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167話
しおりを挟む妖怪は何故、夜になると活発になるのか
それは人々が刻み込んだ概念によるものであり彼らの常識
何故其のようなことが起こったのか、それは夜目が働かない人々にとって暗い夜は弱点だから。
では、夜目の働く強い人間が現れたら彼らはどうなってしまうのだろうか?
「…叔父さん、あの建物の陰にいる。」
「あれは一つ目小僧だな。
それにしても、妖怪の気配がすぐにわかるようになるなんて加奈ちゃんは優秀なのだな。」
夕方の間に玄之助叔父さんに妖怪の気配や魔力や霊力とも違う「妖力」について教わったところ案外簡単に気配を察知できるようになった。
ツキカゲやカミツレはもちろん、魔力操作が得意なマアヤも応用がきくとか言って簡単に会得した。
私は魔力操作はそこまで得意ではないが、ツキカゲと契約した恩恵とも呼べる夜目と組み合わせて精度を上げてみたところかなり簡単に妖怪を見つけることができるようになった。
早速見つけた妖怪の一つ目小僧はすぐに私達に見破られたと理解すると走り去ってしまった。
「しかし加奈ちゃんに限らずその仲間たちもまた優秀なのだな…粒ぞろいという言葉がよく似合う。」
「私の自慢の仲間ですから!」
フフンと得意げにしていると、マアヤにさっさと調査しなさいとチョップされた。
全く彼女の照れ隠しはいつも過激である。そのうち麻酔銃とか撃たれそうで怖いんですけど。
なんておふざけをしながら夜の城下町を散策していると、叔父さんがピタリと足を止めた。
「…流石に妖怪たちも我々を驚かすのは意味がないと勘付いたようだな。逃げるように別の場所に集まっている。」
「逃げている…?まるで私達のほうが化け物集団みたいじゃない。」
不服ですと頬を膨らませているカミツレさんには申し訳ないが、優秀と同時に私達は化け物集団と呼ばれても仕方がない強さを持っているんだよな。
だって化け物って呼ばれても納得しちゃうんだもん。
まあ気にするところはそこじゃないのよ、どちらかと言うと妖怪が何処に逃げているかなのよ。
「ふむ…この辺の妖怪が人間に害するなんて事例は無い、しかし妖力の道がちょうど城下町を通るように出来ているみたいだ。
城下町を通るのなら人間を驚かせて腹ごしらえをしようとしたがいざ来てみれば我々がいたと…。」
「うーん…どちらかと言うと調査をするじゃなくて妖力の道を人間たちが通らないように辺りを巡回するのが正しいね。
どうする叔父さん?」
妖力の道は確かに城下町の道の一部に沿っているみたいでその到着地点は枝垂れ桜の御神木の根本…大丈夫かこれ?
流石の妖怪も御神木を傷つける事は無いよね?
バッと叔父さんの方を向き大丈夫かなと聞けば、大丈夫とすぐに返してきた。
「妖怪たちが御神木を傷つけることは無いだろう、本当に傷つけるような馬鹿は桜の根に捕まり妖力を全て搾り取られ終いには妖怪として存在できなくなるから。」
サラッと恐ろしいこと言ったぞこの叔父さん…それってこの国での常識なのか?
でも大抵の妖怪はそのような事をしないらしいならまだ安心か?
でも御神木を警護するのは過ぎた事では無いとの事で、妖力の道は間違いなく御神木の前を通るのだから。
「これは百鬼夜行か…それとも祭りか」
「へぇ、百鬼夜行って存在するんだ。」
私の世界の百鬼夜行と言えば、鬼や妖怪が夜に列を成して徘徊をする夜のパレードみたいな感じだろうか。
言葉として使うなら人目のない場所で悪人が蔓延って身勝手な悪事を働く意味だろうか。
この世界では妖怪がちゃんと存在するから百鬼夜行が別の意味になるのだろうか。
「百鬼夜行が起きる事で何か影響はあるのですか?」
「あぁ、大抵の百鬼夜行は森や山道に出来た妖力の道に沿って数多の妖怪が徘徊する。
しかし今回はこの城下町に妖力の道が出来上がっている。妖怪は人間と違うから被害が出るだろうな。」
なるほど…それは避けたい所だな。これで人間に被害が出てしまえば妖怪と人間の間に深い溝が出来る可能性だってある。
玄之助叔父さんはそれを回避するために行動すると言った。
「争いというのはあってはならないものだ。利益を求めて殺戮を繰り返す愚か者のせいで失われた命がある現実をこの目で何度も見てきた。
それは妖怪も人間も同じ…だから全国各地を回ってどちらも救っている。」
叔父さんの言葉には重みがある。それはかつて自分が妹を連れて戦火を逃れてじいちゃんに救われたから。
救われた命を無駄にしないために、自分のような存在を生まないために一人でも多くの妖怪と人間を助けているんだ。
己の利益を優先しようとする者を決して許してはならないと考えるのだろう。
そう考えたとき、私は自分を恥じた。
今まで私は己のわがままで仲間たちに迷惑をかけたから。厄介事に首を突っ込んでしまえば犠牲だって出るはずなのに私は何をしているのだろう?
「……。」
「加奈ちゃん?どうかしたのかい?」
いや、今は余計なことを考えないようにしよう。
首を横に振ってなんでもないよと笑いかけると前を向いた。
今だけは玄之助叔父さんの目には理想的な姪っ子の姿を見せてあげよう。
さあ、今だけは善悪の見極めと制裁を行おうじゃない。
たった一晩我慢するだけ、ただ良い子の仮面を被るだけでいいの。
それから私達は妖力の道を辿り、道中の意思疎通のできる妖怪に百鬼夜行のことについて聞いたがその予兆は感じないと返ってきた。
そうして皆がニヤリと笑い、口を揃えてこういうのだ
「鬼も妖怪も何もかも違う我らが一つになって列を成す
誰が先導?求めてはならん。皆が好きに歩き回れば自ずと目的地が見えてくる。
さぁさぁ踊れよ踊り狂え 今宵は楽しい百鬼夜行
そこに善悪はない ただ祭囃子が我らを呼んでいる。」
言うことがこう揃うと逆に不気味なものでそれだけが私の背筋が震えた。
それと同時に、妖怪たちが言う言葉に私は強く共感してしまったのも事実。
それを叔父さんがどう思うかだけど
「叔父さん…妖怪は皆こんな感じなの? 」
「まあ妖怪の生きると人間の生きる世界では何もかもが違うからな。
人間の世界を妖怪が真似ているか、それともその逆かなんてわかりはしない。でも自分勝手な行動は良くないだろう。」
祭りも程々に…叔父さんは最後にそう呟き歩みを進めた。
そうして私達が妖力の道を辿り、途中に見たのは夜の世界でも月に照らされて美しく咲き乱れる巨大な枝垂れ桜の御神木であった。
本当に美しいものだ。私はそう考えながら見惚れていると、何かを思いついたように誰かが言った。
「カナ、お前の武器の力で神を呼べないか?
ヨーカイだかヨウリョクの道だとか詳しく知っている可能性がある。」
私はハッとして目を見開いた。
ナザンカの言う通り、百鬼夜行のルートに御神木があるのなら神様だってそれに気づいているはずだ。
神様を呼ぶことができるのはハルカゼとその兄弟刀にあたる二振り。これは良い情報が手に入るかもしれない。
「ナザンカにしては良いアイデアね!」
「お前その発言失礼だと自覚あるか?」
善は急げなんて言葉はあるけど今はそれに従おう。
私は唯一言葉の通じなかった叔父さんにナザンカのアイデアを伝えて、ハルカゼの柄を撫でた。
「話は聞いてたでしょう?どうか私達の言葉を届けて頂戴。」
その瞬間、ふわりと私の頬を撫でる風が次第に大きく舞い上がり桜の枝を揺らした。
そうして現れたのは以前もお世話になった大和の国を見守る神様だった。
「瞬きする間もなくここを訪ねるなんてせっかちですね。」
「人間と神様の時間間隔を一緒にしないでください…ここに来たのはあなたに聞きたいことがあるからです。」
挨拶も程々にして今回妖怪調査を御殿様に依頼されていること、そして妖怪たちが口を揃えて百鬼夜行について話してくれた事を伝えると、神様は少し考えて口を開いた。
「なるほど…私の根の上に妖力の道が敷かれていたので知っていました。
人間が妖怪を嫌う事もその逆もあってはならないのです。
かつて、一人の泣いている女の子を妖怪が驚かし、その間抜けさを妖怪が笑い腹を満たし、つられて女の子が笑う。
妖怪は、人間の涙を嫌い驚きを糧とし、得ることで笑い人間に反映させる力がありました。」
神様は物語を紡ぐように優しく私達に伝えた。
妖怪と人間の関係は重要なものでどちらかが欠ける事はあってはいけないのだ。
そして神様は顔を顰めた。まるで先程まで語っていた言葉を否定するかのような苦しい表情だった。
「どちらの種族にも悪しき心を持つ者は存在します。妖怪が悪意を持てばそれが人間に反映される...その逆も然り。
皆さん、どうか今宵の百鬼夜行は気をつけて。
三大悪妖怪はこの百鬼夜行で何かを仕掛けるでしょう。」
神様はそれだけを言い渡して姿を消した。
最後の最後でとんでもない情報が手に入った...三大悪妖怪とはなんだ?
