見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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139話

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アザレアが教えてくれたことは優しくて切ない告白だった。

自分の過去がどんなものであるか、そしてどうしてこの旅に前向きになってついて来ようと思ったのか。

彼女は背中を押されてここに来ているんだ。


「お母様がいなければ今の私はいないでしょう。

私は知りたいのです、お母様の故郷である極東の島国はどのような場所なのか。」

「そういうことだったのね…私やカナの生活様式や文化にアザレアのお母さんの仕草とか話し方と重なったんでしょう。

偶然…と言うべきなのかしら。」


確かにマアヤの言葉には納得できる

私は自分と同じ境遇の人たちが築いたと噂される極東の島国に同胞を探しに行きたい。アザレアは母親の故郷がどんな場所なのか知りたいのだろう。

だから私達にとって目的の国はとても重要な場所と言えるだろう。

だからこそ行かなければならない。


「…絶対に行こう、極東の島国へ。」

「その前にこの洞窟を攻略しような。」


ご尤もです

ナザンカによる冷静なツッコミは私達の高まった気持ちも落ち着かせてくれた。

ハッとして周りを見る。まだ潮が満ちるまで時間がある。でも何時先に進めなくなるかわからないので急いで前を進む必要があるな。

さっさと素材回収をしましょうと言う事になり私とマアヤ、ナザンカとアザレアと縦横二列になり前に進んだ。

どうも私の目はツキカゲの力により、アザレアは何でも見える第三の目のお陰で暗闇が明るく見える。

なんてことのない見た目の貝殻もちゃんと名前があって効果など何に使えるかなどが鑑定スキルにより丸わかりである。


そして魔物の居場所も



「桜突き!」

「バブルガン、アイス!」



前方は私とマアヤによる攻撃により奥に進む度に奇襲を仕掛けてくる魔物を返り討ちにすることができる。

これにはナザンカとアザレアはドン引きしている。


「やはり外の世界を生きる方はお強いのですね…!」

「アイツらが特殊なだけだから真似するなよ…」


もはや戦うことを諦めたような雰囲気だが、後ろからはナザンカにまかせているから警戒を解かないでほしい。

それにしても、最近はよりハルカゼを装備している度に手に馴染んでいく気がする。

馴染みすぎてこの手と溶けてくっついてしまうような感覚。

ここまで来ると妖刀を疑ってしまうが、ハルカゼは自分の意思を持った武器である。勘違いしないで頂きたい。

そしてマアヤの武器はバブルガンと称しているが、銃口から放たれる一撃は泡と言うには可愛くない威力である。


「さてと…そろそろ出口に戻らないとね」


私の意見に賛成だとうなずく皆は出口の方向を見た。

皆があるき出す中、その場に立ち止まり歩こうとしない子がいた。

首をかしげて彼女を見つめると少し心配して声をかけた。


「どうしたのアザレア?疲れたの?」

「いえ、少し前から出口の様子を見ているのですが…





大量の水がこちらに流れてきています。」





…は?


アザレアの言葉は一部分かりづらい幼い表現をするから頭の中で翻訳するのが難しい。

しかし今の言葉は容易に想像出来た。

大量の水…これは間違いなく海水と言えるだろう

嘘だろ…まさか出口から上がった潮が勢い良くこちらに流れてきていると?


「ここって…他に出口あったっけ?」

「あるにはあるが一番天井の高い狭い空間のてっぺんに穴があるだけだ。

通称”ホエールの叫び”と呼ばれているらしい。」


情報源は洞窟周辺で漁業を生業としている地元のおじさんとのこと。なんて説得力のある興味深い名前なのだろうか。

でも今のところ出口はそこしか無いのだろう?

そこまで走って逃げるしか無い

信じられないスピードでこちらに迫っているのなら急がないと。

でもどうやって唯一の出口を見つけ出す?



「そうだ…!ハルカゼの風の力!」


こういった閉鎖空間というのは空気の流れで出口を見つけるものだ。

ぐっと愛刀に魔力と願いを込めると足元から風が生まれて私の周辺を回った。

風はどんどんと範囲を広げて唯一の出口を見つけ出そうと少しばかり荒ぶっているようにも見えた。

すると何か感覚をつかめた気がした。というよりもハルカゼが道を教えてくれているような風を生み出して私達の背中を押した。

少し足がもつれて転びそうになったがなんとか踏みとどまって走り出した。

分かれ道もハルカゼの風の力で右・左・右・右・真ん中と順番通りに選択を間違えることなく駆け抜けて入るが、流石に後ろから迫る海水の脅威。

全員が息を乱して走っているがそれも限界が近い。

特に普段から運動してないマアヤと運動の概念すら知らないアザレアの二人はきついだろう、


「ナザンカ!アザレアを担いで!

マアヤは私の背中に!」


こうなったら私が全員を外に連れ出す。

行き止まりの空間をキョロキョロと見渡して天井を見上げると、確かに空に続く穴があった。

その分少しだけ明るいから皆の顔が先程よりもよく見える。

ずっとマアヤとナザンカはハルカゼに注いだ魔力の光と生み出した風を頼りにここまでやってきたのだ。四人全員が揃っているなんて奇跡に近い。

そんな奇跡、もう少し続いてくれよ

ぐっと背中に力を入れてお得意のドラゴンの羽を生やすと背中にマアヤを乗せてアザレアを担いだナザンカの腰をがっちりとホールドした。


「じゃあ思いっきり…


飛ぶわよっ!」



膝を曲げて一気に力を開放すると勢いよく地面を蹴って空を目指した。

必死に羽を動かして空を目指す

下からは信じられないスピードで水が上がってきているしこれがさっきナザンカの言っていたホエールの叫びなのか?

これは完全に



「クジラの潮吹きかよっ⁉」


後少し、もう少しなんだ

くらい洞窟を勢いよく抜け出すと、ガクッと力の調整をして真横に飛んだ。

その時






ドッッッッッッパーーーーーーーン!!!





後ろから衝撃が襲いかかりバランスを崩してしまった。

これは落ちると確信した私は着地出来そうな場所にナザンカを放り投げた。

私はマアヤにクッションはないかと問うた


「バブルガン、シープクラウン!」


すでに弾が装填されたマアヤの武器は地面に向けて撃ち放たれた。

真っ黒な岩肌に似合わないふわふわの雲のような何か

頑張って受け身を取ろうとしたが意外と背中に乗ってるマアヤが邪魔だった。

ぐえっ、と間抜けな声と一緒に顔から着地した私は未だに背中に乗ってるマアヤにしっかししなさいと怒られてしまった。なんて理不尽なのだろうか。

潮吹きにより服はびしょびしょだしドッと疲れたし、何なら話す内容もとんでもないから頭も混乱している。

ようやくマアヤが背中から折りてどいてくれたので私も顔をあげて痛む顔を抑えた。


「やれやれ…マアヤ、助かったわ」

「自分が生きるためなら手段を選ばない。たとえカナを犠牲にする事になったら押し倒して丁寧に殺してあげる。」


内容が物騒

彼女の血も涙もない冷めた発言にドン引きしていると、遠くから声が聞こえた。


「カナ~!マアヤ~!」

「皆さんご無事ですか~?」


これまたしおふきによりびしょびしょの海水まみれ人っった二人は全く違う表情を浮かべていた。

やれやれって雰囲気だったのに、いざ皆で冷静になると次第に口元が緩んで笑ってしまった。

それも大笑い、何でも楽しくて許してしまいそうな楽しい日になった。


「あははっ!…は~笑ったわ!」

「確かに、ここまで豪快なクエストを受けたのは初めて」


異世界人二人の反応にナザンカは困惑していたが、でもなんとなくわかる気がする。

楽しいから笑うとてもシンプルで一番納得してしまう理由だろうか。


「そう…だな……久しぶりに楽しんだ。」

「これほどに胸の奥が叫んで高鳴っているのは生まれて初めてです!」


初めてナザンカの笑顔を見た気がする。

初めてアザレアが腹から声を出して笑ったかも知れない。

そんななんてことのない仲間と大笑いした話。

皆で笑って達成感に全力で喜んでハイタッチなんて決めちゃってはしゃいでしまった。

良かった、この仲間たちで楽しめるんだって思えた。

だから今日の出来事は予想以上の収穫と言えるだろう。


「私、皆とクエスト受けられてよかったって思ってる。」

「そうね、私もよ」



全員が同じ気持ちだから共感の頷きをしてた。

それじゃあ皆で戻ろうか

街のギルドに成果を報告して今後に役立ててもらおう。

それが私達冒険者だから



「私達最強ってか…。」

「何をわかりきったことを言ってるんだか。」



さてはナザンカ、随分と私達のテンションに染まっているな?

こうやって巫山戯合う楽しい日々が続くのなら、それはアザレアだけでなく私達が感じる幸せというものなのだろうか。


まだわかっているようで分からないや
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