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12話
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「ちょっと待ってちょっと待って」
俺は、そのまま抱き着いてきた椿さんをどうにか引き離すことに成功した。
肝心の鶫さんの方を見ると、どうやら大丈夫のようだ。
「椿さん、何の用?」
鶫は椿さんに対して少し刺々しい口調で聞いた。
「勿論、こうして涼真様にお礼を述べるためですわ」
「抱き着いておいてお礼?誘惑の間違いじゃないの?」
恐らく椿さんは本当にお礼を言いに来ただけだとは思うのだけれど、事情を一切知らないこの鶫さんは、そうは思えないだろう。
「というわけで今回のテストは非常に助かりました。本当にありがとうございます」
あ、言っちゃうんだこの人。名誉の為に隠すんじゃありませんでしたっけ。
「どういうこと?」
鶫さんは何のことか分からないご様子で、首をかしげている。
「実はですね、今回のテスト期間中一緒に勉強をしていたのです」
「は?」
鶫さんからオーラが漏れ出ている。明らかに怒っています。もうここまで言ったなら全て話しても良いよね。
昨日の感じでアレってことは、今回もっとやばい奴が来るよ絶対。それこそアイアンメイデンとか、爪剥ぎの拷問とかもう有名なあれこれが。
何回か鶫の家に行ったけれども、一度も開くことの無かったあのクローゼットから飛び出してくるよ絶対。
「鶫さん、実は」
「いやあ本当に充実した日々でしたよ。それはもう彼氏彼女のような。いや、本当に付き合っていましたね」
「そんなことは無いよ馬鹿」
俺の言葉を遮った上でなんてこと言ってるんだこの女。その軽い言葉で俺の命が吹き飛ぶんだぞ。
レディーは丁重に扱え?知ったことか。死を前にしたら女だろうが子供だろうが平等なんだよ。
「忘れてしまったのですか……!あの情熱的な日々を!」
これ以上のさばらせておくと碌でもない運命が待ち受けていることが確実なので、口を手で塞いで俺だけで話すことにした。
「単に、椿さんがこのままだと数学で赤点取りそうだったから手助けをしてあげただけだよ」
最早名誉とかどうでもいいので、この人の数学の出来についてもちゃんと説明した。
「それなら私達も手伝ったのに」
なんだかんだ優しい鶫様は、目の前に居るのが恋のライバルだったとしても救いの手を差し伸べてくれるらしい。
「綺羅女から来たというのも相まって、その話をするのが恥ずかしかったんじゃないの」
正直、高校生にしてあのレベルは悲惨だった。
「ま、それなら仕方ないか」
事情を聞いた鶫は、あっさりと許してくれた。最初からこれが出来ていればなあ……
「そういえば、どうして久世君に聞かなかったんだろう」
「確かに。まあ何かあるんじゃないの」
あの二人がかなり仲の良い関係であることは分かっているけれど、具体的な話は全く聞かないんだよな。
ただの幼馴染だとは思うけれど、それ以外に何かありそうな。そんな気がする。
「二人とも、椿乃絵って知ってる?」
そういえば聞いていなかったなと思い、その日の夜に瀬名と鏡花に話を聞いてみた。
俺の事を昔から知っているのだとしたら二人が知っていてもおかしくは無い。
「誰それ」
「聞いたことない」
二人とも知らなかった。やっぱり俺とは一切関係ないよなあ。
翔の幼馴染だから別に信頼できない相手では無いんだけれど、得体のしれない相手ではあるんだよな。
そもそも翔自体何考えているのか分からないし。
もしかすると翔の差し金だったりして。まあ無いだろうけど。
「その椿さんってどんな人?」
「綺羅女から来た綺麗な人だよ」
「あの綺羅女?」
瀬名がした質問の答えに対して、鏡花が驚いていた。そりゃあ驚くよなあ。
「そうだよ」
「そんなお嬢様がどうしたの?」
「ウチの学校に転校してきて、俺と昔会ったことがあるって言われたんだ」
「昔会った女の人の事を忘れるなんて……」
鏡花が軽蔑するような視線を送ってきた。そう言われても分からないもんは仕方ねえだろ。
「そもそも俺と会ったことがあるのかどうか怪しいんだよな」
俺と会ったことは何度も話してくれるが、どこで会ったか、いつ出会ったのかといった細かい情報については一切話してくれないのだ。
「ま、いずれ思い出すんじゃない?」
と楽観的な瀬名。普通ならそうするんだけれどな……
ああも好意を向けられていたら急いで思い出さなければいけないんだけれど。
「そういえば、お兄ちゃんの小学校の時の同級生に綺羅女に行った人っていなかったっけ」
瀬名が思い出したかのように話す。
「そういえばいたな」
花京院美里という女の子。一学年に二クラスしかなかったので結構な回数同じクラスになっていたけれど、話したことは殆ど無いんだよな。
どちらかというと大人しめな印象を受ける子で、本を読んでいる姿が印象的だったことを覚えている。
「その人に聞いてみたら?」
と瀬名は言う。
