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4話

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「どうしてこれなの?」

 蒼井さんは選曲に納得いっていないようだった。

「オリジナルじゃないんですね~」

 日野さんの発言で意図が分かった。確かに、歌を仕事にするのに人の曲を使うのは変ね。

「だってお金ないし」

 大原さんはあっさりと言い切った。

「この馬鹿はあなた達3人を満足に迎え入れることだけにお金を使っちゃったせいで会社の貯金はすっからかんなのよ」

 はい?

「というわけで、既存の曲をお借りしなければならないってわけです」

 所属が私達しかいないのは何となく察してはいたが、そこまで悲しい状況だとは思わなかった。

「まあこのアリスちゃんの手にかかれば、一瞬で億万長者だもんね!大丈夫!」

 と、あまりにも無責任な発言をする秋。

「だったら私の手伝いをしてくれるよね?」

 そんなことを言うのなら逃がしてあげないわ。地獄の底まで付き合ってもらう。

「えっと、それって?」

「とりあえず、曲を覚えるのを手伝ってほしいわ」

 この女を馬車馬のように働かせてやるわ。

「仕方ない。一肌脱ぎましょう!」

 やけにノリノリね。これなら上手いこと頑張ってくれそうね。

「曲を覚えるために必要だから、ご飯を買ってきて頂戴」

「あいあいさー!パンです!」

「曲を覚えるためにリラックスしないといけないから、肩を揉んで頂戴」

「イエッサー!」

「返事は?」

「サーイエッサー!」

 私はこの2週間、学校内外問わず秋を使い倒した。

 お陰様で快適な2週間を過ごすことが出来た。

 ダンスはって?2回会社に赴いたときに全部覚えたわ。

「ついに君たちの初めてのライブだ。検討を祈る」

 そんなこんなで、ライブ初日。私の魔法使いへの道の第一歩を踏み出す日がついにやってきた。

「アリス、頑張ろー!」

「そうね、翼。凜も」

「分かっているわ」

 曲とダンスを覚えていく中で、メンバーの二人とも仲良くなった。

 これから一緒に信者を集めていく上で必要なことだから。

 それに、この二人はとてもいい子だものね。

 私達は、係員に案内されて控室に入る。

 ちなみに大原ジョンソンは、男だからという理由で控室に入ることが出来なかった。

 というのもこの控室、今回登場する全てのアイドルがまとめて詰め込まれているのだ。

 そんな中で準備や着替えをしないといけない以上、仕方ないよね。

 それに、あの人何もしないし。

 一応社長を務めてはいるのだけど、働いている様子を見たことが無い。

「凄いね!これが控室なんだ!」

「絶対に私たちが勝つ」

 二人とも、他のアイドルたちの様子を見て、気合が入ったようだ。

「そうね。私達が一番に決まっているわ」

 私が居るのだから。一位以外の結果はあり得ない。

「順位付けはしないんだけれどね~」

 翼が突っ込む。

「分かっているわよ。気分よ、気分」

 そんなことくらい分かっているわよ。

「他の人達はどんな感じなんだろうね~」

 そんな私たちの会話を無視して、呑気に観光に来ている女の子が一人。秋だ。

 この2週間、秋をパシ……、秋に手伝ってもらっていたのだけれど、その中で、秋をマネージャーにしたらいいのではないかという結論になった。

「確かに気になるわね」

 と言って周りを見渡すも、誰も分からない。正直知っている人が居ない。

 それはそう。ここに居るのは基本的に新人。アイドルについて疎い私が知っているわけがない。

 私はアイドルを追っかけるより、日曜日に笑う点を見る方が好きな女子高生。

 それでも問題ない。目指すは頂点なのだから。

 まあ、この会場の雰囲気を掴むために他のアイドルグループの雰囲気を見る。

 そこは——元気溌剌といった感じね。
 あそこは——クールさを重視しているのかしら。歌唱力が高そうね。

 正直他をみたところで分からないわね。あまりにも方向性が違いすぎるわ。

 手番は9組中7番目。大体1,2時間後かしら。

 そんなことを考えている間に、ライブが始まった。

 会場はアイドルたちの歌やパフォーマンスによって盛り上がりを見せていた。

 客はライブを非常に楽しんでいる様子。

 私達が登場するステージとして丁度良い盛り上がりだ。

 それを眺めていると順番はあっという間にやってきた。

「行くよ」

「「うん」」

 私達はステージに向かって走り出す。

 会場は私たちをちゃんと受け入れてくれた。

『やあやあ皆の衆。私達はmagic stars。皆を信者にするためにやってきた魔法使いだ。さあ、崇めるがよい!』

『はいはーい。この人は放っておいて、自己紹介始めましょうか。私は日野翼で~す』

『蒼井凜。よろしく』

『おい翼!私はリーダーだ!崇めよ!そして民衆!私は星野アリス!しっかりと目に焼き付けておくがよい!』

『ではでは最初の曲!インフル&サー!』

 それから私たちのライブが始まった。完全に自画自賛ではあるが、2週間で覚えてきたとは思えない完成度だったと思う。

 私は当然として、凜も翼も歌と踊りは完璧で、ファンサービスもしっかりと好評だった。流石私と並び立つためにやってきた二人ね。

 1曲終わるごとに会場のボルテージは上がり、3曲目ではこのイベント最大の盛り上がりを見せていた。

 客にも疲れが見え始める後半なのにこの反応。私達の初ライブは類を見ない大成功だと言える。

「さっすが3人共!最高の出来だったよ!」

「イェーイ!」

 私達は舞台袖で待ち構えていた秋とハイタッチをした。

 秋の反応的に、私だけの勘違いとかでは無かったようね。

 ひとまず第一段階成功、かしらね。

 成功を祝して軽い打ち上げをした後、明日の学校に行くために急いで帰宅した。

 それから1週間後。

「ファン、そこまで増えなかったねえ」

 秋の言う通り、あれだけの大盛況の割にはあまりファンが増えた感覚は無かった。

「そりゃあ500人程度の箱ですもん。増えた所で大した人数にはならないよ」

 あっさりと言いのける大原ジョンソン。

「じゃあ何のために?」

 私の代わりに、凜が聞いてくれた。

「はっきりと話すと、実力試し兼お金の為です」

 大原ジョンソンの代わりに、森川さんが答えてくれた。

「あのライブ寸前で解散しちゃったグループがあってね。その埋め合わせとして出る代わりに出演料をがっぽり頂いたんだ。これはそのお給料だよ」

 秋を含めた全員に、お金の入った封筒を渡した。

「良いんですか?」

 翼は心配そうに聞く。

「この事務所は安定した給料なんて与えられないからね。基本成果報酬だ!」

 目の前の男は頼りないことを堂々と言い張った。社長としてどうなのかとは思うが、仕事相手としては誠実ではあると思う。

「ということですので、早く安定させるために次の施策を打たないといけません」

 森川さんはそう言った後、倉庫から段ボール箱を取ってきた。

「そう!ネット活動!」

 段ボールの中に入っていたのは、カメラなどの機材の数々だった。

「私たちには知名度も無いし金も無い。あるのは私のコネだけ。普通なら様々なライブにねじ込ませてもらうのが定石なんだけれど、遠征にかかるお金が馬鹿にならないし、今回みたいにお金を貰えないことの方が多い」

 大原ジョンソンは歩き、近くにあったホワイトボードをひっくり返した。

「ならばどうするか。何もない所からお金を稼ぎつつ人気の向上を目指すんだ。この間のライブで大成功を収めた君達にはそれを可能にする実力がある」

 そこにはあらかじめ練られていたのであろう企画が列挙されていた。

「さて掴もうじゃないか。OurTubeドリームを!」

 私達の次の舞台は、なんとネットの海だった。
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