見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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126話

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嫌な予感がした

それは生物に備えられた本能的な話か否かはわからないが、それでも嫌な予感であることに変わりはないのだ。


「マオウ、あなたも感じるの?」


ふと足元で立ち止まる水色の生物に視線を移すと、森に囲まれた屋敷の方角を見ているのだけはわかった。

やはりこのマオウという存在はわけがわからない、最終的にはかわいいねーなんて結論に至るのがお約束になりつつある。

すると垂れていた長い耳をふわりと羽ばたかせるように上げると尾の先の丸い水晶体を揺らした。








「えッ…?ちょっ…へぶぅ!?」





それはあまりにも突然でわけがわからない事がまた起きて思考が停止した。

目の前に顔面から着地をしたのが仲間であると認識すると慌てて駆け寄った。

何故か知らない男を脇に抱えているのは無視するべきかも後回しでいいやなんて結果になる程に彼女の様子が心配だったのだ。


「大丈夫じゃないよね…」

「どゆこと…私さっきまで上空を飛んでたはずなんだけど?」


彼女の言い方からしてワープしたみたいだが、当然彼女にそのような能力はない。

可能性としてあるなら脇に抱えた男だろうか。


「おいどうなってるんだ…?」


強く地面に強打した部分を抑えて起き上がったのは緑の長髪を一つに束ねた男で彼も何がなんだかわからないようだ。

カナのそばで膝をついて座る私に気づいたのかじっと私を見つめる男は首をかしげた。


「誰だ?」

「こちらのセリフです」


カナに説明を頼むが突然の落下に上手く受け身を取れなかったのか大ダメージの様子。

呆れてため息を付くとウエストポーチから傷を治す塗り薬を取り出して顔に薄く塗った。


「多分十分もすれば傷は塞がるはず。

それにしてもあなた、領主の娘さんを連れてくるとか言っておきながら男を連れてくるとかどういうことなの?
ツキカゲさんに対してそれ浮気にならない?」

「浮気でもないし私ツキカゲと付き合ってないから…」


やれやれと呟いてようやく立ち上がった彼女は浮気相手(仮)の男に手を差し出しているから何かが違う気がした。

例えカナが手を差し出しても遠慮しておくと言って自力で立ち上がっている彼にならって私も立ち上がった。


「急に場所が変わったから何事かと思ったけど…こいつが原因だと思う。

マアヤ、私がここに来る前にマオウがなにかやらなかった?」


思い出した

確かにカナが突然ここに来る前にマオウが不思議な動作をしていたような気がする。


もしかしてこの魔物はありえない力を秘めているのか?


「マオウ…シロさんの家に入った時もワープの力を使ったの?」


米俵のように重い魔物を持ち上げることはできないのでもう一度膝をついて点のような瞳をじっと見つめると、自分なにかしましたか?と言わんばかりに首をかしげた。

思い違いだろうかと呟いたところで何の解決にもならない上に時間がもったいないのでこれ以上の詮索は辞めることにした。


「…で、カナは本来の目的を忘れたの?アザレアさんはどうしたのよ?」

「忘れてないから!大変なことが起きたのよ!


あのクソ領主ったら塔の周りに咲いてた毒花をスキルかなんかで毒振りまきながら増殖させてるの!


早く街の人達を避難させないと皆死んじゃう!」



本当に大変なことが起きていた。

まさかあの毒花を操作して毒を振りまくなんて予想できなかったから。

私とシロさんならわかる、あれらは一つ一つ厄介な効果を持っているから一つずつ対処するには時間がかかりすぎる。

ただ、特定の花のエキスと組み合わせるとあの場にあった花の毒はすべて中和されて立派な薬に変わるのだ。


「マアヤは耐毒ポーション作れたっけ?それか状態異常が無効化されるバリアの展開とか…」


提案は素晴らしいがやり方を知らないんだよ

魔法とポーションの組み合わせ次第ではできなくは無いが、毒花の増殖を阻止することが最優先になってくる。


「あの時見た花は全部中和できる…でも圧倒的に中和に必要な材料が足りない。」


一体どうするべきかと考えていると、「あっ」と声が聞こえた

それはあの男でまるで何かを思い出したかのように右手をあげた。


「カナに抱えられて空に逃げてた時に気づいたんだよ

あの毒花…周りの草木の栄養を吸収して枯らしてなかったか?」


栄養を…吸収して増殖…毒花は花粉を撒き散らしてる





「それよッ!」



今までに無い大きな声を出してしまった

耳を抑えてうるさいと態度で表しているカナと男にごめんと謝るが、それどころじゃないので説明を始めた


「増殖する前に栄養源を断てばいいのよ!花が花粉を飛ばす方法は風に飛ばすか動物に運んでもらうか…ならその両方を無効化させるためには単純な話、燃やせばいいわ」


自分で言っておきながらかなり物騒である

でも方法は燃やすか特定の材料を使って中和させる以外に無いと思う。


「特定範囲の草木を刈り取って燃やせば毒花の増殖は食い止められる、その間に諸悪の根源を叩くなりすれば完全に毒花の侵食は…だいぶゆっくりになるわね。」


これでも止められないから自然の力を相手にするのは面倒くさいのよ。

でもやるかどうかはカナに委ねるけど、ほぼ答えは出ているようね。


「炎の扱いはまだ自信は無いけど…それが一番有効なんでしょ?