「連絡先持っていないんだよね」
しかし、残念ながら連絡先を持っていない。携帯電話を持ち出したのが中学卒業寸前だったので、小学校の時点でどっか行った人については連絡手段が無いのだ。
「ならどうしようもない」
鏡花の言う通り、為す術は無いようだ。
本格的に夏休みに入り、何しようかと考えていたところ、鶫から連絡が来た。家に来て欲しいとのこと。2時くらいに来てと言われていたので、それまでに家事を済ませておこうかと考えていると、
『涼真、景湖公園に今から来てくれ』
とだけ翔から連絡が来た。それだけしか書いておらず、何の用か分からなかったが、今は10時で時間にも余裕があったので向かうことにした。
景湖公園に着くと、既に翔は到着していたようで、ベンチに座って待っていた。
「よお翔。こんな朝っぱらに突然何の用だ」
「ちょっと話したいことがあってね」
どうせしょうもない事件でも押し付けてくるんだろうと高を括っていたが、割と真剣な話のようだ。
これは時間がかかりそうだと翔の隣に座る。
「なんだ?」
「乃絵の事だよ」
「椿さんが何かあったのか?」
「別に何かあったのかってわけじゃないよ。そうじゃなくて、椿さんの事をどう思っているかなって」
翔からそんな質問をされるとは思っていなかったが、椿さんか。
「良い女性ではあると思うよ。押しが強いのと恋人の略奪に躊躇が無いのが問題だけれど」
付き合っていると公言しているのにアプローチし続けられているので、正直困る。他の人は何故か盛り上がっているから止めに来ないし、鶫は怒るし。
「とりあえず、付き合う気は一切無いんだよね」
「そりゃあ当然」
じゃなきゃ死ぬとか以前に、鶫が一番好きだしな。
「なら良いんだけど。これは僕からのお願い。椿さんとは絶対に付き合わないでね」
椿さんと付き合うな?翔らしくないな。普通なら面白いから観測に徹しているはずなんだけれど。
「そんなことは分かっているよ」
まあ何ら影響は無いので問題は無いか。
「涼真様~!」
その帰り道、偶然なのかは分からないが、椿さんにばったり遭遇した。
先程の出来事に関係なく椿さんは僕にアプローチを仕掛けてくる。
「そういうのはやめて欲しいな」
その勢いのまま抱き着こうとしてきたので肩を抑えて止める。
「別に良いじゃないですか。嫌ではないでしょう?」
確かに美人に抱き着かれることは嬉しいけれど、今後の心労を考えると嫌だ。
鶫なら女の匂いを嗅ぎ分けてきそうだし、そもそも裏切る真似はしたくない。
「嫌だよ」
だからスパッと言い切ることにした。
「あら、そうですか」
椿さんは意外にもあっさりと引き下がった。珍しいけれど、それよりも何か冷たい反応だったことが気になる。
翔が言っていたことに何か関係があるのだろうか。
俺は、そのまま抱き着いてきた椿さんをどうにか引き離すことに成功した。
肝心の鶫さんの方を見ると、どうやら大丈夫のようだ。
「椿さん、何の用?」
鶫は椿さんに対して少し刺々しい口調で聞いた。
「勿論、こうして涼真様にお礼を述べるためですわ」
「抱き着いておいてお礼?誘惑の間違いじゃないの?」
恐らく椿さんは本当にお礼を言いに来ただけだとは思うのだけれど、事情を一切知らないこの鶫さんは、そうは思えないだろう。
「というわけで今回のテストは非常に助かりました。本当にありがとうございます」
あ、言っちゃうんだこの人。名誉の為に隠すんじゃありませんでしたっけ。
「どういうこと?」
鶫さんは何のことか分からないご様子で、首をかしげている。
「実はですね、今回のテスト期間中一緒に勉強をしていたのです」
「は?」
鶫さんからオーラが漏れ出ている。明らかに怒っています。もうここまで言ったなら全て話しても良いよね。
昨日の感じでアレってことは、今回もっとやばい奴が来るよ絶対。それこそアイアンメイデンとか、爪剥ぎの拷問とかもう有名なあれこれが。
何回か鶫の家に行ったけれども、一度も開くことの無かったあのクローゼットから飛び出してくるよ絶対。
「鶫さん、実は」
「いやあ本当に充実した日々でしたよ。それはもう彼氏彼女のような。いや、本当に付き合っていましたね」
「そんなことは無いよ馬鹿」
俺の言葉を遮った上でなんてこと言ってるんだこの女。その軽い言葉で俺の命が吹き飛ぶんだぞ。
レディーは丁重に扱え?知ったことか。死を前にしたら女だろうが子供だろうが平等なんだよ。
「忘れてしまったのですか……!あの情熱的な日々を!」
これ以上のさばらせておくと碌でもない運命が待ち受けていることが確実なので、口を手で塞いで俺だけで話すことにした。
「単に、椿さんがこのままだと数学で赤点取りそうだったから手助けをしてあげただけだよ」
最早名誉とかどうでもいいので、この人の数学の出来についてもちゃんと説明した。
「それなら私達も手伝ったのに」
なんだかんだ優しい鶫様は、目の前に居るのが恋のライバルだったとしても救いの手を差し伸べてくれるらしい。
