33 / 87
33話
しおりを挟む
「おっと。つい楽しくなって力が入ってしまっていた」
「ぶはっ!!」
「かはっ!」
そして、無事に俺たちは解放された。
「ありがとうございます……」
俺は命の恩人に対してお礼を言った。
「別に良いよ。悪いのはここにいる馬鹿力の卯月さんだから」
「馬鹿力とはレディに向かって失礼な」
「日本最強と名高い卯月さんをレディ扱いするのは無理だよ」
「お前も私並みに強いだろう?」
「まあね。少なくとも防御力に関しては僕の方が数倍強い」
「なら以後はレディとして扱え」
「はいはい、分かりましたよ」
「えっと、あなたは……?」
命の恩人は麗奈さんに匹敵する実力者らしいが、こんな王道の王子様系の見た目をした男性がいることは見たことも聞いたことも無い。
「僕?そうか、飛鳥君は知らないんだったね。僕は氷浦優、『ガーディアン』のギルドマスターだよ。話は健太君から常々聞いているよ」
「え?『ガーディアン』のギルドマスターですか?」
強いギルドに関しては調べていないのでほとんど知識は無いけれど、健太と弥生が入るギルドに関しては流石に調べた事がある。
その記憶が正しければ、『ガーディアン』のギルドマスターはもっと筋骨隆々の大男だったはずだ。名前も関剛之という力を象徴していそうな感じの名前だったはず。
「ああ、関君の事かな?ってことは一応調べてくれてはいるんだね」
「健太が入るギルドだから流石に調べました」
「なら不思議に思っても仕方ないよね。関君は表向きにはギルドマスターということになっているんだけど、実は副マスターなんだ」
表向きにはギルドマスター……?
「うん。関君ってさ、いかにも防御力高そうな顔と見た目しているでしょ?だから表向きにはそういうことにしてもらっているんだ。ほら、僕って『ガーディアン』顔じゃないでしょ?」
「確かにそうですね……」
どちらかといえば相手の攻撃を華麗に避けて美しい剣技で相手を翻弄してそうなイメージがある。なんなら攻撃を一度でもくらったら折れてしまいそうな儚さすらある。
「だから表向きのギルドマスターっぽい仕事は全て任せて、僕はギルド内での仕事を基本的にしているわけなんだ」
「だから知らなかったんですね…… ってことは健太も知らなかったんじゃないですか?」
「勿論そうだよ。だからただのギルドメンバーとして色々な話を聞かせてもらえたんだ。そこで飛鳥君や弥生さん、そして孤児院についても色々教えてもらっていたってわけだ」
「もう氷浦さんがギルドマスターだってことを健太は分かっているんですか?」
「まだだよ。何なら今日飛鳥君の試験監督をすることすら知らないよ。今日帰ったら全てを話すつもり。一体どんな顔をするかなあ」
「ええ……」
もう健太が入ってから半年くらいは経っていますよね。身分を隠すのはせめて一週間くらいにしてくださいよ……
「というわけで、今日二人を試験するのは僕たちだよ。よろしくね」
「「よろしくお願いします」」
「試験内容は事前に聞いているね?Sランク以上の探索者との模擬戦闘。二人の実力を僕たちに是非見せてほしいな」
「「はい」」
「じゃあ、二手に分かれようか」
それから俺と麗奈さん、杏奈さんと氷浦さんに別れ、それぞれ邪魔にならないように距離を取った。
「さて、これから模擬戦闘を始めるわけだが、事前に聞きたいことはあるか?」
お互いに距離を取り、戦闘の準備を済ませた段階で、最後の確認をしてきた。
「どうしてお二人が試験官をすることになったんですか?」
試験に関する質問は特にないので、気になったことを聞くことにした。
基本的にAランクの試験官は立候補者がおらず、最終的に国と直接契約しているSランクの公務員探索者が任命される事が多い。
理由は単純で、試験官という仕事が非常に面倒な上に殆ど金にならないからだ。
一定数Aランクに挑む探索者と話してみたいからという理由で請け負ってくれるSランク探索者もいるらしいが、どう考えてもそれは多忙なギルドマスターではない。
「当然如月飛鳥、君を一度見てみたかったからだよ」
「俺、ですか?」
「ああ。氷浦は健太という有望な新人が話していた将来有望な幼馴染が気になったから。私は、愛すべき妹が選んだ男が妹に見合う人物かを見極めるためだ」
氷浦さんの理由は普通だが、麗奈さんの方はなんというか、シスコンが極まった理由であった。
『師走の先』のことを一切の躊躇なく利用していた一番の理由はこれか。この姉は妹
が何をしても絶対に怒らないどころか絶対に歓迎する。
「でも、試験相手ってランダムじゃないんですか?」
試験官に立候補する際に選べるのは試験会場と日程のみ。誰を試験するかまでは選べなかったはず。
「普通はな。だが2年前からずっとお願いし続けた結果、見事許しを得た。実績の賜物だな。ただ、妹を試験することは法律的に許されなかったので同じく飛鳥に会ってみたいと話していた氷浦を呼んだのだ」
シスコンが極まるとこんなことになるのか……
とそれより、
「2年前からってどういうことですか?」
杏奈さんと出会うどころか、探索者としてダンジョンに潜ってすらいない時期なんですけど。
「数年以内に妹は『師走の先』を抜けて自分が見染めた相手と共にギルドを作ると分かっていたからな。だから私はその時に備えて国に強くお願いをし続けていたってわけだ」
「凄い執念ですね……」
「妹が生まれた時から妹の為に生きると決まってしまったからな」
「決まったって……」
「まあ、その結果呆れられて氷浦が入ってからは一言も話さず睨まれていたんだがな」
まあ、杏奈さんは麗奈さんを超えるために努力していますからね……
「とにかく、私は飛鳥が妹に見合う人物なのか判断させてもらう」
「分かりました。出来る限りの事はやってみます」
「ああ、舐めた戦いは絶対に許さないからな」
「はい」
「ぶはっ!!」
「かはっ!」
そして、無事に俺たちは解放された。
「ありがとうございます……」
俺は命の恩人に対してお礼を言った。
「別に良いよ。悪いのはここにいる馬鹿力の卯月さんだから」
「馬鹿力とはレディに向かって失礼な」
「日本最強と名高い卯月さんをレディ扱いするのは無理だよ」
「お前も私並みに強いだろう?」
「まあね。少なくとも防御力に関しては僕の方が数倍強い」
「なら以後はレディとして扱え」
「はいはい、分かりましたよ」
「えっと、あなたは……?」
命の恩人は麗奈さんに匹敵する実力者らしいが、こんな王道の王子様系の見た目をした男性がいることは見たことも聞いたことも無い。
「僕?そうか、飛鳥君は知らないんだったね。僕は氷浦優、『ガーディアン』のギルドマスターだよ。話は健太君から常々聞いているよ」
「え?『ガーディアン』のギルドマスターですか?」
強いギルドに関しては調べていないのでほとんど知識は無いけれど、健太と弥生が入るギルドに関しては流石に調べた事がある。
その記憶が正しければ、『ガーディアン』のギルドマスターはもっと筋骨隆々の大男だったはずだ。名前も関剛之という力を象徴していそうな感じの名前だったはず。
「ああ、関君の事かな?ってことは一応調べてくれてはいるんだね」
「健太が入るギルドだから流石に調べました」
「なら不思議に思っても仕方ないよね。関君は表向きにはギルドマスターということになっているんだけど、実は副マスターなんだ」
表向きにはギルドマスター……?
