見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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164話

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あぁ、彼女には従わないといけない。

そう本能が訴えかけてきたのは後にも先にも彼女だけだ。

己が信じて命を預ける武器を前に差し出すのは、それを使わない程に相手を信じきっていると意思表示をする為。

黒い長髪と吸い込まれそうな黒い瞳

本当の姿でありそうでは無い歪な体はその不憫さが愛しく思う。


大人顔負けと表現するが実際は大人である彼女の笑みは有無を言わさないただ「はい」か「イエス」のみを許す出で立ちだった。

これは一個人の考えている事では無い、この場にいる者全員が同じことを考えて武器を前に差し出しているのだ。


この時、佐藤真彩は思った。




山下加奈は間違いなく、頂点に立つ者になる




記憶を無くしても見捨てることなく、同胞として旅の仲間に入れてくれたお人好し

己の問題であるのに困っていると首を突っ込んであっさい問題解決をしてくれる。

自分にとって加奈は凄すぎる人間…?なのだ。

有り余る魔力を耳飾りで制御し、伝説のドラゴンと契約を結び王座につくのは自分と同じ…だが彼女にあって自分には無い物があった。

彼女は神が自ら加護を与えた刀の持ち主であり、その神が敬意を表す相手である。

そして彼女が背負う運命、それは世界の運命と同義である。

これ程に重い使命は今までに遭遇したことは無い。

自分は帝国の未来の為にと偽りの聖女を演じた。それがどれ程苦しいものか。

しかし、それすらちっぽけに思える程に加奈が背負う運命はとても大きなものだ。

小さな体にのしかかる重責を1人で背負い切れるわけが無い。

だから彼女を支えるために傍にい続けると今誓ったのだ。

いつまでも、最後の最期まで彼女の味方でい続けると誓ったのだ。

例えそれが初めて恋した王宮魔術師を殺した張本人だったとしても。

でも彼女の一声で恋した彼は生き返った…実際は転生先の固定をしただけであるがそれでも嬉しい。

そんな狂った考えを持つ彼女の方が自分は好きだと思った。


もし自分が今の自分じゃ無くなったとして、まだ一緒にいてくれるだろうか…?そんなの愚問と呼ぶ以外に何がある。


記憶喪失時はいつもこちらの顔色を伺って心配を拗らせて優しい声をかけ続ける。今思えばイライラして仕方がないものだった。


あなたはそんないい子ちゃんの皮を被って暑苦しいでしょう?私はそれ気に入らないわ

はっきりと言ってやれば自分の心の中もスッキリした。

これで加奈がもっとわがままになってくれたら良い

それが周りを救うのだから。彼女の真っ直ぐで優しいわがままに付き合わせて欲しい。

それが、佐藤真彩の本音である。




山下加奈に付き従う者達を代表した佐藤真彩の備忘録 ~完~
















薄桃色の花びらが舞う御神木前

また来てしまった…と思うと同時に今度はもう怖くないと思った。

先日、仲間達に私が今の私じゃ無くなっても一緒にいてくれる?なんてクソ重感情を問うたところ信頼の証明をしてくれた。

それだけで私は心が満たされて笑みが溢れた。


今の私なら、神様をちゃんとお話ができるかもしれない。だから私は仲間とここに来た。

腰に提げたハルカゼを撫でて自分に加護を与えた神を呼んで欲しいと頼むと、すぐに人の形となって私に笑いかけた。

春を告げる鳥が祈れば薄桃色の花吹雪が吹き荒れて私達を包みこんだ。

頬を撫でる白魚のような手は見た目よりも温もりがあってホッとする。


「短時間でこれほどの変化を遂げるとは…やはり貴女こそ器になるに相応しいです。」


初っ端からこの神は理解に苦しむ言葉選びをしてくるな。 

人付き合いは可もなく不可もなくいける私にとってこの人はまぁ難易度が高い。

人…ではなく神なんだけどね。


「一番大切な主語が抜けていますよ…私がなんの器なのかをあなたはまだ言っていない。」

「…たかが人の子が随分と達者な事を言いますね。

ですが、私の口からは運命を告げる事を禁じられています。」


つまり言いたくても言えないと…厄介であり面倒臭い。

私の運命は私で決めるとは言ったが抗いたい運命が分からないんじゃあどうすることも出来ない。

それが、どの世界にも通用する理なのだろう。

私はため息を着いて神様の発言を思い出した。


世界の運命を背負う私、それに相応しい器…世界が破滅を迎える?

それを導くのか、それとも阻止するのが私?


「どちらとも取れる運命…なら私はこの世界を救う勇者になってみたいな。」

「…的外れな発言をしますね。

あなたは奇想天外、予想がつかない…春告鳥の持ち主になるだけはありますね。」


刀の持ち主の帰順とかあるんだ…確かにあの子は楽観的で奇想天外と捉えられてもおかしくは無いけど。

少し冷静な気持ちで、スっと背筋を伸ばしてまっすぐ相手の目を見ることを忘れずに、私はハッキリと物申すことにした。


「誰にも邪魔されない運命、私の仲間は私のわがままが人を救う事があると言いました。

だから本能のままに動く私を受け入れて先に進む事にします。」


その瞬間の神様の表情は忘れない。あれ程の美人が目を丸くしてすぐに微笑みかけてきたからゾクッとした。

この世の美人が集まったとて、目の前の神様に勝る者はいないだろう、それ程の衝撃だった。


「やはりあなたで良かった…。」


神様は、それだけを呟いて私を強く抱き締めた。

美女からの抱擁とは前世でどれ程徳を積んだのだろうか。今後一生無いだろう。


「この先の未来、あなたが進む先が寄り良きものでありますように」


それが後世へ向けた別れなのだろうか、するりと抜ける絹のような柔らかい手を離すのも切なくて咄嗟に手を伸ばしてしまった。

あれ程恐れていた存在なのに、今日は何故か怖くない。

それは私が変わった事を意味するのだろうか。

桜吹雪に視界を奪われ目を閉じると神様の姿は無かった。


ほんの一瞬の幻想、そして一度深呼吸をして桃色が視界に現れては消えてしまう。


「言ってることが以前と違うんですけど…」


ゆらゆらと桜の花びらが舞い表と裏を見せてくれるような、全く違う発言をする神様は、枝垂れ桜を御神木とするだけはあるな。

そんな事を思いながらも後ろを振り向けば皆が待ってくれている。

ザッと一歩前に出て来た彼は深緑色の長髪を揺らして首をかしげた。


「言いたいことは言えたか?」

「まあ…それとナザンカはこの国の言葉を覚えたほうが良いよ。

あんた以外は神様の言葉理解してるから。」



翻訳のスキルを持たないって結構大きいんだなって思ってしまった。

でも、この世には知らなくて良いことも多くあるからこそ純粋な人々はいるのだろう。

私は笑って皆に告げることにした


「大丈夫、皆が私を信じてくれる限り私は絶対に自分を見失わない。」

「まあ…自分を見失いそうになったら引っ叩いてあげる。」

「なんて暴力的な…!」


相変わらずマアヤは私に対して刺々しいな…私にとっての天使はアザレアだけだった。

甘えるようにアザレアに抱きついて「私の味方~」と言えばナザンカが決まって私のフードを掴んでアザレアから離そうとする。


「ナザンカ…私とアザレアの愛の育みを邪魔するなんて許さないわよ!」

「アザレア嬢に変なこと教えるな!」


ふんだ、そんな事言うなら私はマアヤに甘えるもん

次はマアヤの番と言わんばかりのハグをしようと思えば見事に躱されてしまった。

皆して私の愛を受け止めようとしない…何故?

他の皆もそのダル絡みは止めたほうが良いみたいな冷たい目をしてくる。

唯一表情を変えないのはマオウだけなのでいつものように抱き上げて頬ずりをする。


「はぁ…本当に私はこんなんで世界を救えるのかしら?」

「…どんな結末になろうが俺様はお前を導く。ナビゲーターだからな。」


ツキカゲの言葉に私はちらりと彼の横顔を見つめて少し安心した。

そうだ、私達の関係は決して変わることのないものだから

私はマオウをそっと降ろして歩き出し、御神木と城下町を繋ぐ長い道に立った。


「城下町に降りたらギルドでの活動を本格的にしないとね。」

「その前に昼ご飯にしましょう!カワサキ屋のウドン!」


元気よく昼食のリクエストをするカミツレの挙手をグッと降ろして却下する者が一人いた。


「何を言っているんだカミツレ…ハシモト屋のソバに決まってるだろ。」


その瞬間、その場の空気がピンと張った感覚がした。

互いににらみ合うその瞳は完全に人を殺す目をしており、ハイライトなんてものはじめから無かったかのように何処かへ行ってしまった。どうか帰ってきてほしい。

そっと二人から距離をとって集まった私達は小さな声で状況の確認をし合った。


「今…なにが起きた?」

「それがわかったら苦労はしないんだよナザンカくん…」


今の会話を思い出せ…そうだよ二人は昼食のリクエストをしてた。バラバラだったけど

ゆっくりと歩を進めて互いに睨み合い明らかに体から魔力が漏れ出て感情がはっきりと分かる。



「ごめーん聞き逃しちゃった。もう一度言ってくれないかな?」

「ハシモト屋のソバにするといっただろ…弟の我儘くらい見逃せ。」


あーやっぱりそうだ。昼食のメニューで完全に意見が別れちゃったんだ。

しかしそれによりマアヤは首を傾げた。


「橋本屋の蕎麦と川崎屋のうどん…たかが麺の種類の違いでこうなる?」

「マアヤ…き◯この山とた◯のこの里は同じだと思うかい?」

「全く違う、き◯この山をあんなボソボソのチョコクッキーと一緒にするな」


は?お前き◯こ派かよ?ぶん殴るぞ

私とマアヤで睨み合っているとアザレアが間に入って私達まで喧嘩するなと止めた。

まあなんだ、何故こんな事になっているのかはわかった。

つまり目の前で起きているのはただの昼食争いではない。



互いの派閥の命をかけた姉弟喧嘩ということだ。




「いいだろう…ここで決着をつけてやろう。」

「姉を舐めるなよクソトカゲ…」



思ったよりこの喧嘩は深刻なものらしい。

誰かこの喧嘩を止めてくれよ、伝説のドラゴン同士の喧嘩とか大和の国が地図から消え去っちゃう。

というか目の前の怪獣バトルを止められるの限られるでしょうが、誰か海王竜さん連れてきてー!
























一方その頃、海王竜は


「主様、モヒートティーですわ。温室で採れたレモンを入れてみましたの!」

「あらノイヴァちゃん。ありがとう

それにしても、この馬車は中が快適ね…こんなにも優雅に漫画を読んでお留守番だなんて。

これ伝説のドラゴンがやることでは無いわね」


「主様、気にしたら負けですわ。」



眷属とお茶を飲みながら漫画を読んでいた。
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