見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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159話

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人々が集うサクラ港と城をつなぐ城下町は賑わいを見せていた。

茶屋に食事処、小物雑貨に問屋に呉服屋とそれぞれが魅力的な商品で目移りしてしまう。


「しかしまぁ、加奈ちゃんが小さくなっちまうとはなぁ。

まるで昔に戻ったようじゃわい。」

「多分五歳の姿だね。あとじいちゃん、肩車は精神的にキツイよ」


御年八十歳の祖父に肩車される子供の中身は二十歳の大人であることを理解しているのだろうか。わかっているうえでニコニコの笑顔で肩車するから本当に…

嬉しそうに私に話しかけるじいちゃんの言葉に耳を向けてなぜ私が子供の姿で異世界にいるのか聞いてきた。

だから素直に答えたのだ。私はマアヤの異世界召喚に巻き揉まれてここに来たのだと。するとじいちゃんは黙り込んでいた。

おそらく、私が元いた世界に帰った時にどのような影響があるのか気になるのだろう。

元いた世界では大人の体、そしてこの世界では子どもの体と矛盾が生じているので何処で修正されるのか…それとも私は元いた世界に拒絶されてしまうのかのどちらかだろう。


「加奈ちゃんは、始めて世界を越える時に必要なものは知っとるじゃろう?」

「えっと、越えた先の世界に適応するための体、及び体を形成するための魔力だよね?それも多量の魔力。」


するとじいちゃんの頭が前後に揺れて、肯定を意味しているのだと理解した。

確かに、じいちゃんが水を司る神様に力をもらった時に魔力を作り出して体内に溜め込むように作り変えてもらったんだっけ?

じいちゃんは再び口を開いて私に言った。どうして私がこの世界に来ることが出来たのか…と


「これはじいちゃんの推察に過ぎん。マアヤさんがこの世界に来ることが出来たのは召喚した者達の魔力を吸い尽くして己の体を形成するために作ったのじゃろう。

その場合、加奈ちゃんのもらえる魔力なんざ雀の涙なんて多く思えるほどに少ない、無いに等しい。

魔力もないのに魂だけが世界と世界の間に留まるとどうなるか…簡単な話じゃ」








魂が完全に消滅して存在がなかったことになっていた。






背筋が凍った感覚がした。

じいちゃんの言葉が本当なら、私はどうしてこの世界にいるのだろうか?

どうして?体を形成する魔力が一滴もない状態だったのにどうして…?

乱れる息で答えを求めようと言葉を紡ぐ。そのつもりがただ恐怖に震えて喘ぐだけになってしまい、じいちゃんは私をおろして優しく抱きしめた。


「すまんのぉ怖がらせてしまって…大丈夫、加奈ちゃんはここにいる。間違いなく生きてじいちゃんの前にいる。」


そう言ってようやく落ち着いたのか、じいちゃんは私に向けていつもの優しい笑みを浮かべていた。

そうだ、そのへんの茶屋に行こう。と提案をするじいちゃんに従って手をつなぎ歩くと周りの人は皆して微笑ましそうに見てくる。

なんともまあ擽ったいものか


「さてと、魔力もなかったはずなのにどうして加奈ちゃんがここにいるのか。

おそらくじいちゃんの加護が加奈ちゃんまで受け継がれたからじゃのう。

じいちゃんの魔力をもつ体の構造が息子やその孫に遺伝したのなら可能性はある。

きっと本能的に自分で身体を作り変えたのじゃろう。」


注文した後にすぐ出されたお茶を飲んで考察するじいちゃんの横顔は真剣そのもので、こんなにもかっこいいじいちゃんから命と魂をつなぐ手段を受け継いだのだとようやく理解した。

じいちゃんの加護と魔力を作り溜める体の構造が遺伝子となって私に受け継がれた。そしてそれが覚醒して私の魂が消滅する前に咄嗟に体を作り変えたのだろう。

ただ、どうして五歳の体に作り変えてしまったんだろう。


「でも、私が五歳の体で世界を越えてきた理由にならないじゃない。」

「そうじゃのぉ…じいちゃんが加護を授かったのが五歳だからそれに従ったのか、それとも体を形成する時間と魔力が足りずに五歳に収まったのかのどちらかじゃろう。」


だとしたら、元の世界で積み重ねてきた二十歳の体は何処に行ってしまったのだろうか。

頭が痛くなってくる…ひとまず茶屋に来たのだからお茶とお菓子を楽しもうではないか。


「美味しい…このお団子美味しいね、じいちゃん!」

「そうじゃろう!ここはじいちゃんがこの世界に来るずっと昔からやってる老舗じゃからのぉ。」


これでは本当に昔に戻ったみたいだな…目を閉じれば蘇るのは私が幼くて、じいちゃんが少し若かった頃の出来事。

父の里帰りに着いていけばじいちゃんにくっついて散歩して喫茶店でコーヒーの苦さに顔を顰めて、メロンソーダの弾ける甘みに頬を抑える。

少し固くて濃厚なプリンとふわふわのパンケーキと蜂蜜の相性の良さに目を輝かせたっけ。


「じいちゃん…私ね、じいちゃんが大好きよ。

幼い頃からずっとじいちゃんからもらったものはたくさんあって、全部をお返しする自信は無いけど…楽しくて嬉しかったんだって伝えることは出来るの。」

「…嬉しいことを言ってくれるのぉ。」


それは私だってそうだよ、そう笑いかけてさらに団子を口に運んで咀嚼した。

甘くて決してくどくはない、何時までも口に残しておきたい気持ちを抑えて飲み込むとお茶の温かさに心を落ち着かせてじいちゃんに言った。


「現時点で私は元いた世界に帰れないかもしれない。

でも、それでも良いと思えるのは出会ってきた人々がいて信頼できる仲間がいるから。

そりゃあ本当の私を隠していた時もあったけど、こうやって本当の姿でも許される場所があると気付いたから。」


今まで黒目黒髪のこの容姿を悪魔族と言われて何度も差別されてきた。とても悲しくて自分の見た目を変えて隠し続けていないと外に出れなかった。

まるで昔に戻った気分で嫌だったな。

この世界を完全に好きにはなれないけど、嫌いにもなれない。ただ、この世界も悪くはないと思える…それだけなんだよ。

なにかに怯えてその身を隠す過去とは早々におさらばしたい、過去はあまり振り返らない性格だからね。


そんな私の姿をじいちゃんはどんな目で、表情で見てくれるだろうか。

ずっと目を合わせることなく二人して街の様子をボーっと見つめて話し続けていたから顔を見てなかった。

そう思いチラリと横顔を見つめてようやく気づいた。



「…ごめんねじいちゃん。二ヶ月の猶予をくれたけど。

私は元の世界に帰れないや。」



あぁ、今だけは影で愛しいじいちゃんを包みこんで人々から隠してしまおう。

全てをわかりきっていた人に対して当の本人がトドメを指すように残酷な現実を突きつけるのは血も涙もないだろう。

でも私から言わなきゃだめだと思ったから口にしたけど。

やはりこの現実を伝えるには、私もじいちゃんも傷ついてしまう最悪な言葉だったな。

涙を我慢して震える声はお茶を飲んで誤魔化して、隣の涙は誰にも見せないように影で覆い隠すんだ。

私を包み込むように吹く暖かい風にありがとうと呟いて、心の整理が済んだらまた歩き出そう。

この世界をもっと好きになるために。私の幸せを邪魔しない居場所を探すために。



雨が降った


青い空と白い雲の中を雨が振る矛盾は天気雨、その他にも狐の嫁入りと呼ばれるらしい。

明るい気持ちでいたいのに、心の何処かで泣きたい気持ちを我慢している。

まさに私の気持ちを表しているようで少し切なかった…と、言うことにしようか。
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