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第17話

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「これは不味い奴なんじゃないか?」

 俺が聞くと、

「うーん、どうだろう。千佳ちゃんの家って別に悪いことしなくてもお金は十分にあるし、SPとかも雇ってるらしいから大丈夫だとは思うんだけど……」

 環さんが答える。まああれだけ稼いでりゃあ別に悪事で稼ぐ必要もないか。あの企業の社長ってことは世界でも有数の大富豪だろうしな。

 悪い考えは捨てて、ならばどうしてこんな所にと考える。

「ならどうしてこんな山奥に来る必要があるんだ?しかも特殊な設備も見たところ無さそうだが」

 悠理の言う通り、ここはただの山奥。正直夏に行った加賀美家別荘の方が色々揃っていそうなものだ。

 それに、物資という観点から見てもここは明らかに不便だ。一体何が行われているというのか。

 俺たちは追跡されていないことを確認して、木が生い茂っている方からゆっくりゆっくりと近づいていた。

 そして、建物の中が見える地点まで来ることが出来た。

 建物の扉は解放されており、中の様子は丸見えだった。

 そこであいつは何をしているのかというと、黒服の奴らとタブレット端末を見せ合い何かを話し合っていた。

「あの人たちと何をやっているんだ……?」

 連日の追跡失敗によりさっさと突き止めてやりたいという欲が高まっていた俺は不用心にも声が聞こえる位置にまで移動しようと目論んだ。

 しかしそれが俺の大きな失敗だった。

 何者かによって背後から襲撃され、意識を失った。

 あれからどれほどの時間が経ったのかは分からない。目が覚めると、真っ白な密室に居た。

 しかし、俺は何かしらの拘束がされているわけではない。

 ひとまず目の前の扉に手をかける。

 鍵はかかっていなかった。他に脱出する経路が無いか確認した上で、俺はこの扉を開いた。すると、

「「「ハッピーバースデー!!!!」」」

 その声と共に破裂音、つまりクラッカーが鳴り響く。

 この一連の事件は最初から3人によって仕組まれた出来事だったようだ。

「3人とも何してるんだよ……」

「加賀美が誕生日を盛大に祝いたいってことでな。どうやるかって話で盛り上がった結果こうなった」

「主に悠理君の発案だね!」

「たまにはこいつが驚く姿を見たいと思ってな」

 確かに驚いたわ。しかしわざわざこんな大規模なことする必要もないだろ。

「都合よく物騒に見える物件を父が所有してまして。悠理さんと話し合う中で次第に過激な方へとシフトしていましたね」

 どことなく他人感を出した話し方をする加賀美千佳。ただ、確実に実行犯はこいつなので3人の中でも一番たちが悪い奴だということはよく分かる。思わず大きなため息をついてしまった。

「まあまあ。早くパーティしようよ」

 小野田さんがそう言ったことで、犯人に対する尋問のタイムは終了し、普通の誕生日パーティとなった。

 俺が気を失っている間に準備をしてくれていたようで、何もなかったはずの倉庫の一角が見事なパーティ会場となっていた。先程の会話はおそらくこの準備のためだったのだろう。

 早速ケーキが登場した。金持ちだからこその超巨大ケーキ!というわけでもなく、4人がこの場で食べきれる量だった。俺は3人の歌と共に刺さったろうそくの火を消し、加賀美千佳が4人分に綺麗に切り分けた。

「これ美味しいね」

 小さいものの、金がかかっていないということは当然無く、かなり高級なものだと思われる。ショートケーキに使用されているイチゴはかなり大粒なもので、かつ味を一切損なっていない。非常に食べ応えがあって満足感の高いものであった。それが使用されているということは、という予想であるが。といっても加賀美千佳の良いケーキを食べさせたいという気持ちというよりは、元々この程度の物を普通だと考えていそうだ。

「じゃあ誕生日プレゼントを渡しちゃいましょう」

 各々が誕生日のプレゼントを持ってきた。

「まずは私から!どうぞ」

 小野田さんから渡された物はデフォルメされた虎のキーホルダー。

 男の俺にも普通に可愛いものを選んでくるあたり小野田さんらしい。

「どう?可愛いでしょ!」

「うん。可愛い。今度カバンにつけさせてもらうね」

 そしてその次。

「ほらよ。誕生日プレゼントだ」

 悠理から貰ったのはちょっといい感じのボールペン。

 無駄に装飾が凝っているというわけでもなく、あくまで機能のために洗練されたデザインだ。

「ありがとうな。悠理」

「おうよ。使ったときの感想でも今度教えてくれ」

 こいつ絶対これが目的だな。

 そして最後が加賀美千佳。

「はい、どうぞ」

 渡された箱を開けると、入っていたのは羽がモチーフとなったシンプルなネックレスだった。

 ——流石加賀美千佳だな。俺の好みをよく理解している。本当に俺の事をどこまで調べ上げたんだか。私服で出歩くときは大抵ネックレスを着けていたからな。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 一応制服だったため再度箱に直した。流石に制服にネックレスは合わない。今度こいつらと遊びに行くときにでも着けていくことにしよう。

 その後仲良く談笑したのちに、俺たちはそれぞれの乗り物で解散した。
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