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才能開花
しおりを挟むあたーらしいーあさがきたー
きぼーうのあさーだー
なんて頭の中で歌が流れ出しても私に希望は訪れない。死んだ目をして目を開けるとそこには恐らくお姫様ベッドの天蓋が....ああ、夢じゃなかったよ。
なんだか何も信じられなくなってもう一度上質な肌触りの布団を被る。私はもう疲れたよ...夢の中へ逃げさせてくれ。
瞳を閉じかけたその時、ふと、布団が引っ張られた。
「おお、おじょうさま...朝食の用意ができておりますので...」
......は?
声をした方を見れば、紺色の髪をした五歳くらいの少年が涙目で見つめていた。
おどおどしく、美形の少年が口を開く。え、誰この人。
「...だれ」
「わ、私はフェリックス・ウィルキーでございます」
......あぁ、昨日のひ弱ナイーブ小僧か。へぇ、そっかそっか...
「うわぁぁぁぁぁ!」
「ど、どうされました!?おじょうさま!」
なんで私の部屋にいるんだ!?この人薬師の弟子とかだろ、私を殺すかもしれない人が朝一で自分の部屋にいるなんて、いつ殺されてもおかしくないじゃないか。というかこの部屋のプライバシーどうなってるんだ。
「な、なななんでここに...」
「なんでって、おじょうさまがわたしをお世話係に任命したからで...」
お嬢様ァ!一体なにやらせてるんだ!この子男だよね?しかも使用人じゃないのに、初恋の相手だからってこんな事までやらせてたらそりゃ怒りも買うぞ。 5歳だぞ、5歳。ショタじゃないか。
「...とりあえず朝食食べます...あの、フィリップさん、その後少しお話ししたい事が...」
「は、はい!よ、喜んで...あと俺フェリックスなんですけど」
とりあえずこの怯えっぷりをなんとかしなくては、と考えを口にするがフィリップには逆効果だったようで、まるで死刑を宣告された罪人のように顔を真っ青にさせた。お嬢様、ほんとこの子になにを言ったんだ。
朝食、団欒。
朝のブレックファーストといえばそんな言葉を思い浮かべる人も多いだろう。私も和やかな家族と美味しい食事に囲まれて朝食を摂るもんだと思ってた。ついさっきまで。
しかし、今この場はまるで地獄と化していた。
「アリシア、どうだい?君の好きなフレンチトーストは」
「そうですね、美味しゅうございます。イヴ、食事のマナーを忘れたのですか。貴族の令嬢たるもの、完璧にしなくては...」
「き、気をつけます」
「そ、そうだ、今日は散歩にでも行こうか!久々に家族揃って」
「旦那様、そんな日暇あるとお思いで?」
「....すまない」
なんだよこれ、昨日までの家族の再会はどこ行ったよ。優しいお母様はどこへ...え、家族仲も悪いんですか?
お父さんがお母さんに必死になって会話を続けようとするけどお母さんは毎回ブツリと効果音がなるくらい会話を切るし、私の食事マナーがなってないのかお母さんは怒るし、義理兄のフランは笑顔を一度も絶やさずずっと無言だし。
非常にお父さんが可哀想な図が出来上がっている。お父さん、貴方はなにも悪くない。そう言いたかったけれど、恐らくここで私が口を開くとお母さんが更に怒ることは目に見えているので口を噤む。
というか、フランのあの様子。あれはだいぶヤバイぞ。私の直感が言っている。あの笑顔の裏に闇を抱えているのは間違いないだろう。
なんなんだ、この家族...破滅しか見えない。
新たな破滅フラグを発見したところで待ちに待ったフィリップ君との対談である。うわぁ!どこに行っても死亡フラグしかないよ!詰んだね!
「お、おおお話しとは、なんでしょうか」
虎に狩られる前のウサギのような、生まれたての子鹿のような。とりあえず恐怖に怯えてる、という事だけは分かるフィリップ君が私の部屋に来たので早速策を行動に移した。
「まず、なんですが。この度は誠に申し訳ありませんでした!」
日本の最大の謝罪、土下座である。ん?今はイギリス風の異世界だって?そんな事私は気にしない。
「お、おじょうさま!?ど、どうなされまし...」
「色々ツンデレの暴言吐いてすみませんでした!お世話係なんて付けてごめんなさい!頼むから嫌わないで下さい!」
「お、おじょうさまの命ならば...」
「命令とかじゃないんです!すぐ許してくれとは言いません!でも中身は心を入れ替えたんです!嫌わないでぇぇ!」
「わ、分かりましたから!とりあえずお立ち下さい」
フィリップ君に体を起こされる。
半泣きの私に突如現れた宇宙人を見るような困惑した目でもうやめてくれと、訴えられた。
仕方ないじゃないか、このまま殺されるよりだったら謝罪でもなんでもしてやる。
「...嫌わない?」
「え、ええ。善処します」
コイツ内心なに言ってんだコイツって思ってる。絶対思ってる。まぁ、仕方ないか、私じゃなくても私がやっちゃった事なのだから。
「...お世話係はもうしなくていいよ。自分でできるし。だからその分一日中10分でいいからお話ししよう」
こうなったら時間をかけて仲良くなる作戦だ。ついでにフラグ回避方法とかも教えてくれると期待してね。朝っぱらから殺されるかもしれない人に起こされるなんてごめんだし。これで私の睡眠も守られる。
「は、はい。分かりました」
「じゃあ、明日のこの時間に。甘い物は好き?」
「は、はい」
「じゃあ用意しておくから」
戸惑いを隠せない、と言った様子で去っていくフィリップ。閉じた扉の前で、私はよっしゃと、ガッツポーズを決めていた。やはり流されやすい性格だったようで助かった。押せばなんとかなるな、フィリップ。
誰もいなくなった部屋で、これからどうしようか考える。まずこの長ったるい髪を切ろう。歩く度にフサフサめんどくさい。それにこの服も動きづらいし変えよう。
クローゼットの中を漁り、なるべく動きやすい服を探す。しかし出てくるのは派手な服や何やらじゃらじゃら付いている動きにくそうな服ばかり。お嬢様こんなに服どうするんだ、こんな必要ないだろ。後で売れるか聞いてみるか。
更に奥を探す。すると短パンの繋ぎ風の服が出てきた。茶色のいかにも動きやすそうな服だ。お、これにしよう。
そして側にあったハサミを使ってごみ箱らしき物の上で髪を切り落とした。長さは高校生の時と同じくらいの肩より少し下に。
「よし、ここからは私の逆転劇だ」
もうこれで私は、イヴではない私である。
六人の死亡フラグだろうが、破滅まっしぐらな家族構成だろうが処刑フラグだろうがかかってこいよ。まとめて蹴散らしてやる。
キッチンでこっそり目を盗みクッキーを作り終える。基本勉強はダメな私だが美術と体育と家庭科だけはできるのだ。副教科だけできる、一番ダメなパターンである。
というかここ何でも揃ってるな、まるでどこぞの料理番組のようだ。オーブンみたいな機械もも電気じゃない何かで動いているみたいだし。
そう、この世界、まさかまさかの魔法がある世界だったのだ。昨日お風呂に入るときメイドさんが魔法みたいなものを使ってお湯を沸かしていたり、聞くところによると電気もこの屋敷の人の魔力で付いているらしい。これは私も大興奮である。私も何かできるかもと思って厨二病みたいな事をしてみたがただの痛い6歳児になってしまった。...発動には何かしらの条件がいるのかもしれない。
そんな時である。ふと、玄関の客人の来訪を告げるベルが鳴った。...もしかして、アラフィフ叔父さんかもしれない!
