43 / 87
43話
しおりを挟む
「あ!飛鳥兄ちゃん!久しぶり!!!」
「お兄ちゃんだ!!!!」
「隣のお姉さんは誰?」
「もしかして彼女?」
「飛鳥兄ちゃんはもう18歳だから彼女じゃなくて結婚相手じゃない?今日は挨拶に来たとか」
「兄ちゃんやるじゃん!こんな美人のお姉さんと結婚するなんて」
部屋に入った俺たちに気づいた子供たちは、こちらに駆け寄ってきて勝手に見当違いな妄想をして盛り上がっていた。
「違うからね。彼女とか婚約者じゃなくて俺が入っているギルドのギルドマスターだからね。ごめんね、杏奈さん。子供たちが勝手なこと言って」
「別に構わないわ。小学校高学年の子たちはそういう妄想をしたくなりがちだろうから」
「え!?ギルドマスターなの!?飛鳥兄ちゃんと同じくらいの年なのに?」
「すげえ!!」
「そうよ、私は卯月杏奈。ここの男が所属する『Oct』のギルドマスターよ、今日はあなたたちとお話をしに来たの」
「『Oct』?何それ?」
「分かんない。でも、ギルドマスターだから凄いんじゃない?」
「そうだね。ねえギルドマスター!どうやったら強い探索者になれるの?」
「やっぱり探索者って儲かるの?」
「戦ってるところ生で見たい!!」
子供たちは俺と杏奈さんの関係よりも杏奈さんがギルドマスターということに意識が持っていかれたようで、そっち系の質問ばかりが飛び交っていた。
「そうね、まずは強い探索者になる方法からかしら——」
そしてそんな子供たちの無邪気な質問に対し、丁寧に一つ一つ杏奈さんは答えていっていた。その時の表情はとても穏やかで、慈愛に満ち溢れたものだった。
杏奈さんがそんな表情をしているのは意外だなと思いながら眺めていると、
「飛鳥兄じゃん、また戻ってきたの?」
勉強部屋に向かおうとしていた亮に話しかけられた。
「うん、ちょっと用事があってね。しばらくしたら今日はそのまま帰る予定だよ」
「そうなんだ。今回はプラスの理由で来たみたいだね」
「今回は?」
「だって前戻ってきたときは死んだ魚の目してたじゃん。理由は知らないけど絶対良くない事があって戻ってきてたでしょ」
「バレてた……?」
「当然でしょ。何年一緒に居たと思っていたのさ」
「ああ……」
ってことはあの時結構気遣われていたんだ……
「立ち直ったのならちょっと勉強教えてよ。そろそろ受験期だから」
「良いよ」
「じゃあ先に相談室に行ってて。美月も連れてくるから」
「オッケー。杏奈さん、ちょっと勉強教えに行ってくるから、何かあったら連絡して」
「分かったわ」
杏奈さんに一言伝えた後、亮に渡された勉強道具を持って先に相談室へ向かった。
「久々に入ったな、相談室」
相談室。一見進路相談だったり悩み事だったり重要な話をするための部屋みたいに聞こえるが、単なる勉強を教えあうための部屋である。
じゃあ勉強部屋で良いだろという気もしなくもないのだけれど、一人で勉強するための勉強部屋と名前が被るからという微妙に納得しにくい理由で相談室と名づけられたらしい。
そんな勉強するための部屋なので、当然受験生時代の俺も頻繁に使用していた。
「当然っちゃあ当然なんだろうけど、全く変わってないなあ」
年季を感じるパイプ椅子が4つに真っ白で大きな机が一つ。そして扇風機が一つあった。
夏は扇風機があったので大分マシだったが、冬は暖房設備等は当然無かったので凍えながら勉強したなあ。
今思えば凄い環境で勉強していたなとは思う。手が悴んでシャーペンを持つ手がまともに動かない状態で勉強なんて普通出来ないよ。
まあ今がその冬なんだけど。
「久しぶり、飛鳥!」
受験生の頃を思い出して懐かしんでいると、背中を思いっきり叩かれた。
「美月、久しぶり」
