見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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155話

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あれから数日

無人島を開拓し始めてちょうど一週間目の朝日を迎えた時だ。

ゆらゆらと揺れる船のマストに寄りかかってあくびを一つする。


「朝ごはん…どうしようかな。」


無人島なだけあって海の魚はたくさん釣れる。貴重な食料だ。

この島に移住したエルフ達は魚と島のきのみと畑で収穫した作物で生活出来るようになっていた。

他にも居住エリアには大きなお屋敷を中心に小さな家が立ち並んでいる。

メインストリートの真ん中には広場と掲示板で度々エルフ達が情報更新をしている。

あとはマアヤとカミツレに薬の作り方を教わって医者見習いが医者にスキルアップしたエルフが療養所を建てたり、私がご飯を作っていたら味に衝撃を受けて料理を教えてほしいと懇願されてレシピと調味料をあげた。

ナザンカはたくさんのエルフに狙われていたけどアザレアにしか眼中にしかないからまあ靡かない。鍛錬している姿を見られて10人くらい弟子希望者が現れた。

一週間で色々と起こったのに伝説のドラゴン達はいつでも甲板でテーブルと椅子を設置して優雅なティータイムを開いていた。なんというかブレないな…。


「よし…朝ごはんを食べたらここを発つとしますかね。」

「ようやくか。海王竜は厄介だからさっさとここを発って極東の島国に着いたらさっさと別れたい。

そもそも深海に住み着いてるのが陸上にいることがおかしいのだ。」


ぬるりと私の背後から現れて散々海王竜さんの事を厄介者扱いしているツキカゲの神経には驚かされる。こいつ肝据わり過ぎだろ。

はぁ、とため息をついて私の肩に自信の顎を乗せてくるツキカゲを押し退けると船の中を目指し今朝の献立を考えた。

面倒くさいしシリアル食品じゃ駄目かな?でもそれだと腹持ちが悪いし…そもそも船の中でどれだけ活動するかにもよるからな。


「シリアルを何種類か出しておくから好きなの選んでね。」

「…手抜きか?」


ぶっ飛ばすわよ

朝からお腹を冷やしてしまうシリアルだけは良くないのでホットドリンクも何種類か用意してもらうか。

たまには自分たちでやってもらわないとね。まあ子供のカリンはココア作ってあげよう。

ツキカゲと手分けして部屋で眠る仲間達を叩き起こして船内の食堂に集めた。

皆寝ぼけながらも素直にシリアルの量を調節して作って食べてる。

人によっては牛乳ではなくヨーグルトを入れたり蜂蜜やジャムを入れてるのが個性出てるな。

私は牛乳を入れる派で飲み物は暖かいコーヒーである。ちなみにマアヤは全く違ってヨーグルトに蜂蜜を入れてシリアルを食べるし飲み物は紅茶派である。


「もう一週間だね。」

「約束は約束…これ以上は海王竜殿も待たないわよ。」


カミツレさんの言葉に頷く仲間達。当の本人も一週間経ったことに今言われて気づいたそう

このドラゴン時間の経過に興味なさ過ぎだろ…さすがは八百年生きたドラゴンなだけある。


「まあ退屈はしなかったわ…カナがやることは皆面白いもの。」


そう言って緑茶を飲んでいる海王竜さんはニッコリと笑ってチョコレート味のシリアルに口をつけた。

何だろう…ただシリアルを食べてるだけなのにすごい色気だな。胸か?胸がそうさせているのか?


「最終日だしフェリーチェさんに挨拶しておかないとね。

村開拓でたくさん話し合いをした仲だし村のリーダーは間違いなく彼女だから。」


フェリーチェさんはこの村開拓の為に必死に仕事をしていた人物である。

あらゆる伝説のドラゴンやその眷属と交流とコネクション作りに留まらず、たくさんの開拓記録を整理して今後どうすればよいかなどをリスト化するなど一人でやる仕事ではない。

