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156話

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人生というのは何時どこで何が起こるかわからない。

私達はただ極東の島国を目指していた。海王竜さんとかいう伝説のドラゴン贅沢なレーダーに海流を読んでもらい安全な航路を進んでようやくたどり着いた島。

適当に船を停められる場所を探しているのだが、人がいないのだ。

もしかしてこの辺りは人が住んでいないのだろうか?

人が住んでいるような痕跡もないしおかしいな。


「うーん…地形的に人が生活してもおかしくないと思ったんだけどな?」


コロンブスのような海沿いに面した国もあったのに…と思ったが、もしかしてなにか特別な事情があるのだろうか?


「この島国って鎖国でもしてる?」

「いや、そんな話は聞いたことないな。

確かにヤマトの国は島の周辺は海流が乱れているし謎が多い国と噂されている。詳細が不明と言われてもおかしくは無いが…」


ツキカゲもナザンカも皆が首を傾げていた。ある一人を除いては。


「……。」

「どうかしたのアザレア?」

「……いいえ、もしかして私と皆さんで見えてる景色が違うのではないかと思いまして。」


じっと見つめるアザレアの3つの目。そう言えば彼女はあらゆるものが見えるのだと思い出した。

三つ目の特性と呼ぶべきだろうか、千里眼も透視もお手の物らしいが未来視だけはまだ出来ないのだそう。

そんな彼女が私達と見る世界が違うのは当然なのだろう。

一体どんな世界が見えているのだろうか。


「…私達には人も人工物も何もない無人島に見えるの。アザレアはどんな景色が見えているの?」

「…なるほど、そういうことですか。

あの島は特別な結界で国を覆っている可能性があります。それも視界に作用する結界。

でも、私にはいくつもの船が行き交う賑やかな港町に見えます。」


なんということだ…まさか私達とは全く逆の景色が見えていたなんて。

もしもこのまま船を停めようと陸に近づけば目に見えない船にぶつかっていた可能性もあったのか。

これはお手柄だな。流石アザレア


「もしかして、入国の審査が必要だけど場所が違うのかしら?」


カミツレさんの言葉に目を見開きどうしようかと考えていると、何処からか声が聞こえた。



「おーい、あんた達は貿易船かーい⁉」



もしかしてと思い船の手すりに掴まって海面を覗いた。

そこには小さな船に乗る既視感のある服を身に纏った男がいた。

左右から布襟を引っ張って前で重ねる着方、そして汚れてはいるがしっかりと見える波を連想させる和柄。


あの人、和服を着ている…?


「あの!ここは極東の島国、ヤマトの国でお間違い無いですか⁉」

「そうだけど…もしかして旅人かーい?」


海の中でも聞こえるはっきりとした回答と疑問に頷くと私は男に事情を話した。


「私達!ヤマトの国を観光したくてここまで来たんです!入国は何処から出来ますかー?」


観光という平和的理由を述べて入国審査を受けたいと伝えれば、男は快く教えてくれた。

どうやらここは漁師さん達が仕事をするために利用している港で普段は特別な結界で外からは無人島に見えてしまうとのこと。

外から来た旅人や貿易商が入国するには別の場所から入る必要があるみたい。

小舟に乗った漁師さんに道順を教えてもらい方向転換をするとまっすぐ入国専用の港を目指した。


「それにしても…荒々しい風貌の男だったな。声量も大きく、まるで起こっているようだった。」

「漁師さんだからね。あれた波の中を船を乗りこなして魚をとるから仲間との連携が必要なの。

それなのに声掛けが小さかったら意味ないでしょう?」


漁師さんの口調が荒く声が大きいのはそういった理由があるのだ。

私が小さい頃、親戚の叔父さんが漁師を営んでいる友人と会ってバカでかい声で話している姿に怯えている時に叔父さんが教えてくれたのだ。

決して怒っているんじゃないよって教えてくれた叔父さんの声は本当に優しかったのを覚えてる。

そう言えばあの叔父さんは元気かな…?あの体の頑丈なじいちゃんが倒れて入院したって連絡をくれたっきり全然繋がらないんだよね。


…あ、私が異世界にいるからか


「にしても、ヤマトの国って何時からあれほどの結界を使いこなせる程に発展したのかしら?」

「え?昔からあぁだったんじゃないの?」


カミツレさんの言葉に目を丸くしていると、ツキカゲとカリンが首を振って否定した。


「視覚を操作する魔法・結界なんて人間がやるには高度で難易度も高い。

でも実際に結界の存在を認知すると誰があれほどの結界を作り出したのか気になるな。」


ツキカゲの説明に首を傾げた私はマアヤと意見交換することにした。

なんとなく、ヤマトの国は私とマアヤが暮らしていた世界に酷似している可能性があるから。


「人間がやるには難易度が高い魔法の結界ね…。」

「魔法と呼ばれていないだけで別の術と仮定するのはどうかしら?

