上 下
30 / 70
第1章 初めての町(タカギ)

第30話 俺が本を読むことはできるか不安な件

しおりを挟む

閲覧いただきありがとうございます。
誤字訂正、ご意見ご感想などもお待ちしております。
お気に入り設定など、作者の励みになります。

これからもご愛顧のほどよろしくお願いいたします。

-------------------------------------------------------------

翌朝目覚めたのは11時を過ぎた頃だった。

窓からは既に日の光が入ってきている。

ベッドにはヒバリさんの姿はなかった。
顔を洗おうと洗面所に向かうため寝室を出た。

リビングにもダイニングにもヒバリさんの姿はなかった。

『ヤスト様、ヒバリ様は訓練室におられます。』

あらかじめヒバリさんが仕込んでおいたのだろう、
1体のマリオネットが俺にヒバリさんの行き先を教えてくれた。

「ありがとう。」

ついついお礼を言ってしまう。
マリオネットは反射的に笑顔で『どういたしまして。』と答える。

一度洗面所に向かい、顔を洗いうがいをしてリビングに戻る。

『ヤスト様、ヒバリ様は訓練室におられます。』

先ほどと同じセリフをマリオネットが語り掛ける。
要は、『俺がリビングに入ったら決まった伝言を伝える』ように
プログラミングされているようだ。

基本的にマリオネットはあまり複雑な命令はこなせない。
しかし、1つの命令しかこなせないわけではない。
マリオネットの核となる魔石の大きさによりそのメモリーできる
命令の容量のようなものが存在するだけらしい。

先ほどの『ありがとう』『どういたしまして。』の会話も、
あらかじめ組み込まれている。

サルサさんやミサカさんが上手いのは、その条件付けと行動のバランスが
絶妙なのだとマイコさんに教えてもらった。

例えば、『芋の皮をむいて、角切りにする。』という行動があった場合。
サルサさんは『芋を角切りにして、皮がついているものをよける。』という命令にする。
何故かというと芋の形は不定形で、大きいものや小さいものがある。
『皮をむく』という行為はその芋の大きさや形によって状況が異なるため、
毎回同じ操作にはならない。
しかし、サルサさんの命令であれば、芋の大きさや形に関係なく。
毎回決まった、動作を繰り返すことができるそうだ。

まぁその分皮の付いた角切り芋も残るのだが、それは家畜の餌として無駄なく消費するらしい。

マリオネットへの命令方法は結構シンプルだ。
マリオネットの体に触れ、魔力を流しながら、『~の時に~する。』という命令を伝えるだけでよい。
これらの命令を複数組み合わせて、例えば『チキンステーキを作る。』という一つの命令集合体を作る。
命令を集合の形にすることで簡素化され、より容量を少なく実行できるらしい。

ちなみに昨日の夕食の命令は、『食糧庫の中に鶏肉がある時、チキンステーキを作る。』という命令を与えて、
最後に、『チキンステーキが1つできた時、もう1度チキンステーキを作る。』と繰り返したようだ。

少し面倒だなと思うのは、『~ではないとき』『~しない』といった否定形が使えないこと。
基本的にマリオネットは与えられた命令しか行わないので、
例えば夕食の命令だと『チキンステーキができた時、もう1度チキンステーキを作る。』だと、
2食分ではなく、材料が尽きるまで作るらしい。
ちなみに、標準機能として、『何ができる?』と尋ねた場合、
そのマリオネットに登録されている命令の一覧を書き出すようになっている。
その為、いつでも右腰のところに、紙と筆記具が備え付けられている。
一応いくつかのこういった標準動作は魔石の中に直接書き込んであるらしく。
魔力を使って命令の初期化を行った場合も消えないらしい。

ヒバリさんが今やろうとしている狩猟部隊用マリオネットは非常に難しい事なのである。
というか、料理や、農作業、酪農などをさせることができる時点で、サルサさんやミサカさんが
いったいどれほどの命令を覚え込ませているのか想像も付かない。

とりあえず、先ほどの『ヤストがリビングに来た時』の命令はクリアしておく。
マリオネットに触れ該当条件を念じクリアと伝える。そうすることでリソースがまた少し空く。

俺は伝言通り『訓練室』に向かう。
ダイニングキッチンの扉から入るあの部屋だ。
ヒバリさんは何かを一生懸命命令登録していた。

「調子はどう?」

『ヤストおはよう。ん~あんまり進んではいないかな。
 やっぱりなかなか難しいよ。』

「そっか~。じゃあ俺は少し書斎で本でも読んでくるよ。がんばってね。」

『うん。ありがとう。』

「どういたしまして。」

ヒバリさんと少し会話してから、俺は書斎に向かった。
一昨日の夜にアヤメさんと買い物してから、夜伽ばかりで結局読めていないから。

学生の時は正直本を読むと言ってもマンガばかりだった。
しかし、一昨日買った本はマンガとは程遠いものだ。
今のこの世界での知識は正直全然足りていない。
マイコ先生に教えてもらったのも本当に入り口程度の知識だ。
だからこそ今俺は知識欲に飢えていた。

俺は書斎に入り、どの本を読もうかと本棚を見渡す。
といっても本棚はスカスカで10冊ほどの本が並んでいるだけだった。
とりあえず、『魔道具全書』という本を手に取ってみた。
昨日魔道通信機の使い方を初めて知ったこともあり、
魔道具の便利さをつくづく思い知ったからだ。

その本にはこの世界にある色々な魔道具が掲載されていた。
そこにマリオネットに関する、記載もあった。
この世界で、マリオネットは魔道具に分類されているからだ。

『マリオネットは、様々な材質で作成可能であり、
 その基本アルゴリズムは身体動作が主体となる。
 [右腕を上げる]、[左足を前に出す]などの単純動作とは少し異なり、
 クリエイト時点でのマリオネットイメージによるところが大きい。
 単純に[立つ]や[座る]といった身体動作イメージは本来ならバランスをとるために、
 微妙な調整が必要なはずである。
 クリエイト時点でのマリオネットイメージに
 バランスをとることを念頭にイメージされていれば、
 その時点で[立つ]や[座る]といった動作を命令することができる。
 またそれらの詳細な知識イメージと魔石容量は比例せず、
 あくまで命令の量が魔石容量と比例することが研究で判明している。』

「そっか~命令を埋め込む時点でのイメージが大事なのか~~。」

いくつかのページを読み進めていく、
当然魔道通信装置や投影機の原理なども書かれていたが、若干理解できない部分もあった。

この本を読んで分かったことが、いわゆる生産職と呼ばれる人は、
スキル依存というより、生産向けの魔法にどれほど熟達しているかという事らしい。

つまり、ポーションを作るにはその専用スキルなどを使うのではなく、
薬草の知識や調合の技術、要所要所での魔力操作などができれば、
仮に、戦闘向けスキルの人でも作成は可能という事である。

魔道具の作成自体はアイデアや閃きによるところが多いらしく、
それぞれの魔道具には、最初に作った人の名前や、そのアイデアの基本的考え方などが
色々と記載されていた。

「ん???」

俺はそこまで読んで少し閃いてしまった。
もう1体ダイニングで待機していたマリオネットを俺の書斎まで連れてきた。
そこで、マリオネットに一つの命令を入れ込んでみた。

[本を手渡された時、その本を用いて勉強する。]

命令はマリオネットの中に組み込まれた。
先ほどの本に書いてあったことだが、今回の命令のポイントは[勉強]という部分だ。
勉強とは、本などを読んでそれを理解し、記憶する。
本に書いてあった通りなら、知識量は魔石の大きさに依存しない。
単純に読んで理解するという部分だけ取ってみても、
俺がこの本を読み切るには1か月くらいかかるのではないだろうか。
試しに先ほどの『魔道具全書』をマリオネットに渡してみた。

マリオネットは想像以上のスピードでドンドン本を読んでいく。
1ページに2秒もかかっていない。本当に内容を理解しているのだろうか?

そこで俺はあることに気づく。そもそも言葉の意味が分からなければ理解できない。
前提となる言葉の意味をまずは理解させなければいけないのじゃないだろうか。

試しにもう一冊の『広辞苑』的な本を渡してみる。
言葉を言葉で説明する辞典というのは本当に大変だろうと思うが、
俺が知らない言葉や習慣が沢山あるだろうという事で、アヤメさんが進めてくれた1冊である。

これもすごいスピードで読んでいる。
どれほど理解しているのか正直分からない。知識って目に見えないからね~。

『広辞苑』的な本も15分足らずで読破したようだ。

マリオネットは読破した本を俺に戻す。

ものは試しと思い、俺はマリオネットに質問してみた。
質問の仕方にもよるが、『訊いたら可能な限り答える。』のは
マリオネットの基本動作に入っていると俺は思っている。

「あの~それではタウンリングの使い方を教えてください。」

俺は少し恐々しながらマリオネットに問いかけてみた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

怠惰生活希望の第六王子~悪徳領主を目指してるのに、なぜか名君呼ばわりされているんですが~

服田 晃和
ファンタジー
 ブラック企業に勤めていた男──久岡達夫は、同僚の尻拭いによる三十連勤に体が耐え切れず、その短い人生を過労死という形で終えることとなった。  最悪な人生を送った彼に、神が与えてくれた二度目の人生。  今度は自由気ままな生活をしようと決意するも、彼が生まれ変わった先は一国の第六王子──アルス・ドステニアだった。当初は魔法と剣のファンタジー世界に転生した事に興奮し、何でも思い通りに出来る王子という立場も気に入っていた。 しかし年が経つにつれて、激化していく兄達の跡目争いに巻き込まれそうになる。 どうにか政戦から逃れようにも、王子という立場がそれを許さない。 また俺は辛い人生を送る羽目になるのかと頭を抱えた時、アルスの頭に一つの名案が思い浮かんだのだ。 『使えない存在になれば良いのだ。兄様達から邪魔者だと思われるようなそんな存在になろう!』 こうしてアルスは一つの存在を目指すことにした。兄達からだけではなく国民からも嫌われる存在。 『ちょい悪徳領主』になってやると。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...