上 下
64 / 87

64話

しおりを挟む
「え?」

 杏奈さんは軽い感じで言っているのだが、結構な事なんですがこれ。

 この間俺たちの事を世間に晒し上げた上で襲撃してきた宗教団体だよ!?

「何か危害を加えようとする意志はございません。これに関してはただ信じてくださいとしか言う事が出来ません。お願いします」

「分かった。行こう」

「ええ!?」

 絶対に行くべきではないと主張しようとしたら、イザベルさんが先に教徒の提案を受け入れてしまった。

「大丈夫だ、安心しろ。私が保証する」

「イザベルさんがそこまで言うなら……」

 どうして確信を持っているのかは分からないが、自信満々に大丈夫だと言われてしまったら断るわけにはいかなかった。

「ありがとうございます。ではお連れ致します。少々お待ちください、連絡しますので」

 そう言ってから数十秒後、家の前に立派なリムジンがやってきた。


 人生でめったに乗れることの無い立派すぎる車だけれど、1年以内に2回目となると流石に感動は若干薄れてしまっていた。

 出来るなら一度リムジンに乗った時の記憶を消してから乗りたかったなあなんて思いつつ、移動すること約2時間。都内の一等地にあるあまりにも立派すぎる建物に辿り着いた。

「これが地神教の総本部……」

 地神教も世間一般に存在する新興宗教みたいに超巨大で綺麗な建物があるとは知っていたが、想像以上だった。

 地元で一番大きなデパートとか学校にすら圧倒的大差をつけて勝利する大きさだ。こんな大きな建物は初めて見た。

『師走の先』関連の建物は与えられている土地が広いだけで建物一つ一つはそこまで大きいわけじゃなかったし。

 そんな立派すぎる建物は生活に余裕があるB級以上の探索者として活動している教徒だけから資金を集めて作ったらしいのだから更に驚きだ。


「お待ちしておりました。秘書のカナリアです。教祖がお待ちしておりますのでどうぞこちらへ」

 立派な建物に感心していると、秘書の方がやってきたのだが、

「ん?」

 気のせいでなければ獣の耳がついていたように見える。帽子を被っている上に髪で人の耳があるはずの部分は隠れていて分からない。

 まあでも、異世界アンチとして活動している地神教がまさかそんな、ね。

 二人は気付いていないのか、気付いている上で放置しているのかは分からないが、秘書に対して何か言うことは無かった。


 そんな謎な秘書に案内されて立派な建物によく似合う綺麗なエレベーターで最上階に昇り、正面にあった教祖の部屋に入った。

「お待ちしておりました。如月さん、卯月さん、そしてイザベルさん」

 先日の記者会見では仇敵を見るような表情で演説をしていた教祖の相田彰彦は穏やかな笑みで俺たちの事を出迎えた。

「こんにちは」

「さあさあ、お掛けください」

 俺たちは教祖に促されるがまま、教祖の正面にある立派なソファに座った。

「それで、今日はどんなご用件で?」

 ソファに座るや否や、杏奈さんは雑談をすることもせず真っ先に本題に入ろうとした。

「早速ですか、でもそうですよね。現状ここは敵の本陣であるわけですし」

 教祖はそんな杏奈さんを見て軽く笑っていた。

 これは本当に敵対する意思はないのか……?

「分かっているなら早くお願いします」

「分かりました。では率直に言います。私たち地神教と共闘してくださりませんか?」

 教祖から切り出された本題は予想だにしないものだった。

「共闘ですか?何のために?」

 地神教はダンジョンから産まれたものの排除を主目的としている。そんな地神教がダンジョンを通じて異世界からやってきた俺たちと共闘?

「はい。我々と共に世界を牛耳る異世界出身の人間を倒していただきたいのです」

「世界を牛耳る?」

「そうです。現在世界で最も影響力のあるギルドだとされている10大ギルドの内7個は異世界出身の人間が代表、もしくはそれに近い位置にあたります。これに関しましては如月さんとイザベルさんが動画投稿サイト等で代表が話している動画をご覧になれば理解していただけるはずです」

「10大ギルド……」

 10大ギルド。その名の通り世界で最も影響力の高い10ギルドの事。実力もそうだが、人数、活動している国の数などが加味されている。

 ちなみに麗奈さんがギルドマスターの『師走の先』は入っていない。その理由は、杏奈さんが日本を拠点にしているから全ての機能を日本で利用できるようにしようと海外に一切展開しなかった為である。

 実際海外に少しでも展開を始めたら10大ギルドには余裕でランクイン出来る。

 弥生が所属していて『師走の先』と同格とされている『魔術師の楽園』が10大ギルドの9番目だからね。

「7個とは予想以上ね」

 異世界人がリーダーとして大量の外国人と共に俺たちを襲撃をしてきたあたりで一定数の異世界人が社会に影響を与えていることは分かっていた。しかし、せいぜい大手ギルドの一つや二つとかそのレベルにとどまると思っていた。

「はい。でも彼らがただ優秀な地球の人間として生きていくだけであれば特に問題はありませんでした。ただダンジョンから出てきた優れた道具や素材によって人々の生活が豊かになっていくだけですから」

「そうね。でも何かあったんですね」

「はい。彼らは持ち前の実力や成長速度でダンジョンから出てきた素材を世間に普及させつつ、影響力を持ったところまでは良かったのです。ですが、彼らはそれだけでは満足しなかったのです。先日、あなた方を異世界人が外国人を率いて襲ってきたのを覚えていますか?」

「はい、ダンジョン存続の為だと主張していました」

「あれは嘘です。私たち異世界人が何かアクションを起こしたところでダンジョンを破壊することは出来ませんから。あれの真の目的は、将来性のある異世界人を排除することです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

精霊王女になった僕はチートクラスに強い仲間と世界を旅します

カオリグサ
ファンタジー
病で幼いころから病室から出たことがなかった少年 生きるため懸命にあがいてきたものの、進行が恐ろしく速い癌によって体が蝕まれ 手術の甲斐もむなしく死んでしまった そんな生を全うできなかった少年に女神が手を差し伸べた 女神は少年に幸せになってほしいと願う そして目覚めると、少年は少女になっていた 今生は精霊王女として生きることとなった少女の チートクラスに強い仲間と共に歩む旅物語

無能テイマーと追放されたが、無生物をテイムしたら擬人化した世界最強のヒロインたちに愛されてるので幸せです

青空あかな
ファンタジー
テイマーのアイトは、ある日突然パーティーを追放されてしまう。 その理由は、スライム一匹テイムできないから。 しかしリーダーたちはアイトをボコボコにした後、雇った本当の理由を告げた。 それは、単なるストレス解消のため。 置き去りにされたアイトは襲いくるモンスターを倒そうと、拾った石に渾身の魔力を込めた。 そのとき、アイトの真の力が明らかとなる。 アイトのテイム対象は、【無生物】だった。 さらに、アイトがテイムした物は女の子になることも判明する。 小石は石でできた美少女。 Sランクダンジョンはヤンデレ黒髪美少女。 伝説の聖剣はクーデレ銀髪長身美人。 アイトの周りには最強の美女たちが集まり、愛され幸せ生活が始まってしまう。 やがてアイトは、ギルドの危機を救ったり、捕らわれの冒険者たちを助けたりと、救世主や英雄と呼ばれるまでになる。 これは無能テイマーだったアイトが真の力に目覚め、最強の冒険者へと成り上がる物語である。 ※HOTランキング6位

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

アイテム•神の本に転生しました!?〜アイテムだけど無双します!〜

ねこねこォ
ファンタジー
中学2年生の柏田紫苑─私は死んだらしい。 というのもなんか気づいたら知らない部屋にいたから、うん! それでなんか神様っぽい人にあったんだけど、怒らせちゃった! テヘペロ。 でなんかビンタされて視界暗転、気づいたら転生してました! よくよく考えるとビンタの威力半端ないけど、そんな事は気にしないでとりあえず自分確認! それで機械音に促されるままステータスを開いてみると─え、種族•アイテム?! いやないだろ。 自分で起き上がれないし喋れねえじゃねえか。 とりあえず人化、今いる迷宮を脱出して仲間を探しにでかけますよ!

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

処理中です...