50 / 87
50話
しおりを挟む
「いらっしゃいませ」
「如月飛鳥と申します。先ほどダンジョン発生に巻き込まれた方々がホテルに来ていると思うのですが、その中の如月夏希さんの部屋に案内していただけますか?」
「はい、ではお連れの方のお名前を教えていただけますでしょうか?」
「卯月杏奈です」
「承りました。それでは右手のエレベーターから7階の703号室に向かってください。7回が丸々被害者が泊まるフロアとなっております」
「ありがとうございます」
ホテルの受付の人に話をすると、そのまま皆が居る場所を案内してくれた。
恐らく事前に夏希が伝えてくれていたのだと思う。
「インタビューは終わったみたいだね」
受付の人に案内された部屋をノックして出てきた夏希は俺たちの事を見て真っ先にそういった。
「見てたの?」
「直接見ては無いんだけど、記者だなって感じの人が大量に待ち構えていたからね。ホテルに連れていかれないであろう探索者を待っているんじゃないかなって思って」
「そういうこと」
「で、上手く宣伝は出来たのかな?」
「勿論です。これで私たちは一躍時の人になるでしょうね」
「それは凄いね」
「まだまだ上には上が居ますけれど、私たちは強いですからね。時間の問題だったとは思います。それよりも、今後の孤児院はどうしましょうか」
「そうだよねえ。次の家が決まるまでは滞在しても良いってルールらしいけれど、なかなか難しいよね……」
次の家をどうするか問題。ダンジョン発生で家を失った人はしばらくホテル暮らしをした後、補助金を元に新しい家を入手するという流れだ。
前住んでいた家のグレードまでという前提条件はあるものの、全ての費用を補助金によって支給される為、お金のことは一切気にせずすぐに家に移り住むことが可能となっており、基本的には一月以内に移り住める。
だがそれは一般的な家庭が住むための家の場合。孤児院のように巨大な建物や、お金持ちが住んでいるような超巨大な豪邸とかは例外となる。
すぐに移り住めるような中古は当然存在しない上、新築を建てようにも1年くらいの歳月が余裕でかかる。加えてそんな土地が存在するのかという問題すらあるため、長い人だと3年くらい家を用意できなかったなんて話もある。
別にホテル暮らしが悪いわけでは無いので、別に夏希や子供たちが生活に滅茶苦茶困るということは無いのだが、孤児院として大問題なのだ。
その問題とは孤児を受け入れ、育てるために動いている孤児院なのに、新規の子供を受け入れられないこと。ホテルの無料貸し出しはあくまでダンジョン発生の被害者だけであり、新しくやってきた孤児には適用されるわけが無いのである。
だから早急に次の孤児院となる建物を用意しなければならなかった。
「お金に関してはいくらでも用意しますし、国からも相当出るはずでしょうから、この地域で存続することは可能です。ただ、土地の購入からとなると最低でも1年はかかるかと」
しかし、それには時間がかかる。
「最近孤児が増えているから私たちのような孤児院が子供を受け入れられないとなるとかなり大変な状況になるんだよね……」
「近隣の孤児院とかに一時的にでも受け入れを任せたら?」
俺の記憶が確かであれば、ここから少し離れたところに別の孤児院があったはず。
「そうしたいのは山々なんだけど、あそこは私たちの孤児院程広くなかったから。任せられても一年で一人が関の山じゃないかな」
「そっか……」
お金が足りない、人手が足りないという問題であれば俺たちの力でも解決できそうだけれど、場所が足りていないという問題はどうしようもなかった。
「そうですね。後2か月待っていただけるのであれば一時的に場所をお貸しすることは可能です」
何かないかと考えていると、唐突に杏奈さんがそんなことを言った。
「2か月?」
「そう、2か月よ。後2か月で正式なギルドハウスが手に入るのよ」
「ギルドハウス?聞いてないんだけど」
「当然よ。何も話していないもの」
「ええ……」
一応ギルドメンバーだよ?事前に教えてくれないですかね?
