見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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119話

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移動中にシロさんと合流してこれからやるべき目標としてたてられたのは、フラットの魂を見つけて影にしまった器を修復して生き返らせることだった。

真実を知らない私達にとっては、トーマス帝国にいたクソ魔法野郎に話を聞かなければならないのだ。

転生させる魔法の条件は揃っている、しかし問題が一つだけ残っていた。


「魂を指定の体に転生させる方法はあっても指定の魂を見つける方法なんてわからないわ…。」


問題はフラットの魂をどうやって見つけ出すかである。

もしかしたらもうすでに転生してフラットに前世の記憶が残っていない可能性もあるのだ。


「魂を指定の体に入れる魔法に必要な波長の合う膨大な魔力量を持った光属性と闇魔法の保持者…これはシロさんとツキカゲの力を借りたいの」

「確かに指定の魂を見つける魔法なんて都合の良いものはない、更に俺様たちには魂を視認する方法がない。

伝説のドラゴンだから見えるなんて都合の良いものじゃない。」


私は更に頭を抱えた

まさに夢物語、浜辺でどの辺りのどんな深さにあるのかわからない砂糖のひと粒を探している難易度の高すぎることを強いられるようなもの。

魂を見つけ出すレーダーのような魔道具はないかとシロさんに聞けばそんな不確定なものを作れるわけないとピシャリと言われてしまった。

そんな時、話に全く入ってこないやつがひとり、いや一匹だけいた。

じっと特定の人物を見ているようなそうでないような様子で、点のような目をしていた。


「何してるのマオウ?」

「マアヤを見ているのか…その周りを見ているのかやはりわからん。」


何故かマアヤのいる方向を見つめているマオウを構ってやるべきかと思い膝をついて頭を撫でていると、いきなり尻尾を伸ばしてマアヤの肩辺りで輪っかを作った。

いや、どちらかというとなにか見えないものを掴んでいるのか?

マオウの意志とは関係なしにあっちこっちに逃げようとしているけどマオウが掴んでいるため逃げられないみたいだ。

ぐいっと尻尾を自分の方に引き寄せて私の目の前に差し出すが、近くに寄せてもらっても何も見えない。

首を傾げていると、見えない眉毛を潜めて尻尾の先の真っ黒な魔石を見えないなにかにくっつけた。

その時になって私達はようやく理解した、目の前にいたのはまさに私達が話していた人物。


「く…クソ魔法野郎⁉」


マオウの尻尾に捕まった小さな体のクソ魔法野郎ことフラットがそこにはいた。








強い魂は生前に強い想いが残っていると簡単に死後の世界に向かおうとはならない。

あるものはその場に縛られて、あるものは対象の人物に恨みを積もらせて付き纏う。


こいつは違う


自分が恋した小娘に認識されたくて重い愛を糧に現実世界にとどまっている。

普通は自分を殺した本人とその末代を呪うものであるが、自分の死因よりも恋した少女への愛が勝ったのだ。

ここで彼について説明するのならは、恋と人付き合いが絶望的に下手くそな魔力を多く持ち合わせた魔人


名前を「フラット・ロロンシェ」


先日まで宗教国家トーマス帝国の王宮魔術師として名を馳せるものだった。

魔人として有り余った魔力と高い知能を生かして高みを目指したっ結果、それ相応の地位を獲得しただけ

とんでもない功績の代償として、先程も言ったとおり人彼は付き合いが絶望的に下手なのだ。

基本的に職場や街の人とは一言も話さない

口を開いて話す時は内心「これは仕事」と何度も唱えながら上司に必要最低限の報告をするだけ。

人に命令するときも、必要事項を書類にまとめて渡すなど会話を極限まで削ぎ落としていた。


そして恋愛も全くだめ


生まれてから100年近く生きる彼だが、これまで婚約者は愚か、恋人を作ったこともないほどに恋愛下手

魔人の結婚適齢期は平均で50歳、普通の人間に換算すると20歳になる。

出会いもないトーマス帝国の王宮魔術師が唯一、運命の出会いと断言できた人物はただ一人だけ。


異世界から召喚した聖女「佐藤真彩」である


必要最低限の礼儀を持ち、人に対する優しさは人一倍あった。

聖女としての能力がないにしても光魔法の技量は教えるほどに伸び、その威力は膨大な魔力量に比例していた。

そんな彼女を隣で見てきたフラットはいつしか恋を自覚して、自分だけの彼女にしたいという独占欲を膨らませていった。

自分だけを覚えてもらいたいという願いは歪んだ愛のための非人道的な計画に変わっていったのだ。

自身の編み出した記憶操作の魔術を利用して、彼女の記憶を徐々に奪ってゼロからフラットのみの記憶を保持させる計画


…が、しかしそれは失敗に終わった


同じ異世界から召喚された少女「山下加奈」と、伝説のドラゴンのツキカゲにより苦戦を強いられたフラットはあっさりと敗北し、命を奪われ器である体も奪われ、たった一つ魂だけがひどく歪んだ真彩への愛を原動力に地上に留まり続けた。

この世には生き物ではない、死者の魂を認識できる者が存在する。


最も謎に満ちた目的も何もわからない生命体と呼ばれた魔物「マオウ」である


生物以外の魂を認識できるマオウは視認に加えて魂にふれることができるようで、時々地上をさまよう生物に目を合わせて耳を傾けるのだ。

ゆらゆら揺れる尻尾の先にある真っ黒な魔石に触れた魂はマオウの意志に従ってしまう不思議なものらしい。

マオウは自分を拾った人間の少女の悩みを解決してやりたいという感情に自分ですら理解できずに首をかしげてしまった。

自分でもわからないまま尻尾でマアヤのそばに取り付いていたフラットの魂を掴むと、虫を捕まえた子供のように飼い主の加奈に見せても他の者には空気を掴んでいるように見えるのだ。

めんどくさい奴もいるものだなと学習したマオウは自身の魔石の力を使って、特定の人物達に自分と同じ世界を見せることにした。

そしてようやく驚いた顔を見せた彼女たちにマオウは満足したようだ。


やはり訳のわからない得体のしれない生物である。



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