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7章 中年は色々頑張ってみる
第72話 素朴な愛情の形って話
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作者の励みになります。
これからもご愛顧のほどよろしくお願いいたします。
-------------------------------------------------------------
冒険者ギルドでニテと一緒に晩御飯を食べている。
『私はもう一度魔法が使えるようになる。』という事実に
また人外の力を手に入れてしまう恐怖とリリスを許せない自分、
そしてチェスターにいる仲間たちのことを思い、
自分がどうしたらいいのか分からなかった。
ニテにはウカンデ神殿長がタトゥという方法で、
もう一度『洗礼』を受けさせてくれる方法を調べ上げてくれたことも話した。
しかし、魔法が使えた自分が今頃王都で好き勝手やっていることは言えなかった。
力に溺れてしまった私、お金に溺れてしまった私が今王都に居るだろう。
日付的には、もうそろそろユーリナ、ミューリ、シュレームを買っている頃だろう。
そして肉欲に溺れて、金の力でサーシャを買う。そしてブランディング領の領主になる。
正直今のMPではどうしようもない明日にはフェダに頼んだ道具が出来上がるが、
『特級』の聖痕は王都にある。
このままここを離れてしまったら、また欲にまみれた自分がそこにいて、
更に欲にまみれたリリスに飛ばされる。
もう本当にどうしていいか分からなかった。
そして柄にもなくお酒を飲んでしまった。
正直、ルマンでお酒でやらかしてから、ほとんどお酒は飲んでいない。
でもなんだか無性に飲まずにはいられなかった。
ニテが晩酌に付き合ってくれている。
なんだか私が悩んでいることを気にかけていてくれるようだ。
私はそのまま冒険者ギルドで飲みまくって、
ニテになだめられながら、酒瓶を抱えて家に戻った。
二人きりになった瞬間、堰を切ったように涙があふれた。
もう一人の自分がこの世界にいること、
その自分はお金の力で奴隷を買いあさり、
自分が助けた気になっていた伯爵令嬢すら信じられず奴隷に落としてしまう。
正直誰も信じていない、愛情が分からない。
40も超えた中年オヤジが寂しがって駄々をこねている。
無一文でこの町に来た私をチェスターのみんなは仲間だと言ってくれる。
そして、損得抜きで助けてくれる。
『誰にも事情はある』と何も聞かずに信じてくれている。
それがうれしいけど苦しい。
正直私がこの世界に来た一番最初に
リーアとリースに助けられて、狩りや採取を教えてもらった。
カリテに土壁を教えたのだって、ただ自分が吹きさらしに住みたくなかっただけ。
みんなが必要としてくれるのがうれしくてアイデアを出しはしたが、
結局家に引きこもって自分の洋服を作っていただけ。
そこに、あるものは全部『自分の為』でしかなかったから。
仲間だと言ってくれるみんなにもかっこつけて本当のことは話せていない
もし話してしまったら嫌われてしまうかもしれない。
もう信じてもらえなくなるかもしれない。
それが怖いから、このままチェスターに残って、
サーシャやユーリナ、ミューリやシュレーム、他の奴隷たちやブランディング領の人々すら
捨ててしまおうとしている自分がいる。
知らなかったこと、忘れてしまえばいいこと、そう言って責任も取らずに
逃げ出そうとしている自分がいる。
チェスターに残るのははっきり言って自分の甘えだ。
本当なら今すぐにでも王都に旅立って聖痕を刻み、リリスの野望を止めなければいけない。
それをレベルだなんだと理由をつけてチェスターに残っている。
今からどんなに馬車で急いでも、私がサーシャ達を買わなかったことにはできない。
聖痕さえ刻んでしまえば、いずれ過去の人たちのように膨大なMPでやりたい放題だろう。
でもその力を諫める自信が今の自分にはない。
家に帰ってからはひたすらお酒を飲んでいた。
ニテは横で私の話に相槌を打ってくれている。
ニテからすればどうでもいい話なんだろうが、付き合ってくれている。
自分とそれほど年が離れていない年下の女性でありながら、
カリテやウリテが世話になったからという理由だけで、
いつでも傍にいてくれる。
何故かいつも彼女には話してしまう。
隠しておきたい、かっこつけたい自分が彼女の前では何故か隠せない。
私はそのままお酒に酔っぱらい、記憶が遠くなっていった。
記憶に残っているその日の最後の言葉は・・・
「だったら難しく考えず全部救えばいい。あなたならできる。」
私を心から信じてくれているニテの言葉だった。
-------------------------------------------------------------
目覚めると、生まれたままの姿で抱き合う私とニテの姿があった。
朝日の差し込む私の部屋、家具も何もない床に敷かれた獣の革。
私より少し早く起きていたのだろうか、ニテは私の腕枕で優しく微笑んでくれている。
「やっぱりシュウさんは優しかった。」
そういった彼女の笑顔はすごくまぶしくて、美しかった。
「前から好きだったから、後悔はしてないよ。」
優しくほほ笑む彼女は少し恥ずかしそうにしている。
柔らかな彼女の身体は、窓から差し込む光で綺麗に見える。
ニテが少しはにかんで私に優しくキスしてくれた。
そのキスが終わって少し体を離した時。
見えてしまった。
そう、私は全く気が付いていなかった。
このチェスターで初めて私が訪れてから唯一彼女だけが持つもの。
