見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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153話

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皆を集めて会議する内容は一つ。エルフ達についてだ。

会議と言っても皆で操縦室に集まって小さく輪を作り小声で話すというもの。

当然だがマアヤとカリンとナザンカは追い払う派

カミツレさんとツキカゲはどうでもいい派

そして私とアザレアは助けたい派

マオウは論外


「さっきも言ったが食料は自分達が消費する分しかない。

カナが助けたいのもわかるがこちらの事情ってものがあるだろ?」


カリンの言う通り、エルフ達に手を差し伸べたいのは山々だがぶっちゃけそんな食料もないし資源もない。

よくそんなんで助けたいだなんて思ったよ。自分でも笑ってしまう。

だけど与えるものがない、自分達でも手一杯と思っているならまだなんとかなる。




無いのではなく足りない、なら増やせば良いじゃない。



「幸いな事に島がいくつかあるけど無人島がほとんど、極東の島国とは言うけど細々とした島を管理出来るとは思えない。

誰のものでもない無人島を開拓しても誰も怒らないでしょ?」

「まさかとは思うがお前…」


ナザンカの言いたい事はわかるよ。

にっこりと笑って人差し指をピンと伸ばす

まるで民衆を前に宣言する大統領のように、でも一応エルフに聞こえないようにやってる会議なので小声でこう言った。



「エルフ達が独立して生活出来るように島の開拓を手伝いましょう。」



これもまあ手助けになるだろう。

私の提案に目を丸くし、そして呆れた顔になる奴らは少なくない。

私達の知識を貸してあげるだけだからと言ったらそれが一番良くないと返された。

何も知ってる知識全部を与えろというわけじゃないんだからさ…と言えば少し考えていた。


「規格外にならない程度に知識と技術を伝授ね…私達がどこまで規格外かわかってる?」

「浅はかな考えを持ってすみませんでした。」



マアヤにはどうにも私の考えが理解できないらしい。

こんなことで立ち止まっているほど私達に時間はないのだと言いたいらしい。

でも私はへこたれないよ、問題ごとに首を突っ込むのは良くやってるし。

それにマアヤも私と同じように困っている人は放っておけない性分なのはわかってる。

なら私が無理やり動くからあなたはそれに流されなさい。



「マオウは温室から各種野菜の種と苗の選別をして、運搬は力のあるツキカゲとやって。

私、これから栄養食品を大量に買うからマアヤとカミツレさんは海水を浄水器にかけて水を作ってあげて。

アザレアさんは種の選別を終えたマオウと合流して無人島の土を調べて、ナザンカもついて行って魔物の調査。

カリン、エルフ達の人数確認と食料の消費スケジュールの計算と確認をして頂戴。」



やることはそれぞれの出来ることを分担して準備をすること。

皆が仕方ないと呆れる反面笑いながら解散したのを見届けると、私は彼女の方を向き直した。

それは海のように深く冷たいような穏やかで温かいような伝説のドラゴンと呼ばれる彼女である。

とても気難しく、それでいて扱いやすい程に単純な彼女に一つお願いをすることにした。


「海王竜さん、どうか極東の島国に向かうのを待ってはくれませんか?」

「…理解できないわね。なぜこんな小さな生き物たちの為に私達が立ち止まらないといけないのよ。

私はあなたが気に入ったから極東の島国まで案内して別れるつもりだったのよ。」


酷く冷たい視線だ。それだけで凍てつき殺されてしまいそうな鋭さでたじろぐ程だ。

でも大丈夫、この人はそれほど酷い方じゃない


「ではまず一週間ほど、私の部屋の漫画をいくらでも呼んで構いません。」


ピクリと彼女のマントが動いた。やはり体の一部を擬態させて人間に見せてるとは思ったがそれ六本ある触覚だったのね。

私はそれに気づかぬふりをしてニッコリと笑った。


「あなたを待たせるわけですから。紅茶の補充やお菓子作りもやろうか考えていたのですが…先を急いでいるご様子なのでここはお別れとしましょうか。」


「………いいえ、私は長寿の民でありせっかちなんて言葉は世界一似合わない。

一週間なんて私にとっては瞬きするのと同義よ。

いいわ、待ってあげる。一週間でどこまで無人島を開拓できるか見ものね。」




私は内心ガッツポーズした。そしていい忘れていたことをこのタイミングで言った。


「もし開拓のお手伝いをしてくださるのなら、お礼として新しく漫画を買い足そうかなって思っているんですよ~」

「私に出来るのは水に関することだけよ。」


この伝説のドラゴンちょろすぎない?

私はニッコリと笑ってありがとうございますとお礼を言って、マアヤとカミツレさんにお願いしていた水作りの仕事場に案内した。

後に仲間たちは私の事を悪魔であり勇者だと言った。


そんなこんなで始まった無人島開拓計画


これがうまく行けばエルフの居住地区も増えて仮に極東の島国を管理する政府辺りにバレても上手く言い包めようじゃないか。

ニコニコの笑顔でエルフ族のリーダーことフェリーチェさんにこれからやることを説明すると、泣いて喜ばれた。

彼女曰く、本当に盗賊のマネなんてしたくなかった。叶うことなら無人島を住処にして安定した暮らしをしたかったのだそう。

でもそれが叶わなかったのは実家を飛び出して行ったあの時点で資源があまりにも少なかったから船を襲って資源を盗まなければ生きていけないと判断したそうだ。


「ありがとうございます…!本当に…っ!」

「まずはお腹が空いたでしょう?簡単な食料しか無いけどこれを食べてください。」


そう言って渡したのは大量に買い込んだ栄養食を包装から取り出して皿に積んだもの。

流石に異世界の食べ物なのでそれの証になるようなビニールの包装は取って捨てた。

この世界のゴミの処理方法は燃やすかスライムに溶かしてもらうか、それか私の影の魔法で影に飲み込んでもらうかだ。

一人一つずつ栄養食を配って後からマアヤ達が持ってきた水も彼女達のもつコップに注いで配るとそれだけで喜んでいた。

大分困窮していたのだろうとそこで察して私はムズムズした。

本当ならここで私の作る料理を提供したいなど考えたがそれでは後々限界が来るだろうし、それをきっかけに彼女たちに襲われる可能性もあるからぐっとこらえた。


「ひとまずはそれで一食分。また時間が経てば提供します。

近くの島を開拓するためには知恵と技術、そして労働力が必要です。

どうか、己の未来の為に力を貸してください。」


その言葉に否定的な意見を上げるものはいなかった。

全ては己の未来のため、生き残るためなら私に従うことも嫌がらないのだそう。

それに、この船の中で圧倒的な力を持つのは私とその仲間たちだけであるから悪さをするには監視の目が多すぎるのだそう。

正直すぎるのも考えものだぞ、エルフ族よ…


エルフ族の食事が終わった頃、アザレアとナザンカが帰ってきた。

どうやらマオウが土の匂いで畑に使えそうな土地をすぐに見つけてくれたそうだ。

お陰でアザレアはナザンカと共に魔物の調査を進めて開拓可能な無人島と判断できたのだという。


「じゃああとは開拓予定地の整地と資源調達ね。材木になりそうな木はあった?」

「まっすぐに伸びてる木がほとんどだな…アザレアが言うには極東の島国特有のスギという木らしい。

自生しているのもあったが倒れてる木もあった。」


なるほど、なら木材に加工しやすいかもしれない。

するとアザレアもキラキラとした目で私に熱く語り始めた。


「私、感動しました!

極東の島国の周辺の島と聞いてたくさん本を読んで調べたのですが、スギがたくさん自生しているなんて開拓にもってこいの島ですよ!

そもそもスギは加工がしやすく通気性や防水性が高い不思議な木で癖の無い匂いなので家を作っても心地よくなる傾向があるそうです!」


へーソウナンダー、私若干の花粉アレルギー持ちだからその気持ちあんまり理解できないナー

苦笑いでアザレアの説明にすごいねと答えると私は少し考えた。


もし加工がし易いのであれば私の風魔法で簡単に伐採出来るのではないか?

あとは倒れたスギも木材に加工できる可能性がある。小さく切って家具にもできるし。

よし、メインの建材はスギでいこう。

建築においては私達の中で得意分野だと胸を張れる者はいない、もしもエルフにそんな人材がいれば良いのだが…。

そんな思いでフェリーチェさんに相談すれば


「はい!うちのクルーには船も家も作れる万能な大工がいます。

その子を中心に家の建築をすれば問題ないかと!」


いるんだ、よかった

ホッと胸をなでおろして安心したと言えば、大工さんと呼ばれて来たエルフはにっこり笑っていた。

私達に恩があるから労働力でお返ししたいと言ってくれた。

なんていい子なの…!ぱっと見の年齢なんて15歳くらいなのに。


「まるで妹が健気に頑張っているみたい。」

「あら、彼女は今年で160歳ですわよ?」


私、もう何も信じない。

眉間にしわを寄せて大工エルフによろしくお願いしますと言えば、精一杯頑張らせていただきます!と眩しい笑顔を見せてきた。

やっぱり年齢間違えてない?16歳辺りじゃない?


まあそれは置いとくとして、次にやることは何だろうかと考えながらフェリーチェさんと計画について話し合っていると、他のエルフが話しかけてきた。

彼女たちはエルフ族の中でも優れた農民だったらしい。

彼女達はマオウが選別して運んできた種と苗を見た途端に農作業がしたくて堪らないそう。


「エルフって本当に植物が好きなんですね。」

「エルフの居住地区は森もありましたが大部分が人工物で道も建物もレンガで出来ていましたから。」


居住地区は不作で海に飛び出していたから、こんなに豊かな土で植物を育てられることが嬉しいそうだ。

なら彼女達はマオウと一緒に畑を作るチームにしよう。マオウの翻訳は特に問題ないかな。

マオウのやることを真似すればいいし、やってほしいこととやらないでほしいことは尻尾の振り方を見ればわかるはずだろう。

着々と計画は進んでいる。私も実際に現地に行って少しでも貢献しないとな。

なんて言いながらスギの木をスパスパと豆腐のように斬って影魔法で倒れた丸太をキャッチして山を作ったらその姿を見たエルフ達が怯えてしまったのでマアヤに怒られて現地の仕事は禁止された。

なにその理不尽?と思ったが、影を操るのは闇の魔法の象徴だから怯えてしまうに決まってるだろと言われた。


「伸びる影を見てると…私も怖くて動けなくなる。」

「…分かった、もうマアヤの見えるところでこの魔法は使わないよ。」


光魔法を使いこなす彼女にとって影を始めとした闇魔法は厄介そのものなのだから怖くて当然だろう。

だから私は彼女の前ではこの魔法を使うことをやめた。

他の仲間はマアヤに対して甘すぎだというけど、このくらいで私は弱ったりしない…と、思いたい。

 良く考えたら彼女の方が強く出れる時あるんだっけか?

お互いに弱点をつくような関係だから怖いんだよな…彼女の気持ちはわかる。

私達は喧嘩できないなと思ってしまうのは自然な流れなのかもしれないなと空を仰いでクスリと笑った。


「…なによ」

「いえ、私達が仲良しで良かったわ。」

「はぁ?仲良くなった覚えはない。」


それは酷くないかい?私泣いちゃうぞ

猫をかぶる時のマアヤが恋しくなるけど、最近はアザレアが私の癒やしになりつつある。

でも、懐くのに時間がかかる猫のように見えてきたからそれはそれで面白いからいっか。


「段々とマアヤらしさが出てきたと思ったほうがいいのかしら…?」

「何言ってんのよ、私持ち場に戻るからね。」


それは是非とも頑張って欲しい。

再び飲水を作りに戻るマアヤの後ろ姿を確認すると、私はクルリと振り返り伐採された跡地を見つめる。

自然を切り開くことに顔を顰めるべきか、それともこれからこの地でお世話になるために笑みを浮かべて挨拶をするべきか。


「君ならこの地に対してどんな事をするべきだと思う?」


なんて己の腰に提げた短刀の柄を指で撫でると風が頬を撫でた。

とても優しい温かい風を運んでくれるわね、この子の素敵な一面というべきかしら。

それでもこの子には伝説のドラゴンの触手を一刀両断するほどに優れた刃を持っている。

私が持つには手に余るのではないか…いや違うだろう。

この子を持つにふさわしい私にならなければ。


「さてと、もう一仕事といきますか。」


本来の使い方ではないけど、頼りにしてるわよ愛しき春を運ぶ風よ。
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