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42話

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「じゃあ、飛鳥がここに来た目的を教えてもらおうかな。まあ、予想はついているんだけどね」

 お茶を飲み、一息ついた段階で夏希の方から切り出してくれた。

「まあ、バレているよね。今日は、今までのお礼とかも兼ねて寄付をしに来たんだ」

「本当にありがとう。まだ探索者として動き始めて1年も経ってないっていうのに」

「当然だよ。ここには返しきれない程の恩があるんだから。それに、最近子供の数が一層増えているんでしょ?」

 高校に入っている時から感じていたんだけど、ここ最近は捨てられている子供の数が異常な程に増えている。

 俺が孤児院に拾われた年に入った子供は3人で、その前後も同じくらいだったけれど、ここ最近は平均して6人以上見つかっているらしい。

 その内の2人くらいは外国人の子供らしいので、ここら辺が急激に貧しくなったから増えたわけではなく、出稼ぎにきた外国人探索者が無責任に子供を作って捨てていると夏希や前院長は予想しているらしい。

 実際、最近C級以上のダンジョンが多数出てきているからね。

「そうだけど……」

「だから気にせずに受け取って欲しいんだ」

 俺は夏希に断らせる暇を与えず、小切手を押し付けた。

「そんな、ってえええ!?」

「どうかしたの?」

「いや、ギルドマスターの卯月さんが一緒に来ているから結構な額持ってきているんじゃないかとは思っていたけれど、ここまでは予想していなかったよ。どういうこと!?」

「普通にダンジョンに潜って稼いだお金だよ」

「いやいやいや。3億だよ!?探索者になったばかりでもらえる金額じゃないよ!?『ガーディアン』と『魔術師の楽園』でも初年度は年収500万くらいだよ!?」

 俺が強くなっているという話は知っていたが、ここまで貰っているという話は全く知らなかったらしい。

「ちなみに、これは年収ではなくて先月私が与えた給料と同額ですよ」

「飛鳥が入ったギルドってそんなに凄いギルドなの!?!?」

「うん、いろんな意味で凄いギルドだよ」

 待遇面は日本一どころか世界一凄いだろうし、ギルドマスターの横暴さも凄い。

「基本給に加え、探索で稼いだ額の3分の1を支給していますから」

「3分の1ってことは月に9億稼いでるの……?」

「そうなりますね」

「もうわけが分からないよ……」

「ちなみに、私からもこれをどうぞ」

 と状況が全く呑み込めていない夏希に対して杏奈さんは何かを手渡した。

「え……?」

「10億の小切手です。お好きに使ってください」

「え!?」

「!?!?!?!?……」

「夏希?夏希!?」

 夏希が累計13億というわけの分からない金額を目の前にして、気絶してしまった。


 数分後、

「ごめんなさい。億なんて単位のお金なんて今まで見た事が無くて」

「いえ。反応が面白くて畳みかけてしまった私が悪いので」

 意識を取り戻した夏希と気絶させた張本人の杏奈さんが互いに謝罪しあっていた。

「ねえ杏奈さん。本当に良いの?」

 10億という額は、恐らく『Oct』を設立してから杏奈さんの手元に入った給料の総額だ。設立前からある程度は稼いでいるだろうけど、杏奈さんにとっても10億は大金の筈。

 それをいくら俺が居たとはいえ、全く縁もゆかりもない孤児院に寄付するなんて。

「問題ないわ。あなたという逸材をここまで育ててくれた場所なのよ。このくらいして当然よ。それに、私たちの生活費は私たちの貯金から出しているわけじゃなくて『Oct』の資産を使っているから、貯金が無くなろうと問題なく生きていけるから」

「そうだけどさ……」

 確かに生活費とか探索に必要な道具とかは全てギルドの通帳から出しているから趣味以外に使う必要はないけど。

「とにかく、私は出すべきだと判断したから払っただけ。もしこれを恩と思うのであれば、あなたがもっと強い探索者になって私を楽させるか、孤児院の子たちを頑張らせて私たちのギルドに入れるくらいに強くするかの二択よ」

「そっか、ありがとう」

 杏奈さんは多分返して欲しいとは思っていないのだろう。

 だけど、俺は絶対この恩は返したい。

 これからも頑張って強くなろう。そして、日本最強、世界最強の探索者になるんだ。

「だけど、こんな大金どうやって使おうか。探索者じゃないから滅茶苦茶高いものを買うってこともないし……」

「この孤児院をリフォームしたらどうでしょうか?」

 突然降ってわいた大金を目の前にして、使い道に困っていると、杏奈さんがそんな提案をしていた。

「ここの?確かに古くなってきたしね。それは良いかもしれない」

「それでも半分くらいは余るだろうから残りは考えないといけませんが」

「リフォームしても7億くらい余るんだ……」

「はい、そこから先の使い道はゆっくり考えると良いと思いますよ。別にすぐ使えと言っているわけでは無いですし」

「それもそうですね。ゆっくり考えさせていただきます」

「では、私たちの一番の目的はこれで終了となります」

「「一番?」」

 今日来た目的はこれだけだった筈なんだけど、何か別に目的とか考えていたっけ。

「はい。ここの子供たちと話させてください」

「「え?」」

「何かおかしいですか?」

「いや、別にそういうわけでは無いですが。意外だなと」

「うん。俺も正直子供はうるさいから苦手とか言いそうなものだと思っていたよ」

 そうでなくても、杏奈さんが自ら子供たちと話したいと言い出すのは意外である。

「何を言っているの。私は子供は好きな方よ。じゃなければ10億なんて孤児院に出すわけがないじゃない。それに、あなただけではなくて健太君と弥生さんという優秀な探索者を同時に輩出した孤児院よ。気になるに決まっているじゃない」

「子供、好きなんだ」

「そうよ、悪い?」

「いや、悪くないです」

 杏奈さんの事をずっとダンジョンと強くなること事ばかり考えている探索者命の人みたいに思っていたけれど、ちゃんと他に好きな事があって安心した。

「じゃあ、早速案内しますね」

 夏希は今子供たちが集まって遊んでいる部屋に俺たちを連れて行ってくれた。
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