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第1章 初めての町(タカギ)
第30話 俺が本を読むことはできるか不安な件
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翌朝目覚めたのは11時を過ぎた頃だった。
窓からは既に日の光が入ってきている。
ベッドにはヒバリさんの姿はなかった。
顔を洗おうと洗面所に向かうため寝室を出た。
リビングにもダイニングにもヒバリさんの姿はなかった。
『ヤスト様、ヒバリ様は訓練室におられます。』
あらかじめヒバリさんが仕込んでおいたのだろう、
1体のマリオネットが俺にヒバリさんの行き先を教えてくれた。
「ありがとう。」
ついついお礼を言ってしまう。
マリオネットは反射的に笑顔で『どういたしまして。』と答える。
一度洗面所に向かい、顔を洗いうがいをしてリビングに戻る。
『ヤスト様、ヒバリ様は訓練室におられます。』
先ほどと同じセリフをマリオネットが語り掛ける。
要は、『俺がリビングに入ったら決まった伝言を伝える』ように
プログラミングされているようだ。
基本的にマリオネットはあまり複雑な命令はこなせない。
しかし、1つの命令しかこなせないわけではない。
マリオネットの核となる魔石の大きさによりそのメモリーできる
命令の容量のようなものが存在するだけらしい。
先ほどの『ありがとう』『どういたしまして。』の会話も、
あらかじめ組み込まれている。
サルサさんやミサカさんが上手いのは、その条件付けと行動のバランスが
絶妙なのだとマイコさんに教えてもらった。
例えば、『芋の皮をむいて、角切りにする。』という行動があった場合。
サルサさんは『芋を角切りにして、皮がついているものをよける。』という命令にする。
何故かというと芋の形は不定形で、大きいものや小さいものがある。
『皮をむく』という行為はその芋の大きさや形によって状況が異なるため、
毎回同じ操作にはならない。
しかし、サルサさんの命令であれば、芋の大きさや形に関係なく。
毎回決まった、動作を繰り返すことができるそうだ。
まぁその分皮の付いた角切り芋も残るのだが、それは家畜の餌として無駄なく消費するらしい。
マリオネットへの命令方法は結構シンプルだ。
マリオネットの体に触れ、魔力を流しながら、『~の時に~する。』という命令を伝えるだけでよい。
これらの命令を複数組み合わせて、例えば『チキンステーキを作る。』という一つの命令集合体を作る。
命令を集合の形にすることで簡素化され、より容量を少なく実行できるらしい。
ちなみに昨日の夕食の命令は、『食糧庫の中に鶏肉がある時、チキンステーキを作る。』という命令を与えて、
最後に、『チキンステーキが1つできた時、もう1度チキンステーキを作る。』と繰り返したようだ。
少し面倒だなと思うのは、『~ではないとき』『~しない』といった否定形が使えないこと。
基本的にマリオネットは与えられた命令しか行わないので、
例えば夕食の命令だと『チキンステーキができた時、もう1度チキンステーキを作る。』だと、
2食分ではなく、材料が尽きるまで作るらしい。
ちなみに、標準機能として、『何ができる?』と尋ねた場合、
そのマリオネットに登録されている命令の一覧を書き出すようになっている。
その為、いつでも右腰のところに、紙と筆記具が備え付けられている。
一応いくつかのこういった標準動作は魔石の中に直接書き込んであるらしく。
魔力を使って命令の初期化を行った場合も消えないらしい。
ヒバリさんが今やろうとしている狩猟部隊用マリオネットは非常に難しい事なのである。
というか、料理や、農作業、酪農などをさせることができる時点で、サルサさんやミサカさんが
いったいどれほどの命令を覚え込ませているのか想像も付かない。
とりあえず、先ほどの『ヤストがリビングに来た時』の命令はクリアしておく。
マリオネットに触れ該当条件を念じクリアと伝える。そうすることでリソースがまた少し空く。
俺は伝言通り『訓練室』に向かう。
ダイニングキッチンの扉から入るあの部屋だ。
ヒバリさんは何かを一生懸命命令登録していた。
「調子はどう?」
『ヤストおはよう。ん~あんまり進んではいないかな。
やっぱりなかなか難しいよ。』
「そっか~。じゃあ俺は少し書斎で本でも読んでくるよ。がんばってね。」
『うん。ありがとう。』
「どういたしまして。」
