見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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115話

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もしもこの世界の常識がハチャメチャだったら、自分はどれ程に息のしやすい生活ができるだろうか。

誰かのせいで快適だったはずの箱庭を狭く感じてしまって、片目を閉じた生活が何度も嫌だと感じてしまってもう最悪な日々だ。

なのに幾度として襲いかかってくる欲望が渦巻いて頭痛に悩まされる。


「…どうして私を放ってはくれないのかしら。」


ずっと知らなかったことをたくさん教えてくれた人達のせいで知りたいことが増えてしまった。

外の世界はどんなに素敵なものなのかを知りたくなってしまう。


あの日二度と来るなと言ってしまってから鳥は来なくなってしまったと思っていたのだが、黒い鳥を連れてまたやってきてくれた。

それなのに私はそこから更により良い関係にする方法を知らなかったのだ。

仲直りって何?謝るってどうすれば良いの?

鳥たちが帰ってもわからない事だらけなのに黒い鳥はまっすぐこちらを見つめて約束を持ちかけてきた。

この狭い箱庭から出てもいいのかな?

閉じた片目を開けてもいいのかな?




私は約束してくれた自由に期待してもいいのかな



なら待ってる

待ってるから必ず迎えに来てほしいな


















凄まじいスピードで駆け抜ける相棒の凄さが再確認できる。

私がマアヤの行方を随時確認して、向かうべき方角を指差す。


「見つけた…!あの小屋、地下があるよツキカゲ!」

「ふむ…気配からしてマアヤだけではないようだな。」


彼の言う通り、地下から感じ取れるマアヤの魔力以外に複数人の魔力や気配を感じる。

近年これと言って国や街に影響を与えるような争いごとはなし、ギルドの掲示板には人探しのクエストは何件かあった。

こんなところでも問題に巻き込まれるとは…いいよ


その問題に首を突っ込んでやる


「ツキカゲ、地下に人を閉じ込めるって違法の匂いがプンプンしない?」

「どう見たって人身売買の類…人間の法律は知らんが成敗される側ではある。」


よろしい

ニヤリと笑ってまっすぐ小屋に向かって指をさすと行こうかと呟いた。


「被害は最小に、結果は完璧に」

「俺様にそんなことを聞いてどうする?

完璧にこなすことは伝説のドラゴンには容易なこと!」


腕に纏う禍々しい魔力は手のひらに集中して圧縮された豆粒の球が出来上がった。

私が教えた最も効率的な魔法攻撃


ショットガン…一発放てば散弾するからある程度の範囲は撃ち抜けるものよ


小さな弾丸が放つ高威力の攻撃は小さな小屋を崩壊させるには少しばかり威力が大きすぎたようだ。


「あーあ…あれ地下に入れなくない?」

「そんなの簡単に薙ぎ払う。」


崩れ落ちた瓦礫の一部を足に引っ掛けるとぐいっと上げて地下室に繋がる道を作ってしまった。

流石は私の相棒である、というか伝説のドラゴンはこんなの造作もないんだろうな。

堂々とした顔でズカズカと地下に入っていく度胸だけは認めるけど、これで的にバレたらシャレにならないから勘弁してほしいわ。


「マアヤ、返事しねぇとカナに迷惑かけることになるぞ。

許されるわけ無いだろ?」


おいおい脅すな

相棒のめちゃくちゃな行動にため息をつくと少しの間黙ってくれないかなぁ…と思っていると、わずかに聞こえる金属の音に目を見開いた。


「カナ…!ここに来てはダメよ!」


マアヤの声が聞こえたから周りを見回すと鉄格子の向こう側に彼女の姿が確認できた。

慌ててツキカゲの背中から飛び降りて駆け寄ると更に目で見た情報が鮮明になって目を丸くした。

マアヤの足につけられた枷に暗がりに潜むのは幾多の人の影で顔をしかめてしまう。


「どうしてこんなとこに…それに後ろの人達は?」

「私達は毒花の庭園に入ってしまったから捕まったの…この街では塔を囲む庭園に入ってはいけない、入ってしまえばそれが大罪になると言われているの。

ここに来てわかったわ、私やカナは毒耐性があるけど普通の人にはそれがない。

庭園に入れば毒にやられて衰弱してしまうだけでなく、体で毒が増えて他者に感染させるありえない現象が起きているわ。」


めっちゃ怖いな…花の毒がウイルスみたいに増殖して人に感染するなんて

あの時マアヤは言ってた、あらゆるきっかけで毒を発生させる花々がこの庭園にある。

こういうことなのだろうな


「この牢屋に収容されていた人たちの処置はどうにかなったけどこんなのおかしい…カナ、お願い


塔を取り囲む毒花の謎と塔の秘密について調べて教えてほしいの」


調べろとお願いされてもうんわかったなんてすぐには言えない

私が調べて答えにたどり着くには頭も時間も足りない

なんのためにツキカゲと一緒にここまで来たと思っているのよ。


「この人達は外に出しても大丈夫なんだよね?」

「ええそうよ…」


じゃあこの邪魔な鉄格子を壊しても問題ないんだ

ちらりとツキカゲを見ればやれやれと言ったような顔で歩み寄る相棒

ぐっと一本の鉄棒を握ると簡単に引っ張って人が一人分通れる穴を作ってしまった。

枷を壊すために牢屋の中に入ってマアヤに近寄ると目を見た


「私ね、マアヤを探すために魔力を大量消費して闇魔法使ったんだわ。

まともに動くのも正直限界で……うごっ⁉」


まだ喋っている途中なのに口にめがけて硬い何かを突っ込んできて前歯が痛い。

そして舌に触れた瞬間、あまりの不味さに吐き出そうとするが更に口に流し込もうと両手で頭を押さえる仲間にマジの殺気が芽生えそうである。


「ゲホッ…ゲッホゲホ…!

いきなり何を…?あれ?」


冷静になって気がついた体の軽さ、一体私は何を飲んだんだ?

空になった瓶のラベルには可愛らしいイラストと共にこんな文字が書いてあった。



マアヤ印のクソマズポーション(腐ったみかん味)


作った本人がまずいことを認めて良いのだろうか

そしてネーミングセンスも酷いものでなぜ腐ったみかん味と名をつけたのだろうかと本気で問いたい。


「うん、効果はしっかりあるみたいね。

不味い代わりに消費した魔力が丸々戻ってくるポーション」

「幼女相手にそんなの飲ませた心情を教えてほしいものね…でもありがとう」


おかげで本調子に戻ってきた、これで少しはまともに動くことが出来る。

軽く屈伸運動をして愛刀に触れると一瞬で鎖を断ち切り枷を粉々にした。

なぜこんなことまで出来るのかは謎であるが、あれ程に不味いポーションを飲まされて体がびっくりしていると思い込んだほうが良さそうだ。


「さあ行こうよ、マアヤの話を聞いたり後ろの人達を見てて思ったんだけど…


毒の庭園に入った人が悪いなんておかしい、明らかに等の周りに毒の庭園があるのが悪いってことを証明するなり正当化しよう。

毒花なんて燃やすなりアイテムボックスにしまうなりすればいい…いやごめん、アイテムボックスに入れるのはやめて全部マアヤにあげるわ。」


いくらなんでも言葉に対して無責任だったわ

なんて言ってたらマアヤは笑ってた


「そうね…私や師匠なら毒の扱いになれてるから対処法も知ってるし解毒方法だってわかる。

カナに任せてたら街にまで毒が蔓延するリスクがあるものね。」


間違ってはないけどいざ言われると泣くわよ

ムッとしてたら優しくて柔らかい手が乗っかって何度も確かめるように撫でてくれた。

マアヤも一緒だから怖くない

私はここに来てようやく決心したのだ。


「行こう


塔に閉じ込められたお姫様を拐って毒の庭園を刈り取ってしまいましょう。」


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