見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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118話

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彼ら花の楽園の民の口から聞いた真実は受け入れるのには時間を有するものだった。

まだ見ぬ領主の過去により楽園の民も実の娘も巻き込むとはとんでもないな。

次第に過去の記憶を呼び覚ますことができるようになった民は皆して怯えた顔をしてその場にしゃがみこんだ。


「これまでの言動からして考えられる仮説はいくつかあるけどどれも革新して話すことが難しいのも事実

だからこそ何度も聞いて私の考えを確証させよう。」


そういったのはマアヤだった

彼女は頭がよくきれる子だからこう言えるのだろう

牢獄で聞いた毒の花園に入ることが罪になるたちの悪いルール、毒花に囲まれた塔、そして塔の詳細を今になって思い出したと言い出す態度。

マアヤははっとして私に確認してきた


「カナ、私が記憶を奪われた時に特定の人物だけ忘れてしまう現象とかなかった?」


それはトーマス帝国で起きた出来事を思い出せと言ってるのか、相当たちが悪いぞ。

顔をしかめて固く閉ざされた口をゆっくりと開くと、瞼の裏に焼き付いた出来事を語ることにした。


「あの時は…合う度にあなたの記憶の中から私だけが消えてしまった。

更にはマアヤの記憶を奪った張本人が暴走してマアヤの記憶をすべて奪ってしまったの。」


確かに彼は特定の記憶を奪うという高度な魔法の使い方をしていた。

まさかとは思うが…


「私の記憶を取った人も、この街の民の記憶を取ったのも同じ人物である可能性が高い。

その記憶を奪う魔法が希少であるのなら確証に近づく。」

「ならいいことを教えてやる。魔法と魔術の違いだ。

魔法は世間一般的に使われる理屈を深く理解しなくても使えるものだ。

対して魔術は術式を組んで仕組みをしっかりと理解しないと成り立たないが細かい調節がしやすいのが特徴だ。」


ツキカゲの言葉が本当ならば…たった今想像した考えに背筋が震えた。

確かあいつはトーマス帝国の王宮魔術師という高い地位を持った人間だった。

もう死んでしまった人間が過去に行った出来事が現在にまで影響を与えているのだと理解した瞬間、恐ろしさと怒りが襲いかかってきた。


「ここでこの街の民が一部の記憶を失った人物とトーマス帝国の王宮魔術師が同一人物だったとして、なぜこの街の領主とトーマス帝国が繋がっているのかわからない。

ここは帝国から遠く離れた街なのよ?」


マアヤの疑問は最もな意見

わざわざ領主様がそいつに依頼したのか…でも国が任命した王宮魔術師の力をそんな簡単に貸すなんて考えられない。


「…王宮魔術師に任命される前にやったとしたら?」


それもあり得る

アザレアさんが生まれるのと同時期に記憶を消されたのなら十年以上前である可能性も十分にありえるのだ。

しかし、ここで矛盾が生じるのだ

あの時見た王宮魔術師のフラットはどこからどう見ても若い青年の姿をしていた。

十年以上前の出来事と彼の見た目の年齢が合わないのだ。


「フラットさんは人間じゃないわ、魔力と寿命を多く持った魔人よ。」


そういったのはマアヤだった

魔人とはなにか…ちらりとツキカゲを見ればすぐに説明してくれた。


「マアヤの説明をもっと細かく説明するなら…魔人は人間が進化した種族であり、派生した種族といえる。

魔力は従来の人間の何倍もあり、寿命も俺たちドラゴンほどではないがそれなりに長い。

死ぬ間際まで最も容姿の良い状態のまま生きるのも長寿な種族の特徴だな。」


なるほど…確かに辻褄は合う気がする

ぐっと拳に力を入れてから緩めると、ツキカゲの手をとって強く握った。

彼自身にその意味がわかっていなくてもいい、ただ私がしたいだけだから。

真実を知っているかもしれない人物は私が殺してしまった。


「…カナ?」


明らかに様子がおかしかったのだろう、私の顔色を伺うマアヤが名前を呼んできた。

「もしも、この世界の理を覆すような出来事をやろうとしていて、それが可能なのではないかと思ってしまった時に私は大罪人として処されてしまうのかな。」


その時の私はどうかしてたんだと思う

私の影の下にはあの時から変わっていないマアヤの想い人の亡骸がしまわれているのだという事実を、今この場で伝えたらどんな反応をするのだろうと好奇心が芽生えたんだ。

でもすぐにそんな芽は抜き取ってしまった。


「ごめんね…今になってダーウィン王国を思い出しちゃったの。」


あの日見つけた信憑性のない死者を蘇生させる方法、そして以前カリンが教えてくれた転生先を選択することで成り立つ死者蘇生の魔法。

伝説のドラゴンと同レベルの光と闇の魔力、2つの魔力の波長が合う人物があった時にできるんだっけか。


「魂を指定した先の体に転生させる魔法…だっけ?」

「…⁉

カナ、それをどこで知った?」


私の呟きに過剰に反応したツキカゲは握られた手を強く握り返してきた。

明らかに動揺しているな


「転生先を指定する禁断の魔法…禁断魔法ってわかるか?

記憶も引き継がれるから有能な王がそれを利用して500年も君臨した歴史があるからだよ!」


目を見開いてツキカゲの必死な顔を見た

それがどれほど恐ろしいもので、負の連鎖を生み出してしまったのかを察してしまった。


どうしてカリンは私にそんなことを教えたのだろう


私が聞いたからただ答えただけなの?

カリンは私がこの魔法を使う前に転生すると言って姿を消してしまった。

あの時を最後にもうカリンとは会えてないんだぞ


「ツキカゲ、幼子のわがままを聞いてはくれない?」

「…内容による」


でしょうね

この話の流れからやりたいこと、狙いを察してはいるだろうから。

指を強く噛んで鈍い痛みとともに血を滴らす奇妙な幼女である私は相棒の前にそれを差し出した。


「ちょっと本気を出そうか。この問題は思ったよりやばい部類に入っているから」


目を見開いたかと思えばため息を付いてするりと私の小さな手を自身の大きな手にのせた。


「そこまでしなくても良い…お前血を舐めることのほんとうの意味をわかっているだろ。」


さてなんのことやら

血を使えばツキカゲはいつもよりも従順になると認識しているだけでその意味は理解していない。

決して拒否することなく一口血を舐め取り本来の力を開放させた相棒は無敵のヒーローにも見える。



「今回はシロの力も必要になる。連絡はしたから合流するぞ。」

「うんっ!」

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