ヤンデレ彼女は蘇生持ち

僧侶A

文字の大きさ
上 下
13 / 17

12話

しおりを挟む
「ちょっと待ってちょっと待って」

 俺は、そのまま抱き着いてきた椿さんをどうにか引き離すことに成功した。

 肝心の鶫さんの方を見ると、どうやら大丈夫のようだ。

「椿さん、何の用?」

 鶫は椿さんに対して少し刺々しい口調で聞いた。

「勿論、こうして涼真様にお礼を述べるためですわ」

「抱き着いておいてお礼?誘惑の間違いじゃないの?」

 恐らく椿さんは本当にお礼を言いに来ただけだとは思うのだけれど、事情を一切知らないこの鶫さんは、そうは思えないだろう。

「というわけで今回のテストは非常に助かりました。本当にありがとうございます」

 あ、言っちゃうんだこの人。名誉の為に隠すんじゃありませんでしたっけ。

「どういうこと?」

 鶫さんは何のことか分からないご様子で、首をかしげている。

「実はですね、今回のテスト期間中一緒に勉強をしていたのです」

「は?」

 鶫さんからオーラが漏れ出ている。明らかに怒っています。もうここまで言ったなら全て話しても良いよね。

 昨日の感じでアレってことは、今回もっとやばい奴が来るよ絶対。それこそアイアンメイデンとか、爪剥ぎの拷問とかもう有名なあれこれが。

 何回か鶫の家に行ったけれども、一度も開くことの無かったあのクローゼットから飛び出してくるよ絶対。

「鶫さん、実は」

「いやあ本当に充実した日々でしたよ。それはもう彼氏彼女のような。いや、本当に付き合っていましたね」

「そんなことは無いよ馬鹿」

 俺の言葉を遮った上でなんてこと言ってるんだこの女。その軽い言葉で俺の命が吹き飛ぶんだぞ。

 レディーは丁重に扱え?知ったことか。死を前にしたら女だろうが子供だろうが平等なんだよ。

「忘れてしまったのですか……!あの情熱的な日々を!」

 これ以上のさばらせておくと碌でもない運命が待ち受けていることが確実なので、口を手で塞いで俺だけで話すことにした。

「単に、椿さんがこのままだと数学で赤点取りそうだったから手助けをしてあげただけだよ」

 最早名誉とかどうでもいいので、この人の数学の出来についてもちゃんと説明した。

「それなら私達も手伝ったのに」

 なんだかんだ優しい鶫様は、目の前に居るのが恋のライバルだったとしても救いの手を差し伸べてくれるらしい。

「綺羅女から来たというのも相まって、その話をするのが恥ずかしかったんじゃないの」

 正直、高校生にしてあのレベルは悲惨だった。

「ま、それなら仕方ないか」

 事情を聞いた鶫は、あっさりと許してくれた。最初からこれが出来ていればなあ……

「そういえば、どうして久世君に聞かなかったんだろう」

「確かに。まあ何かあるんじゃないの」

 あの二人がかなり仲の良い関係であることは分かっているけれど、具体的な話は全く聞かないんだよな。

 ただの幼馴染だとは思うけれど、それ以外に何かありそうな。そんな気がする。




「二人とも、椿乃絵って知ってる?」

 そういえば聞いていなかったなと思い、その日の夜に瀬名と鏡花に話を聞いてみた。

 俺の事を昔から知っているのだとしたら二人が知っていてもおかしくは無い。

「誰それ」

「聞いたことない」

 二人とも知らなかった。やっぱり俺とは一切関係ないよなあ。

 翔の幼馴染だから別に信頼できない相手では無いんだけれど、得体のしれない相手ではあるんだよな。

 そもそも翔自体何考えているのか分からないし。

 もしかすると翔の差し金だったりして。まあ無いだろうけど。

「その椿さんってどんな人?」

「綺羅女から来た綺麗な人だよ」

「あの綺羅女?」

 瀬名がした質問の答えに対して、鏡花が驚いていた。そりゃあ驚くよなあ。

「そうだよ」

「そんなお嬢様がどうしたの?」

「ウチの学校に転校してきて、俺と昔会ったことがあるって言われたんだ」

「昔会った女の人の事を忘れるなんて……」

 鏡花が軽蔑するような視線を送ってきた。そう言われても分からないもんは仕方ねえだろ。

「そもそも俺と会ったことがあるのかどうか怪しいんだよな」

 俺と会ったことは何度も話してくれるが、どこで会ったか、いつ出会ったのかといった細かい情報については一切話してくれないのだ。

「ま、いずれ思い出すんじゃない?」

 と楽観的な瀬名。普通ならそうするんだけれどな……

 ああも好意を向けられていたら急いで思い出さなければいけないんだけれど。

「そういえば、お兄ちゃんの小学校の時の同級生に綺羅女に行った人っていなかったっけ」

 瀬名が思い出したかのように話す。

「そういえばいたな」