ヒバリさんと少し会話してから、俺は書斎に向かった。
一昨日の夜にアヤメさんと買い物してから、夜伽ばかりで結局読めていないから。
学生の時は正直本を読むと言ってもマンガばかりだった。
しかし、一昨日買った本はマンガとは程遠いものだ。
今のこの世界での知識は正直全然足りていない。
マイコ先生に教えてもらったのも本当に入り口程度の知識だ。
だからこそ今俺は知識欲に飢えていた。
俺は書斎に入り、どの本を読もうかと本棚を見渡す。
といっても本棚はスカスカで10冊ほどの本が並んでいるだけだった。
とりあえず、『魔道具全書』という本を手に取ってみた。
昨日魔道通信機の使い方を初めて知ったこともあり、
魔道具の便利さをつくづく思い知ったからだ。
その本にはこの世界にある色々な魔道具が掲載されていた。
そこにマリオネットに関する、記載もあった。
この世界で、マリオネットは魔道具に分類されているからだ。
『マリオネットは、様々な材質で作成可能であり、
その基本アルゴリズムは身体動作が主体となる。
[右腕を上げる]、[左足を前に出す]などの単純動作とは少し異なり、
クリエイト時点でのマリオネットイメージによるところが大きい。
単純に[立つ]や[座る]といった身体動作イメージは本来ならバランスをとるために、
微妙な調整が必要なはずである。
クリエイト時点でのマリオネットイメージに
バランスをとることを念頭にイメージされていれば、
その時点で[立つ]や[座る]といった動作を命令することができる。
またそれらの詳細な知識イメージと魔石容量は比例せず、
あくまで命令の量が魔石容量と比例することが研究で判明している。』
「そっか~命令を埋め込む時点でのイメージが大事なのか~~。」
いくつかのページを読み進めていく、
当然魔道通信装置や投影機の原理なども書かれていたが、若干理解できない部分もあった。
この本を読んで分かったことが、いわゆる生産職と呼ばれる人は、
スキル依存というより、生産向けの魔法にどれほど熟達しているかという事らしい。
つまり、ポーションを作るにはその専用スキルなどを使うのではなく、
薬草の知識や調合の技術、要所要所での魔力操作などができれば、
仮に、戦闘向けスキルの人でも作成は可能という事である。
魔道具の作成自体はアイデアや閃きによるところが多いらしく、
それぞれの魔道具には、最初に作った人の名前や、そのアイデアの基本的考え方などが
色々と記載されていた。
「ん???」
俺はそこまで読んで少し閃いてしまった。
もう1体ダイニングで待機していたマリオネットを俺の書斎まで連れてきた。
そこで、マリオネットに一つの命令を入れ込んでみた。
[本を手渡された時、その本を用いて勉強する。]
命令はマリオネットの中に組み込まれた。
先ほどの本に書いてあったことだが、今回の命令のポイントは[勉強]という部分だ。
勉強とは、本などを読んでそれを理解し、記憶する。
本に書いてあった通りなら、知識量は魔石の大きさに依存しない。
単純に読んで理解するという部分だけ取ってみても、
俺がこの本を読み切るには1か月くらいかかるのではないだろうか。
試しに先ほどの『魔道具全書』をマリオネットに渡してみた。
マリオネットは想像以上のスピードでドンドン本を読んでいく。
1ページに2秒もかかっていない。本当に内容を理解しているのだろうか?
そこで俺はあることに気づく。そもそも言葉の意味が分からなければ理解できない。
前提となる言葉の意味をまずは理解させなければいけないのじゃないだろうか。
試しにもう一冊の『広辞苑』的な本を渡してみる。
言葉を言葉で説明する辞典というのは本当に大変だろうと思うが、
俺が知らない言葉や習慣が沢山あるだろうという事で、アヤメさんが進めてくれた1冊である。
これもすごいスピードで読んでいる。
どれほど理解しているのか正直分からない。知識って目に見えないからね~。
『広辞苑』的な本も15分足らずで読破したようだ。
マリオネットは読破した本を俺に戻す。
ものは試しと思い、俺はマリオネットに質問してみた。
質問の仕方にもよるが、『訊いたら可能な限り答える。』のは
マリオネットの基本動作に入っていると俺は思っている。
「あの~それではタウンリングの使い方を教えてください。」
俺は少し恐々しながらマリオネットに問いかけてみた。
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