だからこそメイドのインセットさんの力が重要になってくるのだ。

朝早くから夜遅くまで働いてるフェリーチェさんの健康管理を徹底するのに対して自分は寝ている瞬間を見せてなかったな。


「インセットさんっていつ寝てるんだろうねってぐらいいつも起きてない?」


ふと疑問に思って口にすると、ナザンカが思い出すように首を傾げて口を開いた。


「パーフェクトバグだけに限らず蟲人族は虫の特性が濃く人の形をした虫と表現される種族だ。故に希少性が高いから大抵は護衛や戦闘奴隷、他にも研究対象にもなってる。

確かトーマス帝国では蟲人族が軟禁されているなんて噂もたっていたからな。」



うげぇ…なかなかにやばい噂もたっているようで朝ごはんが不味くなる。

インセットさんは人の形により近いだろうが、蟲人族はもっと虫の名残が残っている蟲人族はひどい扱いを受けていないだろうかと心配してしまう。


本当にただの噂、ガセネタで済めばよいのだが


空になった皿を手に取りテーブルから立ち上がるとシンクに置いて蛇口をひねった。

いつも思う、キッチンに立つ瞬間だけは元いた世界に帰ってきたような安心感を覚えるのだ。

普通に皿を洗って干して水気を取るだけの行為も、昼間は何を食べようかと気の早い事を考えて冷蔵庫を覗き込む時間もより日常に近いものだと思う。


「食料に問題なし…うん、大丈夫。」

「資金もあるからいざって時はカナのスキルで食品を召喚してもらおうかしら。まあ、それまでに極東の島国に到着すると思うけど。」


ヒョコっとカミツレさんが現れて冷蔵庫の中身を覗くのを横目で見つめた。

確かに私のインターネットはネットショッピングも出来る優れものだ。普段は知識を得るために調べる辞書として使っているけど。

そう考えると、この世界にとって私の力は危険極まりないのでは?なんて考えは何度も繰り返し頭を通り過ぎた。


「じゃあ出港の準備をしますか。決して忘れ物はしないように。」


いつものように腰に刀を装備して船から出るとフェリーチェさんのいる屋敷を目指した。

その道中でも私を見かけたエルフ達はニコニコと笑って大きく手を振り挨拶してくる。

とても恥ずかしい、でもなんだか嬉しくなって小さく手を振替すのだ。

ここにきて一週間、ここまで発展するとは思わなかった。

でも手助けは出来た。エルフ達ならここを拠点にして多くを得ると思う。

屋敷にたどり着いた私は庭に立つ人影を見つけた。

遠目からでもわかる良く手入れされたプラチナブロンドの髪の毛はフェリーチェさんのもの。隣に直立して静止しているオリーブ色の髪の毛と虫のようなドーム状のゴーグルをつけているメイドさんはインセットさんだ。

まだ彼女たちとの間には数十メートルはあるのにピクリと顔を上げて頭の触覚を揺らしてこちらを見た。

あの人本当に感知に優れているよな。なんでそれほどの危機感知能力とか絶対予測の本能とかいう強いスキル持ってるのに一週間前は私達に喧嘩売ってきたんだろう。


もしかして、こうやって村を開拓して安定した生活が出来ると予測したのだろうか?


なるほど、だから蟲人族は希少な上に狙われやすいのか。

…嫌だな、今朝仲間と話した蟲人族の噂話を思い出してしまったじゃないか。

どちらかと言うと、インセットさんは蟲人族として幸せに過ごせているのだろう。

フェリーチェさんも私に気づいてこちらを見ると、パァッと笑って大きく手を振った。


「カナ様!おはようございます!」

「おはようございます…朝から元気ですね。」


どうやら庭に自生する梅の実を採取していたみたいだ。前に自家製の梅干しを食べさせたら毒物扱いされたけど食べた後に疲労回復の効果があったのか薬扱いされたのだ。

そこで同じ疲労回復効果があってもっと食べやすい梅のジャムの作り方を教えたらフェリーチェさんのように梅を採取する人が増えたのだ。

何度も言うが、一週間で生活環境も習慣も変わり過ぎじゃない?

エルフってこんなに順応性の高い種族だっけ?


「ところで、カナ様はどうして朝早くにお屋敷に?」

「えっと…今日でちょうど一週間が経過したので出発の挨拶をしようかと思いまして。」


その時、ピタリと彼女の動きは止まり目を丸くした。

何故驚く?だって一週間の開拓の手助けをするって言ったろ。それを了承したのは紛れもないあんたらだろ。

驚きながらも頬に手を添えて眉を寄せて困ったような表情を浮かべていた。


「そうでした…あまりにも日々が充実していたので一週間があっという間に過ぎた事に気づきませんでした。」


確かに一週間かけて開拓したがあまりにも発展しすぎた気がする。

それほどに私や仲間たちの手助けが強力過ぎたのか、それに加えてエルフ達のやる気があったからなのか。 

でも約束は約束だ。私達は今日でこの島を出る。


「別れは寂しいもの、でも必ずまた会えると信じれは少しは怖くないでしょう?」

「もう…カナ様はそうやって私達に笑いかける。だから皆惹かれるのでしょうね。

本当に、ありがとうございました。」


クスクスと笑って私に頭を下げるこの島の長の行動に驚いたが、インセットさんが好きにさせてほしいと目で訴えてきた。

だがな…


「私もありがとうございます。ここで過ごした時間は間違いなく大切な時間でした。」


この島で得た情報やエルフの技術は確かに重要なもので代わりの利かないものだろう。

お礼を言いたいのはこちらの方だったりする。

この先の未来、多くの土地を訪れてたくさんの景色を目に焼き付けてもこの島に代わるものはないだろう。


「…どうか元気で」

「また会えることを信じて、いつでも貴方達が再びいらっしゃることを楽しみに待っていますわ。」


そう言ってもらえると嬉しいな。

私も彼女に習ってペコリとお辞儀をすればフェリーチェさんよりも先に頭を上げて川の水の如く、流れるように、自然に抱擁をした。

約束しよう、何があってもこの島で起きた平和で優しかった一週間を忘れないから。エルフたちも私達を忘れないでほしい。


「本当に…ありがとう」

「そんなの、私だって…っ!」


これ以上はもうだめだ。

パッと背に回していた手を離して後ろに下がると彼女の目に浮かぶ雫も見ずに船のある港を目指した。

ゆっくりと歩き、速歩きをして更には走って…私は別れの悲しみを抑えて新たな地を目指すワクワクを心のなかで強調させた。

綺麗に舗装された道の真ん中を駆け抜ければ住民達は笑って手を振った。

どんな状況であっても、先程挨拶したとしても、エルフ達は私達旅人に敬意を示すことを忘れなかった。

それが嬉しくて、恥ずかしくって、でもやっぱり嬉しいんだ。

船に到着した私は皆が揃っていることを確認して船のそばで泳いでいたブライドフィッシュのノイヴァに声をかけた。


「出発するよ!船の水槽に戻って!」


その瞬間を待ってましたと言わんばかりに海を飛び出て空中で姿を変える花嫁は笑顔だった。


「とうとうこの日が来たのですね!ワタクシ楽しみにしていましたの!」


この一週間で基本的な動作はマスターして楽しそうに私に話しかける花嫁姿の彼女を見ていると、本当にこの子はあらゆる血肉を喰らう魚なのかと疑ってしまう。

とりあえず行こうかと乗船を促せば、彼女はニッコリと笑って私を置いてけぼりにして船に飛び乗った。

あの魚は陸でもこれほどに順応して高すぎる身体能力を披露されると私よくあの魚に勝てたなと思う。

ぽかんと口を開けて船に乗り込んだノイヴァを見つめると、後ろから私を呼ぶ声が聞こえた。


「カナ様」

「…珍しいですね、貴女がフェリーチェさんのそばを離れるなんて。」


振り返って後ろに立つ彼女の姿を捉えた。

ゴーグル越しにこちらを見つめる瞳は真っ直ぐで力強くて、凛々しさも感じる。それがメイドであり護衛を担うインセットさんなのだ。

どうして主を離れてこんなところまで着いてきたのかと思ったが、なにか言いたいことがあったんだろうか。

キリッとした顔を維持したまま私に歩み寄りペコリと頭を下げてきた。この人も主とよく似ているな。


「ありがとうございました。貴方様の助力によりエルフの存亡の危機を回避することができました。

カナ様、貴女のおかげです。」

「…一つ訂正させてください。私だけの力じゃなくツキカゲ達仲間の力と、それに着いていこうと決めて村開拓に協力してくださったおかげです。

この島で生活できるのは皆さんの力があったからでしょう?」



頭を下げていた彼女にどうかこちらを見てほしいと言えば驚いた顔をしてこちらを見ていたインセットさん。

でもすぐにふわりと笑ってゴーグルの隙間に指を入れた。

目に浮かぶ涙を拭いているが笑みはそのまま


「カナ様に出会えてよかったです。」


あれほど表情が固くて愛嬌が垣間見えることもなかった究極のパーフェクトバグのインセットさんが涙を流して笑うとという衝撃に私は思考が止まりそうになった。

最後にこんな驚きが待っているとは思わなかったので咄嗟にインセットさんに大丈夫ですか?と聞いた私は悪くないと信じたい。


「ごめんなさい…私はもうフェリーチェ様を守ると決めてしまった以上、あの方を置いて島を出ることが出来ません。

だから、こんな哀れな虫の成し遂げたかった夢をカナ様に託したいのです。」


その瞬間、私は今朝の食事で話した内容を思い出してしまった。

その悲しみが鍵となって蘇ったのだ。顔を顰めても仕方がないだろう。

蟲人の悲しい末路、その強さ故に汚く歪んでしまった者達に私腹の肥やしにされる胸糞悪い現実は嘘であるとインセットさんに言ってほしかったのに。


「私は運が良かったのです。フェリーチェ様に救われた幸運の虫だから。

でも、すべての蟲人がそうとは限らない


私が暮らしていたかつての故郷は蟲人族の秘境の里と呼ばれていました。自然に囲まれてこの島のように平和な日々が続いていた…ずっと続けば良いと思っていたのに、蟲人族の虫の力を再現するだけでなく何倍にも引き出す力の強さを狙った人間達が私達を捕らえ里を滅ぼしたのです…!

私達は!静かに日々を過ごしていただけなのにっ!」


それは普段の彼女からは想像もできない悲痛の叫びに体が動かなくなってしまった。

この僅かな会話だけで知ってしまった残酷な事実は私には重すぎると思った。

でも、それと反面に少しずつ芽生えて来たのは使命感でもあった。

だってさ



「お願いします…どうか、どうか…!」



そんな声で、言葉で



「私の同族を…救い出してくださいっ!」



ゴーグル越しでも溢れて止まらない涙も己で拭うこともなく、異世界から来た小娘に本懐を遂げてほしいと想いを託して来たら、震える相手の手を握りしめるだろう。

ずっと思い悩んでいた事をたったの一週間しか過ごしていない憎いはずの人間に頼むのだから、それほどに彼女は追い詰められていたんだとすぐに察した私はフェリーチェさんにやった別れの抱擁よりも力強く抱きしめた。


「約束します…!インセットさんの仲間を救い出しますから…

だから、人間を嫌いになってもいいから、一瞬だけでも私を信じてくれませんか?」


もはや自分の発言の意味すら理解できないほど、私は頭が回らなくなっている。でもたった一つの目的の為に、約束を果たしたいという気持ちの強さだけは相手に伝わって欲しいと言葉を並べた。

するとインセットさんは鼻をすすりながらも私の抱擁に返すように強く抱きしめて来た。

大丈夫、大丈夫だよと背中を撫でればもっと泣いてしまい少し困ってしまった。

でもすぐに離れてゴーグルを少しずらして乱暴に涙を拭っていた。

もう大丈夫、そうやって心のなかで整理してくれると良いな…なんて私の勝手すぎる願いである。

私は心に決めている。目の前に辛い現実の片鱗を言葉にして伝えてくれた彼女の為に、彼女の遂げたかった夢を預かることにした。


「大丈夫ですよインセットさん、だって目の前にいる私はそんじょそこらの化け物にも負けない闇の王座に着く小娘ですから!

仲間を救い出して守る自信はあります!」


ちなみにこれ内緒ね?なんて小声で言えば、ポカンとしていた。

そんな彼女はこの島に置いていってしまおう。

出会った人々と別れてもその瞬間で感じ取ったもの全てが記憶に残って思い出となる。

絶対に忘れないよ、だからこの島に住む人達皆も忘れないでね。

ニッコリと笑ってインセットさんに背を向けた私は助走をつけて私達の船に飛び乗った。

波に身を任せるように揺れる床に着地をすると、仲間達はおかえりなんて言って私に近づいてきた。


「なによカナ~そんな顔して。まさか別れるのが辛くて逃げるように別れてきたの?」


カミツレさんがいじるように私の頭を雑に撫でて子供扱いしてきたので違いますと騒いだ。

フンと息を荒くして目をゴシゴシと擦るとチラリと小さくなっていく島を見つめた。

皆いい人達で良い一週間を過ごせたと思う。


「満足したか?」

「…うん、ありがとうねツキカゲ。

あなたが背中を押してくれなかったら私は今の私にならなかったよ。」


手すりに掴まって島を見つめる私の隣に立つツキカゲに私は礼を言った。

この島で、最後の最後で私は何をするべきか決まったから。


「次から次へと目的が増えていくわね。極東の島国に言ったら次は…その」

「…カナは、問題ごとに首を突っ込んで解決して今に至る事を忘れるな。

今まで通りで良い、カナらしくすれば良い。

誰かを救ってカナが救われるならな。」


どうしてかな

どうして君はそうやって私の欲しい言葉をくれるかな。

ギュッと手すりを握る力を込めてじんわりと視界が滲む。段々と視線が下がってどうすればわからないのに、今度は後ろから腕が伸びてきて背中に重みが加わった。


「忘れないで欲しいわ。皆カナについていきたいから一緒にいるの。」


背中に乗ってきたのはノイヴァ。声をかけてきたのはマアヤでそれに頷くのはカリンとカミツレさんだった。

私にはいつの間にかこんなにたくさんの仲間がいたんだと改めて認識することになるなんて。

そうだよ、私は仲間がいるからこうやって満たされた日々を過ごせるんだよ。


「私、インセットさんと約束したの。

傲慢な人間に捕まった蟲人族を救い出すって。

辛い現実を知っているのに見て見ぬふりをするなんて嫌だから…だから…!」


それ以上の言葉は出なかった。これでは私からのお願いと言うなの強要になってしまうと察したから。

でも皆は私に笑いかけてマアヤは私に小指を差し出した。


「なら約束して。私を鳥かごから連れ出してくれた時のように蟲人族を救い出したとして、貴女を大事にしないなんて馬鹿なことは止めて。」

「マアヤ…」


差し出された小指に手を伸ばそうかと考えた。でも何故かそんな勇気は私になくてどうしようと迷った時、するりと私の手を取り小指を絡ませたのはマアヤだった。

それを真似するように小指を差し出したのはツキカゲと、カミツレさんと、カリンとアザレアだった。


「私これ知ってます。指切りげんまんですよね?

約束をするなら本気でするって本で読みました!」


アザレアの言葉にとても良い言葉だと仲間達は笑みを浮かべた。

その瞬間、私はボロボロと涙を流して空を仰ぎ泣いた。

幸せすぎて、皆の言葉が暖かくて胸がいっぱいになって泣いた。

悲しみは全く無い。でも泣き腫らした後は満点の笑顔で皆にありがとうと言って前に進むことにした。


まずは極東の島国と言われている「ヤマトの国」


そこにはどんな世界が広がっているのか見てみたいから目指すのだ。


「よし、気合を入れるためにご飯にしよっか!」


元気いっぱいになった私の姿に安心したのか、ご飯に反応して船内に戻る仲間の後ろ姿に苦笑した。

本当に私についていくと言ってくれた仲間は私の力によって見事にご飯に目がない仲間になってしまった。

飯の力って凄いなーって思いながら歩を進めようとしたその時、私の足に何かが絡みついた。

それは細い紐のような尻尾ですぐにマオウの尻尾だと気づいた。


「どうしたの…?」


何も言わない、表情の一つも変えないマオウは尻尾が解けたタイミングでしゃがみ目線を合わせようとした私の手に尻尾を伸ばした。

するりと私の小指に己の尻尾を絡ませて、自分も他の皆と同じ気持ちだと言っているような態度を示した。

驚いた、まさか今まで感情や意思を一切見せてこなかったマオウが始めて私に気持ちを教えてくれたのだ。


「…わかったよ、約束する。誰かを大事にするためにはまず自分を大切にしないといけないとね。」


ニッコリと笑ってマオウを軽々と持ち上げると一緒に船内を目指した。

操縦室で船の操縦をしているナザンカに後でおにぎりでも持ってくると言うと簡単な返事と一緒にちょっと待てと声をかけられた。


「ん。」

「えっと…ナチュラルに操縦桿から唯一の手を離して何を?」

「アホ、この船は簡単に軌道が変わるほどヤワな構造はしてない。


…俺だけ約束を交わしてないのは違うと思ってな。」


すっと差し出された小指に目を丸くしたがすぐに理解して私も小指を出して絡ませた。

そうだよね、君も仲間だもんね

私は自分に課した強い使命と、仲間と交わした約束を胸に今日を生きようと思った。

そうでもしないと心が壊れてしまうと思ったから。


その時は気づかなかったんだ


我儘な思想と強力な異世界召喚者としてのステータスは









私を悪魔族へと染めていってるのだと


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