そもそもカナだって見た目を変えるスキルを持ってるじゃない。」


確かに、私のスキル変装コスプレは私の見た目を変えるスキルで、鏡でも見抜けない特殊なスキルだ。

しかし、人の形から離れるような姿にはなれない事から年齢の操作や身体的特徴をいじる程度しかできない。

しかし、アザレアはちょっと目に力を入れると私が五歳児の姿に見えるらしい。やはり彼女の目は特殊である。

それにしても視覚に関するなにかを操作する魔法ね…深く考えれば考えるほど、無意識に顎に手が伸びた。

まあ、今そんな事を考えたところで入国審査に影響は無いだろう。

揺れる船に身を任せて到着したのは先程の男に教えてもらった入国専用の港。

漁船専用の港と打って変わって人が多く集まる賑やかな港である。

鎖国してないけど海流が特殊で外からの船は限られていると思ったが、意外と多くの人が集まっているんだな。

誘導員と思われる人物に誘導されるがまま停泊所に進んだ。


「いやはや、貿易船でもなく商人の船でもないとは。旅の集団は何をしにヤマトの国まで?」


入国審査のため代表として私が受付にいるのだが、やはり目の前の職員さんも和服を着ている。


「観光の為に来ました。ヤマトの国の文化をよく知り体験できればと思いまして。」

「へぇ…海流を読むのも難しいかったでしょ?」


まあ海流を読むどころか操って安全につれてきてくれた伝説のドラゴンがいるからなぁ。

私はニッコリと笑って優秀な航海士がいるのでと答えておく。

見た目が無害で平和主義者ですよ~ってアピールをするとなんとか入国の許可は降りた。

入国料はさっさと払って馬車を走らせる許可をもらうために申請を出さないと。


「そう言えば…近くに美味しい食事処はありますか?」

「急だねぇ…俺が蕎麦が好きって理由になるが、店が並ぶ大通りの角にハシモト屋って蕎麦屋があるぞ。

大将が美味いそばにこだわっていてな…良い店だぞ」


ハシモト屋…橋本屋って言うのかな?素敵な響きだ。

私は素直にありがとうございますと言ってその場を去ると、船で待機していた仲間達に声をかけた。

馬車の使用許可は降りた。先程申請したときにもらった特別な木札を馬車の一番目立つところに引っ掛けておけば良いとのこと。

でも、馬車は船と一体化させて操縦室の下に繋げている。再度分解するとか出来るのだろうか?

あとこんな人がたくさんいるところで派手な合成と分解のショーとか勘弁して欲しい。

その辺りをカミツレさんに相談すると、彼女は頭を掻いた。


「うーん…出来なくは無いけどやるとしたら夜間にこっそりね。

その間だけ宿を借りて、自分の部屋には戻れないと思ってね。」


つまりカミツレさんは徹夜決定ということか。でも船と馬車を切り離すのに一晩でやってしまうなんてやはり規格外だな。

今後の予定が決まったところで、まずは腹ごしらえをしようってことになった。

ここはヤマトの国の玄関口、サクラ港と呼ばれている。

港から内陸へと続く道を歩いて目の前に広がるのはたくさんの人が行き交う大きな街

大通りを中心に多くの店が建ち並び、熱心に客引きをする店員さんがいた。


「新鮮な野菜だよ~!」

「恋人に向けて贈り物はいかがですかー!」

「新作菓子残りわずかでーす!」


どれも目を引くような魅力的なものばかりで心が踊る。町並みと雰囲気から江戸の日本を連想させるな。

でも私達が行くのはおすすめされた蕎麦屋さん

そう言えば私の仲間って蕎麦アレルギーの人いないよね?

バッと仲間の方を振り返り親指と人差し指で輪っかを作り一人ひとりそこから覗き込んだ。

目に力を入れてアレルギーがないか確認をしていくとアレルギー持ちはいなかった。

強いて言うならマアヤがスギ花粉アレルギーと表記が出てきた。通りでエルフの村開拓をする時に船にいる時間が長かったのか。


「蕎麦アレルギーはいないね…よし」

「わざわざそれを確認するために鑑定スキル使ったの?」


マアヤは呆れた顔をしていたが、何も言わずに蕎麦屋に連れてきたからそうなるでしょうが。

ひとまずラーメンと同じ食べ方の蕎麦専門店に行くよと入店直前にいうと、皆理解して少しワクワクしていた。

そうだよね、麺をすすって食べる文化が無い異世界人にとってはこのヤマトの国は異世界に感じるよね。

和服に身を包んだ住民、よく私が作る和食を扱うお店、そして石材を一切使っていない木造建築の街

石の壁かなと思えばそれは漆喰だし、不思議でたまらないんじゃないかな。

そして私達がこれから入る店は入国審査の時に対応してくれた検査官が教えてくれた蕎麦屋「ハシモト屋」

美味しそうな出汁の匂いが私の鼻と心を満たしてくる。


「いらっしゃいませー!お客さん…使い魔の同伴での入店は勘弁してください。」

「へ?あっ、すみません…!」


そう言えばマオウがいたんだった。これは失敗

私はマオウにお留守番してもらおうとしたが、こいつは基本的に私から離れようとしない。

どうしたものかと考えていると、店員さんは機転を利かせてこんな提案をしてくれた。


「今混み合っていてお客さんもお連れを合わせて結構いるでしょう?

これから店前に席を作るところだったんでそちらでもよろしいですか?」


店員曰く、屋外の席なら使い魔を置いてもいいよ、との事だった。

私はすぐにその提案に乗った。仲間も席がそこしか無いのなら仕方がないだろうと納得してくれた。

店前と言っても角の店なことを利用して直ぐ側の空き地スペースに素早く長椅子とテーブルを並べてくれた。

スゴイな…そこそこ大きいテーブルと長椅子を同時に運んできたぞあの店員さん。

席についたらメニューを受け取り内容を確認した。

おぉ…まさか十割蕎麦もあるとは思わなかったよ。あれはかなり技術の必要な蕎麦だから、それだけでこの店の大将の腕がわかる。

私は真っ先に十割蕎麦を注文し、他の皆も気になるメニューを頼んでいた。




「十割蕎麦を頼むとは、お嬢ちゃんもなかなか通だね?」


ふと声をかけられて振り向いた。まさか街の人に声をかけられるとは思わなかったから驚いてしまった。

ほっかむりと簡素な和服だけど丈は短く動きやすい格好…おそらく農民なのだろう。

顔がよく見えない、けど声と手の皺でわかるのは年老いたおじいさんであることはわかった。


「普通の蕎麦も美味しいんですけど、昔祖父と食べたお蕎麦が十割蕎麦だったんです。」


私の言葉に微笑ましいことだと笑いかけていると私のじいちゃんを思い出す。

大好きなじいちゃんが倒れた時は頭が真っ白になってよくわからなかった。

お見舞いに行こうとしてもじいちゃんが来るな、自分のやることを優先しろって頑なにお見舞いを拒否していたな。

次の休みの日に勝手にお見舞いに行こうと決めていたのにこんなことになるなんて思わなかった。

だから、今はじいちゃんの回復を祈って私は自分のやることを優先しよう。

ところで…声をかけてきたおじいさんは何時までここにいるのだろう。


「せっかくだからワシも一緒に蕎麦を食べてもいいかい?」

「構いませんが…おじいさんはこの街に詳しいですか?