「うん。関君ってさ、いかにも防御力高そうな顔と見た目しているでしょ?だから表向きにはそういうことにしてもらっているんだ。ほら、僕って『ガーディアン』顔じゃないでしょ?」
「確かにそうですね……」
どちらかといえば相手の攻撃を華麗に避けて美しい剣技で相手を翻弄してそうなイメージがある。なんなら攻撃を一度でもくらったら折れてしまいそうな儚さすらある。
「だから表向きのギルドマスターっぽい仕事は全て任せて、僕はギルド内での仕事を基本的にしているわけなんだ」
「だから知らなかったんですね…… ってことは健太も知らなかったんじゃないですか?」
「勿論そうだよ。だからただのギルドメンバーとして色々な話を聞かせてもらえたんだ。そこで飛鳥君や弥生さん、そして孤児院についても色々教えてもらっていたってわけだ」
「もう氷浦さんがギルドマスターだってことを健太は分かっているんですか?」
「まだだよ。何なら今日飛鳥君の試験監督をすることすら知らないよ。今日帰ったら全てを話すつもり。一体どんな顔をするかなあ」
「ええ……」
もう健太が入ってから半年くらいは経っていますよね。身分を隠すのはせめて一週間くらいにしてくださいよ……
「というわけで、今日二人を試験するのは僕たちだよ。よろしくね」
「「よろしくお願いします」」
「試験内容は事前に聞いているね?Sランク以上の探索者との模擬戦闘。二人の実力を僕たちに是非見せてほしいな」
「「はい」」
「じゃあ、二手に分かれようか」
それから俺と麗奈さん、杏奈さんと氷浦さんに別れ、それぞれ邪魔にならないように距離を取った。
「さて、これから模擬戦闘を始めるわけだが、事前に聞きたいことはあるか?」
お互いに距離を取り、戦闘の準備を済ませた段階で、最後の確認をしてきた。
「どうしてお二人が試験官をすることになったんですか?」
試験に関する質問は特にないので、気になったことを聞くことにした。
基本的にAランクの試験官は立候補者がおらず、最終的に国と直接契約しているSランクの公務員探索者が任命される事が多い。
理由は単純で、試験官という仕事が非常に面倒な上に殆ど金にならないからだ。
一定数Aランクに挑む探索者と話してみたいからという理由で請け負ってくれるSランク探索者もいるらしいが、どう考えてもそれは多忙なギルドマスターではない。
「当然如月飛鳥、君を一度見てみたかったからだよ」
「俺、ですか?」
「ああ。氷浦は健太という有望な新人が話していた将来有望な幼馴染が気になったから。私は、愛すべき妹が選んだ男が妹に見合う人物かを見極めるためだ」
氷浦さんの理由は普通だが、麗奈さんの方はなんというか、シスコンが極まった理由であった。
『師走の先』のことを一切の躊躇なく利用していた一番の理由はこれか。この姉は妹
が何をしても絶対に怒らないどころか絶対に歓迎する。
「でも、試験相手ってランダムじゃないんですか?」
試験官に立候補する際に選べるのは試験会場と日程のみ。誰を試験するかまでは選べなかったはず。
「普通はな。だが2年前からずっとお願いし続けた結果、見事許しを得た。実績の賜物だな。ただ、妹を試験することは法律的に許されなかったので同じく飛鳥に会ってみたいと話していた氷浦を呼んだのだ」
シスコンが極まるとこんなことになるのか……
とそれより、
「2年前からってどういうことですか?」
杏奈さんと出会うどころか、探索者としてダンジョンに潜ってすらいない時期なんですけど。
「数年以内に妹は『師走の先』を抜けて自分が見染めた相手と共にギルドを作ると分かっていたからな。だから私はその時に備えて国に強くお願いをし続けていたってわけだ」
「凄い執念ですね……」
「妹が生まれた時から妹の為に生きると決まってしまったからな」
「決まったって……」
「まあ、その結果呆れられて氷浦が入ってからは一言も話さず睨まれていたんだがな」
まあ、杏奈さんは麗奈さんを超えるために努力していますからね……
「とにかく、私は飛鳥が妹に見合う人物なのか判断させてもらう」
「分かりました。出来る限りの事はやってみます」
「ああ、舐めた戦いは絶対に許さないからな」
「はい」
10
お気に入りに追加
216
あなたにおすすめの小説
異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載。
1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる
まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。
そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる