見た目幼女は精神年齢20歳

またたび

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113話

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赤い瞳で私の正体を見抜いた少女は先程と変わらず儚げな表情を浮かべていた。

ちらりとマントの隙間から彼女の姿を覗いたらニッコリ笑顔が汚れた心を消し去ろうと襲いかかった。


「体が小さく…?カナは元からチビだろ」


おいこら

普段の大人の姿だって十分な背丈のハズなのに何をさらっとディスってんだ。

軽くナザンカの脇腹をつねって素早くマントの影に隠れると声だけが聞こえる。


「不思議な方ですね…カナさんとは先程出会ったばかりなのにもう体も心もリラックスしてしまいます。」


クスクスと笑いながら純粋に私を褒めてくれたアザレアさんに心が射抜かれてしまいそう。


「…アザレアさん、今はここで待っていてください




必ずあなたの世界を広げるためにまたここに来ます。」


小さな子供の幼い声で言うには説得力のない声だけど

しかし、ふわりとマントを翻した瞬間儚い少女の赤い瞳と目が合う

その時見た彼女の顔は少し暗い顔だった

まるで私の言葉を真面目に受け取ることなく希望も何も感じないと言った顔だ。

そういった顔をされると切なくなる


「…ナザンカ、行こう」

「あぁ…俺が良いと言うまで喋るなよ」


終始大人しいままのナザンカに違和感がすごい

ブツブツと呟いて慎重に窓辺から上半身を出すとブーツの爪先部分からナイフを出して塔の壁に突き刺しながら慎重に降りた。

先程まで私が窓辺に近づこうものならすぐに引き止めたのに今の彼の考えがよくわからない。

あるとするなら先程の呟きだろう。きっと認識阻害や風景に擬態する魔法の詠唱をしたと考えるなら彼の行動も少しは理解できる。

先程私に喋るなと指示したのは一定の声量を出すことで認識阻害の効果が解けてしまうからなのだろう。

ようやく地面に足をつけて塔を離れるとまっすぐ何処かへ歩いてピタリと足を止めた。


「…ここなら大丈夫だろ

おい、さっさと背中から離れろ。」


私は苛立ちを感じて頬を膨らませた

なんか急にいつもの態度に戻って命令してくるものだからだろうな。私もいつものテンションに戻って深くため息をついた。


「はぁー…レディーにはもっと優しい態度をとることを進めるわよワカメ頭」


慎重に背中から降りて地面に足をつけようとしてきたその時、いきなり大きな腕が私の首根っこを掴んで来た。


「もう一度行ってみろこの…っ!




……は?」



コイツ私がまだ大人の姿になってないのにマントの影から引っ張り出したぞ。

首根っこを掴まれて猫のようになったかも思えば急に地面に向かって放り投げられた。

なぜあのように怯えた顔をするのだろうか



「あ…悪魔族…っ!」


思い出した

黒目と黒髪は悪魔族の象徴なんだ


「お前…騙していたのか?

髪も目も…正体そのものを隠して俺に近づいたのか!」

「違う…!」


どうにか弁解しようとするがそれを許さないと剣を引き抜くのは彼だった。


「悪魔族は存在してはならない…これが俺のいた国の掟だ。」


じりじりと近づく彼の目はとても冷たく、私を絶対に始末すると口に出さなくてもわかる。


逃げなきゃ


頭の中で考えた結果は苦渋の決断だった。

良い関係になれると思ったのに、信頼出来る仲間だと思ったのに

これが異世界の常識であると知った瞬間絶望が私に襲いかかる。

だけど逃げないとダメなんだ

足に鞭打って立ち上がるとその勢いのまま走り出した。


走って

走って走って走り続けて

気づいた時には花だらけの街に戻ってきていた。

まずいこのままでは住民が私の存在に気づいてしまう。

素早く近くの建物の影に飛び込むと己の姿を隠した。

   
地中の影に深く潜り込むような苦しい感覚に浅い呼吸だけで時を過ごしているというのに邪魔が入った。

ぐいっと体が引き寄せられて地上に飛び出すように傾いた陽の光を浴びると急に空気が大量に入ってきて何度も噎せた。

一体誰だ…私の居場所を当てたのは


ギロリと睨みつけて思考が止まった


目の前に立っていたのはなんの感情も感じ取ることの出来ない相棒の姿だった。


「…何をしてるんんだ。」

「ツキカゲ…

ちょっとね…人から逃げてきたの。」


あの日を堺に全く話さなかったのにいざ話せばこれなんだから。

やれやれとスカートについた土埃を払い落とすと視線を高くしないとだなと気づいた。


「…何かあったのか?」

「大した問題ではないわ

姿形を帰ることのできる黒目黒髪の悪魔族…それが彼の印象に変わってしまっただけよ。」


サラリと髪の毛をなびかせると根本から茶色の回の毛に変色してゆっくりと開いた瞳は不自然な青色に変わった。

これで私は山下加奈であってそうではなくなった

この世界で生きるために自分を変えることばかりを繰り返すのは少しばかり疲れてしまう。

というかようやく冷静になれたから思い出すことが出来たのだが


「マアヤと…はぐれちゃったんだ。

探さないとマズイ」



でも探すって言ってもどうやって?

今からここを中心に走り回るのも現実的ではない


「あー…やるしかないよね夕方の今だからできること」


ふわりとマントを地面に広げるように座り影に手をのばすと目を閉じ集中した。

体内の魔力を練り上げるのは魔法を使うにおいて重要なものであるとはいえめんどくさいという心情が表に出てしまいそうである。


「なるほど複数の影と感覚共有及び接続をして視野と聴覚を拡張する闇魔法の応用だな。」


すぐに見破って説明をした彼には驚かされる。

流石は闇魔法を使わせたら敵なしの伝説のドラゴンである。


…いや、流石にシロさんには負けるんだろうな


魔力をたくさん練り上げて影に注ぎ込むと段々と力が増幅して、私を中心に影が拡散した。


あらゆる影という影に潜り込んで資格と聴覚を共有する一種の監視カメラは自信が影と認識した場所にしか潜らせることが出来ない、だから夕方が最も有効なのだ。

これなら探し人も見つけることができるだろう

しかし頭も痛くなるし魔力も大量消費されるしで体がだるい。

後少し…もう少しで見つかるんだ


脳内に広がるいくつもモニターの中で一瞬だけ見えたシルエットにハッとして再び見直した。


「いた…っ!」


それは最も想像したくなかった光景

まさかマアヤが何者かに拘束されて暗く何も見えない建物の中に強制連行されている映像が頭に流れてきた。


助けに行かないとダメだ


鼻から垂れるなにかを気にしている暇ない

ようやく見つけた置いてきぼりにしてしまった仲間にマーキングをするとステータスウィンドウの地図機能を使って場所の特定に成功した。

ふらりと立ち上がるが視界が歪んでまともに歩くことが出来ない。

やはり魔力を大量に消費しすぎたことが原因なのだろう。


「そんな状況で何処に行くんだ。」

「はぁ…?マアヤを…探し…に」


息も絶え絶えな人に対して答えを求めてこないでほしいな。

でも私を睨みつける顔があまりにも怖すぎて目をそらした。

すると私の体を包み込んで話さない影のような彼が抑止しに来た。


「…ふざけるな

誰かの為に自分を犠牲にして何が楽しいんだ…!」



それは、初めて聞いた私に対する本音だった。
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