能的な恐怖を呼び起こされるものだった。
「それを分かっていて何故告白したんだ?」
ふり絞るように俺は声を出し、目の前の女に問うた。
「当然の疑問ですね。理由は簡単です。今まで生きてくる中で、好意や媚びの感情しか受けることが無かったのです。そんな中あなたに出会った。嫌いであることを上手に隠していたようですが、他の人と違いその二つの感情が一切無かった。だから私にはよく分かったのです。私はその新しい感情に興味を持つようになり、いつしかあなたに興味を持つようになったのです」
「そしてあなたについて調べていく中でただの興味が好意に変わっていったのです。だから私はあなたを手に入れようとした」
「理由はよく分かった。俺には理解できないが」
こいつの見た目とスペックの高さが原因で性格が歪んでしまったということか。
「というわけです。あなたにはまだ私と付き合ってもらいます」
「俺がお前の事を嫌っていると宣言してしまったのにか?」
「勿論。あなたが私を振る理由が一切解消されてしまったのですから。告白を受けといて最初から私の事が大嫌いだったからという勝手な理由で振ってしまうような身勝手な男ではないでしょう?」
「よく俺の事を分かっていやがる」
ちゃんと逃げ道を塞いできやがった。もし強引に別れたとしてもクラスの奴らを巧みに操って復縁でもさせるんだろうな。
「加賀美家を後に率いる女ですもの。付き合う男の全てを知り尽くしていて当然です」
「ははっ。とんだ茶番だったってわけだ」
最初からこいつの事を大切に扱ってやる必要なんてなかったのだ。
「茶番ですが、その茶番は強制です」
こいつは思っていたよりも悪質な女だ。
「お前のシナリオ通りに事が進むのは頂けねえが、少なくとも高校生の間は付き合ってやるよ」
別に高校生の間に彼女が必ずしも居るってわけじゃねえ。
「そうしていただけると幸いです」
俺と加賀美は、一旦学校に戻ることにした。
自分のために嫌いな奴からの告白を受け取ったわけだが、嫌いな奴よりも人として終わっていた。
今度ちゃんと話す機会があれば、ちゃんと別れを切り出そう。これが誠意だ。
そんなことを考えていると、黒服の男が屋上に多数乗り込んできた。文化祭の間は屋上に人は来れないはずなのだが。
しかし胸についていた証で気が付いた。恐らく俺を捕まえに来たのだろう。
目が覚めると視界が真っ暗だった。目隠しをされていたのだ。しかし、周囲の音だけは聞こえる。聞こえるのはほんのわずかな音のみではあったが。
ここは文化祭会場ではないようだ。
「さて、何の真似かな?加賀美千佳」
俺はそのわずかな音の主に声をかけた。
「あら。気付いていらっしゃったのですか」
「俺の隠れ先を発見した上でこんな大掛かりな誘拐が出来るのはあの学校に一人しかいない」
この学校に金持ちはたくさんいるが、黒服を雇えるレベルの人間なんてこいつしかいないのだ。
「ご明察」
「何のためにこんなことをしたんだ?」
「あなたが良くお分かりではないのですか?」
言うまでもなく白雪姫のキスの話だ。
「あの時はごめん」
「あの瞬間は恋人として少し傷付けられました」
「それでわざわざこんなことを?」
「あれだけでこんなことをする程愚かではありません。あの程度であれば後々別の形でお詫びとして何かをしていただければ十分ですもの」
ならどういうことなんだ?こいつの意図が一切読めない。
「何故?という顔をしていますね。なら説明させていただきます」
「あなた。私と別れようとしていますよね?」
何故それを?そう決意した時から誰にも会っていないはずだ。
「図星だったようですね」
「突然心の中を覗かれたような顔をしていますね。理由を説明してあげましょう」
加賀美千佳はゆっくりと俺の元に近づき、目隠しを取った。
初めて視界が開け、見えたのは俺の写真が数多く張られている不気味な部屋だった。
「私を見る目がストーカーを見る目に変わっていますね。大体合っていますね。私はあなたと付き合う前にあなたの事を十分に調べております。あなたの出自や交友関係、果ては性格まで。あなたは実際に口に出すことは無いですが、人の好意には絶対に好意で返すこと。そして、たとえどんな相手でも好意を向けてくれた人であれば誠意を持った行動を取る確率が非常に高いということ」
「だから。女性であればどんな相手でも告白はしっかりと受けるし、誠意を持って付き合ってくれる」
「たとえ、あなたが世界一嫌っている私のような女でさえ」
最高に張り付けた笑顔を見せる加賀美千佳。その顔はとても綺麗なものだったが、本能的な恐怖を呼び起こされるものだった。
「それを分かっていて何故告白したんだ?」
ふり絞るように俺は声を出し、目の前の女に問うた。
「当然の疑問ですね。理由は簡単です。今まで生きてくる中で、好意や媚びの感情しか受けることが無かったのです。そんな中あなたに出会った。嫌いであることを上手に隠していたようですが、他の人と違いその二つの感情が一切無かった。だから私にはよく分かったのです。私はその新しい感情に興味を持つようになり、いつしかあなたに興味を持つようになったのです」
「そしてあなたについて調べていく中でただの興味が好意に変わっていったのです。だから私はあなたを手に入れようとした」
「理由はよく分かった。俺には理解できないが」
こいつの見た目とスペックの高さが原因で性格が歪んでしまったということか。
「というわけです。あなたにはまだ私と付き合ってもらいます」
「俺がお前の事を嫌っていると宣言してしまったのにか?」
「勿論。あなたが私を振る理由が一切解消されてしまったのですから。告白を受けといて最初から私の事が大嫌いだったからという勝手な理由で振ってしまうような身勝手な男ではないでしょう?」
「よく俺の事を分かっていやがる」
ちゃんと逃げ道を塞いできやがった。もし強引に別れたとしてもクラスの奴らを巧みに操って復縁でもさせるんだろうな。
「加賀美家を後に率いる女ですもの。付き合う男の全てを知り尽くしていて当然です」
「ははっ。とんだ茶番だったってわけだ」
最初からこいつの事を大切に扱ってやる必要なんてなかったのだ。
「茶番ですが、その茶番は強制です」
こいつは思っていたよりも悪質な女だ。
「お前のシナリオ通りに事が進むのは頂けねえが、少なくとも高校生の間は付き合ってやるよ」
別に高校生の間に彼女が必ずしも居るってわけじゃねえ。
「そうしていただけると幸いです」
俺と加賀美は、一旦学校に戻ることにした。
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