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166話
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この世には化学でも魔法でも解明出来ない事が結構あるらしい。
お化けや幽霊なんて結構有名だし代表例としてあげられる。
そんな解析不能と分類される存在をこの国ではこう呼ぶ
「妖怪?この世界には存在するのですか?」
「そう、外つ国では魔物と呼ばれる存在ともまた違う存在が妖怪。
100年以上使われた物に魂が宿り生まれるか、元人間が生まれ変わるなど様々だな。
今回は城下町で起きた事象の調査を加奈達に協力願いたい。」
魔物とは違う存在か…興味深いな。
ここはヤマトの国と呼ばれる島国であり、島全体を統一している人物こそが目の前にいる御殿様こと豊臣秀吉である。
そんな御殿様はこの国では英雄と讃えられる私の祖父と大親友…らしい。
それが理由なのだろうか、何故か英雄の祖父が参加する会議に私も同伴させてもらい、何故か私に大事な依頼を言い渡してきたのだ。
そりゃあここ数日で御殿様から私達への信頼は鰻登りである。きっかけは私の腰に差してある打刀の柄を持つ短刀であり理由にもなるから。
だけど、それをよく理解せずに私を邪険に扱う大人達も沢山いる。
それは
「小娘を睨みつけるとは情けないぞ梅森。」
「…納得いきませぬ。英雄の孫であったとしても所詮は女子、妖怪調査を女子に依頼するとは…!」
梅森と呼ばれた男は私を睨み女だからという理由で否定的な感情を向けている。
それに加えて他の役人だって私を見て気に入らないといった様子。
いるよね~男尊女卑の精神を持つ奴
私はにっこりと笑って耐えていると、隣にいたじいちゃんはもっと豪快に笑っていた。
「梅森、お前さんは加奈ちゃんを俺の孫と認めるか。
男が戦うため、女子供を前線に出さないのはお前さんなりの優しさじゃ。
だが、だからと言って俺の孫の名誉を傷つけようもんなら俺がお前の精根叩き直すからの…覚悟せい。」
淡々と言い放ち冷たい声で目で梅森の心を刺すじいちゃんはやっぱり強いんだなと思わされる。
こちらまでゾッとするようで私はじいちゃんの服の裾を軽く握った。
大丈夫、私は大丈夫だから。そんな気持ちを込めて
そんな情けない姿を見た梅森は私を鼻で笑って自分の考えは間違えてないと言いたげだ。
そんな時、誰かがポツリと呟いた。
「やはり女子は弱い。」
「……実力を見せれば良いのですね?」
キレた、マジでキレましたよ私
まるで私だけでない、私の仲間を馬鹿にされているようで気に入らなかった。
だから妖怪調査の依頼を受けないと駄目だと思ったんだ。
「御殿様、どうか私に…いいえ、私達に城下町の妖怪調査を行う権利をいただけないでしょうか?」
「…儂は実力ある者にしか依頼せぬ。それにお前達なら新たな風を吹かせるだろう。」
私は先程よりも口角を上げて答えた。
それは気味の悪い化け物のような深く黒いみ
「ご安心を、私達は負け知らずの旅集団ですので。」
負け知らずと呼ぶべきか最強と呼ぶべきか
何も知らない、知ろうともしない臆病者を更に脅かしてみたいと思うのは人の性か…いや化け物の本能か。
それを見つめる者たちは皆して怯えているが、じいちゃんと御殿様だけは私に期待の瞳を見せるのだ。
「善い報せを待っておる。」
「…御意」
と、言うわけで
「今から妖怪の調査を行うための作戦会議をします。」
「御殿様に呼び出されて何を言われたのかと思えば…加奈、あなたって人は本当に…。」
突然持ってきた依頼内容の無茶振り度合いに皆が様々な表情を浮かべて反応をした。
確かに妖怪調査なんて初めてやるし勝手がわからないので何から手をつければ良いのか…そういう意味では無茶な問題だな。
「ヨーカイ…ってなんだ?」
「カナが貸してくれたヤマトの国に似た国の本で読んだことがあります!
人間が起こす事の出来ない奇怪な現象を起こす存在だと…魔物や人間以外の他種族との違いがよくわからないですね。」
あー…海王竜を隣に座らせて読んでた漫画の事か。
えっマジ?アザレアが漫画読む事も意外だったし、あの○ゲ○の○太郎読んでたの?
横からマアヤが「なんてもん読ませてるんだよ…」と呟いたけど、図書室の本は誰が何を読んでも自由だからいいでしょ。
「マアヤ、もしかしてこの世界と私達がいた世界って妖怪の定義が違う?」
「うーん…妖怪も多種多様いるから私達の世界で概念だけだったのが、こちらの世界では実在する不思議な存在になっただけだと思う。
付喪神も妖怪と当てはめる地域もあるじゃない。その辺りも曖昧で分かりにくいわね。」
なるほど、確かにマアヤの知識も間違ってはいないな。
私達は妖怪に関する知識がゼロに近い。なんなら私とマアヤにいたってはこの世界の妖怪の知識と違うから何の足しにもならない。
調査するにも右も左もわからないからなにから着手すべきか…
「お~い、加奈ちゃんおるか~?」
馬車の外、声が聞こえて私だけが外に出ればそこに居たのは私のじいちゃんだった。
何故ここに…先程まで会議に参加していたはずなのに抜け出してきたのだろうか?
なんて失礼な事を考えながらもどうしてここに来たの?と聞けば、ニッコリと笑い大した事じゃあ無いけど伝えておきたいことがあると言われた。
「先程の妖怪調査についてじゃ。
あの後に秀ちゃんと話して、流石に調査の仕方やらなんやらを知らない加奈ちゃん達に全てを任せる訳にはいかんので遠方の調査員に助っ人を頼むことにしたのじゃ。」
それはありがたい。
実際どこから着手するべきか皆で悩んでいたことをじいちゃんに言うと丁度良かったと笑っていた。
なにが丁度良いのやらさっぱりだが助っ人がいるのなら問題ないだろう。
何をどう調査すればよいかわからないから妖怪のいろはを学べたらいいな。
「遠方からわざわざ助っ人に来るだなんて…余程すごい人を呼んだのね。」
「そりゃあ優秀じゃよ。妖怪調査だけでなくいざという時の退治も請け負っているプロっちゅーものじゃ。
我が息子ながらその容赦の無さは恐ろしさを感じるのぉ…。」
じいちゃんの感心する素振りからして本当に優秀な調査員さんが来るらしい。
一つ気になる点があるとするならそうだな、うん
「……え、待って息子って何?」
「ん?言っとらんかったかのぉ?
息子じゃよ息子、玄之助と言って俺の三人目の息子じゃ。」
衝撃的な事実に私は混乱して宇宙の起源を探す脳内旅行に出そうになった。
玄之助?私の知ってるじいちゃんの家族は父の虎次郎とその兄の龍彦叔父さんだけそであって、玄之助とか「誰よその男⁉」状態なんですけど。
私はもう一度じいちゃんに聞いた。
「もう一度じいちゃんの子供を全員言ってみて?」
「なんじゃいきなり…龍彦、虎次郎じゃろ?
あと玄之助と雀ちゃんじゃな。」
「誰よ後半の二人っ⁉」
もう等々我慢ならずに口にしたツッコミにじいちゃんも目を丸くしていた。
まさか私の知らない親戚がまだいたとは…死んだばあちゃんはこの事知ってたのだろうか?
衝撃の事実に疲れてしまい息がきれていると後ろから何事だと仲間が馬車から降りてきた。
「ほほぉ!馬車の中に空間を捻じ曲げて広げる術式が組み込まれてるとは興味深いのぉ!」
まだ話したい事があると言うのにじいちゃんの興味はすっかり馬車の方に移り頭を抱えた。
違うだろじいちゃん、この自由奔放なのは変わらないと同時に大人になるとわかるばあちゃんの偉大さ。
ばあちゃんよくこの人と結婚したな…すげぇや
「一体何があったのよ?」
「…じいちゃん不倫疑惑」
隣に立つマアヤに先程までの会話の内容を掻い摘んで話した。
妖怪調査のプロが遠方からやって来るのはありがたいが、それがまさかのじいちゃんの息子らしく、私はまだ叔父さんと叔母さんがいた事に驚きを隠せないのだ。
なるほど…と呟き納得するマアヤは少し考えて何かを思いついたようだった。
「確認するけど、あなたの父や叔父は勝蔵さんが異世界転移できる事を知ってるの?」
「いや知らないと思う…だって20年生きてそれなりに親戚と交流しているけどそう言った話は一度もなかった。」
何も知らない私達が僅かな情報から真実を見つけるのは困難だ。
でも私の中でじいちゃんがばあちゃん以外に愛する相手がいる想像が出来ない。
「もしかして…本当の子供じゃない?」
「有り得るわよ。もしかしたら養子という可能性もある。」
しかし、私達の会話は妄想の範疇に過ぎない。これが仮に本当だとしても違うとしてもじいちゃんに確認を取らなければならないことに変わりはないのだから。
それか今夜辺りに合流するであろう「玄之助」という人物に真相を聞けば良いのだから。
…と、思っていた時代が私にもありました。
「……。」
「君が、加奈…ちゃん?」
拝啓 会えるかわからぬ両親と叔父さんよ
目の前に立ちはだかる壁のような大柄な山伏に私はひとつ物申したいです。
世紀末か?北斗七星を胸に刻んだ野郎か?それともふざけた大剣担いだ竜殺しか?
あまりにも想像と違いすぎて混乱した。というかナザンカよりも筋骨隆々が似合う男だよこの人。でも山伏の姿なんだよな…。
色々とツッコミどころが多い人だけどこの人本当にじいちゃんの言ってた玄之助さん?これ息子?
頼む神様、目の前のでっかい山伏が玄之助さんじゃありませんように…!
「父と殿からの文で城下町の妖怪調査を命じられた。
名を山下 玄之助と申す。以後お見知りおきを」
玄之助さん本人だったよチキショウッ!想像以上に紳士的でびっくりしちゃったよ。
脳内大乱闘なぶっ飛びシスターズを決めている中、他の仲間達は私を小突いてさっさと挨拶しろと言ってきた。
「あっ…すみません、山下 加奈と言います。祖父からお話を伺っております。
本日はよろしくお願いします。」
ぺこりとお辞儀をすれば後ろの仲間たちも自己紹介を初めた。
顔を上げば玄之助さんは「早速だが妖怪調査に入る準備として色々説明をしよう。」と言って話し合いの場を探し始めた。
其の道中でも私は玄之助さんの隣に立って会話をした。
「あの、じいちゃ…祖父の話であなたが息子だと聞きました。」
「あぁ…もう三十年も昔の事だな。戦により両親を亡くしまだ赤子の雀を抱えひたすらに走り逃げた。
自分だけが泉の水をすすっても雀は乳飲み子故に水を受け付けようとしない…そんな時に泉から現れたのが父だった。
父は自分達の姿を見るなり驚いて子供二人を抱え城下町まで走った。
夜空の星と月が輝く真夜中だと言うのに城に上がり込み殿に助言をもらいに言ったのだ。」
少し、申し訳ない事を聞いた気がする。そして当時のじいちゃんは泉を利用して異世界転移をしたばかりだったのだろう。
そして玄之助さんと妹の雀さんを連れて御殿様に助けを求めに行ったんだ。
「当時は子供で父が殿と交友関係を結んでいたことも知らなかったから混乱した。でも助かったのだとわかった途端に涙が溢れて止まらなかった。」
私は目の前の大男のなにかを勘違していたらしい。じいちゃんに救われて命を此度まで繋いだ彼がこれほどに優しい目をして進む先を見つめるのは普通は出来ないことだ。
誰かに恩があって未だに忘れずにいるからできる目だ。
私はフッと笑ってやっぱり私のじいちゃんはすごい人だと思った。じいちゃんの孫に生まれてこれほどに誇りを持ったことは無い。
「何でも言ってください。御殿様の顔に泥を塗らぬように全力を尽くし良い報せを送るためにご教授願いまず!
玄之助先生!」
私の真っ直ぐな気持ちにこちらを見て目を丸くした玄之助さんは夕暮れ時のオレンジ色の空に向かって大きく笑った。
そして彼からすれば小さい私の頭に大きくて固い手を乗せてぐしゃぐしゃと撫で始めた。
「父の言った通り、君は本当に可愛らしい女性だ。合うたびに君の話しをするからうんざりだと思ったけど、こんなに可愛らしいんじゃあ何度も話すのも納得だ。」
パッと手を離して再び歩みを進める玄之助さんは私に言ったんだ。
「玄之助先生などと言われるような事は出来ぬ、叔父さんで良い。
だが、可愛い姪っ子の加奈ちゃんでも容赦はしないから覚悟するように。」
「…!
じゃあ全部の技を目で見て盗むね、玄之助叔父さん!」
ニッとじいちゃんによく似た悪い笑顔を向けた彼に私も返すようにニッコリと笑って牽制するように言ってやった。
今日、私はもうひとりの叔父さんに出会った。
血の繋がりは無いだろう。でも間違いなくこの人はじいちゃんの息子で私の叔父さんなんだ。
お化けや幽霊なんて結構有名だし代表例としてあげられる。
そんな解析不能と分類される存在をこの国ではこう呼ぶ
「妖怪?この世界には存在するのですか?」
「そう、外つ国では魔物と呼ばれる存在ともまた違う存在が妖怪。
100年以上使われた物に魂が宿り生まれるか、元人間が生まれ変わるなど様々だな。
今回は城下町で起きた事象の調査を加奈達に協力願いたい。」
魔物とは違う存在か…興味深いな。
ここはヤマトの国と呼ばれる島国であり、島全体を統一している人物こそが目の前にいる御殿様こと豊臣秀吉である。
そんな御殿様はこの国では英雄と讃えられる私の祖父と大親友…らしい。
それが理由なのだろうか、何故か英雄の祖父が参加する会議に私も同伴させてもらい、何故か私に大事な依頼を言い渡してきたのだ。
そりゃあここ数日で御殿様から私達への信頼は鰻登りである。きっかけは私の腰に差してある打刀の柄を持つ短刀であり理由にもなるから。
だけど、それをよく理解せずに私を邪険に扱う大人達も沢山いる。
それは
「小娘を睨みつけるとは情けないぞ梅森。」
「…納得いきませぬ。英雄の孫であったとしても所詮は女子、妖怪調査を女子に依頼するとは…!」
梅森と呼ばれた男は私を睨み女だからという理由で否定的な感情を向けている。
それに加えて他の役人だって私を見て気に入らないといった様子。
いるよね~男尊女卑の精神を持つ奴
私はにっこりと笑って耐えていると、隣にいたじいちゃんはもっと豪快に笑っていた。
「梅森、お前さんは加奈ちゃんを俺の孫と認めるか。
男が戦うため、女子供を前線に出さないのはお前さんなりの優しさじゃ。
だが、だからと言って俺の孫の名誉を傷つけようもんなら俺がお前の精根叩き直すからの…覚悟せい。」
淡々と言い放ち冷たい声で目で梅森の心を刺すじいちゃんはやっぱり強いんだなと思わされる。
こちらまでゾッとするようで私はじいちゃんの服の裾を軽く握った。
大丈夫、私は大丈夫だから。そんな気持ちを込めて
そんな情けない姿を見た梅森は私を鼻で笑って自分の考えは間違えてないと言いたげだ。
そんな時、誰かがポツリと呟いた。
「やはり女子は弱い。」
「……実力を見せれば良いのですね?」
キレた、マジでキレましたよ私
まるで私だけでない、私の仲間を馬鹿にされているようで気に入らなかった。
だから妖怪調査の依頼を受けないと駄目だと思ったんだ。
「御殿様、どうか私に…いいえ、私達に城下町の妖怪調査を行う権利をいただけないでしょうか?」
「…儂は実力ある者にしか依頼せぬ。それにお前達なら新たな風を吹かせるだろう。」
私は先程よりも口角を上げて答えた。
それは気味の悪い化け物のような深く黒いみ
「ご安心を、私達は負け知らずの旅集団ですので。」
負け知らずと呼ぶべきか最強と呼ぶべきか
何も知らない、知ろうともしない臆病者を更に脅かしてみたいと思うのは人の性か…いや化け物の本能か。
それを見つめる者たちは皆して怯えているが、じいちゃんと御殿様だけは私に期待の瞳を見せるのだ。
「善い報せを待っておる。」
「…御意」
と、言うわけで
「今から妖怪の調査を行うための作戦会議をします。」
「御殿様に呼び出されて何を言われたのかと思えば…加奈、あなたって人は本当に…。」
突然持ってきた依頼内容の無茶振り度合いに皆が様々な表情を浮かべて反応をした。
確かに妖怪調査なんて初めてやるし勝手がわからないので何から手をつければ良いのか…そういう意味では無茶な問題だな。
「ヨーカイ…ってなんだ?」
「カナが貸してくれたヤマトの国に似た国の本で読んだことがあります!
人間が起こす事の出来ない奇怪な現象を起こす存在だと…魔物や人間以外の他種族との違いがよくわからないですね。」
あー…海王竜を隣に座らせて読んでた漫画の事か。
えっマジ?アザレアが漫画読む事も意外だったし、あの○ゲ○の○太郎読んでたの?
横からマアヤが「なんてもん読ませてるんだよ…」と呟いたけど、図書室の本は誰が何を読んでも自由だからいいでしょ。
「マアヤ、もしかしてこの世界と私達がいた世界って妖怪の定義が違う?」
「うーん…妖怪も多種多様いるから私達の世界で概念だけだったのが、こちらの世界では実在する不思議な存在になっただけだと思う。
付喪神も妖怪と当てはめる地域もあるじゃない。その辺りも曖昧で分かりにくいわね。」
なるほど、確かにマアヤの知識も間違ってはいないな。
私達は妖怪に関する知識がゼロに近い。なんなら私とマアヤにいたってはこの世界の妖怪の知識と違うから何の足しにもならない。
調査するにも右も左もわからないからなにから着手すべきか…
「お~い、加奈ちゃんおるか~?」
馬車の外、声が聞こえて私だけが外に出ればそこに居たのは私のじいちゃんだった。
何故ここに…先程まで会議に参加していたはずなのに抜け出してきたのだろうか?
なんて失礼な事を考えながらもどうしてここに来たの?と聞けば、ニッコリと笑い大した事じゃあ無いけど伝えておきたいことがあると言われた。
「先程の妖怪調査についてじゃ。
あの後に秀ちゃんと話して、流石に調査の仕方やらなんやらを知らない加奈ちゃん達に全てを任せる訳にはいかんので遠方の調査員に助っ人を頼むことにしたのじゃ。」
それはありがたい。
実際どこから着手するべきか皆で悩んでいたことをじいちゃんに言うと丁度良かったと笑っていた。
なにが丁度良いのやらさっぱりだが助っ人がいるのなら問題ないだろう。
何をどう調査すればよいかわからないから妖怪のいろはを学べたらいいな。
「遠方からわざわざ助っ人に来るだなんて…余程すごい人を呼んだのね。」
「そりゃあ優秀じゃよ。妖怪調査だけでなくいざという時の退治も請け負っているプロっちゅーものじゃ。
我が息子ながらその容赦の無さは恐ろしさを感じるのぉ…。」
じいちゃんの感心する素振りからして本当に優秀な調査員さんが来るらしい。
一つ気になる点があるとするならそうだな、うん
「……え、待って息子って何?」
「ん?言っとらんかったかのぉ?
息子じゃよ息子、玄之助と言って俺の三人目の息子じゃ。」
衝撃的な事実に私は混乱して宇宙の起源を探す脳内旅行に出そうになった。
玄之助?私の知ってるじいちゃんの家族は父の虎次郎とその兄の龍彦叔父さんだけそであって、玄之助とか「誰よその男⁉」状態なんですけど。
私はもう一度じいちゃんに聞いた。
「もう一度じいちゃんの子供を全員言ってみて?」
「なんじゃいきなり…龍彦、虎次郎じゃろ?
あと玄之助と雀ちゃんじゃな。」
「誰よ後半の二人っ⁉」
もう等々我慢ならずに口にしたツッコミにじいちゃんも目を丸くしていた。
まさか私の知らない親戚がまだいたとは…死んだばあちゃんはこの事知ってたのだろうか?
衝撃の事実に疲れてしまい息がきれていると後ろから何事だと仲間が馬車から降りてきた。
「ほほぉ!馬車の中に空間を捻じ曲げて広げる術式が組み込まれてるとは興味深いのぉ!」
まだ話したい事があると言うのにじいちゃんの興味はすっかり馬車の方に移り頭を抱えた。
違うだろじいちゃん、この自由奔放なのは変わらないと同時に大人になるとわかるばあちゃんの偉大さ。
ばあちゃんよくこの人と結婚したな…すげぇや
「一体何があったのよ?」
「…じいちゃん不倫疑惑」
隣に立つマアヤに先程までの会話の内容を掻い摘んで話した。
妖怪調査のプロが遠方からやって来るのはありがたいが、それがまさかのじいちゃんの息子らしく、私はまだ叔父さんと叔母さんがいた事に驚きを隠せないのだ。
なるほど…と呟き納得するマアヤは少し考えて何かを思いついたようだった。
「確認するけど、あなたの父や叔父は勝蔵さんが異世界転移できる事を知ってるの?」
「いや知らないと思う…だって20年生きてそれなりに親戚と交流しているけどそう言った話は一度もなかった。」
何も知らない私達が僅かな情報から真実を見つけるのは困難だ。
でも私の中でじいちゃんがばあちゃん以外に愛する相手がいる想像が出来ない。
「もしかして…本当の子供じゃない?」
「有り得るわよ。もしかしたら養子という可能性もある。」
しかし、私達の会話は妄想の範疇に過ぎない。これが仮に本当だとしても違うとしてもじいちゃんに確認を取らなければならないことに変わりはないのだから。
それか今夜辺りに合流するであろう「玄之助」という人物に真相を聞けば良いのだから。
…と、思っていた時代が私にもありました。
「……。」
「君が、加奈…ちゃん?」
拝啓 会えるかわからぬ両親と叔父さんよ
目の前に立ちはだかる壁のような大柄な山伏に私はひとつ物申したいです。
世紀末か?北斗七星を胸に刻んだ野郎か?それともふざけた大剣担いだ竜殺しか?