『特級』の聖痕を持つ唯一のチェスター開拓民。
ニテの左胸には確かに『特級』の聖痕が柔らかな肌に刻まれていた。
王都などに行かなくてもここにあった。
いつも傍にいてくれた人の柔らかな聖母のような印。
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冒険者ギルドでニテと一緒に晩御飯を食べている。
『私はもう一度魔法が使えるようになる。』という事実に
また人外の力を手に入れてしまう恐怖とリリスを許せない自分、
そしてチェスターにいる仲間たちのことを思い、
自分がどうしたらいいのか分からなかった。
ニテにはウカンデ神殿長がタトゥという方法で、
もう一度『洗礼』を受けさせてくれる方法を調べ上げてくれたことも話した。
しかし、魔法が使えた自分が今頃王都で好き勝手やっていることは言えなかった。
力に溺れてしまった私、お金に溺れてしまった私が今王都に居るだろう。
日付的には、もうそろそろユーリナ、ミューリ、シュレームを買っている頃だろう。
そして肉欲に溺れて、金の力でサーシャを買う。そしてブランディング領の領主になる。
正直今のMPではどうしようもない明日にはフェダに頼んだ道具が出来上がるが、
『特級』の聖痕は王都にある。
このままここを離れてしまったら、また欲にまみれた自分がそこにいて、
更に欲にまみれたリリスに飛ばされる。
もう本当にどうしていいか分からなかった。
そして柄にもなくお酒を飲んでしまった。
正直、ルマンでお酒でやらかしてから、ほとんどお酒は飲んでいない。
でもなんだか無性に飲まずにはいられなかった。
ニテが晩酌に付き合ってくれている。
なんだか私が悩んでいることを気にかけていてくれるようだ。
私はそのまま冒険者ギルドで飲みまくって、
ニテになだめられながら、酒瓶を抱えて家に戻った。
二人きりになった瞬間、堰を切ったように涙があふれた。
もう一人の自分がこの世界にいること、
その自分はお金の力で奴隷を買いあさり、
自分が助けた気になっていた伯爵令嬢すら信じられず奴隷に落としてしまう。
正直誰も信じていない、愛情が分からない。
40も超えた中年オヤジが寂しがって駄々をこねている。
無一文でこの町に来た私をチェスターのみんなは仲間だと言ってくれる。
そして、損得抜きで助けてくれる。
『誰にも事情はある』と何も聞かずに信じてくれている。
それがうれしいけど苦しい。
正直私がこの世界に来た一番最初に
リーアとリースに助けられて、狩りや採取を教えてもらった。
カリテに土壁を教えたのだって、ただ自分が吹きさらしに住みたくなかっただけ。
みんなが必要としてくれるのがうれしくてアイデアを出しはしたが、
結局家に引きこもって自分の洋服を作っていただけ。
そこに、あるものは全部『自分の為』でしかなかったから。
仲間だと言ってくれるみんなにもかっこつけて本当のことは話せていない
もし話してしまったら嫌われてしまうかもしれない。
もう信じてもらえなくなるかもしれない。
それが怖いから、このままチェスターに残って、
サーシャやユーリナ、ミューリやシュレーム、他の奴隷たちやブランディング領の人々すら
捨ててしまおうとしている自分がいる。
知らなかったこと、忘れてしまえばいいこと、そう言って責任も取らずに
逃げ出そうとしている自分がいる。
チェスターに残るのははっきり言って自分の甘えだ。
本当なら今すぐにでも王都に旅立って聖痕を刻み、リリスの野望を止めなければいけない。
それをレベルだなんだと理由をつけてチェスターに残っている。
今からどんなに馬車で急いでも、私がサーシャ達を買わなかったことにはできない。
聖痕さえ刻んでしまえば、いずれ過去の人たちのように膨大なMPでやりたい放題だろう。
でもその力を諫める自信が今の自分にはない。
家に帰ってからはひたすらお酒を飲んでいた。
ニテは横で私の話に相槌を打ってくれている。
ニテからすればどうでもいい話なんだろうが、付き合ってくれている。
自分とそれほど年が離れていない年下の女性でありながら、
カリテやウリテが世話になったからという理由だけで、
いつでも傍にいてくれる。
何故かいつも彼女には話してしまう。
隠しておきたい、かっこつけたい自分が彼女の前では何故か隠せない。
私はそのままお酒に酔っぱらい、記憶が遠くなっていった。
記憶に残っているその日の最後の言葉は・・・
「だったら難しく考えず全部救えばいい。あなたならできる。」
私を心から信じてくれているニテの言葉だった。
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目覚めると、生まれたままの姿で抱き合う私とニテの姿があった。
朝日の差し込む私の部屋、家具も何もない床に敷かれた獣の革。
私より少し早く起きていたのだろうか、ニテは私の腕枕で優しく微笑んでくれている。
「やっぱりシュウさんは優しかった。」
そういった彼女の笑顔はすごくまぶしくて、美しかった。
「前から好きだったから、後悔はしてないよ。」
優しくほほ笑む彼女は少し恥ずかしそうにしている。
柔らかな彼女の身体は、窓から差し込む光で綺麗に見える。
ニテが少しはにかんで私に優しくキスしてくれた。
そのキスが終わって少し体を離した時。
見えてしまった。
そう、私は全く気が付いていなかった。
このチェスターで初めて私が訪れてから唯一彼女だけが持つもの。
『特級』の聖痕を持つ唯一のチェスター開拓民。
ニテの左胸には確かに『特級』の聖痕が柔らかな肌に刻まれていた。
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