背中を叩いてきたのは如月美月。亮と同じ中学三年生で、亮と共に俺たちの在籍する高校を目指している。
成績に関しては亮と比べてかなり高いものの、運動神経に難があったので弥生と同じように魔法使いの路線で強くなっていく予定らしい。
「元気にしていたみたいだね。前会った時よりもはるかに顔色が良いよ」
「やっぱりバレてたんだね」
「当然。小学生以下の子たちは気づいていなかったみたいだけど、私たちはそりゃあ気づくよ」
「と昔の話は良いんだ。勉強教えてよ。美月の教え方が死ぬほど下手なんだ」
「教えてもらっといて失礼じゃない?」
「数学で擬音ばっかり使ってくるような奴は教えるの下手だよ」
「分からない亮が馬鹿なのよ。もう少し分かろうとする努力をしなさい」
「じゃあ連立方程式の解き方をもう一回言ってみろよ」
「x同士とy同士をぎゅっとして、良い感じだった方をピッと取ってじゃない方にふぁさってしたらどっちかが出るでしょ?そしたら出た方をどっちかにズバンってしてぐるぐるしたら終わりだよ」
「ね?分からないでしょ、飛鳥兄」
「うん」
弥生も説明に擬音が飛び交っていたけれど、流石に美月と比べるのは失礼なレベルだった。
なんだかんだで弥生の教え方ってわかりやすかったし。
「ってことでお願いします」
「いいよ」
それから俺は二人の勉強を見ることになった。
「ここはxが無いでしょ、だから——」
「ばねの元々の長さが10cmでしょ——」
とは言っても事前に質問内容を用意しているわけがないので、そこまで二人から来た質問は無かった。
そのため、
「ステータスが上がるってどんな感じなの?」
途中から勉強関連ではなく探索者の話へと移り変わっていた。
「お兄ちゃんだ!!!!」
「隣のお姉さんは誰?」
「もしかして彼女?」
「飛鳥兄ちゃんはもう18歳だから彼女じゃなくて結婚相手じゃない?今日は挨拶に来たとか」
「兄ちゃんやるじゃん!こんな美人のお姉さんと結婚するなんて」
部屋に入った俺たちに気づいた子供たちは、こちらに駆け寄ってきて勝手に見当違いな妄想をして盛り上がっていた。
「違うからね。彼女とか婚約者じゃなくて俺が入っているギルドのギルドマスターだからね。ごめんね、杏奈さん。子供たちが勝手なこと言って」
「別に構わないわ。小学校高学年の子たちはそういう妄想をしたくなりがちだろうから」
「え!?ギルドマスターなの!?飛鳥兄ちゃんと同じくらいの年なのに?」
「すげえ!!」
「そうよ、私は卯月杏奈。ここの男が所属する『Oct』のギルドマスターよ、今日はあなたたちとお話をしに来たの」
「『Oct』?何それ?」
「分かんない。でも、ギルドマスターだから凄いんじゃない?」
「そうだね。ねえギルドマスター!どうやったら強い探索者になれるの?」
「やっぱり探索者って儲かるの?」
「戦ってるところ生で見たい!!」
子供たちは俺と杏奈さんの関係よりも杏奈さんがギルドマスターということに意識が持っていかれたようで、そっち系の質問ばかりが飛び交っていた。
「そうね、まずは強い探索者になる方法からかしら——」
そしてそんな子供たちの無邪気な質問に対し、丁寧に一つ一つ杏奈さんは答えていっていた。その時の表情はとても穏やかで、慈愛に満ち溢れたものだった。
杏奈さんがそんな表情をしているのは意外だなと思いながら眺めていると、
「飛鳥兄じゃん、また戻ってきたの?」
勉強部屋に向かおうとしていた亮に話しかけられた。
「うん、ちょっと用事があってね。しばらくしたら今日はそのまま帰る予定だよ」
「そうなんだ。今回はプラスの理由で来たみたいだね」
「今回は?」
「だって前戻ってきたときは死んだ魚の目してたじゃん。理由は知らないけど絶対良くない事があって戻ってきてたでしょ」
「バレてた……?」
「当然でしょ。何年一緒に居たと思っていたのさ」
「ああ……」
ってことはあの時結構気遣われていたんだ……
「立ち直ったのならちょっと勉強教えてよ。そろそろ受験期だから」
「良いよ」
「じゃあ先に相談室に行ってて。美月も連れてくるから」
「オッケー。杏奈さん、ちょっと勉強教えに行ってくるから、何かあったら連絡して」
「分かったわ」
杏奈さんに一言伝えた後、亮に渡された勉強道具を持って先に相談室へ向かった。
「久々に入ったな、相談室」
相談室。一見進路相談だったり悩み事だったり重要な話をするための部屋みたいに聞こえるが、単なる勉強を教えあうための部屋である。
じゃあ勉強部屋で良いだろという気もしなくもないのだけれど、一人で勉強するための勉強部屋と名前が被るからという微妙に納得しにくい理由で相談室と名づけられたらしい。
そんな勉強するための部屋なので、当然受験生時代の俺も頻繁に使用していた。
「当然っちゃあ当然なんだろうけど、全く変わってないなあ」
年季を感じるパイプ椅子が4つに真っ白で大きな机が一つ。そして扇風機が一つあった。
夏は扇風機があったので大分マシだったが、冬は暖房設備等は当然無かったので凍えながら勉強したなあ。
今思えば凄い環境で勉強していたなとは思う。手が悴んでシャーペンを持つ手がまともに動かない状態で勉強なんて普通出来ないよ。
まあ今がその冬なんだけど。
「久しぶり、飛鳥!」
受験生の頃を思い出して懐かしんでいると、背中を思いっきり叩かれた。
「美月、久しぶり」
背中を叩いてきたのは如月美月。亮と同じ中学三年生で、亮と共に俺たちの在籍する高校を目指している。
成績に関しては亮と比べてかなり高いものの、運動神経に難があったので弥生と同じように魔法使いの路線で強くなっていく予定らしい。
「元気にしていたみたいだね。前会った時よりもはるかに顔色が良いよ」
「やっぱりバレてたんだね」
「当然。小学生以下の子たちは気づいていなかったみたいだけど、私たちはそりゃあ気づくよ」
「と昔の話は良いんだ。勉強教えてよ。美月の教え方が死ぬほど下手なんだ」
「教えてもらっといて失礼じゃない?」
「数学で擬音ばっかり使ってくるような奴は教えるの下手だよ」
「分からない亮が馬鹿なのよ。もう少し分かろうとする努力をしなさい」
「じゃあ連立方程式の解き方をもう一回言ってみろよ」
「x同士とy同士をぎゅっとして、良い感じだった方をピッと取ってじゃない方にふぁさってしたらどっちかが出るでしょ?そしたら出た方をどっちかにズバンってしてぐるぐるしたら終わりだよ」
「ね?分からないでしょ、飛鳥兄」
「うん」
弥生も説明に擬音が飛び交っていたけれど、流石に美月と比べるのは失礼なレベルだった。
なんだかんだで弥生の教え方ってわかりやすかったし。
「ってことでお願いします」
「いいよ」
それから俺は二人の勉強を見ることになった。
「ここはxが無いでしょ、だから——」
「ばねの元々の長さが10cmでしょ——」
とは言っても事前に質問内容を用意しているわけがないので、そこまで二人から来た質問は無かった。
そのため、
「ステータスが上がるってどんな感じなの?」
途中から勉強関連ではなく探索者の話へと移り変わっていた。
20
お気に入りに追加
216
あなたにおすすめの小説
異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる
まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。
そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる