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162話
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加奈が一人自室に引きこもっている時、祖父である山下勝蔵は頭を抱えていた。
まさか自分の孫が神に目をつけられるとは思わなかったからだ。
己も水の神の使いを助けた事をきっかけに加護を与えられたが、あの神は己の失態を隠すために自分を加護で監視しながらもできるだけ自由に人として生きることを許してくれた。
だが、彼岸咲耶姫は違う。明らかに人間の倫理観や思考を持ち合わせていない。
たった一人の小娘に世界の運命を背負わせようとしていた。
有無を言わさぬあの威圧は自身に向けられていないのに恐ろしく感じた。向けられた本人である加奈はもっと苦しかっただろう。
「秀ちゃん、加奈ちゃんはこの先どうなってしまうのじゃろうか?」
「…恐らく、あの伝承の通りになってしまうだろう。」
伝承、そう聞いて勝蔵は俯いていた顔を勢いよく上げた。
親友だけが知っているその情報を自分も知りたいと思ったからだろう。身を乗り出ししまいには肩を掴んで目を見開いた。
「お前…まさかこうなることを知っておったのか?
加奈ちゃんの辿る未来を知っておるのか⁉」
「落ち着け…伝承であって加奈が必ずしもそうなるとは限らん。
ただ、もしかしたらこうなる未来もあり得るということだ。」
それは、秀吉からすれば例え話であっても勝蔵にとっては残酷な現実に聞こえてならないのだ。
もしかしたら、自分の孫がこの先もっと危険な目に合うかもしれない。全てを失ってしまうかもしれない。そんな恐怖が頭を過ったのだ。
祖父として、孫を昔からよく知る者としてこれ以上苦しんでほしくないのだ。
それは今でも思い出す、誰も救われることのないどうしようもない過去の出来事で反吐が出る。
少し、冷静になろう。でなければ目の前の真偽すらわからなくなってしまうから。
「秀ちゃん、伝承の内容を教えてはくれないか?
俺の気遣いなんざどうでもいい、正直に全部言ってくれ。」
「…伝承と言ってもほんの僅かな文言のみじゃ
いまは昔 世界を包み込む欲望が世界を越える時 黒き髪と瞳の魔王が七柱の神と契約をし 世界の秩序を正した
どうやら外つ国は黒目黒髪を迫害する文化があるらしい。それこそ、悪魔は見つけ次第殺す…とな。」
背筋が凍り、呼吸が乱れた。これほどに動揺したのは久方ぶりであると頭の片隅で思い浮かべるほどだった。
その時、思い出したのはしばらく会っていなかった孫と再会した時の容姿だ。
茶色の髪と青い瞳であまりにも不自然であったが、すぐに孫の加奈だとわかった。
恐らくあれは、自身の本当の容姿を隠すための変装だったのだろう。
その後は本来の姿になってもここでは安全と認識して変装をやめていた。しかし他の仲間は驚くことはなくいつもの加奈に戻ったような安心の笑みを浮かべていた。
外つ国の者全てが黒目黒髪を迫害していたわけではないと頭で整理したが、迫害しないのは少数派なのだろうと理解した。
本当に信頼できる仲間と共に旅をしてここまで来たのだと思うと悲しさと嬉しさが小さな笑みとして溢れる。
そして親友の口にした伝承はまだ続きがあった。
「話しは最後まで聞け
歴史は繰り返される この先の未来で魔王は姿を変えて継承者に全てを捧げる 初代魔王の名は…」
「……⁉」
勝蔵は目を見開きそして困惑した。
なぜこの場でそのような事実を知らなければならないのか理解できなかったからだ。
再び頭を抱えこれを加奈に伝えるべきか悩んでいた。しかしすぐに言うべき内容ではないと判断した。
そこで、加奈には申し訳ないが親友である秀吉にこれだけは言うべきだろうと、こちらも真実を告げることにしたのだ。
「一つ…言っておかねぇといけない事がある。
加奈ちゃんの、事についてじゃ。」
それは先程まで頭に思い浮かべていたどうしようもない、誰も救われることのない過去の話。
本当は思い出したくもない、しかし思い出さねば過去の人を忘れてしまうことになる。
今からもう4年は経つであろう少女だった加奈の話
山下加奈 10歳 いじめられっ子
それが周りの子どもたちの評価であり、誰もが意味もなくなんとなくという理由で加奈を嫌った。それが加奈の性格をに臆病で泣き虫にさせた。
いじめれば少しは楽しめるだろうと誰もが思った。
いじめておけば自分は平穏に暮らせるという自分勝手な理由で皆が見て見ぬふりをした。
ただ一人を除いておけば
高橋真生 10歳 いじめられっ子
長いまつげと整った容姿のせいで周りからいじめられる彼は加奈とは正反対の性格で、誰が何をしようとへこたれずに己の正しいことを貫く人物であった。
そんな真生は同じクラスメイトの加奈と良く一緒に話しては登下校を共にし、他者からはカップルだ何だとよく冷やかされた。
加奈はそんな現状が嫌で真生を嫌った。自分を救ってくれていたはずなのに周りと同じことを自らやったのだ。
それに気づいた時、祖父の勝蔵はいじめっ子も加奈も一緒にめちゃくちゃ怒った。
後にべそべそと泣きながら真生に何度も謝ったのは子供時代の良い思い出だった。
小学生のいじめは次第に解消されたが、それでも卒業までは行きづらいものであった印象があった。
中学時代、また加奈はいじめられた。
クラスの男子にいじめられ、そこから噂が流れて部活動でも同等の扱いを受けてしまったのだ。
当然居場所を失った加奈は登校拒否を起こしてしまった。小学生よりも知恵のある子供のいじめは大人の介入が難しく解決するには時間がかかった。
そん中でもただ一人、加奈を見捨てなかった人物がいた。
真生は毎日放課後には加奈の家に通ってはその日の授業の内容を教えていたのだ。
勉強自体は好きな加奈は素直に真生の優しさを受け入れていた。
しかし、なぜ真生がそのようなことをしてくれるのか理解できなかった。
だからだろう、好奇心で問いかければ彼は首を傾げてすぐに顔を真赤にした。
すぐに大した理由じゃない、特に理由はないからとはぐらかして勉強の内容を伝えていたのだ。
そんな健気な姿に勝蔵は陰ながら感謝をする反面、美人な容姿だが男だと知った衝撃で加奈の嫁にしたいがしたくない葛藤で頭を悩ませていた。
そんな献身的な真生の姿を見た加奈は勇気を出して学校に行こうと決意したのだ。
しかし、真生が守れない時は決まっていじめっ子が近寄ってくるため一日のほとんどを保健室で過ごした。
授業に出れない分を保健室でひたすら教科書とノートのみで勉強をして、放課後は真生が授業範囲とノートにまとめた内容を見せたおかげでテストでは上位をキープしていた。
高校受験時、加奈と真生は二人で遠い学校に通おうと約束をした。小学校・中学校と誰も自分達の知らない学校で
高校生になったらイメチェンもして過去と決別してしまおうと加奈は心に決めた。
きっとそれは、恩人である真生に褒められたい一心だったのだろう。
いつの間にか、加奈は真生が好きになっていた。
高校受験はお互いに勉強を頑張ったおかげで見事合格、春からまたよろしくと卒業式の際に親同士でも交流があったくらいだ。
誰もいない二人きりになった帰り道でお互いに告白して恋人にもなったと後に知った。
夏休みには海に行って遊園地デートをしてみたいだなんて言って、バレンタインにはチョコよりおはぎが食べたいと言って笑いあって…そんななんてこと無い恋人同士の幸せな会話もした
今まで苦しかった、だからこれからは青春を取り戻してたくさんの幸せを掴もうと心に決めていた。
入学して一週間、高橋真生は交通事故に遭いこの世を去ってしまった。
リードが外れて逃げてしまった散歩中の犬を助けようとして車と接触してしまったらしい。
その日は真生の誕生日であり命日にもなってしまったのだ。
自分の恩人が死んでしまった辛い現実に皆が悲しみ、加奈は現実を受け入れることが出来ずに再び部屋に引き籠もってしまった。
こんな事をしても何も変わらないことはわかっていた。しかし自分の見ている世界が白黒に見えて仕方がないと祖父の勝蔵だけに打ち明けていた。
勝蔵は、加奈が真生の為に準備していた誕生日プレゼントを捨てずにスクールバッグに入れたままであったことを知っていたのだ。
朝食の際に嬉しそうに離す孫の姿はまだ新しかった。それがこんなことになってしまうだなんて誰が想像しただろうか。
勝蔵は自身に加護を与えた水の神に会いに行き、特定の死者の行き先を知る方法を尋ねたが、それは管轄が違うと申し訳無さそうに告げられた。
しかし水の記憶を辿れば真生の最期は見れるかもしれないと言われたが、孫の恋人の無惨な姿は見たくないのが本音だった。
結局孫を元気づけることは出来ずに時が経ち、まだ立ち直れてはいないが学校に登校するまでに回復した。
真生を忘れたくないから、こんなところで燻っていたら真生に怒られそうな気がすると言って前を向くようになったらしい。
高校二年生に進級した頃、加奈は明るい性格に戻っていた。
それ以上に、正義感で動くようになり次第にそれは真生の真似事をしているのだと家族は悟った。
自分なりに真生の分まで生きようと必死であったことが健気で美しいと思う反面、不気味にも思ったと加奈の両親は言った。
それでも、孫が前を向こうとしている。まだ生きようとしている気持ちを尊重し続けることにした。
と言っても、時々臆病な性格が出てきてしまうみたいだが。
だが、今の加奈がいるのは間違いなく真生のおかげであった。
本当に、惜しい人を亡くした。
もしも何処かで生まれ変わってれているのなら、加奈と過ごした記憶があるのなら、どうか加奈に再会出来ないものか。
それは孫を想い続ける祖父の願いであった。
加奈の過去について話した後、秀吉は深くため息をついた。
「…本当になんの因果だろうか。」
「ふむ、同姓同名の別人であって欲しいがそうもいかないじゃろうな。」
爺達の願いも虚しい結果になるだろう。わかってはいるがその現実から目を背けたい。
ふわりと桜の花びらが舞い踊り、皺だらけの血豆の固まったゴツゴツの手で柔らかい花びらを受け止めた。
まさか自分の孫が神に目をつけられるとは思わなかったからだ。
己も水の神の使いを助けた事をきっかけに加護を与えられたが、あの神は己の失態を隠すために自分を加護で監視しながらもできるだけ自由に人として生きることを許してくれた。
だが、彼岸咲耶姫は違う。明らかに人間の倫理観や思考を持ち合わせていない。
たった一人の小娘に世界の運命を背負わせようとしていた。
有無を言わさぬあの威圧は自身に向けられていないのに恐ろしく感じた。向けられた本人である加奈はもっと苦しかっただろう。
「秀ちゃん、加奈ちゃんはこの先どうなってしまうのじゃろうか?」
「…恐らく、あの伝承の通りになってしまうだろう。」
伝承、そう聞いて勝蔵は俯いていた顔を勢いよく上げた。
親友だけが知っているその情報を自分も知りたいと思ったからだろう。身を乗り出ししまいには肩を掴んで目を見開いた。
「お前…まさかこうなることを知っておったのか?
加奈ちゃんの辿る未来を知っておるのか⁉」
「落ち着け…伝承であって加奈が必ずしもそうなるとは限らん。
ただ、もしかしたらこうなる未来もあり得るということだ。」
それは、秀吉からすれば例え話であっても勝蔵にとっては残酷な現実に聞こえてならないのだ。
もしかしたら、自分の孫がこの先もっと危険な目に合うかもしれない。全てを失ってしまうかもしれない。そんな恐怖が頭を過ったのだ。
祖父として、孫を昔からよく知る者としてこれ以上苦しんでほしくないのだ。
それは今でも思い出す、誰も救われることのないどうしようもない過去の出来事で反吐が出る。
少し、冷静になろう。でなければ目の前の真偽すらわからなくなってしまうから。
「秀ちゃん、伝承の内容を教えてはくれないか?
俺の気遣いなんざどうでもいい、正直に全部言ってくれ。」
「…伝承と言ってもほんの僅かな文言のみじゃ
いまは昔 世界を包み込む欲望が世界を越える時 黒き髪と瞳の魔王が七柱の神と契約をし 世界の秩序を正した
どうやら外つ国は黒目黒髪を迫害する文化があるらしい。それこそ、悪魔は見つけ次第殺す…とな。」
背筋が凍り、呼吸が乱れた。これほどに動揺したのは久方ぶりであると頭の片隅で思い浮かべるほどだった。
その時、思い出したのはしばらく会っていなかった孫と再会した時の容姿だ。
茶色の髪と青い瞳であまりにも不自然であったが、すぐに孫の加奈だとわかった。
恐らくあれは、自身の本当の容姿を隠すための変装だったのだろう。
その後は本来の姿になってもここでは安全と認識して変装をやめていた。しかし他の仲間は驚くことはなくいつもの加奈に戻ったような安心の笑みを浮かべていた。
外つ国の者全てが黒目黒髪を迫害していたわけではないと頭で整理したが、迫害しないのは少数派なのだろうと理解した。
本当に信頼できる仲間と共に旅をしてここまで来たのだと思うと悲しさと嬉しさが小さな笑みとして溢れる。
そして親友の口にした伝承はまだ続きがあった。
「話しは最後まで聞け
歴史は繰り返される この先の未来で魔王は姿を変えて継承者に全てを捧げる 初代魔王の名は…」
「……⁉」
勝蔵は目を見開きそして困惑した。
なぜこの場でそのような事実を知らなければならないのか理解できなかったからだ。
再び頭を抱えこれを加奈に伝えるべきか悩んでいた。しかしすぐに言うべき内容ではないと判断した。
そこで、加奈には申し訳ないが親友である秀吉にこれだけは言うべきだろうと、こちらも真実を告げることにしたのだ。
「一つ…言っておかねぇといけない事がある。
加奈ちゃんの、事についてじゃ。」
それは先程まで頭に思い浮かべていたどうしようもない、誰も救われることのない過去の話。
本当は思い出したくもない、しかし思い出さねば過去の人を忘れてしまうことになる。
今からもう4年は経つであろう少女だった加奈の話
山下加奈 10歳 いじめられっ子
それが周りの子どもたちの評価であり、誰もが意味もなくなんとなくという理由で加奈を嫌った。それが加奈の性格をに臆病で泣き虫にさせた。
いじめれば少しは楽しめるだろうと誰もが思った。
いじめておけば自分は平穏に暮らせるという自分勝手な理由で皆が見て見ぬふりをした。
ただ一人を除いておけば
高橋真生 10歳 いじめられっ子
長いまつげと整った容姿のせいで周りからいじめられる彼は加奈とは正反対の性格で、誰が何をしようとへこたれずに己の正しいことを貫く人物であった。
そんな真生は同じクラスメイトの加奈と良く一緒に話しては登下校を共にし、他者からはカップルだ何だとよく冷やかされた。
加奈はそんな現状が嫌で真生を嫌った。自分を救ってくれていたはずなのに周りと同じことを自らやったのだ。
それに気づいた時、祖父の勝蔵はいじめっ子も加奈も一緒にめちゃくちゃ怒った。
後にべそべそと泣きながら真生に何度も謝ったのは子供時代の良い思い出だった。
小学生のいじめは次第に解消されたが、それでも卒業までは行きづらいものであった印象があった。
中学時代、また加奈はいじめられた。
クラスの男子にいじめられ、そこから噂が流れて部活動でも同等の扱いを受けてしまったのだ。
当然居場所を失った加奈は登校拒否を起こしてしまった。小学生よりも知恵のある子供のいじめは大人の介入が難しく解決するには時間がかかった。
そん中でもただ一人、加奈を見捨てなかった人物がいた。
真生は毎日放課後には加奈の家に通ってはその日の授業の内容を教えていたのだ。
勉強自体は好きな加奈は素直に真生の優しさを受け入れていた。
しかし、なぜ真生がそのようなことをしてくれるのか理解できなかった。
だからだろう、好奇心で問いかければ彼は首を傾げてすぐに顔を真赤にした。
すぐに大した理由じゃない、特に理由はないからとはぐらかして勉強の内容を伝えていたのだ。