「綺羅女から来たというのも相まって、その話をするのが恥ずかしかったんじゃないの」
正直、高校生にしてあのレベルは悲惨だった。
「ま、それなら仕方ないか」
事情を聞いた鶫は、あっさりと許してくれた。最初からこれが出来ていればなあ……
「そういえば、どうして久世君に聞かなかったんだろう」
「確かに。まあ何かあるんじゃないの」
あの二人がかなり仲の良い関係であることは分かっているけれど、具体的な話は全く聞かないんだよな。
ただの幼馴染だとは思うけれど、それ以外に何かありそうな。そんな気がする。
「二人とも、椿乃絵って知ってる?」
そういえば聞いていなかったなと思い、その日の夜に瀬名と鏡花に話を聞いてみた。
俺の事を昔から知っているのだとしたら二人が知っていてもおかしくは無い。
「誰それ」
「聞いたことない」
二人とも知らなかった。やっぱり俺とは一切関係ないよなあ。
翔の幼馴染だから別に信頼できない相手では無いんだけれど、得体のしれない相手ではあるんだよな。
そもそも翔自体何考えているのか分からないし。
もしかすると翔の差し金だったりして。まあ無いだろうけど。
「その椿さんってどんな人?」
「綺羅女から来た綺麗な人だよ」
「あの綺羅女?」
瀬名がした質問の答えに対して、鏡花が驚いていた。そりゃあ驚くよなあ。
「そうだよ」
「そんなお嬢様がどうしたの?」
「ウチの学校に転校してきて、俺と昔会ったことがあるって言われたんだ」
「昔会った女の人の事を忘れるなんて……」
鏡花が軽蔑するような視線を送ってきた。そう言われても分からないもんは仕方ねえだろ。
「そもそも俺と会ったことがあるのかどうか怪しいんだよな」
俺と会ったことは何度も話してくれるが、どこで会ったか、いつ出会ったのかといった細かい情報については一切話してくれないのだ。
「ま、いずれ思い出すんじゃない?」
と楽観的な瀬名。普通ならそうするんだけれどな……
ああも好意を向けられていたら急いで思い出さなければいけないんだけれど。
「そういえば、お兄ちゃんの小学校の時の同級生に綺羅女に行った人っていなかったっけ」
瀬名が思い出したかのように話す。
「そういえばいたな」
花京院美里という女の子。一学年に二クラスしかなかったので結構な回数同じクラスになっていたけれど、話したことは殆ど無いんだよな。
どちらかというと大人しめな印象を受ける子で、本を読んでいる姿が印象的だったことを覚えている。
「その人に聞いてみたら?」
と瀬名は言う。
「連絡先持っていないんだよね」
しかし、残念ながら連絡先を持っていない。携帯電話を持ち出したのが中学卒業寸前だったので、小学校の時点でどっか行った人については連絡手段が無いのだ。
「ならどうしようもない」
鏡花の言う通り、為す術は無いようだ。
本格的に夏休みに入り、何しようかと考えていたところ、鶫から連絡が来た。家に来て欲しいとのこと。2時くらいに来てと言われていたので、それまでに家事を済ませておこうかと考えていると、
『涼真、景湖公園に今から来てくれ』
とだけ翔から連絡が来た。それだけしか書いておらず、何の用か分からなかったが、今は10時で時間にも余裕があったので向かうことにした。
景湖公園に着くと、既に翔は到着していたようで、ベンチに座って待っていた。
「よお翔。こんな朝っぱらに突然何の用だ」
「ちょっと話したいことがあってね」
どうせしょうもない事件でも押し付けてくるんだろうと高を括っていたが、割と真剣な話のようだ。
これは時間がかかりそうだと翔の隣に座る。
「なんだ?」
「乃絵の事だよ」
「椿さんが何かあったのか?」
「別に何かあったのかってわけじゃないよ。そうじゃなくて、椿さんの事をどう思っているかなって」
翔からそんな質問をされるとは思っていなかったが、椿さんか。
「良い女性ではあると思うよ。押しが強いのと恋人の略奪に躊躇が無いのが問題だけれど」
付き合っていると公言しているのにアプローチし続けられているので、正直困る。他の人は何故か盛り上がっているから止めに来ないし、鶫は怒るし。
「とりあえず、付き合う気は一切無いんだよね」
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「なら良いんだけど。これは僕からのお願い。椿さんとは絶対に付き合わないでね」
椿さんと付き合うな?翔らしくないな。普通なら面白いから観測に徹しているはずなんだけれど。
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その勢いのまま抱き着こうとしてきたので肩を抑えて止める。
「別に良いじゃないですか。嫌ではないでしょう?」
確かに美人に抱き着かれることは嬉しいけれど、今後の心労を考えると嫌だ。
鶫なら女の匂いを嗅ぎ分けてきそうだし、そもそも裏切る真似はしたくない。
「嫌だよ」
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