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2話

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「ここが、東京!」

 私がアイドルとしてデビューし、魔法を取り戻すための本拠地となる場所。

「にしてもすっごい大きい」

 周りを見渡すと地元一高いビルに匹敵する高さの建物が立ち並んでいる。映像以外で見たことが無かったけれど、これほどの物なのか。

 私の時代からは考えられないなあ。魔法が無くなってしまう理由もよく分かる発展ぶりだった。

 私がこの時代に来た時と同じ感動を再び味わっている。目の前に広がる全てが新しい。全てが輝いて見える。

 世の人たちは山の上から見える景色が綺麗で美しいとよく言うが、この都会の光景もそれに匹敵していると思う。

 人類の歴史数千年の成果なのだ。その努力の結晶が美しいわけがない。

 私が記憶を持って転生できたことに感謝だ。

「とりあえず宿に向かわねば」

 もう6時なので早めにホテルにチェックインしないと。

「ふう。辿り着いたよ」

 親が予約したのは、銀座にあるホテルだった。

「流石銀座だね」

 銀座は銀と付くだけあり非常に高級感あふれる街並みで、ただの女子高生がここを通っていいのかと少し尻込みさせるくらいだった。

「まあ、私は日本一のアイドルになるので。寧ろこの程度じゃ私の素晴らしさには敵わないわ」

 ここからご飯を探す気にもならなかったので近くにあったコンビニでご飯を済ませて就寝した。

「はい、ということでオーディションを始めたいと思います。呼ばれた方からこちらの部屋に入ってください」

 遂にオーディションが始まった。数多くの大人たちがせわしそうに動いている。今日の為に色々準備してきたのだろう。

 ちょっと緊張してきたわ。

 周囲を見渡すと、全国各地から集まってきたであろう女の子たちが大人しく座っていた。

 色んな年齢の子がいるのね。

 高校生くらいの人が多いのかと思いきや、社会人位の人や、小学生までいた。

 あまり共通点は感じられないけれど、一つだけ分かることがある。

 皆ある程度可愛いということ。

 ま、私には及ばないけれどね!?

「星野アリスさん、次ですので入ってください」

「はーい」

 呼ばれたので、中に入った。

「失礼します。星野アリスです」

 部屋の中央に一つ椅子が置いてあり、その周囲を囲むように審査員が座って待っていた。

「とりあえず座ってください」

 そう促したのは、真正面に居た40代くらいのおじさん。恐らくボスだろう。

 返事をして言われた通りに座る。

 まずは履歴書の確認だった。ここに関しては特に変なことは無いので言われた通りに応えていく。

「じゃあ、どうしてアイドルになりたいのかな?」

 ここからが本番のようだ。

 皆を笑顔にするため、とかこの人みたいなアイドルになりたいから、とか無難な答え方をするべきか色々考えたよ。

 今までの人生でアイドルになろうと思ったことも興味を持ったことも無いので、秋にも少し相談した。

 その結論は、

「数多くの信者を獲得して、力を手に入れるためです!」

 正直にぶちかますことにした。やっぱりインパクトだと思うのよ。とは言っても魔法の事は離せないからぼかしたけれど。

「あ、はい。設定の話かな?」

 アレ?意外と反応が悪い…… 人気のアイドルにこういったことをしている人が多いって聞いたんだけど?

「嘘偽りない本当ですよ……?」

「そ、そうですか」

 一番右側に居る審査員の方が大爆笑しているだけだった。

「と、とりあえず次の質問をしますね。自己PRをお願いします」

 受けは悪い、けれどここで引いたら私の負け。突き進むしかないわ。

「私の魅力の一つは、この卓越した頭脳!もう既に高校生に相手になる方はおりません。県内一の進学校に入り、成績は常にトップ。全国模試でも一位をマークし続けている。そんな私にかかれば、アイドルとして活動し、ファンを稼ぐなんてお手の物。この美貌と合わせて日本一のトップアイドルになって見せると宣言して見せますわ!」

 反応はさらに冷え切っていた。どうして!私はこんなにも素晴らしいのに!

「えっと、じゃあ、歌唱力を確かめたいので、何か歌を歌ってください」

「はい、では」

 私が選んだのは有名な演歌である「海の流れっぽく」。

 生まれた時から気に入っている子の曲で打ち震えるのよ!


「とても素晴らしい歌でした」

「ありがとうございます」

 歌の反応は上々。当然ね。一番右の人がずっと笑っているのが気に入らないけれど。

「最後に何かありますか?」

「一つだけ。私は確実に日本一のアイドルになります。ここで採らないのはあなた方の大きな損失になるわ。それだけは覚えていてね」

 私はそれだけを言い残し、会場を後にした。

「反応は悪かったけれど、受かるのは確実でしょう」

 自分の実力を鑑みれば、受からないなんて選択肢が無いのは必然。早く結果が来ないかしら……


 そして数週間後、郵便受けに結果が届いていた。

『不合格のお知らせ』

「どうしてよ!私の何が駄目だったというのよ」

 私は不合格の通知を受け、一人憤慨していた。

 この星野アリスを落とすなんて、見る目が無さすぎるわ。

 ま、そんな見る目の無い事務所に入らなくてよかったとも言えるわね。


「で、どうしようかしら……」

 流石に交通費がかかりすぎるので何度も別の会社のオーディションを受けるのは無理なのよね。

 かといって魔法を諦めるわけにもいかないし……

『prrrrrrrr!』

 そんなことを考えているとスマホに着信があった。

「知らない番号ね。誰かしら。もしもし」

 特に迷うことなく電話を取った。

『もしもし、星野アリスさんの電話番号で間違いないかな?』

「はい、合っています」

 私、男の人に電話番号を教えたためしは無いのだけれど。

『今少し話しできる?』

「ええ。大丈夫です」

『僕はアイドル事務所、ワンダーランドの社長をやっている大原ジョンソンだよ。聞き覚えある?』

「全く」

 そもそもアイドルに興味なかったからね。

『あら、割とアイドルプロデュースしてきたんだけどね。残念』

「結局何の用ですか?冷やかしですか?」

 もし私が落ちたことに何か言うために連絡してきたのだったら趣味が悪すぎるわ。

『いや、そうじゃなくてね。ウチの所属のアイドルにならないかって思って連絡したんだ』

「私、あなたの所に応募した覚えは無いのですが」

 私が応募したのは後にも先にもあの会社だけ。ワンダーランドとかいう聞き覚えの無い会社に応募した記憶なんて無いわ。

『そりゃあそうだよ。起業したばっかりだもん。募集すらまだだよ』

 何なんだこの人。

「じゃあどうして私を知っているんですか」

『それは勿論、あのオーディションに居たからだよ』

 もしかして、

「一番右で笑っていたあの男ですか?」

『そうそう、それが僕』

 こいつがあの失礼な奴か。

「馬鹿にしているんですか?」

『いやいや、君にアイドルの素質があると思ったから連絡したんだよ』

「ならどうして落としたんですか」

『君、アイドルとして素晴らしいかもしれないけれど、AK坂39みたいな大所帯のグループには適していないからね。あまりにも我が強すぎて他が目立たなくなっちゃう』

 私の魅力に全てが霞むのは仕方がない。けれど、

「それがアイドルという人気商売じゃないんですか?」

 食って食われて。それが芸能界だと聞いている。力の無いものから脱落するのは必然では無いのか。

『Ak坂みたいなグループはそのグループとして人気にするものなんだ。誰かが居なくなっても人気であり続けなければいけない。君に人気が食われてしまったら、君が抜けた時に大打撃を食らうんだよ』

「そういうことですか」

 確かに、私が居たら私だけに人気が集中してしまうわね。

『だからあのオーディションは落ちたけど、君を失うにはあまりに勿体ない。僕と一緒に天下を取らないか?』

「良いでしょう」

 私の魅力に気付いたあなたに免じて、一緒に活動してあげましょう。

『じゃあ今後の打ち合わせをしよう』

 晴れて、私はアイドルとして活動していくことが決まったわけで。
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