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147話
しおりを挟む海は広いな大きいな
揺れる波に身を委ねて前に進む船は私達を運んでくれる。
「あの雲はこれから雨が降る前兆で、多分20分後にはこっちまで来る。」
「なるほど…」
今はコロンブスの南部にある港町で船を操縦する練習をしているのだ。
私を含む旅仲間達は揃いも揃って船旅初心者
船の帆を張ったり覚えておくと便利な縄の結び方に天気の見極め方などをギルドの掲示板で募集して講師の人を乗せて教えてもらっている。
「それにしてもこの船は最新式なんだね。
かなり丈夫な木と鉱石で作られた船体だし風だけでなく魔力でも動くからかなり効率よく船を動かせる。
目的地に早くたどり着けると思うよ。」
講師として招いた冒険者は珍しいことにめちゃくちゃ優しい人で逆に疑ってしまう。
一応鑑定スキルを使って前科はない事分かったし、うちのドラゴン達も大丈夫と言ってたし単純にいい人だったという。
真面目に講習を受けて船内での運営とかもコツを掴めたから、これで船旅が少しはマシになったかな。
ありがとう、名前が覚えづらい講師よ
なぜ覚えづらいかって?単純に発音が難しすぎた。
船の改造から始まって各々が欲しい物を船に詰め込んでとか船内の運営方法とか学んでいたら少し時間がかかってしまった。
この国と行っても港町の人達にはお世話になったな。
そういえばこの国に到着してから皆で役割分担を決めたんだっけか。
私がリーダー兼食事作る係
ツキカゲは私のサポートだからある意味では副リーダー
マアヤはポーション作ったり薬に関する仕事を担ってる
カミツレさんは馬車や船の魔改造をきっかけに道具の制作や修理などの仕事
ナザンカはアザレアの護衛を自ら言ってるけどそれに加えて旅のノウハウを利用して地図を使った旅ルートの確保をする係。つまりは航海士
アザレアは知識を蓄えながら自身の目をうまく活用して遠方の見張りをお願いした。
カリンとマオウはマスコット枠なのだが、カリンの几帳面な正確を見込んで帳簿の作成とお金の管理をしてもらうことにした。
お金はどこから出すって?皆で出し合って経費の確保はしておいた。
今後もこういうのは陸地での旅をした際に役割分担の応用がききそうだと思う。
「ワクワクするよね~海の旅」
「極東の島国までの距離は結構ある上に途中無数の渦巻きが行く手を阻む。
迂回ルートを使うともっと時間と距離が必要になるぞ。」
船の甲板に固定されたテーブルに地図を広げると、ナザンカは指で渦巻きの範囲をなぞって見せた。
他の諸島やら島と大きさを比較すると結構な範囲だな…
ナザンカに提案されたルートは結構な遠回りだけど安全だし、途中の島で食料の調達だったり島民と交易して旅の運営費の確保が出来る。
無難にナザンカの提案したルートでいくのが良いだろう。皆納得してるし
それぞれ島特有の食品や薬草や文化に興味津々だったし、私もどんな魔物がいるのか気になる。
「マオウにとっての楽園が見つかると良いわね。」
カーバンクルによく似た不思議な魔物であるマオウは私の足元にくっついて行動する。
犬とかでご主人さまの足元にくっついて離れないのはよく見るけどそれとはまた違った奇妙さがマオウにはある。
そんなマオウだけど、いずれは私の元を離れて自分の求める居場所を探さないといけない。
今のところマオウの納得する居場所は見つからない
「マオウはもうカナに懐いている可能性がある」
ツキカゲはそう言ってるけど私的にはこの子の自由を求めてしまうんだよなあ
私が何も言わずに離れると必ずワープして足元に来るんだよな。
なので私はマオウの件については半分諦めている。愛着も湧いてるしマオウも私から離れるのを嫌がるし問題は今のところ無い。
「よっし…ようやくここまで来たわね。
目指すは極東の島国
出航よ!」
アイアイサーなんてノリノリで言ってくれる程うちの仲間はいない
帆を広げて風をいっぱい受けて私の風の魔法で進む向きを調節して船は進み出す。
やっぱりハルカゼと出会ってよかったと思う
どういうわけか全属性の魔法を使えるけど闇と風が得意になってる。
最近では火の魔法も得意になりつつある…というのもこれはカリンのおかげでもあるんだよね。
火加減がもっと上手になったので料理でも戦闘でも使える。
目標は火力の限界突破をして熱線を使うこと。これやったら地形も変わってしまう可能性あるけどロマンはある。
「良いスタート何じゃないかしら!」
「カナ!急な風の調節はこっちも困惑するからやるなら事前に言え!」
初っ端ナザンカに怒られたのだが
こちとらかっこよく決めたいのだから許しておくれよと言えばこれで事故を起こしたら皆死ぬぞと脅された。
君の死に関する言葉は何故か重く感じるのよ。言い方にあえて重さを加えているのがなんというか…。
彼の地雷と言う考えで良いのだろうかと思う。
ナザンカの過去はあまり良く知らないけど、師匠と呼ぶ人に拾われて名前を貰って騎士になったから多くの経験がある。
そして苦い経験だってして当然だろう。騎士命をかける仕事なのだから仲間の死だって見てきたはず。
だから同じ空間で危ないことはしてほしくないんだろう。
でもね
「ごめん…でも前もって言えば何でもやってもいいのね!」
「違う、そうじゃない」
この船には最強の仲間がいるってことを理解してほしいな。
だって誰かが転んでも手を差し伸べてあげられる、どんなに危ない状況でも仲間の手を繋いで大丈夫って自分に言い聞かせられる。
この世界に来てから気づいた大好きな人が隣にいることの幸せを
まあ、ナザンカにそれを気づかせることはあまりにも酷なんだろうけどね。
「大丈夫、私達はいなくならないよ。」
「…だといいけどな。」
今だけは舵を握る君に委ねてみるとするよ。
ミツケタ
その瞬間、背筋の凍る感覚と恐怖に支配されかけた。
全員が戦闘態勢を取り辺りを警戒した。
港から追い風作ってスピードあげてきたから唯一の地面が船と言うピンチな状況
大体どこからこの恐ろしい気配が?
「⁉
カナッ!」
ツキカゲの声が聞こえる
皆が私の方を見て必死な顔をして手を伸ばしてきた。
腹にきつく巻かれたしっとりと水分を含んだそれは抵抗の余地すらくれない力で後ろに引っ張られた。
ふわりと地面から足が離れて不安定になると思えば船のマストよりも高く持ち上げられて、一気に海に引きずり込まれた。
ザブンッ、なんて可愛い表現ではない衝撃が強すぎて体中が痛む。
更には水中呼吸のポーションなんて飲んでないから限られた酸素の中にいて苦しい。
もがいて伸ばした手に絡みついているのは見慣れた細い尻尾。
これは決して離してならない、そんな意思が私を動かして見慣れたそれをしっかり握りしめた。
苦しい…腕に絡むそれと腹に巻き付いた触手のようなものはお互いに真逆に引っ張り合っているから痛いし肺に留めていた酸素が吐き出されそうだ。
しかし、私はあまりにも幸運だと思わされた。
ガクンと後ろに引っ張られる力が失われて代わりに後ろから棒のような物が押されて海面に浮かび上がった。
一体何が起きているのだろうと思ったが、海面から飛び出て気づいた。
手に絡みついたのはマオウの尻尾、船にはマオウに掴まって引っ張られないようにしている仲間たちの姿、背中から私を押していたのはいつの間にか鞘から引抜彼らハルカゼだった。
空中に投げ出されていた私を素早くキャッチしたのはツキカゲで船に戻った瞬間口に入り込んだ海水を吐き出した。
「ゲホッ!ゴホ…っ!」
どうにか呼吸が落ち着いた頃にやっと前を向けた。
皆が私の前に立って警戒しているんだ。気配の場所を掴んだのか真っ直ぐ見つめている、先は不自然な泡がブクブクと生まれては消えてを繰り返している。
本当に海というのは解明出来ない点が多すぎる
目の前に現れた黒い影を生む巨体
飛び出した拍子に水しぶきがこちらにまで降り掛かってくる。
「ミツケタ…貴様ガ我ノ賢者ヲ倒シタノカ?」
なんて大きさだ
以前見たツキカゲやカリンのドラゴンの姿とは比べ物にならない大きさの魔物
ぎゅッと私を抱きしめて話さないツキカゲの顔は酷く険しく低く唸り声をあげて威嚇していた。
「まさかこんなにも早く遭遇するとはね…。」
どうやらカミツレさんは知っているらしい。
一体何者なのだろうか?私の体を掴み引っ張ってきた触手は魔物の横にある四本の触覚の一部なのだろうか?
刃物で切られた断面からしてハルカゼが自分の意思で動いて断ち切ったのだろう。
「何故ソンナ小娘ヲ守ル?意味ガワカラナイ、理解不能ダ」
「あらあら…相変わらず人間社会を理解しようともしないあなたには驚きますよ~。
それにあなたからわざわざ出迎えてくださるなんて。」
まるでなんてことのない挨拶をしているような感じ
呼吸を整えてゆっくりと立ち上がって彼女に問うた。
「カミツレさん…あの魔物は一体…」
「来ることは予想出来たけどこんなに早いとは思わなかったわ…。
あの魔物こそが伝説のドラゴンが一柱
海王竜よ」
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