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39話
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その日、杏奈さんの指示を受けて二人でエリクサー入り飲料を作ってから就寝した。
翌朝、
「行くわよ」
「朝4時だよ……」
杏奈さんが俺の部屋に入ってきて起こしてきたのだが、時間があまりにも常識外れだった。
昨日寝たのが12時くらいなので滅茶苦茶眠い。俺は抗議の念を込めて掛け布団を顔まで被って文句を言った。
「問題ないわ、あのエリクサーを飲めば元気になれるから。今からでも飲むかしら?」
「起きます!!!」
眠いかどうかだけでエリクサーを使うわけにはいかないので、慌てて起きて支度を始めた。
「で、どこに行くんですか?」
しっかりと準備をして杏奈さんのバイクに跨ったまでは良いものの、これからどこに何をしに行くのかを一切聞いていない。
「私たちが行ったことのある場所よ」
「俺が……?」
「着けばわかるわ」
それだけ言われて杏奈さんの荒すぎる運転に身を委ねること小一時間、
「ああ……」
辿り着いたのは『師走の先』の研究所だった。どうやら今回の目的は俺のスキル強化らしい。
「じゃあ行くわよ」
「今は杏奈さんの攻撃力を上げる方が先決じゃないの?」
確かに俺を強くすることはギルドを強くすることにもつながるから理由はよくわかる。しかし、今は杏奈さんがA級に入ることが最優先では無いだろうか。
「当然よ。だからここに来たのよ」
「え……?」
だってここはスキルを研究する場所で、スキルを手に入れるための設備が整っているわけで……
「当然よ。外で鍛えなくても今や別にダンジョンに潜っていても強くなれるあなたをわざわざここにきて育成する必要がどこにあるのよ」
「だよね。ってことは杏奈さんがスキルを……?」
「違うに決まっているでしょう。あなたと違ってスキルを得たところで強くなれるわけがないもの」
「じゃあ何故……?」
「着いたわよ」
杏奈さんの意図が掴めないまま辿り着いたのは巨大な武道場。壁にはありとあらゆる武器がびっしりと並べられており、武器系のスキルを開放する際にかなりお世話になった場所だった。
「戦うの……?」
ここに二人で来たということは戦う以外に無い気がする。あれかな、杏奈さんの新武器を探しに来たのかな。
「とりあえず着替えなさい」
そう言って渡されたのは防具ではなくただのジャージだった。
「これ?」
ジャージで武器を使って戦闘したら一瞬で服が破けて使えなくなる気がするんですが。
「そうよ、着替えてきなさい。私も着替えてくるから」
「分かったよ」
ただ、そんなことを杏奈さんが理解していないわけがないので、何か別に意図があるのだろう。
「着替えてきたわね」
「杏奈さん……?」
私服からジャージに着替えた俺とは違い、杏奈さんは今からダンジョンに潜りますと言わんばかりに防具を身に着けていた。
武器はダンジョンで使っているものではなく武道場にあったただ丈夫なだけで切れ味悪めな剣だったけれど、防具の有無を考えると誤差である。
「じゃあ、私が一方的に攻撃し続けるからあなたはサンドバッグになりなさい」
「どういう意味でしょうか」
「そのままの意味よ。あなたは私の攻撃を受け続ける、それだけ」
「またサンドバッグ役ですか……?」
「私は初めてだけど」
「杏奈さんは初めてだったとしても、俺は最近やらされた出来事なんですよ」
しかも前回の千堂とは違い、あなたの攻撃は結構痛いんですよ。
「まあいいじゃない。あなたは攻撃を受けて喜んでしまう男なんだから」
「そんなことは……」
「あら、この間は同級生から一方的に攻撃されるのを楽しんでいたように見えたけれど?」
「え……?」
「顔が笑っていたわよ」
「まさか、見えていたんですか……?」
スキルの事しか考えていなかったので自覚は無いけれど、笑っていたかもしれない……
「見ているわけないじゃない。まあ、その様子を見るに本当に楽しんでいたみたいね」
嵌められた……!
「あれはスキルを得られるからで、一方的に攻撃されることを楽しんでいたわけじゃ……」
「とにかく、私の攻撃を受けなさい。そして私の攻撃力を上げる礎となりなさい」
「あの、せめて防具をいただけませんか?」
「エリクサー入りドリンクがあるから怪我とかの心配はいらないわ。覚悟しなさい!!」
「えっ、ちょっ!!!」
杏奈さんはこちらに有無を言わせず襲い掛かってきた。
一切の小細工なしで正面から向かってきているので反撃も出来なくは無いけれど、後で面倒なことになるのは間違いないので受けるしかなかった。
「うっ!!!」
昨日と変わらず、一発当たりの威力はレベルにしては低いけれど、手数があまりにも多すぎてダメージは結構大きい。
「威力はどうかしら?」
「まだ低いです」
「ならもっと大振りで攻撃してみようかしら。ほら!!」
杏奈さんは威力の高さを聞くときですら攻撃の手を一切緩めることは無く、延々と俺の体を傷めつけてきていた。
あまりにも痛いので嘘をついてでも威力を落としてもらおうと一瞬だけ考えたが、そうなると目的と外れてしまうので、我慢せざるを得なかった。
翌朝、
「行くわよ」
「朝4時だよ……」
杏奈さんが俺の部屋に入ってきて起こしてきたのだが、時間があまりにも常識外れだった。
昨日寝たのが12時くらいなので滅茶苦茶眠い。俺は抗議の念を込めて掛け布団を顔まで被って文句を言った。
「問題ないわ、あのエリクサーを飲めば元気になれるから。今からでも飲むかしら?」
「起きます!!!」
眠いかどうかだけでエリクサーを使うわけにはいかないので、慌てて起きて支度を始めた。
「で、どこに行くんですか?」
しっかりと準備をして杏奈さんのバイクに跨ったまでは良いものの、これからどこに何をしに行くのかを一切聞いていない。
「私たちが行ったことのある場所よ」
「俺が……?」
「着けばわかるわ」
それだけ言われて杏奈さんの荒すぎる運転に身を委ねること小一時間、
「ああ……」
辿り着いたのは『師走の先』の研究所だった。どうやら今回の目的は俺のスキル強化らしい。
「じゃあ行くわよ」
「今は杏奈さんの攻撃力を上げる方が先決じゃないの?」
確かに俺を強くすることはギルドを強くすることにもつながるから理由はよくわかる。しかし、今は杏奈さんがA級に入ることが最優先では無いだろうか。
「当然よ。だからここに来たのよ」
「え……?」
だってここはスキルを研究する場所で、スキルを手に入れるための設備が整っているわけで……
「当然よ。外で鍛えなくても今や別にダンジョンに潜っていても強くなれるあなたをわざわざここにきて育成する必要がどこにあるのよ」
「だよね。ってことは杏奈さんがスキルを……?」
「違うに決まっているでしょう。あなたと違ってスキルを得たところで強くなれるわけがないもの」
「じゃあ何故……?」
「着いたわよ」
杏奈さんの意図が掴めないまま辿り着いたのは巨大な武道場。壁にはありとあらゆる武器がびっしりと並べられており、武器系のスキルを開放する際にかなりお世話になった場所だった。
「戦うの……?」
ここに二人で来たということは戦う以外に無い気がする。あれかな、杏奈さんの新武器を探しに来たのかな。
「とりあえず着替えなさい」
そう言って渡されたのは防具ではなくただのジャージだった。
「これ?」
ジャージで武器を使って戦闘したら一瞬で服が破けて使えなくなる気がするんですが。
「そうよ、着替えてきなさい。私も着替えてくるから」
「分かったよ」
ただ、そんなことを杏奈さんが理解していないわけがないので、何か別に意図があるのだろう。
「着替えてきたわね」
「杏奈さん……?」
私服からジャージに着替えた俺とは違い、杏奈さんは今からダンジョンに潜りますと言わんばかりに防具を身に着けていた。
武器はダンジョンで使っているものではなく武道場にあったただ丈夫なだけで切れ味悪めな剣だったけれど、防具の有無を考えると誤差である。
「じゃあ、私が一方的に攻撃し続けるからあなたはサンドバッグになりなさい」
「どういう意味でしょうか」
「そのままの意味よ。あなたは私の攻撃を受け続ける、それだけ」
「またサンドバッグ役ですか……?」
「私は初めてだけど」
「杏奈さんは初めてだったとしても、俺は最近やらされた出来事なんですよ」
しかも前回の千堂とは違い、あなたの攻撃は結構痛いんですよ。
「まあいいじゃない。あなたは攻撃を受けて喜んでしまう男なんだから」
「そんなことは……」
「あら、この間は同級生から一方的に攻撃されるのを楽しんでいたように見えたけれど?」
「え……?」
「顔が笑っていたわよ」
「まさか、見えていたんですか……?」
スキルの事しか考えていなかったので自覚は無いけれど、笑っていたかもしれない……
「見ているわけないじゃない。まあ、その様子を見るに本当に楽しんでいたみたいね」
嵌められた……!
「あれはスキルを得られるからで、一方的に攻撃されることを楽しんでいたわけじゃ……」
「とにかく、私の攻撃を受けなさい。そして私の攻撃力を上げる礎となりなさい」
「あの、せめて防具をいただけませんか?」
「エリクサー入りドリンクがあるから怪我とかの心配はいらないわ。覚悟しなさい!!」
「えっ、ちょっ!!!」
杏奈さんはこちらに有無を言わせず襲い掛かってきた。
一切の小細工なしで正面から向かってきているので反撃も出来なくは無いけれど、後で面倒なことになるのは間違いないので受けるしかなかった。
「うっ!!!」
昨日と変わらず、一発当たりの威力はレベルにしては低いけれど、手数があまりにも多すぎてダメージは結構大きい。
「威力はどうかしら?」
「まだ低いです」
「ならもっと大振りで攻撃してみようかしら。ほら!!」
杏奈さんは威力の高さを聞くときですら攻撃の手を一切緩めることは無く、延々と俺の体を傷めつけてきていた。
あまりにも痛いので嘘をついてでも威力を落としてもらおうと一瞬だけ考えたが、そうなると目的と外れてしまうので、我慢せざるを得なかった。
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