ヤンデレ彼女は蘇生持ち

僧侶A

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8話

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「どうだった?」

 その後、一旦落ち着くために男子トイレに逃げ込もうとしたが、廊下で背後から委員長に話しかけられた。

「先トイレ行っても良い?」

「嘘でしょ?鶫ちゃんから逃げただけだよね?」

 完全にバレていた。とは言っても世の男子諸君も同じような状況に置かれたら同じような行動をするとは思うので心を読まれたというほどでもないけれど。

「犯人が何の用ですかね?」

「私は委員長として正しい選択をしただけだよ?」

 一応正論ではあるので文句を言い返す気にもならなかった。

「……正直に言えばただただ精神的にしんどかったよ」

「別に浮気相手でも何でもないのに修羅場みたいだったね。見てて面白かった」

 こいつ尾行していたのか……

「見ていたなら助けてよ」

「嫌だよ面白いし」

 最早救いようがないらしい。

「ところでなんだけど、本当に椿さんと知り合いじゃないの?」

「全く知らない。別に鶫がいる建前で意図的に嘘をついたとかじゃないよ」

「うーん……じゃあ久世君の知り合いかなあ。いつもの久世君らしくなかったし」

「いつもなら嬉々として厄介な方向に持って行くよなあ」

 どちらかと言えばただ椿さんに肩入れしているように見えた。
「もしかして何か弱みでもあるのかな?」

 委員長が満面の笑みでそう言った。絶対に悪いことを考えてらっしゃる。

「かもしれないね」

「じゃあ探ってみよう!たまには翔君がピンチに陥っている姿が見たい!」

 ということでこっそりと委員長と共同戦線を張ることになった。

 俺は自分の命の為、委員長は翔の弱みを握るために。

 午前中にある程度ミーハー組の接触は収まってきたようで、人だかりが出来て身動きが取れないという状況には収まりを見せていた。

「涼真さま、趣味は何ですか?」

「えーっと……ゲームとか運動とかかな」

「そうなんですか!じゃあ今度一緒にやりませんか?」

 ということで何が起こるか。

「えっと……そうだね、今度ね」

 椿さんによる猛烈なアピールである。

「嬉しいです!絶対ですからね!」

 椿が居なければあっさりと篭絡されてしまいそうな勢いに気圧されながらも、やるべきことを果たそうとした。

「本当に椿さんとは昔会ったことがあるんだよね」

「ええ、そうですわ。本当に覚えていないんですか?」

「申し訳ないけれど、椿さんみたいな女の子と出会ったことは無いかな」

「覚えていらっしゃらないのですね……あの甘く幸せな日々を……」

「それってどのくらいの時の話?小学生くらい?」

 流石に中学時代なら覚えているはずだから、それよりも前だろう。

「それは、自分自身で思い出してくださいね」

 なんかいいように誤魔化されてしまった。

 委員長、俺から探ることは不可能なようだ。

 降参だと合図を委員長に送る。今回は委員長に頼り切るしかないようだ。

「椿さん、部活とか決めた?」

 委員長が椿さんに話しかけた。

「いえ、まだですけど」

「入る予定があるんだったら私が紹介するよ。流石に部活動は男子に頼っても意味ないだろうしね」

「そうですね。じゃあお願いします」

 意外にあっさりと椿さんを連れて行った。

 そして残ったのは鶫と少し近くで見ていた翔に。

「翔、椿さんのこと何か知っているのか?」

「え、僕が?そんなわけないじゃん。綺羅女だよ?流石の僕でも関わりが持てるわけがないじゃないか」

 否定する翔。

「本当に?いつもと対応が違うというか、流石に不自然だったよ」

 意外にも指摘したのは俺では無く鶫だった。

「と言われても、関係ないものは無いからなあ……」

「なら、どうして二人の言い合いを仲裁したり、俺が椿さんに学校案内をするようになった時に、鶫を言いくるめたりしたんだ?」

「流石の僕でも死体を生み出すようなことはしたくないからなあ……」

「誰が死ぬんだよ」

「涼真が100回ほど」

「俺は死なねえよ。そもそも命は1個しかねえよ」

 既に死んでいるけど。

「まあ、そういうことにしておくか」

 これ以上は何の進展も無いだろうと踏んで諦めることにした。

「涼真君の方はどうだった?」

「ほとんど進展は無いかな、一応二人には何らかの関係がありそうってくらい」

 二人の関係は、椿さんの方は一切表に出す気は無かったが、翔の方は一応隠しているだけでバレても良いという感じだったから実質的には無に等しい。

 恐らく関係があるとバレたところで特に支障は無いのだろう。

「そっか……こっちが分かったのは、中高は綺羅女に居て、それまでは隣の県に住んでいたらしい」

「俺はずっとこの県に生まれ育ってきたから本格的に関係性が分からないな……」

 分かった情報の時点では俺と知り合う道理が無い。どうあがいても赤の他人としか言いようが無いんだよな。

「なんなら翔君ともどこで知り合ったのか分からないよね」

「そうだね」

 いくらあいつがモテるとは言っても女子高に手を出すとは思えないんだよな。特にあんな金持ちが多数在籍しているような高校に。

 下手したら人生終わりかねないからとか言って避けそうだ。

 誰かを差し向けて遠くから見ているくらいはしそうだけど。

「結局地道に情報を抜いていくしかなさそうだね」

「だね。委員長に任せました」

 俺は鶫で精いっぱいだ。

「分かりました隊長!」

 どう考えても隊長は委員長だ。

「じゃあ一緒に帰ろうか」

「うん」

 俺は鶫が爆発してしまわないように全力でサービスをすることにした。

 学校から出てその帰り道、

「何かしたいことある?」

「そうだなあ……  じゃあどこかでご飯でも食べたい」

「いいよ、どこにする?」

「えっと」

 ここに居るのは高校生。恋人関係にふさわしい良い感じの高級な店に行く、というわけもなく。

「いらっしゃいませ~二名様でしょうか」

「はい」

「ではこちらへどうぞ」

 来たのは全国どこにでもある超安いことで有名なイタリアンレストラン。

 バイトしてお金を稼ぐにしても時間的拘束の問題が厳しい高校生はそこまで手にすることは出来ない。貧乏な俺たちにとって非常にありがたいお店だ。

「ここで良かったの?」

「高い所だとお互い払いきれないでしょ?それでいて二人っきりで話すにはここくらいが丁度いいでしょ」

 駅に近く、学校の下校時間から左程経っていないこともあり、多数の学生で賑わっていた。

 各々が好きなように話しているので個々人の会話は掻き消えてしまいそうだった。

「それもそうだね」

 その後二人は注文を済ませ、商品が来るまでは超高難易度で有名な間違い探しを楽しんだ。

 評判通り最後の1個を見つけることが出来ず、ご飯が届いたので片付けて食べることに。

「涼真くんに聞きたいことがあるの」

 ご飯も届いて邪魔者が入らなくなったので、早速鶫が本題を切り出した。

「何?」

「椿さんとは一切関係が無いんだよね?」

「うん。俺の記憶には一切残っていないし、聞いた話からもやっぱり俺じゃないと思う」

「じゃあもう一つ。気持ちがあの人に傾くことは無いよね?」

「それは無いかな」

 鶫が怖いから、なんて理由ではなく純粋に鶫が好きだからな。

 しばらくの間無言で俺の顔を覗き込んだ後、

「なら良かった。私心配しちゃったよ」

 どうにか信用してもらえたようだった。首の皮一枚繋がった。

「信じているから別にどうも思ってはいないんだけど、あの子は何が目的なんだろう」

 恋愛関係については完結したようだけど、椿さんについては気になるようだった。

「そうだなあ。正直嘘をついている気がしないんだよ」

「でも涼真君は何も知らないんだよね?」

「もしかしたら記憶を誰かに奪われたのかも」

 目の前に死者蘇生が出来る人間がいるのだ。記憶を消す能力者が居たところでおかしなところは無い。

「うーんどうだろ。それにしては不自然だと思うけれど。他の記憶はばっちりあるんでしょ?」

「だよなあ」

 昔交通事故にあったなんて事は無かったし、小学校時代の思い出に女の子と特別に仲良くしたなんて覚えはない。なんなら男だと信じ込んでいたけど女だったってパターンも無い。基本的に関わる人同い年の人は学校やら企業やらが絡んでいるので性別を間違うわけがない。

「でも早く解決しないとね」

 笑顔で僕にそういう鶫の目は笑っていなかった。とても怖い。

 鶫さんが蘇生をしない事態が生まれないようにちゃんと事件の解決に取り組まねば。
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