 花京院美里という女の子。一学年に二クラスしかなかったので結構な回数同じクラスになっていたけれど、話したことは殆ど無いんだよな。

 どちらかというと大人しめな印象を受ける子で、本を読んでいる姿が印象的だったことを覚えている。

「その人に聞いてみたら?」

 と瀬名は言う。

「連絡先持っていないんだよね」

 しかし、残念ながら連絡先を持っていない。携帯電話を持ち出したのが中学卒業寸前だったので、小学校の時点でどっか行った人については連絡手段が無いのだ。

「ならどうしようもない」

 鏡花の言う通り、為す術は無いようだ。

 本格的に夏休みに入り、何しようかと考えていたところ、鶫から連絡が来た。家に来て欲しいとのこと。2時くらいに来てと言われていたので、それまでに家事を済ませておこうかと考えていると、

『涼真、景湖公園に今から来てくれ』

 とだけ翔から連絡が来た。それだけしか書いておらず、何の用か分からなかったが、今は10時で時間にも余裕があったので向かうことにした。

 景湖公園に着くと、既に翔は到着していたようで、ベンチに座って待っていた。

「よお翔。こんな朝っぱらに突然何の用だ」

「ちょっと話したいことがあってね」

 どうせしょうもない事件でも押し付けてくるんだろうと高を括っていたが、割と真剣な話のようだ。

 これは時間がかかりそうだと翔の隣に座る。

「なんだ?」

「乃絵の事だよ」

「椿さんが何かあったのか?」

「別に何かあったのかってわけじゃないよ。そうじゃなくて、椿さんの事をどう思っているかなって」

 翔からそんな質問をされるとは思っていなかったが、椿さんか。

「良い女性ではあると思うよ。押しが強いのと恋人の略奪に躊躇が無いのが問題だけれど」

 付き合っていると公言しているのにアプローチし続けられているので、正直困る。他の人は何故か盛り上がっているから止めに来ないし、鶫は怒るし。

「とりあえず、付き合う気は一切無いんだよね」

「そりゃあ当然」

 じゃなきゃ死ぬとか以前に、鶫が一番好きだしな。

「なら良いんだけど。これは僕からのお願い。椿さんとは絶対に付き合わないでね」

 椿さんと付き合うな?翔らしくないな。普通なら面白いから観測に徹しているはずなんだけれど。

「そんなことは分かっているよ」

 まあ何ら影響は無いので問題は無いか。

「涼真様~!」

 その帰り道、偶然なのかは分からないが、椿さんにばったり遭遇した。

 先程の出来事に関係なく椿さんは僕にアプローチを仕掛けてくる。

「そういうのはやめて欲しいな」

 その勢いのまま抱き着こうとしてきたので肩を抑えて止める。

「別に良いじゃないですか。嫌ではないでしょう?」

 確かに美人に抱き着かれることは嬉しいけれど、今後の心労を考えると嫌だ。

 鶫なら女の匂いを嗅ぎ分けてきそうだし、そもそも裏切る真似はしたくない。

「嫌だよ」

 だからスパッと言い切ることにした。

「あら、そうですか」

 椿さんは意外にもあっさりと引き下がった。珍しいけれど、それよりも何か冷たい反応だったことが気になる。

 翔が言っていたことに何か関係があるのだろうか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

毎月一本投稿で、9ヶ月累計30000pt収益について

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
9ヶ月で毎月一本の投稿にて累計ポイントが30000pt突破した作品が出来ました! ぜひより多くの方に読んでいただけた事についてお話しできたらと思います!

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

平凡な高校生活を送る予定だったのに

空里
恋愛
高校生になり数ヵ月。一学期ももうそろそろ終わりを告げる頃。 僕、田中僚太はクラスのマドンナとも言われ始めている立花凛花に呼び出された。クラスのマドンナといわれるだけあって彼女の顔は誰が見ても美人であり加えて勉強、スポーツができ更には性格も良いと話題である。 それに対して僕はクラス屈指の陰キャポジである。 人見知りなのもあるが、何より通っていた中学校から遠い高校に来たため、たまたま同じ高校に来た一人の中学時代の友達しかいない。 そのため休み時間はその友人と話すか読書をして過ごすかという正に陰キャであった。 そんな僕にクラスのマドンナはというと、 「私と付き合ってくれませんか?」 この言葉から彼の平凡に終わると思われていた高校生活が平凡と言えなくなる。

処理中です...