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86話

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「なあウヅキレナ」

「なんだイザベル?」

「安全な場所に一瞬で移動させられた時から思っていたのだが、ウヅキレナが本気を出したらあの勇者と魔王ですら余裕で倒せたのではないか?」

 麗奈さんにあきれ果てていると、イザベルさんが麗奈さんに質問していた。

 言われてみればそうだ。

 攻撃が来ると分かっていても避けることが困難な攻撃を不意打ちで撃たれてから対応できるのであれば勇者と魔王位余裕で倒せたのではないか。

「そうだな。勇者の方には多少苦戦はするだろうが倒せるだろう」

「なら全て一人で解決させた方が早かったのではないか?」

「ふむ。最初に伝えていた通り、こいつらは当事者が倒さなければ意味がない。それだけでは足りぬか?」

「そうだな。根本的な解決を狙うなら一番の方法だが、代償に受けた被害が大きすぎる上、アスカが倒せるかどうかすら不確定だ。なら、十分強くなるまで保護し、今後似たような相手が現れた際に自力で解決させた方が良かったのではないか?」

「なるほどな。イザベル達の視点からみればそうなるのが正しいか。分かった、ちゃんと理由を説明しよう。だが、その前にちょっと待っててくれ」

 麗奈さんはそう言うと、『師走の先』のギルドメンバーに周囲の片付けを指示していた。

「では、移動しようか」

 麗奈さんが指を鳴らすと、次の瞬間には地神教の本部にある教祖である相田さんの部屋に居た。

「ああ、皆さんですか。突然どうしました?」

 丁度部屋に居た相田さんは一切事情を知らなかったようだが、特に驚くことはなく普通に対応していた。

「部屋を借りたい。今は6人だが、後2人来る予定だからそのくらいの部屋を頼む」

「分かりました。では705号室を使用してください」

「助かる。では行くぞ」

 麗奈さんは相田さんに例を言うと、俺たちを705号室へと連れて行った。



 その道中、

「あの、卯月麗奈さん」

「どうした?健太」

「いや、俺たち一応当事者ではあると思うんですけど、この話に参加しても良いのかなって思って。『Oct』の話ですよね?」

 と健太が申し訳なさそうに言った。

「ある意味ではそうだが、この話は健太と弥生にも聞いておいて欲しい。何か用事があるのであれば仕方ないが」

「いえ、そうであれば大丈夫です。用事は無いですから」

「皆に早く会いに行きたいのだろう。悪いな」

「いえ。生きているのであれば大丈夫です。いつでも会いに行けますから」

「そうか」

『ガーディアン』と『魔術師の楽園』は『BRAVED』の襲撃によって壊滅的な被害を受けたと以前ニュースになっていたはずなんだけど……

 だから生きているという表現は怪しいような……

「一人だけ事情を知らないようだから説明しておくけれど、今回私たち側に死者は一人もいないわ」

「え?」

 ギルド本部があれだけ盛大に破壊されているのに?『BRAVED』は全員無事だったのに?生き残っている人はいるとは知っていたけれど、全員って。

「そこら辺も含めて部屋で話そう。かなり重大な話だからな」

 色々こんがらがっているが、麗奈さんがいつになく真剣な顔をしているので一旦聞きたい欲を抑え込んだ。


「というわけで全てを話そうか」

 麗奈さんは一人俺たちの向かい側の席に座り、真剣な表情でそう言った。

「はい」

 普段色々とぶっ飛んでいる人が真剣な表情で言う話だ。本当に重大な話なのだろう。

「まずは軽く犠牲者についての話をしよう。これは先ほども言っていた通り犠牲者は一人もいない」

「でもギルドは壊滅的な被害を受けたって」

「そうだな。実際に建物は深刻な被害を受けている。一度壊して建て直す以外に術は無いだろうな。だが、人に関しては問題ない。『ガーディアン』は私が。『魔術師の楽園』はキルケーが先ほどの戦いと同じように例の攻撃に合わせて全員救出したからな」

「そうだったんですね……」

 良かった。私が両方とも救い出したとか言い出さなくて。

「今回の事件で被害者が出たら大問題だからな。解決できた問題を意図的に放置していたわけだからな。責任をもって救ったわけだ」

「それはそうですね」

「で、肝心となるどうして私たちで倒さなかったのかだが。それは飛鳥を試すためだ」

「俺を試す?」

 前に受けたAランク昇格試験で麗奈さんが出てきたのは俺を試すためでしたよね?

「ああ。以前も試す目的で戦ったが、あれは妹の足を引っ張っていないかを試すのと、妹が見染めた男がどのようなものかを見てみたかったからで、そこまでしっかりしたものではない」

「は、はあ」

 Aランク昇格試験って国家試験みたいなものだから何よりもしっかりしていると思うんですが。

「で、今回は何を試したのか。それは妹が作った世界で最も素晴らしいギルドのエースとしうて十分な資格を持っているのか。そして妹と一生を添い遂げる伴侶としてふさわしいかどうかを試す一次試験を行った」

「「「「「……はい?」」」」」

 真剣な表情で語られる、あまりにも意味不明な理由に聞いていた全員が思わず聞き返した。
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