「そのギルドハウスが今後のメンバー増員を視野に入れていたのでかなり広いものになっていて、配分をしっかりすれば恐らく30人程度であれば余裕で暮らしていけるかと思われます」
「滅茶苦茶広いね……そんな凄いギルドハウスなんだ」
「将来的に日本、いや世界で最も強い探索者が在籍することになるギルドですから。これでも狭いくらいです」
「言っちゃったよこの人」
確かに杏奈さんの姉である麗奈さんを超えるってことは日本一強い探索者になることだけどさ。
「何を他人事みたいに言っているの。あなたの話よ?」
「杏奈さんじゃないの!?」
話の流れ的に絶対杏奈さんが世界一の探索者になるって話だったでしょ。
「私が目指すのは姉よりも強い探索者であり、姉よりも大きなギルドのマスターになること。世界最強の探索者になることではないわ」
「確かにそうだけどさ……」
姉を超えるってことはほぼほぼ世界一の探索者なんだからそれで良いじゃん。
「まあ、麗奈姉を超える強さに加えて、世界一のギルドのマスターという称号も加味すると世界一の探索者は私になるのだけれど」
「そこは一番なんだ」
「ええ。将来有望な探索者をあなた以外にも見つけてしまったのだから」
「俺以外……?」
「そうよ」
「誰……?」
「すっとぼけなくても分かっているでしょう?隣の部屋だから交渉に行くわよ」
「あまり無茶な交渉はしないでね?二人だから信頼はしているけれど、まだ探索者ですらないんだから」
「分かっています。まっとうで平和的な交渉をしますから」
「如月飛鳥と申します。先ほどダンジョン発生に巻き込まれた方々がホテルに来ていると思うのですが、その中の如月夏希さんの部屋に案内していただけますか?」
「はい、ではお連れの方のお名前を教えていただけますでしょうか?」
「卯月杏奈です」
「承りました。それでは右手のエレベーターから7階の703号室に向かってください。7回が丸々被害者が泊まるフロアとなっております」
「ありがとうございます」
ホテルの受付の人に話をすると、そのまま皆が居る場所を案内してくれた。
恐らく事前に夏希が伝えてくれていたのだと思う。
「インタビューは終わったみたいだね」
受付の人に案内された部屋をノックして出てきた夏希は俺たちの事を見て真っ先にそういった。
「見てたの?」
「直接見ては無いんだけど、記者だなって感じの人が大量に待ち構えていたからね。ホテルに連れていかれないであろう探索者を待っているんじゃないかなって思って」
「そういうこと」
「で、上手く宣伝は出来たのかな?」
「勿論です。これで私たちは一躍時の人になるでしょうね」
「それは凄いね」
「まだまだ上には上が居ますけれど、私たちは強いですからね。時間の問題だったとは思います。それよりも、今後の孤児院はどうしましょうか」
「そうだよねえ。次の家が決まるまでは滞在しても良いってルールらしいけれど、なかなか難しいよね……」
次の家をどうするか問題。ダンジョン発生で家を失った人はしばらくホテル暮らしをした後、補助金を元に新しい家を入手するという流れだ。
前住んでいた家のグレードまでという前提条件はあるものの、全ての費用を補助金によって支給される為、お金のことは一切気にせずすぐに家に移り住むことが可能となっており、基本的には一月以内に移り住める。
だがそれは一般的な家庭が住むための家の場合。孤児院のように巨大な建物や、お金持ちが住んでいるような超巨大な豪邸とかは例外となる。
すぐに移り住めるような中古は当然存在しない上、新築を建てようにも1年くらいの歳月が余裕でかかる。加えてそんな土地が存在するのかという問題すらあるため、長い人だと3年くらい家を用意できなかったなんて話もある。
別にホテル暮らしが悪いわけでは無いので、別に夏希や子供たちが生活に滅茶苦茶困るということは無いのだが、孤児院として大問題なのだ。
その問題とは孤児を受け入れ、育てるために動いている孤児院なのに、新規の子供を受け入れられないこと。ホテルの無料貸し出しはあくまでダンジョン発生の被害者だけであり、新しくやってきた孤児には適用されるわけが無いのである。
だから早急に次の孤児院となる建物を用意しなければならなかった。
「お金に関してはいくらでも用意しますし、国からも相当出るはずでしょうから、この地域で存続することは可能です。ただ、土地の購入からとなると最低でも1年はかかるかと」
しかし、それには時間がかかる。
「最近孤児が増えているから私たちのような孤児院が子供を受け入れられないとなるとかなり大変な状況になるんだよね……」
「近隣の孤児院とかに一時的にでも受け入れを任せたら?」
俺の記憶が確かであれば、ここから少し離れたところに別の孤児院があったはず。
「そうしたいのは山々なんだけど、あそこは私たちの孤児院程広くなかったから。任せられても一年で一人が関の山じゃないかな」
「そっか……」
お金が足りない、人手が足りないという問題であれば俺たちの力でも解決できそうだけれど、場所が足りていないという問題はどうしようもなかった。
「そうですね。後2か月待っていただけるのであれば一時的に場所をお貸しすることは可能です」
何かないかと考えていると、唐突に杏奈さんがそんなことを言った。
「2か月?」
「そう、2か月よ。後2か月で正式なギルドハウスが手に入るのよ」
「ギルドハウス?聞いてないんだけど」
「当然よ。何も話していないもの」
「ええ……」
一応ギルドメンバーだよ?事前に教えてくれないですかね?
「そのギルドハウスが今後のメンバー増員を視野に入れていたのでかなり広いものになっていて、配分をしっかりすれば恐らく30人程度であれば余裕で暮らしていけるかと思われます」
「滅茶苦茶広いね……そんな凄いギルドハウスなんだ」
「将来的に日本、いや世界で最も強い探索者が在籍することになるギルドですから。これでも狭いくらいです」
「言っちゃったよこの人」
確かに杏奈さんの姉である麗奈さんを超えるってことは日本一強い探索者になることだけどさ。
「何を他人事みたいに言っているの。あなたの話よ?」
「杏奈さんじゃないの!?」
話の流れ的に絶対杏奈さんが世界一の探索者になるって話だったでしょ。
「私が目指すのは姉よりも強い探索者であり、姉よりも大きなギルドのマスターになること。世界最強の探索者になることではないわ」
「確かにそうだけどさ……」
姉を超えるってことはほぼほぼ世界一の探索者なんだからそれで良いじゃん。
「まあ、麗奈姉を超える強さに加えて、世界一のギルドのマスターという称号も加味すると世界一の探索者は私になるのだけれど」
「そこは一番なんだ」
「ええ。将来有望な探索者をあなた以外にも見つけてしまったのだから」
「俺以外……?」
「そうよ」
「誰……?」
「すっとぼけなくても分かっているでしょう?隣の部屋だから交渉に行くわよ」
「あまり無茶な交渉はしないでね?二人だから信頼はしているけれど、まだ探索者ですらないんだから」
「分かっています。まっとうで平和的な交渉をしますから」
18
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!
IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。
無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。
一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。
甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。
しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--
これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話
複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

外れスキル【転送】が最強だった件
名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。
意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。
失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。
そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった
盛平
ファンタジー
パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。
神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。
パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。
ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる