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61話

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 先を進むとブレスの威力がどう考えてもA級とかけ離れて高い代わりに移動速度が異常に遅い小さなドラゴン、大きさの割に炎がライターレベルの不死鳥、首が短すぎて隣り合う首が邪魔して苦しそうなヤマタノオロチ等、何かしらの理由で弱体化されているSランクのモンスターに遭遇した。

 それでも元がSランクのモンスターである為ちゃんと強かったが、二人が弱点を熟知していたので特に苦戦することもなく最下層のボス部屋の前まで到達することが出来た。



「ねえ、先に一つ聞いて良いかな。ここってどういうダンジョン?」

「ここ?Sランクを超えるモンスターの劣化個体、レッサー○○だけが集められたダンジョンよ」

「そんなダンジョンあるんだ……」

 劣化個体だけが集められたダンジョンって。何がどうなったら生まれるんだよ。

「実際にあるのだから仕方ないじゃない」

「それはそうなんだけどさ……」

「そんなことよりも、今から入るボス部屋では絶対に笑わないでね」

「笑うな?ボスが強くなったりするの?」

「そういうわけではないわ。だけれど、多分笑うと思うから」

「?」

「とにかく入るわよ」

 杏奈さんの意図が一切分からないまま、ボス部屋に入った。

 ボス部屋は道中のような草原ではなく、地面と壁は石レンガで出来ていた。

「ああ……」

 そんなボス部屋で堂々と待ち構えていたのは、様々な種類の生物を合成して産み出されたとされるキメラだった。

 このキメラはこのダンジョンで戦ってきたモンスターが組み合わさって出来ており、いかにもボスといった様相を呈している。

「どうしてこうなったの」

 しかし、組み合わさり方が非常に残念だったのだ。

 頭は不死鳥、胴体はヤマタノオロチ、足はドラゴン、尻尾はフェンリルと強い生物の中で最も平凡な部分だけが抽出されていた。

 かろうじてドラゴンの足はマシに見えるのだが、ヤマタノオロチの胴体が非常に重い上に元になっているドラゴンがダンジョンに居た機動力皆無のレッサードラゴンだと思うので多分弱い。

 もしかしてこのダンジョンに出てきたモンスターの中で一番弱いんじゃないか?

「分からないわ。ただこのダンジョンのコンセプトに一番近いモンスターであることは事実よ」

「そうだけどさ……」

『寄って来てるから話は後にして早く戦闘態勢に入ってくれ』

「そうね」

「……分かったよ」

 俺たちの存在に気づいたキメラはこちらに近づいてきていたのだが、予想通り動きはあまりにも遅く今ある20m程の距離を詰めるのに20秒はかかる気がする。

 だからもう少し話しても良い気はするのだけれど、一応ボスはボスだから気を引き締めて戦闘態勢に入った。


 後衛のイザベルさんに攻撃が届かないように正面から戦うのがこの3人パーティとしては正しい姿ではあるのだが、あの速度で遠距離攻撃が無いモンスターであればわざわざ気を引き付ける必要もないので背後に回り込むことにした。

 すると、背後に回られたことに気づいたキメラはこちらの方へ亀のような速度で振り返り、再びゆっくりと動き始めた。

「そっか。目は鳥だから視野が広いのか」

 頭が不死鳥であることの唯一っぽいメリットに感心しつつ、俺は背後を取ることを諦めて正面から近づいて殴った。

「硬っ!!」

 拳が見事に不死鳥の顔に命中し、破壊出来たまでは良かったのだがヤマタノオロチの胴体は硬い上に非常に重く吹き飛ばすことは出来なかった。

 キメラはドラゴンの足で反撃してこようとしたが、動きが遅かったので途中で気づいて後ろへ飛んだ。

 同時に不死鳥の頭は再生し、元に戻っていた。

「結構骨が折れそうだね……」

 あの攻撃速度や移動速度から見て攻撃力は大した事は無さそうだが、防御力に関してはきっちりSランク級らしい。

「一応ベースはSランク以上のモンスターだから。防御が弱そうな部分を徹底的に狙いなさい」

「防御力が弱そうな部分か……」

 何かないかとキメラの体を観察してみた。しかし、拳で解決できそうな部位は見つからなかった。

 どこも結局硬い部位であることは事実だからね。

 となると別の手段を探さなければならないわけだけれど……

『はっ!!』

 いったいどうしたものかと悩んでいるとイザベルさんが大量の弓矢をキメラに向かって放っていた。

 その弓矢はキメラの継ぎ接ぎの部分に全て命中した。

 するとキメラは大きく苦しみだした。

『弱点は継ぎ接ぎ部分だ!二人とも狙え!』

「「了解!」」

 明確な弱点が判明したため、杏奈さんと共にとどめを刺すべくキメラに襲い掛かる。

 そして杏奈さんは剣を使って側面から継ぎ接ぎ部分を切り裂いていた。

 一方の俺は反対側に立ち、継ぎ接ぎ部分を殴ってみたのだが、継ぎ接ぎ部分を殴った所で何かしらの追加効果が得られるわけでは無く。特に大きなダメージが入っているようには見えない。

 これはあくまで弓のような貫通攻撃や、剣のような斬撃でないと意味が無いみたいだ。ならどうしようか……

 そうだ!

「何してるの!?」

「見ての通り攻撃だけど」

「いくらこいつでも危ないわよ!」

『いや、問題なさそうだ。かなり効いているぞ!』

「よし!このまま……!」

 俺は堂々と不死鳥の首とヤマタノオロチの胴体を掴み、継ぎ接ぎ部分を引っ張って引きちぎろうとしていた。

 近距離を超えてもはや密着状態の攻撃だったため、杏奈さんには最初止めるように言われたが、想像以上に攻撃が効いており、反撃どころではない状況に陥っていたらしいのでそのまま続行することを許された。


 それから1、2分後キメラの継ぎ接ぎ部分が綺麗に引き裂かれ、倒すことが出来た。

「終わったわね。とりあえず外に出ようかしら」

「そうだね」

 ダンジョンボスを倒したので、俺たちはそのままダンジョンから脱出した。
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