あまりにも想像と違いすぎて混乱した。というかナザンカよりも筋骨隆々が似合う男だよこの人。でも山伏の姿なんだよな…。
色々とツッコミどころが多い人だけどこの人本当にじいちゃんの言ってた玄之助さん?これ息子?
頼む神様、目の前のでっかい山伏が玄之助さんじゃありませんように…!
「父と殿からの文で城下町の妖怪調査を命じられた。
名を山下 玄之助と申す。以後お見知りおきを」
玄之助さん本人だったよチキショウッ!想像以上に紳士的でびっくりしちゃったよ。
脳内大乱闘なぶっ飛びシスターズを決めている中、他の仲間達は私を小突いてさっさと挨拶しろと言ってきた。
「あっ…すみません、山下 加奈と言います。祖父からお話を伺っております。
本日はよろしくお願いします。」
ぺこりとお辞儀をすれば後ろの仲間たちも自己紹介を初めた。
顔を上げば玄之助さんは「早速だが妖怪調査に入る準備として色々説明をしよう。」と言って話し合いの場を探し始めた。
其の道中でも私は玄之助さんの隣に立って会話をした。
「あの、じいちゃ…祖父の話であなたが息子だと聞きました。」
「あぁ…もう三十年も昔の事だな。戦により両親を亡くしまだ赤子の雀を抱えひたすらに走り逃げた。
自分だけが泉の水をすすっても雀は乳飲み子故に水を受け付けようとしない…そんな時に泉から現れたのが父だった。
父は自分達の姿を見るなり驚いて子供二人を抱え城下町まで走った。
夜空の星と月が輝く真夜中だと言うのに城に上がり込み殿に助言をもらいに言ったのだ。」
少し、申し訳ない事を聞いた気がする。そして当時のじいちゃんは泉を利用して異世界転移をしたばかりだったのだろう。
そして玄之助さんと妹の雀さんを連れて御殿様に助けを求めに行ったんだ。
「当時は子供で父が殿と交友関係を結んでいたことも知らなかったから混乱した。でも助かったのだとわかった途端に涙が溢れて止まらなかった。」
私は目の前の大男のなにかを勘違していたらしい。じいちゃんに救われて命を此度まで繋いだ彼がこれほどに優しい目をして進む先を見つめるのは普通は出来ないことだ。
誰かに恩があって未だに忘れずにいるからできる目だ。
私はフッと笑ってやっぱり私のじいちゃんはすごい人だと思った。じいちゃんの孫に生まれてこれほどに誇りを持ったことは無い。
「何でも言ってください。御殿様の顔に泥を塗らぬように全力を尽くし良い報せを送るためにご教授願いまず!
玄之助先生!」
私の真っ直ぐな気持ちにこちらを見て目を丸くした玄之助さんは夕暮れ時のオレンジ色の空に向かって大きく笑った。
そして彼からすれば小さい私の頭に大きくて固い手を乗せてぐしゃぐしゃと撫で始めた。
「父の言った通り、君は本当に可愛らしい女性だ。合うたびに君の話しをするからうんざりだと思ったけど、こんなに可愛らしいんじゃあ何度も話すのも納得だ。」
パッと手を離して再び歩みを進める玄之助さんは私に言ったんだ。
「玄之助先生などと言われるような事は出来ぬ、叔父さんで良い。
だが、可愛い姪っ子の加奈ちゃんでも容赦はしないから覚悟するように。」
「…!
じゃあ全部の技を目で見て盗むね、玄之助叔父さん!」
ニッとじいちゃんによく似た悪い笑顔を向けた彼に私も返すようにニッコリと笑って牽制するように言ってやった。
今日、私はもうひとりの叔父さんに出会った。
血の繋がりは無いだろう。でも間違いなくこの人はじいちゃんの息子で私の叔父さんなんだ。
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