気合でやりきる」

「じゃあ草木を刈り取るわよ、私の光魔法でドームを作るからそれを目印に斬って。」



自然と前を向いて屋敷と塔を見つめて準備を始めた

後ろからカナの声が聞こえて領主は塔の毒花を中心に増殖させていると教えてくれた。


「カナ、この街のマッピングは?」

「この街に来て一日で影を通してやっておいた。

これで範囲の認識はできるでしょ」


もちろん

私とカナ、同じ異世界召喚者で有り余る魔力とそれぞれ違うスキルを持つ私達ならきっと、できることがたくさんあるはずだから。

ステータスオープンといえば半透明のウィンドウが展開されてマップを開けばカナがマッピングしたデータが送られてきた。

これで指定した範囲をドーム状のバリアで覆い囲む事ができる


「随分と広いところまで侵食されてるじゃない…」


顔を顰めてマップを指でなぞって丸を描き、目を閉じ集中した。

想像するはまるでスノードームのような閉じ込められた世界

実際に鳥かごに囚われたような虚しい生活をしていた記憶を取り戻したので想像は容易にできる。


「光の結界・ミラーボール展開!」

「今パリピがいなかった?」


気のせいです、名前に見合ったとても良い効果の結界なので

決してパリピ御用達のミラーボールではないから!

マップで確認できる限り、毒花の侵食は止まったみたい。


「ここからはスピード勝負!さっさと指定範囲の草木を刈り取って!」

「制限時間!」

「ギリギリを見積もって20分。」

「上等…!」


普段持ち歩いてる武器の刀身の長さには触れなかったが、随分とまあよく切れそうな刀だこと。

二人が立ち去った後に気づいたのだが、私は最後まであの男の名前を聞かずに終わってしまった。

まあカナもこの場にいないシロさんについて言及しなかったからお互い様だろう。




…あれ?もしかしてお互いに報連相が全くできない?



「あら…随分とまあすごいことをしてるわね。」


噂をすればなんとやら、街の住民の様子を見に行ったシロさんが戻ってきて私が展開したドーム状の結界を見ていた。

私の口から今の現状を説明すれば目を丸くしてとんでもないことになっているわねと返された。

確かにとんでもない。だって自然の摂理を破壊できる力を持つ街の領主がいるなんて…しかもその弟もかなり厄介な力を持っているからどんな家系だよとツッコミを入れたくなってしまう。

さてと、まだやることはある


「シロさん、今から言う材料を使って薬を作りたいんです。」

「あら…大量の薬ゲットチャンスかしら」



そうやって興味を示すシロさん、嫌いじゃないわ

まるで子供が母親に今日あった出来事を離すように楽しそうに「あのね…」なんて始まりから話す内容はそれとはあまりにもかけ離れたものである。



「うーん…圧倒的に材料が足りないわね。

そういえばあの結界は何時まで保てるの?」

「ギリギリを見積もって20分程ですね…本当はもっと長い時間稼ぎをしたいんですけど、今の私には魔力も技術も足りません。

あの結界、毒や瘴気は跳ね返せるけど人はどこからでも出入り出来る…だから20分しか保てないの。」


質問を真面目に返せば、なるほどね…と言って私の肩に飛び乗った。

猫のように尻尾を揺らしてなにか考え込んでいるかと思えば突然行ける気がするなんて言い出して私の目の前に回って落下することなくその場に留まってわけが分からなかった。


「前々から思っていたのだけど、あなたと私相性がいいと思うのよね。

同じ属性をもって、私にふさわしい魔力量…まあ私には負けるけどその辺の人間よりはたくさん持ってる。






マアヤ…私に名前をちょうだい、代わりに契約を通して魔力を貸してあげる。」



それはまるで悪魔の契約のようにも思える言い回しで驚きで思考が止まってしまう程であった。

でも、彼女の真剣な顔を見てしまうと、悪魔よりもよっぽど質は良いと思える。

だって相手は伝説のドラゴン、ツキカゲさんの双子のお姉さん何だから。





「私は…」



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