上 下
8 / 20

8話

しおりを挟む
「大きくなっても楽屋は変わらないんだね」

 何度もライブを重ねてきて慣れたのか、今までで最大規模のライブの筈なのに平気そうな顔をしている翼。

「三人しか入らないし家ではないから」

 凜はそう答えてはいるが、畳の床に寝そべりつつスマホで動画を見ている。まるで家のように。

「まあここに居る間はしばらくすることが無いからね」

 大体のライブでは、一番目の場合控室に着いてから15分でライブが始まるというのが大体の目安。呼び出しの簡略化の為に、一組目と同タイミングでほぼ全組が控室に呼ばれるので控室に着いてから30分くらいが平均の目安となる。

 つまり楽屋にいる間は最低でも30分以上暇な時間があるというわけで。目の前の凜が爆誕したというわけ。

「ヒミコさんとはまた会ったの?」

 翼がこの間の事を聞いてくる。

「会ったよ。二人にもよろしくだって」

「相変わらず仲が良いねえ」

 今後も頻繁に会うのは分かっているので、ヒミコと一緒に遊んでいることは隠さないことにしていた。

「とかいう翼もココロさんとよく遊んでいるんでしょ?」

「イエス。あの人本当にかわいい」

 私とヒミコだけでなく、翼と凜もそれぞれココロさんとサクラさんと仲良くしており、結果的にグループとして密接な関係になっていた。

 サクラさんがSNSに凜とのツーショット写真を上げたことにより、ネットでもその情報が話題となっていた。

「そちらも仲が良さそうね」

「でしょ~」

 嬉しそうに笑う翼。大好きだったアイドルと友達になれて本当に嬉しいらしい。

「その分私達も早く人気にならないとね」

「そうだね。『YAMA』の横にいて恥ずかしくない位人気なアイドルグループになろう」

「当然よ」

「magic starsさん、控室の方まで来てください」

「「はい」」

 そんな会話で士気を上げていると、丁度良いタイミングでスタッフから呼び出された。

「ほら、凜行くよ」

「はーい」

 私たちは着替えを済ませ、控室までやってきた。すると、既にほとんど全部の組が揃っていた。

「新人のくせに随分と遅かったわね」

 到着したばかりの私達に背後から声を掛けてきた。

 振り返ると、そこに居たのは『loveshine』の方々。結成してから10年程経っており、アイドルの中ではベテランに位置するグループだ。

「スタッフさんに指示されてからすぐにやってきたと思うのですが」

 別に私たちは悪いことをしていない。言われた通りにやってきただけだ。

「新人は他のアイドルの30分前には集まって隅っこに立っておくものでしょう!」

 なんとも全時代的な風習を持ち出してきたな。いや私の方が昔を生きていたけども。

「はい!すみませんでした!」

 翼は素直に謝罪した。本当にこれが業界の風習だと思ったのだろう。

「そんな話聞いたことない」

 凛は正直にそう言った。

「こっちの子はまともなのに、あなたは先輩の言うことが聞けないのね」

「そもそもアイドルにはスケジュールがあるんだから30分前に絶対集まるなんて無茶苦茶」

 珍しく凜が正論を言っていた。というより本当に分かっていないから言っているのだろうけど。

「生意気な子ね。そこで見ているあなたもよ」

「私ですか?」

「あなたも自分は悪くないって思いこんでいるみたいだけど、私達にたてつこうって言うのね。そもそも新人の癖にここまで出しゃばってくること自体が既に生意気なのに」

 後ろのメンバー共々私達を恨めしそうな目で見ていた。

 リーダーしか話していなかったけれど、後ろにいるメンバーも同じ考えらしい。

 嫉妬というのは面倒なものね。

「話はそれだけですか?」

 正直イラっと来ていた。数年後には世界的人気を誇るトップアイドルになっているこの私に、たかが先輩風情がありもしないこと並べ立てて鬱憤晴らしをするなんて。

「それだけって、そんなに私達の言うことが聞けないっていうのね。後で覚悟しておきなさい」

 リーダーはそう言い残し、他のメンバーと共に去っていった。

「怖かったよ……まさかあんな人だとは思っていなかった」

 アイドル好きの翼も流石に恐怖心で謝罪していたようだった。

「怖い人?」

「「凜はそのままでいいよ」」

「まあもし何かあっても私が全て守ってあげるから安心して」

 私と共に世界を取る仲間たちを傷つけたりはしないわ。

「ありがとう!」

 翼は私に抱き着いてきた。相変わらず可愛い子ね。思わず翼の頭を撫でた。

「とりあえず私たちの場所へ行きましょう」

「そうだね」

「うん」

 私達はグループに用意された場所に座り、順番を待つことにした。

「痛っ!」

 すると突然、凜の背後に何かが飛んできたらしい。

「どうしたの?」

 翼が先に声をかけた。

「分からない。何かに刺された気がして」

 そう言って凜はうなじあたりをさすっていた。

「ただそんな跡は無いね、何だろう」

 その痛みに反し、原因は見つからない。

 虫かなと思って周囲を見渡してみると、私達を見て笑っている『loveshine』がいた。何か知っているのだろうか。

「うっ!」

 そんなことを考えていると、翼にも何かが飛んできたらしい。しかし凜と違ってこちらは鋭いものでは無く、何か大きいものに殴られたような反応だった。

「大丈夫?」

 私は翼に声をかけた。

「うん。別に痛みとかは無いから。けど何が起こったんだろう」

「なるほどね」

 ここまで露骨だと、魔法による嫌がらせでしょう。

 犯人はほぼ確実に『loveshine』。証拠が残らないからと言って調子に乗っているみたいね。

 こんなことをするのは所詮三下と言いたいところだけど、10年もやっているだけあって魔力はそこそこ多めのようね。

 全盛期ならどうとでもなるけど、今は怪しいわね。それにあの様子を見るにメンバー全員が魔法を使えるみたい。

「!」

 そして私にも魔法を撃ってきた。この程度のジャブであれば今でも問題なく対処できるけど、ここで魔法が使えることがバレると面倒なので、一旦受けることにするわ。

「え?服が……」

 痛みから立ち直っていた凜が真っ先に気付く。ライブで使う大事な衣装が裂けてしまった。

「もしかしたら寿命だったのかな。けどこの位なら直せるから、ちょっと待ってて」

 私は裂けた衣装を着たまま、近くのお手洗いに直行した。

 そして個室に入り、魔法で修復を施す。

「早く戻らないと」

 私はそのままお手洗いを出て、二人の元へ向かった。

「良かった」

 どうやら二人は無事みたい。他に何の被害も受けていない所を見るに、これ以上やったら騒ぎになるからと止めておいたのでしょう。

「え?もう直したの?」

「簡単な修復だったからこの位余裕」

「さっすがアリスちゃん!」

 翼は明るく振る舞っており、先ほどの魔法を食らっても精神的には問題ないらしい。

「どうやったの?裁縫道具持ってきてたっけ」

 凜はこの短期間で直してきたことに疑問のようだった。

「一応ね。秋が念のために持っとけって言って荷物に詰められてて助かったよ」

 一応納得した素振りは見せるものの、完全には腑に落ちてはいないらしい。

 やっぱり魔法の事を話した方がいいのかな。

「あ、次だって!」

 そんなことをしていると、翼が私たちの手番が次にまで迫っていることに気付く。

「それじゃあ行こう!」

 私たちは小走りでステージ裏へ向かった。

「やっぱり人多いね……」

 ステージ裏にまで客の歓声が響いていた。前回もステージ裏から声は聞こえていたが、アレは単に観客との距離が近かったから。しかし今回は軽く10mは離れているはず。私達が今回立つ舞台の大きさを実感させられた。