「お嬢様、オリバー様とレイモンド様がいらっしゃいました!」
...そりゃアラフィフ叔父さんが来るなら超不機嫌野郎も来ますよね。うん、知ってた、知ってたよ、私。
メイドさんから外に連れ出される。恐らくお父さんの命令だろう。するとそこにはまたもや超不機嫌野郎ことレイモンドさんが真っ黒なオーラーを出して立っていた。ああ、お父さん、私とこの人明らかに体育会系じゃないの見たらわかるだろ。
子供たちは外で遊んでいなさい、と放り出されて早十分。館の庭で長閑な春の日差しを浴びながら、レイモンドさんは読書を私はひたすら暇を持て余すという状況が続いていた。
話しかけようとすれば、喋るんじゃねぇぞオーラが漂ってくるのだから仕方ない。あぁ、暇だ。この私、暇になると基本的に何かしでかすたちである。その為長年暇になると友達や家族から水泳だの美術だの裁縫だの色々とやらされていた。更にお母さんからは、暇になったらすぐに言いなさい、パズルでもなんでも買ってきてあげるから、と言われ続けてきた位である。
仕方ないじゃないか、私も好きで問題を起こすわけではない。何かするとそれが大ごとに巻き込まれるのだ。
それに暇な事もあまり好きではない。流石にこの状態何時間も続くのは私にとって辛いものがあるので意を決して口を開く。
「レイモンドさんはどんな魔法が使えるんですか?」
「.....」
無視しやがったぞ、コイツ。くそう、こうなったら嫌でも答えるように話し続けてやる。
なんで帽子被ったままなんですか、とか髪長くないですか、など質問をし続けて5問目。やっとレイモンドさんは口を開く。
「私魔法が使えないんです。こう、発動の条件とかってあるんですか?」
「...使えない?その年なら既に使えるはずですが」
やっと興味を示したのか持っていた本を閉じ私に視線を向ける。
「使えないんです。やり方知らないし...」
「全身の力をある一点に集中させるんですよ」
言われて通り、手のひらを向けて念を込めてみる。しかし、何も起こらないし変わらない。
「...できません」
「...こうやるんです」
レイモンドさんは渋るように手のひらを出すと、何やら目を細める。数秒の沈黙の後に何やら小さい水滴が手のひらに集まっていき、小さい水の塊が作られていく。段々大きくなっていったと思うと破裂して消えてしまった。
「...ぃ」
「...なんですか?嫌味ならお断りし...」
「...え、すごい!!ど、どうやったんですか!?うわなにこれ超ファンタジー!いいですね、私にもできますか!?これ」
「...は?」
レイモンドさんの目が大きく見開かれる。
本日二度目の、なに言ってんだコイツって目ですね。いや、でも今回は私はなにもしていない。褒めただけである。
「あなた、魔法の属性って知ってます?」
「...しらないです」
属性...なんかやっといかにも魔法世界、異世界って感じがしてきたぞ...。すごいワクワクする。
「この世界の人間は三つの属性に分かれています。一番多いのが、目に見えない力を使う不可視能力。二番目に多いのが今の私みたいな目に見える炎や水を扱う可視能力。一番少ないのが昔の奴隷で多かった身体強化能力です。なので身体強化能力を持つ者は比較的差別されています」
ほうほう、とレイモンドさんの魔法講座に耳を傾けながら胸を高ぶらせながら考える。私はどんな事ができるのだろうか、ラノベみたいに火の玉を撃ったり凍らせたりできるのだろうか。
「使える属性は基本遺伝され、親が別々の属性を持っている場合、どちらかに固定されます。しかし、効力は小さいですが固定されなかった属性も一応使える者も発見されていて...って、楽しそうですね貴方」
「超、むちゃくちゃ楽しいです。ところでなんですが、私ってなんの能力か分かりますか」
「...もしかしたらまだ才能が開花してないのかもしれませんね。まあ5歳から7歳の間に多いだけで決まってませんし」
「そうですか」
ちぇ、まだ開花してないか。悔しさに、側に落ちていた小石を投げる。その瞬間、何故か風が巻き起こり、ドンッという強い音が鳴り響いた。
「...え」
音をした方を恐る恐る見る。そこには先程まであった壁が無くなり、30センチくらいの穴が空いていた。もう一度言う、穴が開いていた。
「......レイモンドさん。貴方はなにも見ていない。いいですね?」
「クッ、ふははっ。はい。貴方が小石を使って壁に穴を開けたなんて、私は知りません」
...バッチリ見られていた、しかも笑ってるし。くそう、まずいじゃないか。さっき聞いた話では一番少ない属性のはずなんだけどな、しかも差別されてるらしいんだけどな...私はどれだけ死亡フラグを抱えてるんだ。
お母さんがだから何もするなって言ったでしょ、と言った気がした。確かに、私が何かすると余計な事しか起こらないね。
「...面白いものを見せていただいた代わりに、貴方の為になる事を教えてあげましょう」
「...なんですか?」
何か悪巧みをするような口元に、寒気が走った。なんだか、すごく嫌な予感がする。
「貴方のお母様、気をつけないと寝取られますよ」
......は?
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