上 下
34 / 87

34話

しおりを挟む
「私は今回素手で戦う。だが飛鳥は好きな武器を使っても良いぞ。ハンデだ」

 と麗奈さんは宣言し、腰に携えていた剣を壁付近に放り投げた。

 愛剣の扱いが雑すぎないかとは思うけれど、そもそもこの程度で傷が付く程度なら日本最強の探索者が使う武器としてはふさわしくないのだろう。

「武器は今のところ無いんですよ」

「飛鳥も素手で戦うのか?妹なら是が非でも武器を持たせたがると思ったのだが」

「そうなんですか?」

「妹は武器マニアのような所があるからな。相方が武器を持っていないとなれば当人の適性に合わせた武器を支給するはずだ」

「あー。多分俺がそこら辺の武器を使ったら壊してしまうからだと思います」

「もしかして、武器を使用するのが苦手なのか?」

「いや、そういうわけではないんですけど、色々ありまして。だから丁度いい武器が見つかるまで素手で戦えってことだと思います」

 お金はもう十分にあるので、原因としてはそこだろう。

 まあ、正直もう武器は要らない気がしてきたけど。多分補正値が下がって逆に弱くなりそうだし。

「ここは個人情報だからな。深堀りするのは止めておこう。ただ、戦闘を通じて勝手に推測はさせてもらうがな」

「ありがとうございます」

 多分杏奈さんは麗奈さんに俺の強さの秘密を隠しておきたいだろうし。

「では、準備が出来たらかかってくるがよい。初手は譲ろうではないか」

「わかりました」

 まだまだ怪しい所が残っている防御ではなく、自信がある攻撃から戦闘を始められるのは好都合だ。

 俺は一旦助走の為の距離を20m程取った。

「魔法か?」

「いや、違いますよ」

 俺はクラウチングスタートの体勢を取り、脳内で陸上のイメージをする。

「陸上か?」

『位置について、よーい、パン!!』

 脳内でスターターが銃を鳴らしたと同時に、俺は麗奈さんの方に向かって走りだす。

 そして、距離が半分くらいになったタイミングで俺は拳を大きく振りかぶり、全力で麗奈さん目掛けて突いた。

「むっ!」

 すると麗奈さんは爆発音と共に大きく吹き飛ばされ、壁に激突した。

 これが色々研究した結果辿り着いた、俺にとって考えられる限り最大威力の攻撃だ。

 人間の構造を考えるともっと威力が出そうなやり方はあるのだろうが、俺の場合スキルが発動する数が何よりも大事だから多少無駄があっても関係ない。

「さて、どのくらい効いているかな……」

 Bランクダンジョンの敵だったらボスでも余裕で一撃粉砕されるレベルの攻撃だが、相手はSランクどころかその遥か上、SSSランクに認定されている。

 少しくらいはダメージがあってくれると助かるんだけどな……

「いやあ、実に面白い。こんな人材が妹に発掘される前は一切見つからなかったのか。流石妹だな!」

 しかし、麗奈さんは俺の攻撃を受けた上で笑いながら立ち上がった。しかも見る限り傷すらついていない。洋服が一部破けただけだった。

「まあ、ですよね……」

「それでは、こちらも反撃といかせてもらうぞ」

 と宣言した瞬間、麗奈さんは目の前から消えた。

「っ!!!!」

 それと同時に背後から気配がしたため、咄嗟に振り向いて防御の体勢を取る。

「ほう、反応出来たか。だが、まだまだだな」

「かはっ……!」

 しかし、麗奈さんがどこに攻撃してくるのかが見えていたわけではなく、とりあえず防御体勢を取っただけだったので、防御には失敗し攻撃は体にクリーンヒットした。

 結果、俺の体は先ほどの麗奈さんと同じように勢いよく吹っ飛び、爆音と共に壁に衝突した。

「ふむ、先ほどの威力に合わせて反撃したつもりだったのだが、少々やりすぎてしまったか?思ったよりも飛鳥のダメージが大きい」

「ほんとですよ……死んだらどうするんですか……」

 麗奈さんの攻撃はあまりにも重く、体の骨が何本か折れた気がする。

 通常この試験では受験者が大けがを負うことは無いのだが、俺の攻撃力が防御力に比べても高すぎたせいで、麗奈さんがレベルを誤認してしまった結果起きた悲しい事故だ。

「すまないな。次はもう少し威力を落としてみる」

「そうしてくれると助かりますね」

 スキルのお陰で常人以上の回復力があるため、麗奈さんがこちらの様子を伺っている隙にある程度骨が繋がっていた。

「ん?立ち上がれるのか。攻撃した感触を考えると立ち上がれなくなっていてもおかしくない気がするのだが」

「実は自然治癒を補助する道具を持っていまして」

 回復力に関してはレベルどうこうでは解決できないので、それっぽい理由を付けて誤魔化した。

「今回、一切装備を身に着けているようには思えなかったが、そんなものを持っていたのか」

「そういうことです。では行きます」

 俺は反撃の為、正面から突っ込むことにした。

 今回の攻撃は麗奈さんが受けると公言していない以上避けられる可能性が高いが、現状、麗奈さんに取れる選択肢がこれしかない。

 カウンターなんて先ほどの攻撃を考えると不可能だし、背後から攻撃したくてもあのスピード相手に後ろを取れるわけが無いしね。

「ほう、正面から突っ込むか」

 麗奈さんはそんな俺を面白がったのか、その場で構えてカウンターの構えを取った。

 となるとやることは一つ。

 俺は麗奈さんを正面から殴りかかるのではなく、姿勢を極限まで低くした上で足を切断する勢いで足払いをした。

「なるほど、これは避けないとな」

 麗奈さんは足払いの威力を察知したのか飛びで避け、カウンターとして飛んだまま俺にパンチを入れようとしてきた。

 俺は足払いをした直後で、上に飛んでいる麗奈さんに体は一切向いていなかったが、構わず攻撃を入れた。

 両者の攻撃は共に命中し、俺は地面に叩きつけられ、麗奈さんは上空へと飛ばされた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。

烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。 その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。 「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。 あなたの思うように過ごしていいのよ」 真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。 その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

土下座で女神に頼まれて仕方なく転生してみた。

モンド
ファンタジー
ドジな女神が失敗を繰り返し、管理している世界がえらい事になって困っていた。 ここに来て女神は「ここまできたら最後の手段を使うしかないわ。」と言いながら、あるカードを切った。  そう、困ったら「日本人の異世界転生」と言うのが先輩女神から聞いていた、最後の手段なのだ。 しかし、どんな日本人を転生させれば良いかわからない女神は、クラスごと転生を先ず考えたが。 上司である神に許可をもらえなかった。 異世界転生は、上司である神の許可がなければ使えない手段なのだ。 そこで慌てた女神は、過去の転生記録を調べて自分の世界の環境が似ている世界の事案を探した。 「有ったこれだわ!・・何々・「引きこもりかオタクが狙い目」と言うことは・・30歳代か・・それから、・・「純粋な男か免疫のない男」・・どういうのかわからなくなったわ。」 と呟きながら最後は、 「フィーリングよね、やっぱり。」 と言い切ってカードを切ってしまった、上司の許可を得ずに。 強いのか弱いのかよく分からないその男は、女神も知らない過去があった。 そんな女神に呼ばれた男が、異世界で起こす珍道中。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

処理中です...