見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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124話

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人の過去なんて聞く機会はなかなかない

今の相手を知ってそれから多くを知っていくものだからと思ったから。

しかしこの戦いの最中で発覚した事実は先程ナザンカがとった行動よりも驚くものだった。


ナザンカ、まさかの騎士団所属でした



「正確には騎士団の団長だ。

今更そんな肩書きを言ってくるのはかなりコアなトーマス帝国騎士団のファンくらいだぜ?」


ヘラヘラと笑っているナザンカの目は全く笑っていなくて、剣の太刀筋が乱暴ながらも強力な一撃を放っていた。

右手でしっかりと握られた剣を振るって強力な爪での攻撃を一切使わせない戦い方にあっけにとられた。


「ナザンカ…すごい」

「隻腕のナザンカ…彼の剣術の師は就任していた先代騎士団長であり、もうすでに亡くなっている偉人です。」


そんなすごい人が師匠で、元ってことは騎士団を引退した後?

なのにあれほど洗練された剣術を片手のみでやってしまう力量

ナザンカは私が思っていたよりもすごい人なのかもしれない。

すると埒が明かないと判断した領主は今まで見せなかった魔法を使ってナザンカに襲いかかった。


「危ないッ!」


今度は私がナザンカをサポートする番

闇魔法の影使い、木々の影を使って沼のように操ると領主の放った魔法に合わせて放つ

この影沼の魔法の効果は、少しの時間だけ動きをスローにさせるのだ。

おかげで魔法を回避できたナザンカは私の横に立ってサンキューと礼を言った。


「近距離はだめ、だからといって距離をとっても魔法を使ってくる厄介な相手ね」


本音を言うと魔法を影沼で包むのもやっとというほどに魔法の速度が異常なのだ。

やり合うのも面倒なほどに強い…これが鬼人の領主の実力なんだ。


「お互いに過去についてとか色々話したいことたくさんあるけど今はお預けね。」

「わかりきってることを言うな

ほら来るぞ」


真正面から襲いかかる敵に警戒を緩めずに構えると、領主は体を震わせ、顔を歪ませて私達に罵声を浴びせてきた。


「なんて愚かな人間、悪魔族を敵視すべき帝国の民が悪魔族に味方するとは何たることか…!

この私が制裁する!」


ピキピキと額から映える角が更に大きくなって体も一回りも二周りも大きくなった。

それはスキルなのか体質かわからないが脅威に違いはない

これでは鬼人ではなくただの凶暴な鬼だな

かなりピンチの状況のはずなのに冷静な目で構えを崩さずに体内の魔力を練り込んだ。


ダンッ!と地面を踏み込んで来たときにはもうすでに目の前に壁のように迫ってきた。



「まずはお前を制裁する、フラット!」



目を見開いてまずいと思ったときにはもう遅い
フラットさんが抵抗する前には大きな手がフラットさんを掴んで離さなかったから。

すぐに離さないと、先程の私と同じではないか


「桜突き!」


たとえ一撃必殺の技ではなくなったとしても必ず当てて人を助けることは出来る。

腕に愛刀を突き刺してそのままぐるりと肉を巻き込んで回すと筋を切るように振り上げた。

ようやく手が離れたのを確認してフラットさんの手をしっかり掴むと、後退目的も兼ねた蹴りを領主に食らわせた。


「フラットさん!鬼人の弱点とかなにかわかったりしないの⁉」

「うっ…あのような姿に変化する、それすなわち本気の姿ということです。

よりによって狂鬼人になるなんて想定外です」


あれが狂鬼人の姿

実の弟すらも始末するなんて正気ではないとは思ったけどまさに狂気の沙汰じゃない


「…来る!」


そう口にしたときには早すぎる攻撃に再び影沼の魔法を発動させてなんとか回避した。

これではジリ貧というもの、こちらから勝利のきっかけを作らないと。

起点作りは何時でも大事なんだから

フラットさんを抱えてその場から逃げるように背中から羽を生やして上空に飛び立つと、ナザンカの存在を忘れて声を上げた。


「ナザンカ!気をつけて!」


私の忠告に真正面から領主の攻撃に構えようとする彼の無謀さに舌打ちをした。

あいつは、惚れた少女の父に真っ当な勝負を挑むつもりなのか。



「叔父として、姪っ子を取られるお気持ちは?」

「一度もあったことのない小娘に対してなんの感情も湧きませんよ。」



随分とまあ薄情な人間…いや魔人だな

呆れた声で信じられないと返せばさっさと地上に降ろせと己の体を支える私の腕をペチペチと叩いた。

このまま落としても良いんだぞあんた飛べるんだから


「ならより早く地面に降ろしてやろうか?」

「ま…まさかあなた!」


そのまさかだよ

片手でフラットさんを抱え直して構えると、槍投げの如く人を放り投げる

その時だった





ドゴンッ!!




強い爆風と土煙に反射的に目を閉じて勢いよく羽を広げると更に高度が上がった。

まずい、このままでは余計にナザンカの援護が出来ない。

目を開けて上がる土煙に舌打ちをして、どうにかナザンカの様子を見れないかと慌てた。

でも心配なのは私の技術ではなく脇に抱えたフラットさんの方だ。

先程から急上昇してこれから急降下するのだから着地までになにかあるのではないかと予想したのだ。


「フラットさん、今の体調は?」

「気持ち悪いです…復活したての体には酔いの耐性はなかったようです。」


これではフラットさんを地上に連れて行ったとしても足を引っ張るだけでなく、せっかく復活させたのにまた死なせてしまう。

チラリと視線をある方向に移すとどうにかなるものかしらと呟いた。

今このままの状態が続いたとしても、私の属性がフラットさんの属性と喧嘩してお互いに弱体化されてしまう悪循環が置き始める。

闇属性と光属性、触れなければ日常生活では問題ないのだが今はしっかり抱き上げてるからアウトである。

つまり、私はさっさとフラットさんを手放したいのだ。



「フラットさん、今だけは耐えて私に投げ飛ばされてくれません?」

「そう行っていいですよなんて答えるお馬鹿さんは何処にもいないぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!?」




己の肩の力を信じて勢いよく抱えた魔人を投げ飛ばすときれいな曲線を描いて私の望んだ方向に飛んでいった。


自己防衛として球体のバリアを張って自らボールになったフラットさんが投げ飛ばされた先には真っ白な天使と行っても過言ではない少女

高い塔の一つしか無い窓から侵入に成功した叔父をじっと見つめる姪の姿は




「…はじめましてフラット・ロロンシェです

一応貴方の叔父です」



ルビーのように真っ赤な瞳を丸くして初めて知る叔父の姿を見つめる少女の愛らしさに、彼はすぐに自分はこの子の叔父であると自覚した瞬間であった。

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