色々と教えてほしいのです。」


こちらも同席の条件をだして情報の一つでも手に入れておかないと、やることもそのための滞在期間も定まらない。

するとおじいさんはニッコリと笑って構わないよと答えてくれた。

その後は注文した蕎麦を食べながらの会話…は出来ずに終わった。

江戸によく似たこの街はせっかちな働き者が多く、こんな昼下がりにゆっくりご飯は食べないのだそう。

そうだよな…ゆっくりご飯を食べる習慣なんて明治時代に入ってからだよな。

この街の人達にとってあくまで腹ごしらえに過ぎないのだ。

だから私はおじいさんとお話する為に仲間には船に戻ってもらった。

遠く船を見つめながら関心するおじいさんは私にどんな旅をしてきたのか訪ねてきた。

言えねぇ…悪魔族だって追われたり伝説のドラゴンに殺されかけたり、ましてや一国の聖女様を誘拐したり国が魔物に襲われてピンチなところを救ったりとか物語の主人公みたいなことしてきたなんて口が裂けても言えねぇよ。

私は愛想笑いをして普通の旅ですよと答えておいた。

でも、旅をして仲間が増えたのは事実だからそこは伝えておいた。


「私の旅についてきてくれた仲間には頭が上がりません。

ヤマトの国に行きたいと言って着いてきてくれたんですから。」

「仲間は大事だ…。それに君も、君の仲間もとても優れた能力を持っているようだね。」


ただの農民のおじいさんが何を言うかと思えば…いや、もうわかってはいるさ。

農民にしては筋肉のつき方が不自然だし、時々農民には無い品の良さが姿勢や歩き方から出ていた。

それに懐に隠し持ってる短刀は護身刀なのだろうな。



「…おじいさんはこの街で一番大きな桜の木をご存知ですか?」

「枝垂れ桜の御神木かい?ヤマトの国の守り神の為に数百年前に植えられた桜なら知ってるぞ。」


枝垂れ桜を知っている、そして人の懐に入るのが上手い話術だなと思ってしまった。

なんというか、すごく心地よい人の褒め方をするんだよな。


「おじいさんはあのお城にどんな方が住んでいるかご存知ですか?」

「あの城、そうだねぇ…農民のジジイにはよくわからんなぁ。」


そうかい、よくわからないかい。

私はクスリと笑って難しい質問をして申し訳ないと言ったが、おじいさんは気にしないでくれと言ってくれた。

お互いに当たり障りの無い会話をして少し考えた。

私は隣に立つおじいさんにどうして話しかけられたのだろうか…と

この人が何者なのかなんとなく察した私はまず言葉遣いに気をつけた。そして周りの気配を警戒した。


「最後に一つお聞きしても?」

「…聞かせてくれ」


もう隠す気はゼロなのかと思ってしまうほど、目の前のおじいさんは威圧的な言葉をかけてきた。

もう何も知らない関係ではいられないと悟ったのだろう。

だから私は腰に提げた武器の柄を撫でて心を落ち着かせた。


「あなたは農民ではない…どこぞのお偉いさんなのは勘付きましたが、何が目的ですか?」


「…そうだねぇ、ワシの懐にある刀が相方に反応したからかな?













その刀、何処で手に入れた?」




一瞬にして殺気が襲いかかってきた。

背筋が凍り体が動かなくなったが、風が私にしっかりしろと吹き荒れる。

落ち着け、この程度受けても気絶しないんだ。なら大丈夫

私は深呼吸をして正直に普通の武器屋で二束三文にもならない錆びた武器専用の樽に、傘立てに入れるが如く眠っていたと答えた。

意志のある武器インテリジェンス・ウェポン、そうツキカゲが教えてくれたあの日から私はこの子を信頼できる相棒と読んだ。


「ハルカゼは私が選び、私を選んでくれた。

短くなった刀身であっても私と一緒なら怖くない。」


ほぅ…低い声でおじいさんは感心した。でもまだ威圧は続けている。

そしておじいさんは言った。私の手にあるハルカゼがどんな武器であるか。


「その刀はワシの先祖が代々引き継いできた打刀であった。

短刀はワシ、太刀は我が親友、そして打刀は何者かに盗まれていた。

たとえ盗まれても刀が認めなければただのボロ刀に見えるよう親友が術をかけた…何故見つけられた?

何故刀に認められた?」


もしおじいさんの言葉が本当ならば、私の存在派不思議で堪らないんだろうな。

何処の馬の骨かしらん、それどころか弱そうな小娘が刀に認められていいるなんて信じられないよな。

悪いが刀を返すつもりは無いぞ。


「この刀は…あなたの刀でしたか。

刀身は短いけれど、私の魔力を注ぐと刀身が大きくなるんです。」


それはまるで、本来の姿と力を引き出しているような感じ。

おじいさんはじっと私を見つめてまた聞いてきた。


「もしもワシが君を殺してでも刀を取り返すと宣言した時、君はどうする?」


殺してでも…取り返したいもの

私は少し考えた。自分はこれから死ぬかもしれない、なんて悲しい終わり方をするのだろうかと。

でも、そんな安直な脅しをしたところで私が従うわけでもない。それに負けるつもりはサラサラ無い。

だからニヤリと笑って言ってやるんだ。


「殺される気はない、負けるつもりもない。

失敗や死を恐れることもあるだろう。でも…


失敗を計画に入れても、死を計画に入れるつもりはない。」


だって私には強い仲間がいる、そして仲間のためなら私だっていくらでも本気を出すつもりでいる。

さぁ、私を殺せるかな?

すると、おじいさんは目を丸くして息を飲んだ。

一体何が起きたのだろうか、すぐにキッと目を鋭くして私に詰め寄ると肩をつかんで問いかけた。


「君は一体何者だ…どうしてその刀を、どうして我が親友と重なるのだ。




何故外の国から来た君が勝蔵の真似事をしているのだ?」




その時、私の思考はピタリと止まった。

今、目の前のおじいさんはなんて名を口にした?

それは私だけではない、おじいさんも焦りが顔に出ていてお互いに混乱しているのだ。


「答えてくれ…君は一体何者なんだ?」

「え…その名前」


もはや話しが噛み合っていない

周りの気配が段々と近づいていく

その時、私は混乱により油断していた。


周りから襲いかかる黒い影、忍者だとすぐに理解した。

一瞬にして私を押さえつけて縄で高速する速度はまさに早業。

おじいさんを後ろに隠すように前に出て武器を持つ忍者もいる。

なにがなんだかもうよくわからない。

でも一つ思ったのは


「あぁ…終わった。」


多分私は無自覚の罪を償うために罰を受けるのだろう。




その後、有無も言わさず連れてこられたのはよくある日本庭園。

質素な茣蓙敷に正座させられて私は今、審判の時を待っていた。

何故こうなった…それは先程まで農民のおじいさんと思っていた人が予想通りお忍びで街を歩いていたこの国の御殿様だったからだよ。

お互いに威圧を掛け合って今度は混乱して今に至る。

つまり、御殿様よりも先に部下が判断を急いだからだ。

私も御殿様もポカンとしているし、未だに頭の整理が追いついていない。

どうしよう…このまま帰りが遅いと仲間が心配するかも。

なんてこと考えてツキカゲに念話をしようかとも考えた。しかしやめよう。

城の者に掴まって処刑されそう(笑)なんて言ってみろ。伝説のドラゴンが暴れて怪獣大戦争が始まる。


「あのぅ…御夕飯の時間が近いのでそろそろ帰ってもいいですか?」


その時の城の関係者は何いってんだこの小娘…って呆れた目で見てきた。

私殺されるつもりはサラサラ無い。切腹とか女に求めないでしょ。

遠く、と言っても部屋の奥という安全地帯でこちらの様子を見ているだろう御殿様は少し複雑な顔をしていた。

まるで私を誰かと重ねているような…あぁそうだ。


「御殿様に質問です。勝蔵とは一体誰ですか?」

「此奴…殿になんて無礼な!」


そのセリフは三下感がスゴイのよ、見ていて憐れだぞ。

私は深くため息をついておじさん五月蝿いと生意気な発言をした。

その瞬間、後頭部を掴まれてそのまま地面に叩きつけられた。

痛いわね…私体力と魔力はあるけど耐久力はペラペラなのよ?