 正直な話そっちだけで手いっぱいなのだけど、私は今回もう一つやらなければいけないことがある。

 それは『loveshine』の対処。

「もう来られたんですか?」

「新人の子達を見てあげたくてね」

「どんな無様な面を見せてくれるのかしら」

「せめて失敗して観客のテンションは下げないようにしてね~」

『loveshine』は容赦なく煽りの言葉を吐いてきた。魔法で邪魔をして笑いものにしようという魂胆なのだろう。

「そうですか。行こう二人とも」

「「うん」」

 これ以上長居して二人のテンションを下げる方が問題だ。私は『loveshine』を無視することにした。

「あ、そうだ。二人に渡したいものがあるんだ」

 私はポケットからそれを取り出して、二人に渡した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~

すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》 猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。 不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。 何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。 ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。 人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。 そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。 男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。 そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。 (

転生して捨てられたけど日々是好日だね。【二章・完】

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
おなじみ異世界に転生した主人公の物語。 転生はデフォです。 でもなぜか神様に見込まれて魔法とか魔力とか失ってしまったリウ君の物語。 リウ君は幼児ですが魔力がないので馬鹿にされます。でも周りの大人たちにもいい人はいて、愛されて成長していきます。 しかしリウ君の暮らす村の近くには『タタリ』という恐ろしいものを封じた祠があたのです。 この話は第一部ということでそこまでは完結しています。 第一部ではリウ君は自力で成長し、戦う力を得ます。 そして… リウ君のかっこいい活躍を見てください。

魔法適性ゼロと無能認定済みのわたしですが、『可視の魔眼』で最強の魔法少女を目指します!~妹と御三家令嬢がわたしを放そうとしない件について~

白藍まこと
ファンタジー
わたし、エメ・フラヴィニー15歳はとある理由をきっかけに魔法士を目指すことに。 最高峰と謳われるアルマン魔法学園に入学しましたが、成績は何とビリ。 しかも、魔法適性ゼロで無能呼ばわりされる始末です……。 競争意識の高いクラスでは馴染めず、早々にぼっちに。 それでも負けじと努力を続け、魔力を見通す『可視の魔眼』の力も相まって徐々に皆に認められていきます。 あれ、でも気付けば女の子がわたしの周りを囲むようになっているのは気のせいですか……? ※他サイトでも掲載中です。

王都交通整理隊第19班~王城前の激混み大通りは、平民ばかりの“落ちこぼれ”第19班に任せろ!~

柳生潤兵衛
ファンタジー
ボウイング王国の王都エ―バスには、都内を守護する騎士の他に多くの衛視隊がいる。 騎士を含む彼らは、貴族平民問わず魔力の保有者の中から選抜され、その能力によって各隊に配属されていた。 王都交通整理隊は、都内の大通りの馬車や荷台の往来を担っているが、衛視の中では最下層の職種とされている。 その中でも最も立場が弱いのが、平民班長のマーティンが率いる第19班。班員も全員平民で個性もそれぞれ。 大きな待遇差もある。 ある日、そんな王都交通整理隊第19班に、国王主催の夜会の交通整理という大きな仕事が舞い込む。

のぞまぬ転生 暴国のパンドラ

夏カボチャ
ファンタジー
逆恨みから1000回目の転生に繋がる異世界転生、全ての世界の経験が1人の元少女を強くする!

魔王の息子に転生したら、いきなり魔王が討伐された

ふぉ
ファンタジー
魔王の息子に転生したら、生後三ヶ月で魔王が討伐される。 魔領の山で、幼くして他の魔族から隠れ住む生活。 逃亡の果て、気が付けば魔王の息子のはずなのに、辺境で豆スープをすする極貧の暮らし。 魔族や人間の陰謀に巻き込まれつつ、 いつも美味しいところを持って行くのはジイイ、ババア。 いつか強くなって無双できる日が来るんだろうか? 1章 辺境極貧生活編 2章 都会発明探偵編 3章 魔術師冒険者編 4章 似非魔法剣士編 5章 内政全知賢者編 6章 無双暗黒魔王編 7章 時操新代魔王編 終章 無双者一般人編 サブタイを駄洒落にしつつ、全261話まで突き進みます。 --------- 《異界の国に召喚されたら、いきなり魔王に攻め滅ぼされた》 http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/952068299/ 同じ世界の別の場所での話になります。 オキス君が生まれる少し前から始まります。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...