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143話
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翌日、誰よりも早く起きたつもりなのだが先に起きていたのはまさかのナザンカだった。
ギルドが経営している宿を出て顔を洗いに行こうとした時、ナザンカが外を目指しているのを見たのだ。
どうやら朝一番に日課の鍛錬をしていたみたいで私よりも早く起きることが出来たのは自分でも驚いていると言っていた。
「毎日ご苦労さまね。」
「それはお前にも言えるだろ。
毎日飽きずに俺たちの飯を作って、前まではカナとツキカゲの二人分だけだったんだろ?」
確かに初めは二人分で済んでいたけど、なんとなく私がここにいる意味になってきている気がするんだ。
意味…か
人は何事もレッテルを気にする
どんなに心優しい人間でも学歴が必要とか、どんなに歌がうまくても有名じゃなければ意味がないとか。
人はたった一つの証がないだけで価値が決まってしまうもの。その逆もしかりである。
「マアヤは聖女と呼ばれていたけど、本当は聖女の力を持っていなかったの。
だから偽りの聖女と裏では呼ばれていたわ。
そして私も悪魔族と呼ばれ続けている。だから黒髪を隠しているの。
私とマアヤがいた世界も、この世界もどちらも人を勝手に決めて私自身もそれを認めつつあるわ。
だから私の存在する意味は自分で作る。だから皆のご飯を作るの。」
人間というのはそういうものなのね。
本当に酷く素晴らしい世界だ。良い意味でも、悪い意味でも。
「お前は人の心を抉ってくるな。
俺がお前を差別した時を思い出しちまったじゃねぇか。」
私はケラケラと笑った。
気にしなくても良い。といったが彼が良い奴だからこそ気にしてしまうんだろうな。
「左腕、ずっとそのままにするの?片腕で剣を振るうのは時に苦行よ。」
「そうだな…でも、ずっとこのまま隻腕で生きていく。
師匠と共に愛国心である左腕を失ったんだからな。その現実を受け止めないとダメだ。」
そういえば前にも言っていたな
左腕をみて愛国心と呼ぶ彼に首をかしげるとちゃんと教えてくれた。
「俺の師匠…と言ってももう死んだけどな。師匠が俺にナザンカと言う名前をくれたんだよ。
右は困難に打ち勝つ花言葉のサザンカ、左は愛国心を花言葉に持つナスタチウム。
両手で束べて愛国心で困難に打ち勝つナザンカと名前がつけられたんだ。
師匠が俺を拾ってくれた。名前をくれた。
だから俺は騎士になった。
決して返すことの出来ない恩があるでっかい人なんだよ。
実年齢にしては見た目がオッサンなんだけどな」
最後の説明いる?
最後だけ転けそうになったんだけど
でも名前についてとお師匠さんの話をしているときのナザンカは嬉しそうな顔をしていた。
それ程に、お師匠さんが大好きなんだろうな。
するとじっと私を見つめて何か言いたげな様子のナザンカ。
「…誰にも言わないわよ人の過去なんか。」
「それはありがたいんだが…なんというか…
お前はどうして悪魔族って差別されてもそうやって平気でいられるんだ?」
自分が言えた立場ではないと小さな声で呟くナザンカだけど、私にはバッチリ聞こえてる。
確かにどうして私は悪魔族と罵ってきたやつはたくさんいる。
そりゃあ心が抉られる日々だったさ。トーマス帝国では本当の自分を見せることが命取りだったからすごく怖かった。
どんなに頑張って信頼を得てもそれは黒髪じゃないから、黒目でもないから皆怯えないんだ。
でも抉られるような痛みが心を支配しそうになっても隣にはツキカゲがいた。
そしてここから東にある国には私を受け入れてくれる人がいるかも知れないって希望を抱けるから。
「…いろんな想いが合わさった結果…かな。」
「なんだそりゃ」
聞いといてそんな反応は無いだろ。まあ私の答えがよくないんだろうけど。
互いに見つめ合った後に雲ひとつ無い青い空を見つめてポツリと呟いた。
「…今日もいい天気ね。」
「そうだな。ずっとこのまま良い天気の方が都合が良いな。」
たしかに
そこから部屋に戻るまでずっと他愛もない話をした。
今日はこんな事をするよとか、食事のリクエストはくじで決めるよとか。
「カナ、ありがとうな。」
「…お互い様よ」
この先もずっと腐れ縁で繋がる仲間だろうから。
いつまでも私とふざけあってくれよ、そしてアザレアを幸せにしなさい。
さあそろそろ皆が目を覚ます頃だ
ギルドが経営している宿を出て顔を洗いに行こうとした時、ナザンカが外を目指しているのを見たのだ。
どうやら朝一番に日課の鍛錬をしていたみたいで私よりも早く起きることが出来たのは自分でも驚いていると言っていた。
「毎日ご苦労さまね。」
「それはお前にも言えるだろ。
毎日飽きずに俺たちの飯を作って、前まではカナとツキカゲの二人分だけだったんだろ?」
確かに初めは二人分で済んでいたけど、なんとなく私がここにいる意味になってきている気がするんだ。
意味…か
人は何事もレッテルを気にする
どんなに心優しい人間でも学歴が必要とか、どんなに歌がうまくても有名じゃなければ意味がないとか。
人はたった一つの証がないだけで価値が決まってしまうもの。その逆もしかりである。
「マアヤは聖女と呼ばれていたけど、本当は聖女の力を持っていなかったの。
だから偽りの聖女と裏では呼ばれていたわ。
そして私も悪魔族と呼ばれ続けている。だから黒髪を隠しているの。
私とマアヤがいた世界も、この世界もどちらも人を勝手に決めて私自身もそれを認めつつあるわ。
だから私の存在する意味は自分で作る。だから皆のご飯を作るの。」
人間というのはそういうものなのね。
本当に酷く素晴らしい世界だ。良い意味でも、悪い意味でも。
「お前は人の心を抉ってくるな。
俺がお前を差別した時を思い出しちまったじゃねぇか。」
私はケラケラと笑った。
気にしなくても良い。といったが彼が良い奴だからこそ気にしてしまうんだろうな。
「左腕、ずっとそのままにするの?片腕で剣を振るうのは時に苦行よ。」
「そうだな…でも、ずっとこのまま隻腕で生きていく。
師匠と共に愛国心である左腕を失ったんだからな。その現実を受け止めないとダメだ。」
そういえば前にも言っていたな
左腕をみて愛国心と呼ぶ彼に首をかしげるとちゃんと教えてくれた。
「俺の師匠…と言ってももう死んだけどな。師匠が俺にナザンカと言う名前をくれたんだよ。
右は困難に打ち勝つ花言葉のサザンカ、左は愛国心を花言葉に持つナスタチウム。
両手で束べて愛国心で困難に打ち勝つナザンカと名前がつけられたんだ。
師匠が俺を拾ってくれた。名前をくれた。
だから俺は騎士になった。
決して返すことの出来ない恩があるでっかい人なんだよ。
実年齢にしては見た目がオッサンなんだけどな」
最後の説明いる?
最後だけ転けそうになったんだけど
でも名前についてとお師匠さんの話をしているときのナザンカは嬉しそうな顔をしていた。
それ程に、お師匠さんが大好きなんだろうな。
するとじっと私を見つめて何か言いたげな様子のナザンカ。
「…誰にも言わないわよ人の過去なんか。」
「それはありがたいんだが…なんというか…
お前はどうして悪魔族って差別されてもそうやって平気でいられるんだ?」
自分が言えた立場ではないと小さな声で呟くナザンカだけど、私にはバッチリ聞こえてる。
確かにどうして私は悪魔族と罵ってきたやつはたくさんいる。
そりゃあ心が抉られる日々だったさ。トーマス帝国では本当の自分を見せることが命取りだったからすごく怖かった。
どんなに頑張って信頼を得てもそれは黒髪じゃないから、黒目でもないから皆怯えないんだ。
でも抉られるような痛みが心を支配しそうになっても隣にはツキカゲがいた。
そしてここから東にある国には私を受け入れてくれる人がいるかも知れないって希望を抱けるから。
「…いろんな想いが合わさった結果…かな。」
「なんだそりゃ」
聞いといてそんな反応は無いだろ。まあ私の答えがよくないんだろうけど。
互いに見つめ合った後に雲ひとつ無い青い空を見つめてポツリと呟いた。
「…今日もいい天気ね。」
「そうだな。ずっとこのまま良い天気の方が都合が良いな。」
たしかに
そこから部屋に戻るまでずっと他愛もない話をした。
今日はこんな事をするよとか、食事のリクエストはくじで決めるよとか。
「カナ、ありがとうな。」
「…お互い様よ」
この先もずっと腐れ縁で繋がる仲間だろうから。
いつまでも私とふざけあってくれよ、そしてアザレアを幸せにしなさい。
さあそろそろ皆が目を覚ます頃だ
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