そんな健気な姿に勝蔵は陰ながら感謝をする反面、美人な容姿だが男だと知った衝撃で加奈の嫁にしたいがしたくない葛藤で頭を悩ませていた。
そんな献身的な真生の姿を見た加奈は勇気を出して学校に行こうと決意したのだ。
しかし、真生が守れない時は決まっていじめっ子が近寄ってくるため一日のほとんどを保健室で過ごした。
授業に出れない分を保健室でひたすら教科書とノートのみで勉強をして、放課後は真生が授業範囲とノートにまとめた内容を見せたおかげでテストでは上位をキープしていた。
高校受験時、加奈と真生は二人で遠い学校に通おうと約束をした。小学校・中学校と誰も自分達の知らない学校で
高校生になったらイメチェンもして過去と決別してしまおうと加奈は心に決めた。
きっとそれは、恩人である真生に褒められたい一心だったのだろう。
いつの間にか、加奈は真生が好きになっていた。
高校受験はお互いに勉強を頑張ったおかげで見事合格、春からまたよろしくと卒業式の際に親同士でも交流があったくらいだ。
誰もいない二人きりになった帰り道でお互いに告白して恋人にもなったと後に知った。
夏休みには海に行って遊園地デートをしてみたいだなんて言って、バレンタインにはチョコよりおはぎが食べたいと言って笑いあって…そんななんてこと無い恋人同士の幸せな会話もした
今まで苦しかった、だからこれからは青春を取り戻してたくさんの幸せを掴もうと心に決めていた。
入学して一週間、高橋真生は交通事故に遭いこの世を去ってしまった。
リードが外れて逃げてしまった散歩中の犬を助けようとして車と接触してしまったらしい。
その日は真生の誕生日であり命日にもなってしまったのだ。
自分の恩人が死んでしまった辛い現実に皆が悲しみ、加奈は現実を受け入れることが出来ずに再び部屋に引き籠もってしまった。
こんな事をしても何も変わらないことはわかっていた。しかし自分の見ている世界が白黒に見えて仕方がないと祖父の勝蔵だけに打ち明けていた。
勝蔵は、加奈が真生の為に準備していた誕生日プレゼントを捨てずにスクールバッグに入れたままであったことを知っていたのだ。
朝食の際に嬉しそうに離す孫の姿はまだ新しかった。それがこんなことになってしまうだなんて誰が想像しただろうか。
勝蔵は自身に加護を与えた水の神に会いに行き、特定の死者の行き先を知る方法を尋ねたが、それは管轄が違うと申し訳無さそうに告げられた。
しかし水の記憶を辿れば真生の最期は見れるかもしれないと言われたが、孫の恋人の無惨な姿は見たくないのが本音だった。
結局孫を元気づけることは出来ずに時が経ち、まだ立ち直れてはいないが学校に登校するまでに回復した。
真生を忘れたくないから、こんなところで燻っていたら真生に怒られそうな気がすると言って前を向くようになったらしい。
高校二年生に進級した頃、加奈は明るい性格に戻っていた。
それ以上に、正義感で動くようになり次第にそれは真生の真似事をしているのだと家族は悟った。
自分なりに真生の分まで生きようと必死であったことが健気で美しいと思う反面、不気味にも思ったと加奈の両親は言った。
それでも、孫が前を向こうとしている。まだ生きようとしている気持ちを尊重し続けることにした。
と言っても、時々臆病な性格が出てきてしまうみたいだが。
だが、今の加奈がいるのは間違いなく真生のおかげであった。
本当に、惜しい人を亡くした。
もしも何処かで生まれ変わってれているのなら、加奈と過ごした記憶があるのなら、どうか加奈に再会出来ないものか。
それは孫を想い続ける祖父の願いであった。
加奈の過去について話した後、秀吉は深くため息をついた。
「…本当になんの因果だろうか。」
「ふむ、同姓同名の別人であって欲しいがそうもいかないじゃろうな。」
爺達の願いも虚しい結果になるだろう。わかってはいるがその現実から目を背けたい。
ふわりと桜の花びらが舞い踊り、皺だらけの血豆の固まったゴツゴツの手で柔らかい花びらを受け止めた。
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