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19話

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「じゃあ行きましょうか」

 そのまま杏奈さんの所持するバイクに乗せられて辿り着いたのはどこか知らない田舎のダンジョン。

「どこここ?」

「多斬ダンジョン。主に鎧を纏ったモンスターが生息するB級ダンジョンよ」

「B級?いきなり?」

 少なくとも初手で挑むダンジョンではないよね。

 俺、結果的に植物系ダンジョンに潜れなかったから最後に潜ったダンジョンってFランクのゴブリンとかしか居ないダンジョンなんですけど。しかも1か月以上前だよ。

「大丈夫よ。あなたは一度B級のモンスターを討伐しているのだから」

「たった一体でかなりギリギリの戦いだったんですけど。アレが沢山いるんでしょ?」

 今だにアレを安定して討伐出来るイメージが湧かないんですが。

「居るわよ。それがどうかしたの?」

「じゃあ無理じゃないですかね。俺だけじゃなくて杏奈さんも苦戦していたでしょ」

「大丈夫。あなたが運動をしている間にレベルをさくっと上げてきたから」

「今いくつですか……?」

「45よ。ゴブリンジェネラルを倒した直後は33だったわね」

「2週間で10……?」

 レベル33から43って大体2年とかその位かかるって聞いたんですが。

「たった一か月でレベル1からレベル40相当に成長したあなたに驚かれたくは無いわ」

「これは今までの蓄積が一瞬で解放されて強くなっただけだから……」

 一か月で強くなったんじゃなくて人生18年無意識下で経験値を積んできた結果だから。費やした時間が違うから。

 本当に何もない所から経験値を稼いで10レベル上げる方が化け物である。

「……そういうことにしておくわ。というわけで私たち二人はBランクダンジョンに適正があるわ。だから入るわよ」

「待って」

「どうしたのよ。まだ強さに文句があるの?」

「あるよ。Dランク以上のダンジョンに潜るのって今回が初めてなんだよ?だからアレ以外にまともな戦闘経験はないよ?」

 今の俺にあるのは豊富なアスリート経験であり、戦闘経験はないのだ。

「大丈夫。あなたにはA級以上の攻撃力と素早さがあるんだから。戦闘以外の部分は私がどうにかすれば良いから」

「そんなものかなあ……」

「そういうものよ。じゃあ行くわよ」

 とだけ言って杏奈さんはダンジョンの中に入っていこうとした。

「ちょちょちょちょ。武器は?」

「無いに決まっているでしょ」

「何で?一番重要じゃないの?」

 素手で戦えと?杏奈さんは立派な剣を持っているのに?

「あなたが武器を使っても大丈夫なのか分からないからよ」

「どういうこと?」

「攻撃力が高すぎるせいで軽く振り回しただけで大半の武器が壊れる可能性が高いのよ」

「心配ならB級相当の武器を買えば良いんじゃないの?」

「そこまで潤沢な資金力は私たちのギルドには無いわ」

「なら『師走の先』から借りればよかったんじゃない?」

 もう既に色々とやってもらっているんだから武器の一つや二つなら許されると思うんですが。

「申し訳ないじゃない」

「もう少し早めに感じてくれませんかね?」

 研究所に初めて訪れたタイミングとか。

「今までは別に悪いことをしていないじゃない」

「結構悪かったよ?」

 あんだけ施設を使い込んでさ……

 総額いくらか怖すぎて考えられなかったよ。

「とにかく、武器は無いから拳と魔法で戦いなさい」

「魔法は無理ですけど」

 時間とレベルの都合上、魔法に関するスキルは一切取っていないので無理な話である。

「なら拳だけで戦いなさい」

「ええ……」

 つまりゴブリンジェネラル級の相手とボクシングに勤しめと。殺す気ですかね。


「大丈夫、あなたは私のギルドメンバーだから」

「まあ、困ったときに助けてくれるなら……」

「そこは抜かりないわ。安心して殲滅させなさい」

 これ以上粘るとギルド長権限を使われそうだったので諦めて中に入った。


 中は一面鉄のような色の何かに覆われており、まるで水道管の中に入ってしまったような感じだった。

「これって鉄かな?」

 少し気になったので軽く叩いてみる。すると、厚いゴムを触ったような感触が返ってきた。

「壁の材質が一体何なのかは結論がついていないわ。ただ、どんな攻撃でも受け止められるらしいから、たとえあなたが全力で殴ったとしても傷一つつかないわ」

「それは凄いね。これを使えば最強の防具になりそう」

「持ち帰られればね。そもそもダンジョンの壁は外に持ち出せないから」

「そうなんだ」

 色々ダンジョンについて聞いたことはあるが、その話は聞いたことが無かった。

「高校生は壁を破壊できるような攻撃力なんて普通持たないから、教えるだけ無駄だってことで言及されていないのよ」

「なるほどね」

 言われてみれば一般人の3倍とか4倍程度でダンジョンの壁を破壊はできないか。

「1層には敵は居ないからさっさと降りるわよ」

「うん」

 俺は杏奈さんの案内で第二層へと降りた。


「早速いたわよ、戦いなさい」

 降りてすぐに敵は見つかった。俺が今回拳だけで戦わされることになる相手は——

「正気?」

 全身を丈夫そうな鎧で包み、右手に剣、左手に鋼鉄の盾を構えているモンスターだった。

 どう考えても素手で挑むタイプの相手ではない。絶対痛いよね。

「勿論。今からあなたにはリビングメイルに戦ってもらうのよ」

「あのいかにも肉を切らせて骨を切る戦法をしてそうな相手を?」

「肉は無いわよ」

「言葉の綾だよ。とにかく、高い防御力でごり押してくる相手に攻撃力で挑めってこと?」

「そうよ。問題ないからさっさと戦いなさい」

「っ!?」

 説得するのが面倒になったのか、杏奈さんは俺の背中を押してリビングメイルの正面に立たせた。

 最初から結構近くに居た気がするのだが、鎧で視界を塞がれているせいなのか相当目が悪いらしく、杏奈さんに押されて3m程度の間合いに立ったタイミングでようやくこちらに気づき、臨戦態勢に入った。

 俺もそれに合わせて目の前に相手のみに意識を向けた。

「防御力はまだまだだからあれ食らったら駄目だよな……」

 この間暴力を受けたことである程度耐久力は増したが、剣で切られても平気でいられるレベルではない。

 それにここはB級ダンジョン。いくら目の前の相手が防御寄りだったとしても同級生より素の力は大きいはず。

 だから基本的には一発もくらってはいけない。

「なら、どう見ても目が悪そうだし背後から迫るとか、盾で攻撃しにくそうな位置に立つとかしかなさそうかな……」

 というわけでリビングメイルをかく乱するべく全力で周囲を回ることにした。
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