それに普段は痛いからやらないけど本気を出せば額で大岩割れるんだから。そのくらい頭が硬いのよ。

ほら見てよ、地面にクレーターが出来ちゃったじゃない。

石頭?だまらっしゃい



「もう…痛いのは勘弁してよ。」



頭を押さえつけられているが、簡単に押し上げて文句を言うことは出来る。

ぶーぶー言いながら髪の毛が乱れるから頭を離せというが、そいつは私に対して化け物を見るかのような目で見てきた。


「こいつ…妖怪かなにかか⁉」

「いや、普通に人間ですけど…。」


もはや温度差が違いすぎて笑えてくる。

いやはや、問題ごとにに首を突っ込んだつもりはないけど私程の人間になると問題ごとが歩いてこっちにやってくるのね。


「せめて落ち着いて話し合おうよ~御殿様、もう一度聞きますが勝蔵は一体誰ですか?」

「……ワシの親友じゃ。偶にしか会えぬワシの一番の親友じゃ。」


親友ね…でも私の知ってる勝蔵と名のつく人物はたった一人

じっとお殿様を見つめてなるほど、と呟くと私はこう言った。


「名前からして男である勝蔵さんと私を重ねないで頂きたい。

私にもそうだが勝蔵さんにも失礼です。」

「この小娘…!」


殺気からお殿様に失礼だと思うが真実を言ったまでである。

いよいよお殿様じゃなくてその下につく大臣とかに首を刎ねられそう。

ワードウシヨウカナー
















「俺も連れて…え?」


後ろからドサドサとなにかが落ちる音が聞こえた。

何事だと思い振り向くと、その気は分かれて行動していたはずの仲間達が重なり合って倒れているではないか。

一体どうしてここに


「はっ…カナ!」

「おーツキカゲじゃん。私ねー今、不敬罪で処刑されかけてるんだよね。」


変に着地をして尻もちをついたマアヤは「声と表情はいつもどおりなのに洒落にならない現状…」と呟いていた。

確かに今の現状はカオスだろうな。伝説のドラゴンが三頭も来るなんてさ。

というかなんで仲間たちが降ってきたんだ?

ふと疑問に思ってツキカゲ達にどうやってここまで来たの?と聞くと、皆して小さな魔物を指さした。


「こいつが何処か行こうとしたから止めてたら全員で瞬間移動した。

そしたらここに来たってわけだ。」


わぁ、ナザンカの説明雑なのにわかりやすい。

しかし、皆が突然現れても状況派変わらない。それどころか不法侵入をした扱いで捕らえられようとしていた。


「曲者めが!グワァっ⁉」

「…弱いな」


当然だが皆負ける気は無いので簡単にその場を制圧してしまった。

スゴイな…ツキカゲとカミツレと海王竜さんはよく力の制御が出来たな。

マアヤも試作品の薬を試す感覚で銃を乱射してるし、しかも全弾命中させて眠らせてるし。

ナザンカはアザレアを守りながら他者を圧倒しているが、アザレアも負けじと対抗している。

1番危ういなと思ったのは、カリンだろうか。


「ねぇ、僕の足にキスしてよ」


なんて言いながら細い脚で強烈な蹴りを喰らわせているのを見ているとクソガキなんだけど恐ろしく思える。


「なんなのだ一体…!」

「我々では太刀打ち出来ませぬ!」

「それでも死ぬまで戦うのが武士!」


なんだろう、少し騒がしい武士共だな

もっとこう…静かに動揺してそれでも主の為に戦えよ。騒がないでさ


「皆やめて、穏便に済ませたかったのに君達が暴れたら私本当に首を刎られちゃう。」

「そうなる前に逃げればいいだろ」


ツキカゲは冷静にそう言うと、縄で縛られた私を軽々と持ち上げて本当にこの場を去るつもりらしい。

私の代わりに仲間に撤退の合図を出そうとしていた。

これじゃあ呑気に観光も出来なくなっちゃうよ…!





















「騒がしいと思えば…なんだぁこの乱闘戦は?」


それは一瞬の出来事

私を抱えたまま体を翻して突然の殺気を回避したツキカゲは珍しく動揺していた。


「ツキカゲ…あなた腕!」

「かすり傷だ…だが鱗を貫通した。」


なんてこったい…あのツキカゲに傷をつけるとか初めてだよ。

私達は更に警戒をして殺気の主を見つめた。

それは黒の着流しを身に纏うが、布越しでも伝わるがっしりとした体型。

そして短い白髪と刀を握る手の皺だけで老人と判断した私はその人物に問いかけた。


「あなたは…一体?」

「名を聞くなんて野暮だなぁ…俺はただのジジイさ。












……えっ、加奈ちゃん?」


クルリと振り返った時、私は目を丸くして驚いたしあちらも私の顔を見るなり驚いた。

というか今起きた出来事が嘘なのではないかと疑った。

久しく聞いていなかったその声に私はどうして気づかなかったのかと己に問い詰めた。

だって倒れて入院したって聞いたから。ここは異世界だからいるわけないって思ったから。

でもまだ現状を理解出来てなくて信じたくなくて、私は震える声でこう言ったのだ。


「じいちゃん…なの?」
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