そう思い叔父さんに聞こうと隣を見れば、その顔は真っ青になっていた。
やはり神様の姿を見るのは誰であろうと緊張するんだろうな、と思ったがそれだけでは無さそうだ。
「加奈ちゃん...君は本当に父の孫なのだな。
手紙に書かれた内容も全て事実なのか...彼岸咲耶姫様から加護を与えられた三振りの刀のうち、打刀 春告鳥を所持する者だと。
いや、今は春風という名になったみたいだな。」
叔父さんはそこまで知っているのか。じいちゃんは正直者だから手紙に全部書いたんだろうな...うん。
まあ現実離れした出来事を手紙に書いたところで信じる人はいない。しかし正直者のじいちゃんの書いた内容だし...と思ったのだろう。
結果的には私はじいちゃんの孫であることを信じて貰えたみたいだしよかった。
さて、ここからは情報の整理をする時間だ。
「妖力の道は浜辺から城下町を通ってこの御神木、そして更にはもっと先まで続いている。
スタート地点が浜辺とは考えにくいわね...どちらかと言うとゴールと解釈すべきだわ。」
私の言葉に頷き更に得た情報をツキカゲから話し出した。
「ゲンノスケはこの道は百鬼夜行のルートと予想し、この世界樹に宿る神が百鬼夜行のためのものも断定した。
そして気になるのは三大悪妖怪と呼ばれる存在...ゲンノスケは何か知っているか?」
ツキカゲの言葉に叔父さんはピクリと反応し、まっすぐこちらを見て頷いた。
流石は全国各地を回って人間も妖怪も平等に退治して護る人だ。ゆっくりと重たい口を開き私達に説明をした。
「三大悪妖怪...彼岸咲耶姫様の仰った通り、妖怪は人を驚かせ笑い、その笑いが人間に伝染るのだがそれだけが妖怪と呼ばない。
悪しき心を持ち人間の心を悪に染める...悪い妖怪はこの山下玄之助が退治しているのだ。しかしな...
三大悪妖怪の奴らだけは退治するどころかしっぽすら掴めなかった。」
その顔は怒りと悔しさで染まり拳は固く握られていた。
私は叔父さんを哀れに思い、それと同時にニヤリと笑って励ました。
「じゃあ今夜、奴らを退治しよう。
神様も三大悪妖怪には気をつけろって言ってたでしょう?という事は会う可能性があるってことじゃん。
悪しき心で人間達だけでなく妖怪達にも影響を与えるのなら退治する。それが叔父さんのやってきたことなら対策しないと!」
私のめちゃくちゃな思想は口にすれば、仲間は皆して呆れるの。
でもその後すぐにニヤリと笑って同意してくれるの。
「カナの言う通り、こんな所で悔しがってる暇があるなら対策しないとね。
まだ見たこともないのに自分の無力さを嘆いてる暇は無いわ。」
カミツレさんは私の肩に手を乗せて叔父さんに笑いかけると、アザレアは強く頷いた。
「カナに着いていけばきっと良い結果になります...!
だから私はカナについて行くのです。ナザンカと一緒に!」
「お嬢?なぜ俺まで...?」
なんだろう、いつもの私達だ。
わがままな私のめちゃくちゃな思想を述べれば皆が呆れて笑って着いてきてくれる。
それはきっと負けたくないという強気な想いが私たちを動かすのだ。
だから私は叔父さんにこう言うんだ。
「勝とう!三大悪妖怪の思い通りになってたまるかって叫ぶの!
それに私達は負け知らずの一行。これ程心強い味方はいないでしょう?」
私が挑発気味に笑えば、叔父さんは驚きそして大きく笑った。
その笑い方はじいちゃんの豪快な笑い方に良く似ていて、血の繋がりを錯覚してしまう。
「はぁ...本当に父によく似ている。
特にその不敵な笑みとか、失敗を恐れない強靭な精神は三大悪妖怪に立ち向かうに必要なもの。
加奈が率いる強力な助っ人達よ、どうか力を貸してくれ。」
そう来なくちゃね。
さあ、私達が生み出す脅威に驚き恐れおののいてしまいな。
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